9話 黒い髪と目 ※修正中
修正中
ユリやカイ、ノーマ婦人と話していると、いつの間にか良い時間になっていたので、俺たちは中央広場からそのまま青果店へと向かうことにした。
青果店に着くと、店主はまだ数人のお客の対応をしているようで、俺たちに気付くと親指を立て、後方を指している。
おそらく「裏口から入ってろ」ということなのだろう。
今朝出てきた道を通り、そのまま建物の中へお邪魔した。
多くの荷物は裏口付近に置き、ルナは慣れたようにコップ見つけると水を用意してくれた。もちろん店主の分も。
15分程待っていると、表の方から足音が近づいきた。
聞こえなくなったのと同時に表側の戸が開かれ、今朝会った時よりも若干髭が伸びているような店主の姿が現れた。
「悪い悪い。思ったよりも今日は客が多くてな。何してたんだ?」
「この村を一通り案内した後、ハルの日用品を買って回ってたの」
「そうか....大丈夫だったか?」
店主は少しの間の後、心配そうな声でそう言った。
「大丈夫! 今日はハルもいたし、いつもみたいに裏の方多めで買い物したから」
「そうか......」
二度目の店主の”そうか”はどことなく安心した様子が窺える。
きっと長年耳にしてきたルナの”大丈夫”が嘘かどうか、何となく分かってしまうのかもしれない。
そして、今の”大丈夫”には偽りがないと....そう思ったのだろう。
そんな会話の後、それぞれテーブルを挟んで座ると、最初に店主が口を開いた。
「そう言えば、お前にはまだ名乗ってなかった。俺の名前はゲイブ。見ての通りしがない野菜売りをしている」
そう挨拶をしてきた彼に対して、軽く頭を下げた。
”しがない”と言う割には顔の傷があまりにも目立つんだけど........まぁそれは今は置いておこう。
「とりあえずさっき話そうとしていたことは、ルナちゃんにも聞いてもらいたい話だったから丁度いい。まず魔法の【基本属性】のことは知ってるよな?」
「基本属性? それって火とか水の魔法のことですか?」
「そうだ。【基本属性】は5種類、火、水、風、土、雷。これは誰でも知っていることだな」
”誰でも知っていること”....おそらくこれを「知らない」などと言っていたら、完全に怪しまれていただろう。
とりあえず、昨日知ったばかりの魔法のことを言ってみてよかった。
しかも有難いことに【基本属性】についての解説までしてもらえるとは、実に運がいい。
(”雷”なんて魔法もあるのか。まぁゲームとかならそこそこ強そうだけど、ここじゃかなり不便だろうなぁ....)
昨日聞かされたことを考慮すると、そう考えざるを得ない。
魔法の行使において、発動しようとする魔法の属性の素になる”魔素”が必要なこの世界では、雷魔法はどうしても使いずらくなってしまうだろう。
そんなことを考えていると、不意に強面の男の口が開かれた。
「そこで今朝、お前に伝えた【セイヴィア】というものだが、ルナちゃんはアビルの旦那から何か聞いているか?」
「セイヴィア? んーん、聞いたことないかなぁ」
「そうか、わかった。なら俺がこれから二人に教えよう」
(そう言えば、その話で終わったのか......)
俺は完全に今朝話していた大事なことを忘れていた。
「【セイヴィア】と言うのは、今話した【基本属性】の各属性ごとに特出した者達の総称のことだ」
「特出した?」
どこかで聞いたような言葉。
今朝も少し気になったことである。
それはまるで――――。
「そいつらはそれぞれ名前があって、水のセイヴィアは『アクア』、風のセイヴィアは『エルフ』、土のセイヴィアは『ソイル』、雷のセイヴィアは『ライト』、そして――火のセイヴィアは『リエータ』だ」
「!!!!」
「........」
やはり予想は的中していた。
”太陽に愛され、火魔法が特出した一族”
「俺は昔、アビルの旦那と酒を交わしてる時に聞いたんだ。最初は信じてなかったんだが....。あの旦那、酔った勢いで容姿を変えてな。ほんとあの時は腰を抜かしたぜ。はっはっは!!」
「あ、あのおじいちゃんは....一体、何をしてるんだぁ......」
隣にいるルナは手を額に当て落胆している。
無理もない、おじいさんは彼女に”誰にも見せるな”と言っていたにも関わらず、自分は酔った勢いで他人に見せているのだから......。
それは頭も抱えたくなるだろう。
俺は苦笑いをしながら彼女の方に顔を向けていた。
そうしてルナがうな垂れていると、強面の店主は優しく手を頭の上に乗せた。
「今まで黙ってて悪かったな。ルナちゃんの”色”のこともアビルの旦那から話は聞いていた。”もしも自分に何かあったらお前に頼みたい”と言われてな......」
「そんな......。んーん、私こそ黙っててごめんなさい。ずっとお世話になってたのに、騙してて....」
「いいんだ。そんな大事なことは隠していて正解さ」
「うん......」
やや俯いて応えた彼女の瞳からは少しの水滴が零れ落ちた。
ずっと隠してきたことへの罪悪感や、店主の反応に対する安堵など、いろんな感情が込み上げてきたに違いない。
ややあって、ルナが落ち着いたところで、再び話は戻る。
「各セイヴィアにはそれぞれある特徴があるんだが、それは――」
「”容姿が変化する”、だよね?」
「そうだ」
店主の前にルナが答えた。
ルナ自身、一番感じている他の人々と違う特徴。
店主も言うまでもない、と思っている様子だ。
「どの一族の者も”髪と瞳の色が変化する”、という特徴を持っているようなんだ。何でも特に優れた『エルフ』の者は”耳の形まで変わる”らしい」
(『エルフ』か........って、あのファンタジー世界で有名な!? も、もしかして容姿は――)
金色の長い髪。
エメラルドの様に輝く瞳。
長く尖った耳。
そして、雪の様に白い肌と、極めつけはあのはち切れそうなお胸......。
俺は再びでてきた『エルフ』というワードではあるが、心の中は完全にそれで支配されていた。
先ほどの説明でも『エルフ』という単語は出てきていたのだが、『リエータ』のことが気になり過ぎて頭に入っていなかったのだ。
いつか会ってみたい、と脳内でイメージを再生し思い浮かべていると、この場の一人が俺のそんな様子に気付いた。
「へー....って、ハル。君、なんて顔してるのさ......」
その言葉で我に返ると、頭を高速で横に振り、頭上にイメージしていた『エルフ』を発散させた。
「あ、いや。な、なんでもないよ?」
俺の反応を見て少し気になったのか続いて、強面の店主が口を開いた。
「なんだ、お前。『エルフ』のことを知っているのか? 確かに噂には絶世の美女だと聞くが......」
「いや、なんだろう....。ちょっと聞いたことがあるような....ないような....」
店主にはそう返事をしたのだが、ルナの方は全く信じていない様子だ。
「じー」
今朝のあの惨事の時のような視線を飛ばしてくる。
「い、いや、ほんとだって....」
これはまずい、とりあえず話を戻さなくては――――。
そう思った時、不意に今朝の会話を思い出した。
「そ、そう言えば! 俺のこの”黒い髪と瞳”と【セイヴィア】。何か関係があるんですよね?」
「ん? ああ、そうなんだ」
かなり強引ではあるが、話をずらすことに成功した。
まだルナの方は納得していないようだが、今はとりあえずここを凌ぐことが優先である。
そうは言っても、それなりに気になる内容であった為、俺自身はすぐに話に耳を傾けることができた。
「今朝も言ったが、俺は黒髪黒目の人間には今まで会った事がない」
「! 確かに....言われてみれば......」
店主の言葉にルナもやっとこの話に集中してくれたようで、改めて俺の容姿を観察している。
「なんだ、ルナちゃんは気付いてなかったのか?」
「うん、あんまり人と関わってこなかったし....。それに”容姿が少し違うから”って見方が変わったりするのは私......好きじゃないから。特に見た目とか意識したことないんだよね」
少し暗いトーンで話していたが、最後はいつも同様に明るい笑顔で締めくくった。
「そうだったな....」
その返答に店主はあまりにも無神経なことを言ってしまったと、少し反省するように囁いた。
「大丈夫! それでもハルは悪い人じゃないよ。まだ出会って1日も経ってないけど、なんとなくわかるんだ」
そう言って俺の方に顔を向けると、太陽のような笑顔になる。
俺は少し照れ臭くて、右手の人差し指で頬をかきながら目を逸らしまった。
二人でそんな世界を作っていると、野太い咳払いで引き戻された。
「んっんっ! 確かに、こいつが悪い奴じゃないのはわかる。それは俺も納得だ」
「じゃあ――」
「だが! それとこいつの容姿の話は別だ」
店主の発言にルナが入り込もうとしたが、彼の野太い声でかき消されてしまう。
「もしかしたらこいつは......”あの話”に出てくる”あいつ”に、何か関係しているかもしれない」
「”あの話”? ――――ってまさか!!」
ルナは何かに気付いたようで、少々顔が青ざめている。
どうやら俺の容姿は、この世界では本当に特異なもののようだ。
「そう。ルナちゃんもアビルの旦那から聞いたことはあるだろ? ”お伽噺”を」
(お伽噺? って童話みたいなやつだっけ?)
なぜそんな話をしなければいけないのか、少し不思議に思っていると、突然テーブルを強く叩く音が部屋に響いた。
「そんなわけないじゃん!! だってあれは相当昔の話で....。そもそも本当にあった事なのかもわからないのに!!」
叫ぶように言い放ったのはルナである。
怒っているのか、慌てているのか、またはその両方なのかはわからないが、なんだか穏やかではない。
「まー落ち着けルナちゃん。別にこいつが”お伽噺”に出てくる”あいつ”本人だとは思っていないさ。だが”この容姿”だ。何か関係している可能性だってあるだろ?」
(なるほど....)
ここまでの会話だけでも何となく理解できた。
つまり、その”お伽噺”に出てくる”あいつ”とやらの容姿が俺とそっくりなのであろう。
俺が一人静かに考察していると、不意に店主の質問が飛んできた。
「お前、”お伽噺”は聞いたことあるか?」
「え? あ、はい。少しなら....」
(”俺の世界の”、だけど....)
「そうか。でもピンときていないと言うことは、”あいつ”の容姿までは知らないようだな」
「そ、そうですね....」
「それなら念のためにも、こいつに伝えておくことは必要だとは思わないかい?」
「確かに....そうかもしれないけど......」
ついにルナも納得したようで、ようやくその”お伽噺”とやらを聞くことができる。
そうは言っても、すでに自分で大体の予想は出来ているつもりだ。
そこまで驚くようなこともないだろう。
「これから話すのは、この世界の歴史という名の”お伽噺”だ。今から約1000年前――」
そうしてこの世界の歴史を記された、”お伽噺”が語られ始めた。
修正中
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