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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

国家公認☆魔法少女ユズ!

作者: 明石六郎

 普通の小学生蜜柑ユズは、小学校からの帰り道で不思議な声を聴きました。


「僕の声が聞こえますか?」

「だれ、だれなの?」

「僕は、この世界の外からやってきたんだ……聞いてほしい、この世界が危ないんだ!」


 それは、犬のヌイグルミの様な生き物でした。

 犬の様な姿をしているのに二足歩行しており、しかも毛並みもカラフルな彩色で、どう見ても地球の生物には見えません。


「僕は、『ワンダーワールド』という世界で暮していたんだ。でも、ある日突然『セイネンムケワールド』っていう世界から侵略者が現れて……」

「それで、亡ぼされちゃったの?」

「そうなんだ……僕はワンダーワールドの秘宝である魔法の杖を女王様から託されてここにいる。この魔法の杖を使って、この世界にも攻め込んでくるセイネンムケワールドの敵を倒してほしいんだ!」


 そう言って、正に小学生が持つための様な大きさの、カラフルで装飾の突いた『魔法の杖』を、差し出してきます。

 ユズは少し悩んだ後、それに手を伸ばして……つかみました。


「うん、私この世界を守るために戦うよ!」

「ありがとう!」


 こうして、魔法少女ユズが誕生したのだった!



「ごめん、遅くなっちゃって……とりあえず、夕飯の残り物だけど……」

「うん、ありがとう。実はお腹がペコペコだったんだ!」

「カレーうどん、こぼさないように食べてね」

「……凄い難しそうだね」


 ユズは小学生なので、当然家に帰らざるをえませんでした。

 なので、異世界から逃げてきた『彼』を抱えて、自分の部屋に隠します。

 そして、自分が食べた後に残り物であるカレーうどんを渡していました。

 こぼすと面倒なので、こぼさないようにお願いして。


「それじゃあ、食べながらで申し訳ないけど、説明させてもらうね。まずは僕の名前、トックっていうんだ」

「私は蜜柑ユズ、ユズって呼んでね、トック」

「うん、よろしくユズ」


 短い手で器用にはしを使いながら、何とかこぼさないようにカレーうどんを食べていくトック。

 美味しいけど、ちょっと食べ難い。そう思いながら食べていきます。


「セイネンムケワールドの敵は、とても恐ろしい奴らばかりだった……僕たちの世界にはいない恐ろしい姿をした敵ばかりだった……」

「そんなに怖かったの?」

「うん、僕たちの世界も必死に戦ったんだけど、まるで太刀打ちできなかった……」


 自分の国が滅びていく様を思い出したのか、トックは体を震わせていました。

 そう、彼の国はもう滅びているのです。彼の住む世界にいた人たちは、もうどこにもいないのです。


「女帝ワンエイトが率いる四天王と、その部下たちは僕たちの世界をまるで赤ん坊の手をひねるように潰していったんだ……」

「女帝ワンエイトと四天王……恐ろしいね」

「うん、君は彼女達からこの世界を守らないといけないんだ。だから……言いにくいんだけど、君はこのことをお父さんやお母さん、友達には言っちゃいけないんだ」


 それは、大切な人を巻き込まないための、二人の秘密だった。

 もしも敵に魔法少女の正体が知られたら、それはとても危険なことになる。

 だからこそ、ユズが魔法少女になることは二人の秘密にしないといけなかったのです。


「うん、わかった! 私、お父さんにもお母さんにも、クラスのお友達にも内緒にするよ!」

「わかってくれたんだね、ありがとう!」



 次の日の放課後、ユズはトックを連れて町の役所に来ていました。

 トックは黙っているとヌイグルミにしか見えないので、小学生の女の子が大事にヌイグルミを抱えているようにしか見えません。

 たくさんの人が順番待ちをしているので、ユズは整理券を手に持って、自分の番が来るのを待つことにしました。


「……あのさ、ユズ」

「お役所では、静かにしていないと駄目なんだよ、トック」

『うん、それじゃあテレパシーで話すけど……』


 トックは納得ができませんでした。

 確かに町の役場は『家族』でも『クラスメイト』でもありません。

 でも、どうなんでしょうか、これは。


『どういうことだい?!』

『え、だって学校の授業で習ったんだよ。魔法少女になるときは、町のお役所に届け出を出さないといけないんだって』

『どういうことだい?!』


 小学校の授業には『社会』という科目があって、その中で『魔法少女になるときのマニュアル』があります。

 それによると、魔法少女になるときは身近な大人ではなく、まずお役所に申請しないといけないことになっています。


『無許可で魔法少女をしていると、おまわりさんに捕まっちゃうんだって』

『逆に言うと申請すれば親の許可は要らないのかい?!』

『うん、だって異世界の人は大体そういうから、法律でそう決めたんだって』


 確かに親には内緒にしてほしいと言った身ではあるが、でも親に内緒で役所に公認というのは、物凄い矛盾が生じていると思うのだが。

 少なくとも、そういう手続きをしてほしいわけではないと、トックは心に強く思いました。


『親切なのか不親切なのかわからないね……』

『大丈夫だよトック、先生がいってたもん。お役所の人は優しいって』

『いや、そうかもしれないけども』


 そもそも、そんな法律が存在して町の役場に専門の窓口があるということは、相当頻繁に魔法少女が誕生しているということではないだろうか。

 攻め滅ぼされた身で想うことではないが、トックは果たしてこの世界の人々は大丈夫なのだろうかと心配になっていました。


「19番の方、こちらへどうぞ」

「は~~い」


 整理券の番号で呼ばれたので、ユズはお役所のお姉さんの所へ歩いて行きます。

 そこには子供用の椅子が置いてあって、その脇にはトックが座れる大きさの椅子まで置いてありました。


「どのようなご用件ですか?」

「はい、実は昨日トックを拾ったんです。トックはワンダーワールドから来た人で、セイネンムケワールドの侵略者に住んでいたところを滅ぼされて、魔法の杖をもって逃げて来たんです」

「そうですか……それは大変でしたね」


 自分用の椅子に座らされたトックは、目の前のお姉さんになんと返事をしていいのかわかりませんでした。


「トック、お返事しないと失礼だよ」

「あ、はい」

「いえいえ、ご家族にもご不幸があったと思いますし、仕方がない事ですよ。それに、こちらの世界にいらしたばかりですし、こうした手続きも初めてではないですか?」

「はい、初めてです」


 そもそも自分の祖国が滅ぼされるのが初体験ではない、という人はいるのかトックにはわかりません。

 もしかしたら、定期的に滅ぼされて、ここで申請している人がいるのかもしれないと思うとやるせないかったのです。


「それではこちらの書類にご記入を」


『被侵略者の氏名 フリガナ』

『被侵略者が所属していた世界』

『侵略者の所属する世界、或いは組織の名称』

『侵略の首謀者と思われる人物の氏名 フリガナ』

『滅亡した国家から持ち込んだ道具の名称、種類、数量』

『侵略された日時』『滅亡した日時』『この国を訪れた日時』(できるだけ正確におねがいします)

『侵略者の勢力の規模をお答えください』(非常に重要です、記入忘れの無いようにお願いします)

『□個人、または組織が被害を受ける』

『□国家、およびそれに準ずる共同体が被害を受ける』

『□惑星、または太陽系が被害を受ける』

『□宇宙、次元が被害を受ける』


「どういうことなんだい……」

「わからないところがあったら、どうぞ」

「あ、もしかして日本語が読めないの?」


 ユズも公務員のお姉さんも、トックに親切でした。

 ですがトックは悩ましい問題に直面していました。

 字が読めるのですが、意味が分かりませんでした。


「宇宙とか次元が被害を受けるって、どういうことなんだい?」

「一年に数例、そうした規模の侵略者が訪れています。貴方の故郷を滅ぼした組織がそれに該当するなら、レ点を四角の枠の中に」

「あ、レってわからない?」


 分からないことがあるとすれば、一年に数回宇宙や次元の危機が生じていることだろう。

 もしかしてとんでもない世界に来てしまったのではないだろうか、と思いながらトックは『□国家、およびそれに準ずる共同体が被害を受ける』にレ点を記入しました。


「それでは、これによって貴女の魔法少女活動は認められました。あとは、トックさんを病院へお連れして病気などの検査をお願いします。今申請書をお渡ししますので、これを病院の受付の方へ渡してあげてくださいね」

「は~い」


 ユズはユズで、魔法少女としての活動をするために書類を書いており、それを終えたことで新しく紙をもらっていました。

 この世界で怖い病気にかからないように注射を打ってもらったりするための、検査をするための入院でした。


「良かったね、これで魔法少女になれるね」

「うん……そうだね……」


 釈然としないまま、ユズに抱えてもらったトックは、他の窓口で話をしている人たちを見ました。


「我が国の永住許可などは、原則として存在しておりません」

「そ、そこをなんとか! か、金ならいくらでも払う!」

「観光ピザや避難ピザでは長期の滞在は不許可となります」

「ここの暮らしが楽しいんだよ……観光ピザは一カ月限定だし、そこから一年この国に来れないなんて、殺生じゃないか」

「就職先が決定すれば就労ピザが発行されます」

「どこも雇ってくれないんだよ! 住居が決まらないと雇えないとか、住居を決めるには就職先が決まらないと駄目だとか、ホテルだと駄目だっていうんだぞ?!」

「それは私共では解決できませんので……」



 聞いてはいけないようなことを聞いた気がして、トックはヌイグルミのフリをすることにしました。



 異次元に存在する国、『セイネンムケワールド』。

 その城に座する女帝ワンエイトは、己の前に控えている四天王と、更にその背後にいる配下たちを見て不敵な笑みを漏らしていた。


「犬めが逃げた先は、地球とか言う世界だそうだ。雅さのない名だが、蹂躙するには十分すぎるほど『人間』がいるらしい」


「女帝陛下、どうぞこの私めに一番槍の誉れを」

「いやいや、ここはアタイが」

「何をほざく、我が配下とともに蹂躙してくれようぞ」

「陛下の御心のままに」


「ふふふ……ではファスト・レディよ。その配下と共に、我が軍団の恐ろしさを見せてやるのだ」


 ファスト・レディ、そう呼ばれた四天王は顔を上げた。

 黒で埋め尽くされた城の中で輝く白。高潔と忠義、不惑を絵にしたような騎士は、その言葉を受けて立ち上がる。


「必ずや、女帝陛下の恐ろしさを地球の者どもに教えて見せましょう!」

「聞けば、犬めは魔法少女とやらと行動を共にしているとか……」

「問題ありません、所詮は負け犬。我が剣に誓って、両断して見せましょう」


 ワンダーワールドの魔法の杖。

 もちろん、そんなものなど恐れるに足りず。

 手にした宝剣を構えて、勇ましく宣言していた。


「それには及びません、レディ様」


 そう言って、レディの背後に控えていた、重い鎧を着こんだ女騎士が歩み出ます。


「そのような小娘、我が槍で十分かと」


 四天王『白騎士ファスト・レディ』一の部下、重騎士レッドン。

 女性でありながら長身であり筋骨隆々なる彼女は、ファスト・レディが戦うまでもないと歩み出ていました。


「ふふ……では二人を尖兵として送ろう。吉報を待っているぞ、二人とも」


「「ははっ!」」 



「ここが、地球……その中でも日本と呼ばれる国家か……」

「ふん、星一つ統一できぬ軟弱な国家など、我ら二人で落とせましょう」


 夜の都会、それもユズの住む街の近くに現れた二人は、路地裏で自分達が無事に目的地へ到着していたことを確認していた。

 二人は既に、この世界を如何にして『教育』、『指導』、『征服』するのかを考えていた。


「違いない……とはいえ、まず汚い場所だ。それに……やかましい」


 空を見れば雲もないのに星が見えず、鼻に付くのは人工物の臭い。

 加えて、路地裏ということもあってお世辞にも衛生的とは言えなかった。

 二人の女性が不快に思ったとしても、さほど不自然ではなかった。


「程度の低い文明だ、住む人間の程度が知れよう」

「生かしておく価値もなさそうですね」


 侵略者ゆえの傲慢を隠さない二人は、殺意さえ抱かずに表通りへ向かおうとしていた。その先で、呵責のない虐殺をするために。

 しかし、その二人が表へ出る前に、路地裏へ数人の若い男女が入りこんできた。


「うおええええええええ!」

「おい、トシ! 大丈夫か?」

「もう、お酒飲みすぎだって」

「ば、馬鹿野郎……俺を誰だと思ってるんだ? この程度の酒で……うおええええ!」


 ここが違う世界だとしてもすぐにわかる、余りにも典型的な酔っ払い。

 刻限が夜だとしても、人間としての程度が低いと判断されても仕方のない事だった。


「……汚いな」

「ええ、掃除しましょう」


 酒の入っている男女が三人、それを主に粛清させるなど槍の恥。

 重騎士レッドンは前へ進み、槍を構えていた。


「ん? なんだ、この姉ちゃん、コスプレか?」


 名乗りを上げる価値もない、と無言で槍を構えているレッドンを見て、吐いていた若い男は首をかしげる。

 余りにも、日本の路地裏には似合わない服装の彼女には、酒が入っていたこともあって現実味を感じられなかった。


「ちょ……なんかヤバいって! 関わったら駄目なタイプだって!」

「そうだって、逃げようぜ! 明日も会社だろ?!」


 吐いていた男を介抱していた男女は、ただならぬ雰囲気を感じて逃げることを選ぼうとしていた。

 それが成功するかどうかはともかく、レッドンを前にすれば正しい判断だった。


「うっせえな……こんなデカい女に、俺が負けるかってんだよ!」


 酒が入って気が大きくなっているのか、さっきまで吐いていた男は酩酊状態のまま拳をボクサーの様に構えていた。

 その姿は、余りにも見るに耐えない。


「オラ、二人まとめてかかって来いよ!」


 無謀にも、レッドンの背後にいるファスト・レディにも挑発する。

 レッドンよりも華奢に見えて、数段上の実力者であるファスト・レディを同時に相手取る。

 それができるほどの実力者だとは、酒を抜きにしても考えられなかった。


「お前らが何処の誰かは知らねえけどなあ……俺にケンカを売ったこと、後悔させてやるぜええええ!」


「聞くに耐えんな……始末しろ」

「はっ!」




 レッドンとファスト・レディが地球に現れた翌朝、ユズは学校に行く前にお家で朝ご飯を食べていた。

 今日のご飯はハムエッグとトースト、そして味噌汁である。しかも、カボチャの味噌汁だった。


「美味しい?」

『僕はこの星の文化を良く知らないけど、多分食べ合わせが正解ではないと思うな』


 ユズは自分の膝の上にトックを乗せていた。

 トックにご飯をこっそりと食べさせていたのだ。

 尚、トックは微妙な顔をしている。


「ほら、早く食べないと遅刻するわよ?」

「は~~い」


 魔法少女になったとは言っても、日常も守らなければならない。

 だからこそ、彼女は遅刻しないように慌てて食べていた。


『昨日のニュースです』


 そんな彼女がテレビを見ていると、自分の家の近くの繁華街で、事件が起きたと報道されていた。


『昨晩、『セイネンムケワールド』の『女帝ワンエイト』の部下を名乗る女性二名が〇×町の繁華街の路地裏で、酔っ払いと口論になり、暴行を加えられ現在入院中です』

「どういう事なんだい?!」


 思わず、ヌイグルミのフリを忘れて叫んでしまうトック。

 しかし、自分の国を侵略していたセイネンムケワールドの敵が、町の酔っ払いとケンカで負けて入院中というのは想像をはるかに超えていた。


「ユズ、どうしたの?」

「な、なんでもないよ! トック、駄目じゃない、大きな声出したりしちゃ……」

『いや、ちょっと待とうよ!? おかしいよ! こんなの絶対!』

『そうだね、じゃあ後で病院に確認しに行こうよ!』


 いや、違う。そうじゃない。

 なんで朝のニュースで侵略者が暴行事件の被害を受けたと、ニュースキャスターが交通事故の様に読み上げているのか。

 それがトックにはわからない。



「だからよう……宣戦布告もしてない侵略者をボコったって、無罪放免だろうが! 国交がない世界の奴なんて、人権ねえんだろ?!」

「そうなんですけどねえ……ほら、貴方が暴れていい理由にはなりませんし」

「やらなきゃやられるところだったんだぞ?! 俺、今日会社で仕事なんですけど、おまわりさん!?」

「ですがねえ……建物が三棟壊れちゃってまして……」


 警察の取調室をちょっと覗くと、そんな声が聞こえてきた。

 微妙にトックには怖い発言があったものの、『酔っ払い』はとても元気そうだった。

 どうやら、目立った怪我はないらしい。


「どういうことなんだい……」

「あら、刺激が強かったですか?」

「いや、そうじゃなくて……」


 警察署の中に設けられた病院施設に案内してくれる婦警さんは、ユズに抱えられているトックに気遣いますが、トックはそんなことを気にしているわけではない。


「あの人がセイネンムケワールドの人をやっつけちゃったんですか?」

「ええ、そうなの。ビルを三軒も潰しちゃったのよ。ケガ人はいなかったんだけど、被害が凄くてね……あの人も有罪になっちゃうかもしれないわ」

「許可を申請してなかったからですか?」

「そうよ、ユズちゃんとトックさんは申請しているから、必要な範囲でなら物を壊しても保証されるから、安心してね」

「は~~い!」


 とことこと廊下を歩いていくと、牢屋の様に鉄格子のある病室にたどり着きました。

 そして、その病室で包帯だらけになっている二人の女性がいました。

 どちらも、とても痛々しい姿です。


「……うわあ」


 ユズは傷だらけの顔を見て引いていました。

 しかし、トックは彼女たちの顔を見て絶望していました。

 片方は、変わり果てた顔ではあるものの、なんとなく面影がある人でした。


「……四天王の『白騎士ファスト・レディ』です」

「ああ、やはりトックさんの世界を侵略した方でしたか。ご安心ください、拘束しておきますので」


 婦警さんの心強い言葉を聞いて、トックは絶句していた。

 おかしい、四天王が町の酔っ払いと口論になって、暴行を受けて入院して、そのまま拘束されるなんて。


「誰もケガをしなくて、良かったです!」

「そうね、どうやら巻き込まれたあの人、学生時代にどこかの世界を救った勇者だったらしいのよ」


 学生時代にスポーツをやっていたのよ、ぐらいのノリで世界を救った勇者を逮捕している警察。

 その心強さと力強さと意味不明さには、言葉もありません。


「そうなんですか」

「そうなのよ、被害が大きくなる前で良かったわ」

「どういうことなんだい……」





「ファスト・レディが敗北したな」


 女帝ワンエイトの呟きを聞いて、セイネンムケワールドの軍勢に戦慄が走っていた。

 あの四天王、白騎士が敗北するなどあり得ない。

 それも、直前に征服した世界の遺産を持っているだけの少女に敗北したなどと、信じられるわけもなかった。

 しかし、女帝は不敵に笑っていた。

 そうこなくては面白くない、という顔だった。


「陛下! どうか我らに進軍の許可を!」

「ファスト・レディ様の仇を取りたいのです!」

「身命に賭しましても、必ずや首をお持ち帰りいたします!」


 ファスト・レディの部下たちが騒いでいた。

 魔法少女を許すわけにはいかない。全力で打倒すのみだった。


「騒ぐな、ファスト・レディが倒された今、お前達を今更送り込んでも仕方がない」


 魔法少女、油断ならぬ敵だった。

 久しく見ない敵に笑みを隠さぬものの、徒に戦力を削ぐことを良しとしない彼女は、残る四天王の中の誰かを選ぼうとしていた。


「『毒婦ポイズン・レディ』よ」

「はぁい、陛下!」


 呼ばれた四天王、ポイズン・レディは、ファスト・レディが敗北したことをまるで気にすることもなく、陽気に妖艶に応えていた。

 色気を漂わせるその姿は、正に毒婦の名に恥じぬ者だった。


「部下を率いて、魔法少女とやらの相手をしてやれ」

「承知いたしました……『妖婦スネク』! 私と共に地球へ向かいましょう?」

「ご指名、ありがとうございま~~す!」


 ポイズン・レディの言葉を受けて、彼女の部下のスネクが立ち上がる。

 ポイズン・レディに負けず劣らずの妖艶な姿を誇る彼女は、妖しいしぐさをしながら立ち上がっていた。


「ふっふっふ……ポイズン・レディは堅物のファスト・レディとは違う……その狡猾な手管に耐えられるかな、魔法少女よ……」


 四天王の一角は崩された。しかしそれは、セイネンムケワールドの牙城からすれば、戦力の一部に過ぎない。

 強大な敵は、未だにその底を見せない。


 戦え、負けるな!

 国家公認魔法少女ユズ!

次回予告


 魔法少女になったユズの通う小学校、そのすぐ近くにある中学校に、セイネンムケワールドの手が伸びようとしていた。

 健全に汗を流す運動部の生徒たちへ、狡猾なポイズン・レディの魔の手が迫る!



『狙われたテニス部! 恐竜絶滅の危機!』



注意事項 

本作は短編小説です。次回予告はあくまでもネタとしてお楽しみ下さい。


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― 新着の感想 ―
[一言] テニヌかな? なるほどきっとテニヌの本家の方もこんな世界観だから研究者や国家に拘束とかないのかと納得した(笑)
[気になる点] ピザではなくビザだと思います [一言] ある意味GATEを思い出す展開 異世界に移動する技術なんて持っておきながら情報を集めるという発想は持ってないんかい! 果たしてセイネンムケ帝国は…
[一言] また恐竜が滅亡するのか… テニス部だから超能力テニヌですね プロになるとお互いの能力を打ち消し合って普通のテニスに見えるらしいですし
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