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 アランたちは廃教会に到着して、目線で最終確認を取り合っている。

 アランとアミナの二人だけが廃教会の正門の前に立っている。木製の観音開き扉出来ている正門だが、廃棄された年月を物語るようにいつ蝶番が外れてもおかしくないらいボロボロだ。

 アミナがノエルを指さしてから、指を下に向けて、その場を示すが、アランは首を横に振る。槍を使うアミナよりも身のこなしの素早いノエルのほうがこの場には向いているのではないか、という意味だが、アランはレンジャーの能力よりも魔族との場数の多さを重視した。

 そのため、ノエルは扉から離れた位置に、ブライアン、ジュディス、セビーとともに待機している。

 二人は頷き合い、扉から離れるように全力で後ろに飛び、その直後には扉が内側から爆発四散した。

 二人とも爆風に巻き込まれたが、後ろに飛ぶことで被害を最小限に抑えている。しかし、勢いよく後ろに飛び、それを後押しするように爆風が襲ったため、二人とも地面を転がり泥だらけになって、傍目からは結構な被害を受けたように見える。

 見た目とは違い、転がっている時に出来た擦り傷以外には大きな怪我も無い二人だが、倒れたまま起き上がるのにも一苦労という様子で痛がっている。

 そんな二人に後ろにいた4人は驚愕という表情で見つめているが、まるでその場から動けないくらい廃教会の中にいる何かを警戒しているようにも見える。


 扉を爆破した張本人は祭殿にある台座に腰かけたまま顔をにやけさせている。

 ボロボロだった扉は跡形もなくなり、扉があったことを示すのは廃教会の正面にある扉跡の穴だけになった。その大穴から外の様子を観察していたアルフラスは吹き飛ばされ起き上がることにも苦労しているアランとアミナを笑い、倒れている仲間を助けにもいかない残りの4人に失笑していた。

 散々上司から警告を受けていた冒険者たちがアルフラスのたった一発のファイアーボールで戦意を喪失させているように見受けられるのだ。アルフラスを侮っていた冒険者が開幕第一撃で地面に這いつくばっているのだ。今までの不満、鬱憤が晴れていくのを感じアルフラスはこの場を支配している全能感を味わいながら、台座から腰を下ろして、ゆっくりとした動作で廃教会から出てくる。


 廃教会から出てきたアルフラスは這いつくばったままのアランを見下し、笑いながら口を開いた。

「冒険者などと驕っていても、所詮は人間。己が分を弁えて、魔族に慈悲を請いながら這いつくばるのがお似合いだ」

 アランは唾を飲み込み、戦々恐々という様子で自嘲する。

「まさか、魔族がここに潜んでいたとは。それも予想より上位の魔族とは」

 アランの自嘲にアルフラスは薄ら笑いを浮かべる。

「ふん、これを自業自得というのだ。せめて楽に殺してもらえるようにお願いしておけ」

 アランから目をそらし、その後ろで動かないジュディスに目を向ける。

「メスプリーストは楽には殺してやらんがな」

 アルフラスからの言葉にジュディスは目を閉じ、聖典を暗唱することで精神統一を図る。その様子にアルフラスは更なる失笑を誘われる。

「困ったときは神頼みか。貴様ら神に仕えるという者どもはいつもそうだ。いくら頼んでも神は助けてくれないことも理解できないのか」

 アルフラスの言葉にジュディスはより熱心に聖典を唱える。

 アランがそんなアルフラスに声をかける。

「答えろ、どうして貴様のような魔族がここにいる」

 横から突然割り込まれたアランの言葉にアルフラスは苛立ちを感じる。

「貴様ではない、アルフラス様と呼べ。人間ごときが魔族と対等な口をきくとは驕り過ぎるのもほどほどにしろ」

 魔族の身体能力を生かし、アランの傍に移動して、アランの腹を蹴りつける。

 蹴られたアランは激しく咳き込んでいるが、蹴られる直前に衝撃を吸収するように後ろに飛んでいるため、被害らしい被害はない。

「まぁ良い。特別に冥途の土産に教えてやろう。ガレス様からの命を受けて潜伏していたのだ」

 予想以上の名前にアランたちは誰もが驚き、言葉を失う。

「ふん、驚いているようだな。ガレス様の腹心の部下とはこの俺アルフラス様のことだ」

 アランは俄然前のめりになって聞いてしまう。

「どうしてガレスが。貴様に何を命じたのだ。答えろ」

「ガレス様、アルフラス様と呼べと教えただろうが。・・・おい、待て。貴様やけに元気だな」

 予想を上回る名前が出たことで演技を忘れて、アルフラスに見破られかける。まだ疑われている間にアランたちは先手を取って動き出す。

 まずはアランが起きる動作に合わせて右手に持っている剣を振り抜き、アルフラスの両足首を切り落とす。

 魔族は息を吸うように魔術を行使できるが、才能があり、訓練を怠らず、経験を積んだ冒険者の動きに対応できるほどの反射神経を持っている魔族は少数だ。アルフラスもアランの動きに追随できず、両足首を切り落とされ、体が崩れ落ちるのを呆然と見つめていた。

 アミナは床に倒れたアルフラスの背中から床に縫い付けるように槍が突き刺す。突き刺さった槍を前後左右に揺らして、アルフラスに更なる痛みを与える。この行為は単なる被虐趣味によるものではない。魔族は魔術の才能や優れた身体能力など種族そのものの基礎能力が他種族を圧倒しているゆえに鍛え、痛みに慣れている魔族も少数だ。アルフラスも体に刺さる槍の痛みに耐えながら魔術を使えるほど鍛錬していなかった。

「早く俺を助けろ」

 アルフラスはオークに助けを求めるが、オークたちはそれに応えない。

「何をしているんだ。ノロマなオークどもめ」

 体に刺さったまま回される槍の痛みに絶叫しながらもオークの方を振り向き、首の頸動脈を切られ絶命している5体のオークと7人目の冒険者の存在にようやく気付いた。


 サイゾウはアランたちとは廃教会に近づく前には別れ、単独行動を取っていた。アランたちが騒がしくしていたのもサイゾウに気付かれないようにしたものだった。

 アランたちに先行する形で廃教会に侵入したサイゾウは機会を待っていた。

 アルフラスがアランたちに攻撃して、教会から出て行ったタイミングでサイゾウは動き出した。まず、オークたちを音もなく始末して、調子に乗ってペラペラ喋るアルフラスを後ろから眺めていた。

 そして、アルフラスが違和感に勘付き、その正体に気付かれる前にアランが動き、アミナが槍を突き刺したのと同タイミングでサイゾウも動いていた。倒れているアルフラスの背中に乗り、喉元に短剣を突き付けた。


「続きを喋れ、ガレスがお前に何を命じた」

 背中に乗ったサイゾウが喉元に突きつけた短剣を肌に食い込ませて、薄く切り裂いて尋ねる。

「ま、ま、待て。俺に何かあったらガレス様が黙っていないぞ。助けてくれるならガレス様に口を効いてやってもいいぞ」

 その答えにアレスはサイゾウに目線で合図を送り、サイゾウは腰の後ろに差したもう一本の短剣を引き抜いて、アルフラスの肩に突き刺した。

「うぎゃー!貴様ら、正気か。ガレス様が怖くないのか。覚えていろよ、オスは地獄の苦しみの果てに、メスは人豚にしてくれる」

 アレスはアルフラスの脅迫を無視して、サイゾウに再び目線で合図を送る。

 アレスは腰を下ろしてアルフラスの右手を掴み、手を広げさせる。サイゾウは肩に突き刺した短剣を引き抜き、広げさせた右手の人差し指の肉を骨が見えるくらい深く切り取り、もう一度尋ねる。

「ガレスがお前に何を命じた」

 アルフラスはサイゾウの質問も耳に入らないほど痛みで絶叫し、答えることが出来ない。その様子にアレスが今度は口で合図を送る。

「サイゾウ、まだ指は9本ある。次は親指の肉を切り取れ」

「や、止めてくれ。知りたいことなら何でも教えるからもう止めてくれ」

 アランの9本あるという言葉に恐怖し、プライドを捨てて命乞いをするが、サイゾウは短剣で親指に突き刺しながら尋ねる。

「ガレスがお前に何を命じた」

「っーー!ガレス様からはこの森にいる獣を瘴気で汚染し、人間どもの輸送隊を襲って物資を略奪するように命令された。それを人間どもが討伐に冒険者を寄越す前に移動して各地で繰り返すように命じられたのだ。そうだ、あとは、一月に一回に活動報告を受け取りにガレス様の部下が派遣されるから、その時にどこを狙うか具体的な指示を受けるくらいだ」

 声が出ないくらいの痛みに悶絶しつつも、ガレスからの命令を包み隠さずに答える。

「その目的はなんだ」

 しかし、サイゾウは容赦せずに追求する。

「目的?目的なんて人間どもの攪乱じゃないか」

「そんなわかりきったことを聞いているんじゃない。どうして人類のかく乱をしているのかと聞いているんだ」

 アルフラスの勘違いした答えにアランは丁寧に尋ねるが、下級魔族のアルフラスにガレスは目的まで伝えていないから答えることは出来ない。

「知らない。ま、待ってください。本当だ、本当に知らないんだ」

 アルフラスの正直な答えにアランは興味を失い、廃教会に残っているかもしれない手がかりを探している他の仲間たちの手伝いに向かうが、その前にサイゾウに指示だけを残しておく。

「サイゾウ、ガレスもこんな下級魔族に目的を明かすわけがないが、もしかしたらがあるかもしれない。丁寧に聞き出しておいてくれ」

 アミナもその場を離れ、後には声も出ないほどの痛みに発狂するアルフラスと答えられない質問を続けるサイゾウだけが残される。

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