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目を開けると真っ白な天井が目に飛び込んでくる。どうやらベッドに寝ていたようだ。
「マーウェス様ご気分はいかがですか」
耳慣れない声に左を向くとメイドと思わしき女性がこちらを見ていた。
「ええ、なんとか大丈夫ですよ」
ゆっくりとベッドから上体を起こすとあまりの部屋の広さに圧倒される。
「ここはいったい何の部屋なんですか」
「ここは医務室でございます。部屋がこんなに広いのは訓練で怪我をする兵士が大勢いるからです」
なるほど、ベッドからでも高級そうな棚のガラスから薬品や包帯が所狭しと並んでいるのが見て取れる。
「いちおう迎えの人間は呼んであります」
メイドのその言葉に思わず冷や汗を流す。頼む彼女だけはやめてくれと心の中で願うが、どうやら神はその願いを聞きいれてはくれなかったようだ。
ものすごい数の足音がこの医務室に迫ってくる。
「レイラ、どうしておまえなんだよ」
開いた扉の向こうには黒髪の絶世の美女が立っていた。
「あら、せっかく来てあげたのにずいぶんなご挨拶ね」
メイドがひとにらみすると扉の前にいた兵士たちはスゴスゴと退散していく。どうやらレイラの美貌に当てられてフラフラとついてきたようだ。
「おまえなあ、自分がどんな見た目してるかわかってるのか」
流れるような黒髪に整った目鼻立ち、男の欲望を駆り立てるようなプロポーションはさながら物語に登場する女神のようだ。
集まってた人混みの中にロニエルが混ざっていたのはきっと見間違いだろう。
「それで体調は大丈夫なの」
「うん、もう大丈夫だよ」
そう言って立ち上がり、部屋を出る。
「ただいま馬車を回して参りますので少々お待ちください」
「いや、それには及ばないよ。レイラはなにで来たんだ」
「空を飛んできたわ」
ならそれで帰ろうと返すとレイラは深い谷間に手を入れると金色の笛を取り出す。綺麗な音色が響くとたちまち空から黒い竜が降りてくる。ドシンと響く音に何事かと人が集まってくる。
「それじゃあ、明日からまた来ます」
そう言うと黒竜は大空へと舞い上がった。
「それで、何があったの」
レイラは体ごとこちらに向くと問いかけてきた。
「単に魔法を食らっただけだよ」
「ふーん」
ふーんと口では言っているが全然納得していないようだった。
「まあ、詳しい話は帰ったらするよ」




