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「待たせてしまって申し訳ないな、マーウェス君」
緻密な意匠を施した豪華な椅子に恰幅のいい男が腰掛けている。
「いえ、とんでもありません。王子様の家庭教師を務めさせていただけるというのは大変光栄でございます」
「はっはっは、そうだろうそうだろう。あいつは天才だからな、なんせ十七歳にして魔術師ランクが四桁に突入しているからな」
またはっはっはと笑う。しかし不意に目を細めるとこちらを値踏みするように見てくる。
「しっかりと頼むよ。私の大の友人からの推薦とはいえ息子のランクにも劣るような者を家庭教師として雇うのだ。妻や家臣も納得させられるような結果を出してくれ」
「はい、精一杯務めさせていただきます」
これが王様か。政治の手腕は中々という評価だがそれを帳消しにしてあまりある親バカっぷりだな。マーウェスは一人ごちた。
「そういえば第二王子や第三王子、姫様の家庭教師はよろしいのですか」
「よいよい、まだそんな年ではないしな」
なんともないように言っているがそれは嘘だとすぐわかった。魔法の才能というのは希有なものだ。自分の子供に大きな才能があるとわかれば親は財を惜しまず良い教育を子供の頃から与えようとする。
要するにあまり信用されてないんだなと思ったがまあそれも無理からぬことだと思った。逆に自分のことを推薦したあいつはこの王にどれだけ信頼されているのだろうか。
「失礼します。ロニエルです」
「おっ、ようやく来たようだな」
扉が開くと金髪の男が入ってくる。身長は180センチちょい、まあまあ鍛えているのかそれなりに筋肉がついている。肌は白いが顔はかなりのイケメンだ。一言で言うとモテそうなやつである。
「父上、私は家庭教師など認めた覚えはありませんよ」
ロニエルは入ってくるなりテーブルを叩くと大声でそう主張し、こちらをにらみつけてきた。
「まあまあ、落ち着け。私の信頼できる人物からの紹介だ。きっとおまえのためになると思うぞ」
「私には必要ありません、なによりこの男は私よりランクが低いそうではないですか。そんな者から学ぶことなど何一つありません」
「なるほど、ということは先生の実力がわかれば教えをうけると言うのだな」
「うけるに値すると思ったらですがね」
「ということだマーウェス君、息子と模擬戦をしてくれないか」
急に話題を振られたことに驚きつつも、平然と返す。
「え・・・・嫌ですけど」
「は?」
親子の声が重なった。
「依頼を受ける条件に、力を見せるというものはなかったはずですが」
「いや確かにそうだが」
「ふん、腰抜けが。どうせこの俺に勝つことなんてできないさ」
明らかに嘲りを含んだ言葉を投げかけられたが、なんともないような風に返す。
「仕方ありませんね、ですが死んでも知りませんよ」
青筋を浮かべたロニエルの顔が印象的だった。
三十分後、マーウェスは大きい闘技場に連れてこられていた。マーウェス、ロニエルのほかに王様や王女様そして家臣たちが集まっていた。その誰もがこちらを値踏みするようにジッと見つめていた。そんな中を颯爽と歩きロニエルが位置につく。
「私が魔法を放つから、それを防いでみろ。それくらいできなければ私を教える資格などない」
「わかりました」
ロニエルはフンと鼻を鳴らすと構える。
審判らしき人物が開始の合図をするとロニエルの手から目にもとまらぬ速度の火炎球が飛来する。着弾点からすごい火のてが上がりマーウェルを包み込む。
「なんと鋭い一撃か」
「さすが天才の名を欲しいままにするお方ですな」
観客のあちこちからロニエルを絶賛する声が聞こえる。
煙が晴れるとマーウェルの姿が露わになる。マーウェルは地面に倒れ伏していた。
「まさかこの程度だとは。とんだ拍子抜けだな、よくもその程度の実力で私を教えようなどと思ったな」
ロニエルは振り返りたち去ろうとした。しかし観客のざわめきがどんどん大きくなっていくのを聞いて振り返った。
「おい、なんかおかしくないか」
「さっきからピクリとも動かないぞ」
審判が急いでマーウェスに駆け寄り、脈をとる。顔面を蒼白にさせると呟いた。
「し、死んでる」




