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第六話 アンリ先生の特別授業③

次回で訓練編終わりとなります。

今回短くなったのには色々と諸事情がありまして……。

次回は今回短くなった分、少し多めに量をとろうと思います。


本当に申し訳ありません。

 訓練開始から十五日が過ぎた。


《魔力コントロール》の練習も半ばへ突入して、絢斗もそれなりに実力が向上している。


 《魔力コントロール》に必要なものは、安定した精神状態、緻密な魔力制御、この二つだ。まず一日目から行われたのは、安定した精神状態を築くための訓練。内容は《召喚魔法サモンマジック》によって召喚された狼から逃げ回りつつ、魔力を球体状に留める訓練。《召喚魔法サモンマジック》は《隷属レイド》したモンスターを異界から召喚する魔法だ。


因みにだが、召喚師が使う召喚術とは別種のものである。

球体状に留める訓練は、緻密な魔力制御の訓練にもなるので、一石二鳥だ。


初日は狼にズタボロにされかけた絢斗だったが、今は中々落ち着いてきた。

攻撃を躱し、いなし、避ける。その間に心を乱さないよう細心の注意を払いながら。


「(……ってか二匹に増えたんだよな。マジで困るんだが)」


戯れついてくる感覚に近いのだろうが、狼に飛びつかれてはひとたまりもない。

元々好戦的ではない種類の狼なのだそうだが、襲いかかってくればそんなもの関係ない。


「っどわぁ!?」


ゆっくり後退していた絢斗が、木に背中をぶつけて奇っ怪な悲鳴を漏らす。

右手に出来上がっていた球体状の魔力が途切れて消えた。


「(くっそ!)」


この《狼から逃げ回って魔力コントロール!》訓練は、六時間行われる。

その後二時間半のランニング、五十回五セットの筋力トレーニングが用意されているのだ。


問題は魔力の消費は、精神力・体力を大幅に使うことにある。

六時間にも及ぶトレーニングで、体力をどれだけ使わず終えることが出来るか。

勝負はその一点に掛かっているのだ。


「(そういう意味じゃ、球体を精製した後はとにかく乱れを減らさないと。初日みたいに六時間のトレーニングで精魂尽きてりゃ練習の成果が実ってねえ証拠だ。大丈夫。二日目からは調整も出来てるから安心しろ。落ち着け、まずは……)」


後三時間のトレーニングを終える!!


ただそれだけの為に、狼二匹に追われながらトレーニングを続ける。

念の為言っておくが、狼はかなり獰猛な生き物である。

アンリの支配下にあるとはいっても、アンリが彼らを操作しているわけではない。


つまり、彼らが絢斗に襲いかかるのは自然の摂理であり、逆らえない真実だ。

簡潔に言おう。気を抜けばズタズタにされて肉塊になります。


「……鬼畜魔王めえええええ!」


キャンキャンと爪をギラつかせながら、狼が絢斗を追う。







◆      ◆      ◆







 「……やっと一日が終わったぜ」


無事ドキドキハラハラの狼鬼ごっこが終了、その後のトレーニングも難なくクリア。

五体満足で食卓にありつけた事に深く感謝しつつ、食べ慣れたメニューを事務的に摂取する。


「経過はどう?」

「まぁまぁだな。悪くねえと思う。ただ、やっぱ持続時間に難有りだな」

「ネックはそこよね。まぁ、無理して持続させて倒れちゃ意味ないんだし、ちゃんと限度を推し量りながら何回か練習しなさい。使い切ればいいって話じゃないんだからね」

「わーってるよ」


ぐったりと地面に倒れこむ絢斗。

その様子を見て、多少なり心配しているのか、頬を赤らめながらアンリが絢斗の頭を撫でた。


「何ッ!?」

「えっ……べ、別に深い意味なんかないわよ! け、けど、その…ちゃ、ちゃんとやってるし、その、ご褒美くらいあげないと……割に合わない、でしょ?」

「俺は犬か!?」


てか主従関係逆転してんだろうが!?


疲れた身体を癒すどころか、徐々にツッコミスキルに磨きが掛かってきている絢斗であった。



それからも練習は続いた。


 《魔力コントロール》さえ出来てしまえば、後は自分の持つ属性に合わせて魔法を染め上げるように属性化させていけばいい。十六日目から開始されたのは《四元素魔法エレメンタル》としての実践的な適応力、主に属性を判断する試験だ。


絢斗の場合は風属性と雷属性の二つ、まぁ及第点だろう。


月日はどんどん過ぎて行き、気づけば二十日目を迎えていた。







◆      ◆      ◆







「うがぁぁぁ!」

「うるっさいわね! 黙って風起こしなさいよ!」


二十日目を迎えて、アンリとの連携魔法の訓練を行っていた。


 魔法とは単純計算で属性二つが掛け合わされば二乗。三つなら三乗、四つなら四乗、と累乗していくタイプのものだ。故に、連携で魔法を放つ事で、消費魔力を抑えつつ、最大級の魔法をぶつける事で威力は単純に二倍、もっと計算をしていくと二乗×二×一・三五なのだが、《累積加速度》や《過剰魔力》の計算値を省けば、二倍となる(属性が二つで二乗なので、二倍)。


「つったってよ! 熱いんだよ! んだよこれ、火災旋風!?」


絢斗の言葉は中々的を射ている。

実際今起こそうとしているのは火災旋風に近い代物だ。


 円柱状に精製した炎を、乱気流で回転させながら上方へ押しやる。すると、魔力の余波が風によって流され、結果火炎が飛び散る。うまく使えば火炎放射器も作れるのだが、今現在やっているのはあくまで試験用のもので、実践用ではない。


爆炎が風によってうねりにうねって、まるで意思があるかのように動く。

そしてその動きが絢斗側に寄る度に熱さが絢斗を襲う。


「あっちぃ!」

「だからうるさいわよ!」

「いやいやいや!! お前は水の障壁みてえなので守ってるけど、俺ねえからな!?」

「肌が焼けちゃうから仕方ないでしょ!?」

「俺の肌は気にしてくれないの!?」

「アンタ男でしょうが!」

「焼けるのに男も女もあるかぁ!!」


がぁ!! と怒り任せに風の出力を強める。

すると、爆発に似た火炎が空間に放たれて、アンリは即座に距離をとった。

しかし。


「やっべえ!!!」

「あんのバカ…!」


降り掛かる火の粉、その数は数百を軽く超える。

それも威力はとびきり高い。例え破片である火の粉でも、全て喰らえば致命傷だ。

アンリは水属性の魔法を唱えようとしたが、結果それは無意味だった。


「お……ラァァァ!!」


右手で空間を薙ぐようにして振るう絢斗。

暴風がそこに吹き荒れ、燃え盛る事なく炎が空中で消火された。


「…あっぶねぇ」

「(…咄嗟に右手で暴風を生み出した…。たった十日間のコントロールトレーニングなのに、殆ど並の魔導師と変わらない域に達してる…?)」

「なぁ、あぶねえから止めようぜ、これ。マジでそろそろ俺死ぬ」

「…わ、分かったわ。それじゃ、今から筋トレとランニング」

「へいへい…」


絢斗はそそくさとその場から立ち去った。

泉の畔で取り残されたアンリは思索を巡らせた。


「(確かに過酷な状況下での訓練ではあったけど、ここまで進歩するものなの? 実際体力も筋力も想定以上に伸びが早い。実践訓練は省いてもいいかもしれないわね…)」


とはいえ、未熟なものは未熟だ。

あくまでぽっと出の人間が魔王式訓練術を二十日やっただけにしては凄い、という意味合い。

勿論アンリの足元にも及ばない、質素な力ではあるが。


「(……ふぅん。まぁいいわよ。パートナーが強くて困る事はないわ)」


アンリは不敵な笑みを浮かべて、いつも通りの場所へと移行した。



それから六時間が経過し、魔王式の訓練メニューを今日も卒なくこなした絢斗。

相変わらずの野菜と魚だけの生活。そろそろ動物性タンパク質を取らないとやばい。

と思っていたのだが、実は訓練開始から十日目、その日から生肉の使用が解禁された。


何でも、基礎体力作り中に肉を過剰に摂取すると、無駄な筋肉になるのだそうだ。

必要なのは強靭で頑丈な筋肉、ボディービルダーのようなムキムキ加減はいらないらしい。


「後十日間だな」

「その日程だが多少変更させてもらうわ」

「…ん? それは早まるって意味か? 遅くなるって意味か?」

「早まるって意味よ。絢斗の育成状況はアタシの想像より遥かに良いわ」


褒められてるのか、それともあくまで過程報告なのか。

絢斗はアンリから素直に褒められた事がないので、褒め言葉に近いものは片っ端から疑う。

どうやら今回のそれも後者のようだ。


「まぁ、あくまでアタシの予想よりは良いってだけで、相対的に見たら平凡。だから、明日の試験に合格することが出来たら、晴れて王国行き確定。ただ、もし失敗すれば何度でもこの地で足掻く事になるわ。ちょっと本来よりも早めに時期が来たから、結果として早く終わりそうだけど」

「その内容ってのはなんだ。試験の」

「この森の長、Cランク危険種《メルドトロル》の討伐よ」


Cランク危険種、とは《武装兵士十名で倒せるレベル》を示す。

その上にB、A、と続き、最上級がSランクとされているのだ。

序列四番目、ぶっつけ本番にしては難易度が跳ね上がりすぎている。


「Cランクだと…!」

「一日目でクリア出来るとは思ってないわ。あくまで何日間も掛けて倒す、それを目標にして頑張りなさいよね。死にそうになったら兎に角逃げなさい、アタシの所まで来れば、そいつは近寄って来ない。それにアタシには《回復魔法》も使える。四肢がもがれでもしなければ、治せるわ」

「お前ホントアレだよな。多才能っていうの? 無駄にスキル高いよな」

「無駄ってなによ! 回復してあげないわよ!?」

「申し訳御座いません」


歩くセーフティエリアことアンリに見放されてはこの森で死ぬ以外に残された道はない。

絢斗は手を擦り足を擦りして、何とかアンリのご機嫌を取る。

傍から見れば我が儘なお嬢様と引っ込み思案な執事の日常風景を切り取ったようである。


「……アタシだってこんな陰気くさいとこにいつまでも居たくないんだから」

「ま、どうせ王国まで此処からじゃ何日も掛かるんだろ?」

「その点は任せておいて。アタシの召喚獣でひとっ飛びよ」

「…相変わらずチートだなぁ」


ちーと? と可愛らしく首を傾げるアンリに、何でもないと手を振る絢斗。


残る期間は十日間。

そしてこれから繰り広げられるのは多分壮絶な死闘。

本来訓練に費やす予定だった十日間を切り上げているのだ。


「(期待に応えてやらなきゃな…!)」


こうして、絢斗の想像を絶するような戦いの火蓋が切って落とされたのだった。


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