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第二話 衝突、和解、共有

 目の前で唸りを上げているのは、絢斗の身長を優に超える巨大な狼だ。


白銀の整った毛並み、ギラリと覗く鋭い牙、獲物を射抜くような鋭い眼差し。

そして放たれる無造作にして、無差別で純粋な殺気。


「あ、あぁ……」


よく漫画では自分より圧倒的に強い敵に腰を抜かしてしまうシーンがあるだろう。

絢斗は今まさにその状態を体現している。悲鳴すら上げることが出来ない。

まるで五感全てを金縛りにされたような、そんな感覚。


それは、人間としての死を意味しているような━━


しかしその時。


「ほんっと、バカじゃないの!」


絢斗を罵倒しながらも、狼に向けて一撃を放ったのは、アンリ。

一糸纏わぬ姿のまま、青白く燃える剣を片手に絢斗の前に立ちはだかった。

本来ならラッキースケベ、と都合良く考える絢斗だが、今はその余裕などあるはずもない。


「あ、アンリ…」

「水浴びくらい、ゆっくりやらせなさいよッ!」


真横に揺らめく刀身を薙いだ。

狼はそれを触れる寸前で回避、まさに紙一重といった神業だ。

だが、しかし。


「甘いわよ、犬ッコロ!」


刀身が大きく揺らめき、一瞬にしてリーチが伸びきった。

それは紙一重で回避した狼を軽々と両断できるほどに…。


ザシュ! 


まるで鋼鉄で切り裂いたかのような斬撃音が響く。


「ガァ……ルルゥ…」


狼の胴体が真っ二つにされ、鮮血が花火のように打ち上がる。

血の雨が降り注ぐ中、気怠げに青白い炎を消すと、こっちへアンリはやってきた。


「……」

「……」

「この……」

「…?」

「ド阿呆ォォォォォォ!!」


理不尽な! と叫ぶ間もなく、鋭く放たれた右ストレートで絢斗は倒れた。

そもそも空腹で倒れそうだった絢斗だ、殴られた衝撃で一発KOである。

残されたアンリは、気絶した絢斗をズルズルと引っ張って泉の近くに寄せた。


「…また一から洗い直しじゃない。バカ」


返る言葉はない。アンリはデコピンで絢斗の額を小突いた。

結局、絢斗を引き摺りながら洞窟へ帰還。

どっと疲れが出たのか、アンリも即座に就寝した。







◆      ◆      ◆







 絢斗が目を覚ますと、澄んだ空気が溢れる、朝の時間だった。


頬に鋭い痛みが走り、思わずウッと呻いてしまう。

それと同時に、昨日起こった事を思い出して、怖気が走るのを感じた。


「(昨日、アンリが居なかったら…)」


即座にバラバラ、肉塊どころか骨すら残らなかった可能性さえある。

からっと晴れて気候は晴天、しかし絢斗の心はモヤモヤと黒い感情が蠢いている。


「(…ダメだ。このままじゃマズイ。アンリに頼りっきりじゃいけないんだ)」


アンリは魔王の娘、正統な王位継承者。

実力も折り紙つきで、血の滲むような努力と天性の才能でその地位を獲得したに違いない。

しかし、絢斗は違う。


アンリの努力に胡座をかいて、甘い蜜だけ吸おうとしているだけだ。


「……アンリが帰ってきたら、さっそく訓練を開始してもらおう」

「その言葉、本気で言ってるのよね?」

「!」


背後から掛かってきた声に驚いて振り返ると、ベチャ、と濡れた感触が頬に触った。

思わず飛び退くと、五・六匹の魚を手に持っているアンリが居た。


「…お腹、空いたでしょ。アタシは魔族だから、食べ物なんて一ヶ月、もしくは二ヶ月に一回摂取すれば問題ないけど。アンタ、人間なんだから、基礎代謝が高いのよね」

「ま、まぁな」

「少し勘違いしてたわ。アタシはまだまだ未熟ね」


アンリは昨日絢斗が集めた薪を一箇所に集めて、お得意の青白い炎で着火した。

串に刺した魚を火で炙る。何処かの部族のような野性味溢れるスタイルだ。

十分に焼けた魚を頬張りつつ、絢斗は質問をした。


「未熟、ってのはどういうことだ」

「別に。ただ、アタシはアンタと主従関係にあって、アタシはアンタの下僕なのよ。アタシは主人にあたるアンタを補佐するのが務め、アンタはアタシの力を最大限引き出すのが役目。ギブアンドテイク、アンタとアタシの関係はそれに近いと言えるわ」

「確かにそうだな」

「けど、パワーバランスは著しく不釣り合いなのよ。アタシの簡単は、アンタにとって地獄に等しい。実力も能力、種族も性格も、果ては性別さえ違うアタシ達、理解を深める必要があるわ。そしてそれに気づくのが、アンタが死にかけた時だなんて、ほんとに未熟よ」


狼を一刀両断した時、絢斗はアンリの存在を頼もしく思うと同時に、恐ろしく感じた。


 それは目の前の動物を躊躇いなく殺したからではない。殺気を放たれ、殺されかけて、尚相手に優しく出来る人間は、多分人間じゃない。当然絢斗も、恐怖や驚愕に似た感情が無ければ、即座に応戦していただろうし、アンリ程の能力があれば、その場で殺していただろう。


アンリの存在は、途轍もなく危うい。諸刃の剣だ。

もし、アンリが怪我をしていたら。もし、アンリと絢斗が《契約者コントラクター》の関係じゃなければ。

そう考えれば、アンリの存在は頼もしいが故に、怖い。


失ってしまうのが、離れていってしまうのが、怖い。


「…俺は、甘かったんだな」

「今更なによ」

「気付かなかった。其処ら辺の森を歩くだけで命の危険に晒されて、お前程になれば、もっと手強くて恐ろしい敵と対峙してきたんだろう。俺は、そんなの考えてなかった。いきなりやって来て、人の都合も考えずに自分の理想を押し付けるだけの、我が儘なヤツだと思ってた」


これは絢斗の素直な気持ちだ。

死の危険、それがこんなにも身近にある。そんな状態、今まであるわけもない。

絢斗は一般人だ、いや、だった。今は違うが、それでも過去は変わらない。


だが、それも今日で御終い。


「違ったんだな。アンリ、お前は俺を助ける為にああ言ったんだ。お前が俺を見込んで言ったのか、同情や配慮で言ったのか、真偽は掴めないけど。俺は、その言葉に甘えることにする」

「つまり、アタシの訓練を受けるってことよね?」

「勿論だ。満喫ライフも楽じゃねえって事は、身に染みてわかったさ」

「……アタシは、アンタの可能性を信じてる」


ボソリ、と呟かれた言葉は、ハキハキとした物言いのアンリにしては珍しく肯定的だった。

だからこそ、アンリが心の底からその言葉を絢斗に向けて言っているのだと確信する。


「俺は信じちゃいないけどな。所詮俺は平凡な人間だ。とはいえ、魔王様にそんな事を言われてしまったら、流石に信じるしかないだろうな」

「アタシの訓練はハードよ? ものの数時間で音を上げる可能性だってあるわ」

「音を上げてもやるさ。死にかけてもやるさ。もう嫌だと叫んでもやってやる」


もう、あちらの世界には戻れないかも知れない。

遺品のように残してきた、数々のお宝ゲーム達ともおさらばする時なのかも知れない。

だとしたら、今やるべき事は過去を憂い、嘆く事じゃない。


俺は、神崎絢斗は、もうあの神崎絢斗じゃいられないんだ。


怠惰で、平凡で、何事も消極的で、努力を嫌い、才能を羨む。

絢斗はもうその立場に甘んじてはいられない。求めるものは全て自分の手で手に入れなければ。


「と、言ってもだ」

「…? なによ」

「お互いの情報が不足してるのは、その通りだな。混乱してたのはアンリだけじゃなく俺もだ。となれば必然的に、お互いの情報を交換すべきだろ」

「そう言って訓練から逃れようって気ね?」

「そう思いたいなら思え。吹っ切れた人間様ってのはそんな事さえ考えねえよ」


アンリは不承不承といった感じで絢斗の言葉を鵜呑みにした。

そもそも絢斗も絢斗で訓練から逃れる気はない。

利害の一致、ギブアンドテイク、そんな関係だからこそ、彼と彼女は信じ合える。


「それなら、アタシから話すわ」


そう言って、アンリは語り始めた。


それは、三年前の出来事━━━







◆      ◆      ◆







◆アンリ視点◆


これは、もう三年も前の出来事だったわ。


 当時、アタシの父上である魔王アンラは、その異常なまでの《保有魔力マジックスペース》と類希なる《魔力》のコントロール能力、そして眷属を従えるカリスマを持ち合わせていたの。

 父上は、元々は人間だったけれど、悪魔と契約を交わして半分人間半分魔族の《魔族人》となった。異常な《保有魔力マジックスペース》はその恩恵と言われているわ。


と言っても、魔王アンラの統治する世界はたったの六年で終焉を迎えた。

いや、迎えさせられたと言ったほうが的確且つ明確かしらね。


 当時父上の後継者は十名居たわ。アタシを含めてね。皆一様に一癖も二癖もあるような連中で、アンラの血を引くアタシは正統な王位継承者、実際あの連中の中じゃ抜群に《魔力センス》も《魔力コントロール》も優れていたと言えるわ。


 だけれど、父上はアタシの王位継承を単純には認めなかった。勿論、アタシの王位継承の可能性を多大に信じていたのは当然の事だけれど、それでも父上の血を継いでいるから、ただそれだけで優遇的にアタシの王位継承を認める事は、絶対しなかった。


そして、それが全ての初まりにして終わり。

大魔王アンラの世界征服の夢は潰えて、聖帝による人間第一主義が深く根ざす世界に変貌したの。


 今から三年前。事件は起きた。父上の眷属が突如暴動を起こして、支配下にあった国々を勝手に攻め落とし始め、挙句父上に抵抗を始めたの。眷属を支配していた《血文字ルーン》は全部消えていて、父上は自分の力でその眷属達を裁くことになったのよ。


けど、アタシは考えていた。

血文字ルーン》を打ち消すには、それ以上の膨大な《魔力圧》が必要な事をね。

《魔力圧》は、謂わば魔力によって相手を縛る為の圧力。プレッシャーってヤツよ。


父上の《魔力圧》は途轍もなく強かった。けど、父上はその行使を控えていた。

強引に、力任せに眷属にしても、それは独裁と変わらない。そう言っていたわ。


だから、最低限の《魔力圧》だけで自由な発言と意思を持たせる事に重点を置いていたのよ。


つまり、裏を返せば、その必要最低限な《魔力圧》を上書きすれば、眷属は眷属じゃなくなる。

そして、真っ先に思いついたのはアタシを除いた九人の王位継承者達。


 アタシの才能やセンスを羨んでいたのか、それとも単純にアンラの血統を恨んでいたのか。アタシには到底理解できないけれど、父上に反逆する理由としては幾分と強い。

 父上の七十二体にも及ぶ強力な眷属達を解き放ち、統治していた国々を攻め落とさせ、精神肉体共に強大なダメージを与え、その座を奪い取る。アイツらは、アタシが王位継承をするものだと勘違いしていたのよ。事実は違う、父上は、そんなアイツらにさえ可能性を与えていたのに。


魔族と人間、その二つが共存していく世界を望んだ父上の夢は潰えた。

統治から三年、崩壊まで三年。三年の間、父上は七十二の眷属と死闘を繰り広げた。

結果、父上は全員残らず封印し、自分さえも封印した。あの祭壇は、父上の墓石だったわ。


 そして、同時にアタシもアイツらから排除された。父上とアタシ達王位継承者が住んでいた《シュテルプリヒ城》は、アイツらの占拠地になってしまったのよ。本来なら座標ごと切り抜いて海のど真ん中に沈めてやりたいけど、今のアタシじゃ無理。そんな《保有魔力マジックスペース》はないし、アタシの今の実力でどうこう出来る程、単純な《魔力コントロール》では不可能なの。


それに、《異裂魔法》は多用も乱用も出来ない。

父上でさえ限られた時間の中でしか使えなかった。

アタシの使ったのは簡易版、座標を知らずに召喚出来たのは父上だけ。


アンタにあげたそれだって、元々は高価な本だったんだから。


…まぁ、今更そんな事どうでもいいわね。


本題を告げれば、アタシはアイツらをこの手で殺す。

そして、父上が成し得なかった夢を実現して、この世界を取り戻す。


ただ、それだけの話━━







◆      ◆      ◆







 語り終えたアンリの顔は、意外にも晴れ晴れとしたものとなっていた。


憑き物が落ちたような、肩の荷が下りたような、そんな感じだ。

対して絢斗は、その話を聞いて負荷が増えたような感覚に襲われた。

目の前の幼い少女は、其の身に使命と野望を抱いている。


絢斗には無かったもの。いや、絢斗は抱こうと思わなかった決意。


「(…強さに執着するのはそういう意味か)」

「どうしたのよ。アンタの話はしないわけ?」

「いや、話したいのは山々なんだが……何せ俺はここの人間じゃないんだ」


アンリの瞳がスッと細められた。

それは真偽を見定める目付き、付き合いの浅い絢斗でもそれはわかった。

嘘をついているわけではない絢斗は、真正面からアンリの瞳を見つめ返す。


数秒が過ぎて。


「…ふーん、あっそ」

「案外驚かないんだな」

「アタシやアイツら、父上なんかは《異次元》って曖昧で不確定な事象を自分なりの解釈で利用していた事もあるから、アンタが《異世界》から来たってなんら不思議じゃないわ」

「(ここが俺にとっちゃ異世界なんだがな)」

「で、話す気はないの?」

「…大した事じゃないからな。けど、話すには話すよ」


そう言って絢斗は話し始めた。


 自分が上辺だけの関係で世界を渡ってきたこと。両親から「使えない」「要らない」と散々言われ続けて一人暮らしで生活を送ってきたこと。挙句ゲームにはまって現実を直視しようとせず、いつまでもダラダラと逃避行を続けてきたこと。


思い返せば、何もかもダメダメな人生だった。絢斗は苦笑した。

アンリは要所要所で若干目を細めて、痛々しそうな表情を浮かべていた。

だが、すべての話をし終えると、ハッキリこう告げた。


「ダメね」

「分かってるよそんなことは」

「その自分は分かってるよ、これから変わるんだよ、みたいな顔がダメ」

「顔がダメ!? 久々に俺の顔面が否定されたんだが!?」

「人間も魔族も、過去を断ち切って新しい自分になる、なんて出来ないわよ。そんなの見せかけ。アタシみたいに、過去に囚われ続けているヤツだっている。アンタのそれは、結局逃避行よ」


キッパリと絢斗の意識改革は切り捨てられてしまい、絢斗はぽかんとしていた。

まさかこんなにもあっさりと自分の考えが根本から否定されてしまうとは。

絢斗は二の句も告げず、ただぼけっとその場に立ち尽くしてしまう。


アンリは、静かに口を開いた。


「…アンタのそれは意識の水準を変えただけ。それじゃ逃げと変わらないのよ。アンタがすべき事は、明確且つ圧倒的な目標を定める事。理想とか、幻想とか、願いとか、アンタにはそれが欠けてる。本来人間が持つべき欲求が足りない。そんなの、カッコよくもなんともないわ」

「……」

「世界征服でも、世界一でも、アンタの居た異世界に帰るでも…なんでもいいわ。目標がないと始まらないわよ。アタシを真似しろとは言わないけど、けど……」

「おいおい、忘れてもらったら困る」


やや食い気味で、絢斗は微苦笑を浮かべた。

絢斗はもう過去居た世界に興味はない。どうせ戻っても怠惰な日常を送るだけだ。

だとしたら、この世界で何を成すかが問題となる。


アンリの言う通り、世界征服も良いかもしれない。世界一だって目指せるかもしれない。

けど、違う。絢斗が望むのは、もっと平凡なものだ。平凡だからこそ、難しい。


「俺が望んでるのは異世界を満喫する人生だ。どうせあっちの世界に戻れる確証はねえし、戻る気もないからな。だとしたら、俺があっちで出来なかったこと、そして生涯出来るはずもなかったことを、こっちの世界で実現してやる。一から百まで全部な」

「………っぷふ」


アンリが真顔で宣言した絢斗の真面目な顔を見て、小さく吹き出した。

その後大声で笑い始めたアンリ、居心地が悪くなった絢斗は顔を真っ赤にして叫ぶ。


「んだよ! 悪いか!?」

「アハハハハ! ハァ、ハァ……悪くなんか、ないけど…。けど……アハハ!! 異世界満喫って……満喫する為に人生投げ出すって…ほんと、バッカみたい!」

「おい、悪く言ってるじゃねえかよ、モロに!」


何なんだコイツは、人様の目標や意気込みを片っ端からボキボキ折っていきやがって。

絢斗はムスッとした顔で笑い転げるアンリが元のツンツンした状態に戻るのを待った。

アンリにおけるこれが「デレ」なのだろう。人をバカにする事がデレとは、これ如何に。


数分間大いに笑い続けたアンリは、呼吸を整えて、こう言った。


「だから言ったでしょ。悪くないって。まぁ、及第点ってヤツかしら。アタシのパートナーなんだから目標は高く設定してもらわないと困るけど、アンタ程度の貧相な思考回路じゃコレが限界よね。さすがはド凡人、ほんっとに軟弱な神経してるわよ」

「なぁ、何で俺そこまで言われなきゃいけないの? 俺悪いことした?」

「別にー。ま、アンタの目標も分かって、アタシの野望も知られた。お互いに切っても切れない関係になっちゃったってことよね」


傍から聞けば何やら不穏なワードが混じっているが、アンリは笑っていた。

つられて絢斗も笑ってしまう。何だか、本当に吹っ切れてしまった。


アンリは艶やかな黄金の髪を綺麗に翻しながら、絢斗に指をさす。


「ここで一ヶ月訓練してもらうわ。その後、国立の召喚師育成機関に挑戦よ。アンタは今十七歳なんでしょ? だったら二次試験になるから、相手は《中位グズ》な《召臨聖霊ゼーレ》よ。アタシを使いこなしなさい、そしてアンタ自身も強くなるの」

「話が飛びまくってんぞ。なんだ、召喚師育成機関って」

「国立エントヴィッケルン魔導学園。召喚師学科以外にも、魔導師学科や騎士学科も存在する、レムリア大陸一番の巨大な学園よ。十六歳から十九歳までの三年間をそこで学ぶことになるわ。アンタの場合は二年間だけどね」


一応補足すると、召喚師以外の職業選択という可能性は多くある。


 例えば魔導師。魔導師は聖帝のお膝元である宮廷に入って宮廷魔導師となれば、そんじゃそこらの召喚師より確実に稼ぎは良い。同様に宮廷騎士団に配属された騎士も似たりよったりだ。他にも戦闘技術を磨く必要性のある職業は多くある。


エントヴィッケルンでは魔導師・騎士・召喚師学科しか存在しないだけだ。

四大陸中最も小さい大陸という事もあり、一極集中で育成を進めるのが手っ取り早い。

三つも学科がある、と考えるべきなのだ。


「ふぅん」

「中々エキセントリックな日々を送ることになりそうだけど、心配無用よ。アタシがまずみっちりと一ヶ月間鍛え抜いてあげるから。そしたら、大抵の事で驚かなくなるわ」

「それは感情の没落という意味じゃないよね? ねぇ?」

「……さ、目標も決まったわ。一ヶ月後、エントヴィッケルン入学よ」

「ちょ、答えろよ! てか学費はどーすんだよ! 金ねえぞ!」

「試験でSランク判定を出せば学費は全額負担してもらえるわ。S判定出せなきゃ終わりね」


そんなばかな。絢斗は思わずその場に跪いた。

名前からして荘厳な感じ、既に負け戦ムードが絢斗の周辺に漂う。

しかし、アンリは不敵な笑みを浮かべると、こう言った。


「Sランク判定なんて余裕よ。一ヶ月しっかり乗り越えれば、SSS判定くらい取れるわ」

「それ人間の領域超えてんじゃねえの!?」


絢斗は絶叫に似たシャウトで応戦した。

しかし、その表情に真の意味での恐怖や戦慄は感じられなかった。


「(…まぁ、やるだけやってやるさ!)」



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