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プロローグ 召喚師誕生?

 召喚師。


契約を結んだ精霊・悪魔・天使、そういった霊体としての事象を顕現させる能力者。

精霊・悪魔・天使、といった霊体の枠組みを《召臨聖霊ゼーレ》と呼ぶ。

召喚師の多くはサマナーという呼称が一般的で、召喚師と呼ぶものは少ない。


 召喚師は《契約者コントラクター》を呼び出す事で一人前と呼ばれる。初歩の初歩は魔法陣を介して、祝詞や呪文といった《言霊》で霊体を現在の時間軸に固定、その後《言霊》を用いて《契約者コントラクター》の行動を抑制し、唯一の戦力として手にすることが可能だ。


一度現在の時間軸に固定すると、今度は魔法陣がなくても召喚出来る。

あくまでも、一度目の召喚は《現在時間に過去・未来の霊体を固定させる》という意味合いが強い。


 また、《契約者コントラクター》の《真名エヒト》を口にし、魔法陣を展開せずに直接《召臨聖霊ゼーレ》を呼び出す事も可能だ。しかし、これには《真名エヒト》を知っている事と、人外なまでの強烈な魔力量が無ければ実行不可能である。


魔力量、即ちそれは《召臨聖霊ゼーレ》との契約量によって決まる。

つまり、何体《召臨聖霊ゼーレ》を持っているか、という意味だ。


 精霊にせよ悪魔・天使にせよ、カーストが存在する。《下位ワースト》《中位ミドル》《上位トップ》、そして世界に数体と居ないとされる《帝位エンペラー》、合計四種類のカーストによって大まかに区分けされている。ただ、《帝位エンペラー》クラスの霊体は中々居ない為、基本は三種類で統括され、名だたる召喚師達も大抵《上位トップ》持ちだ。


前述した序列によって、《魔力》の消費量は大きく違ってくる。

特に《下位ワースト》と《上位トップ》を比肩すれば、霊体五・六体分は差がある。


故に、基本霊体は三体。もしくは四体持つことがセオリーだ。

勿論、例外は多々あるが、それはそれ、というやつである。


次に、召喚師が主に使用する武器・兵装についてだ。


 召喚師にコレといって使用する武器、及び使用しなければいけない誓約を持つ武器はない。取捨選択の幅が広い、というべきか。とは言え、無論そこらの木の棒では無理で、《魔導印アルカナム》と呼ばれる刻印がなされた装備でなければ、《魔力》の伝達速度や累積加速度に支障が出る。


 累積加速度とは、《魔力の使用による余波が及ぼす霊体への影響》の事を指す。例えば、10で召喚出来る霊体に対して、11の《魔力》で召喚を行った場合、余った1の《魔力》を《魔力余波》と呼ぶ。この過剰な《魔力》は累乗計算となり、《召臨聖霊ゼーレ》の能力を向上させるのだ。


つまり、武器がまともでなければ、《過剰魔力オーバーマジック》が累乗されない。

加えて、召喚術式の展開から召喚までの伝達速度が遅くなる。


結果、戦闘における敗北の色が濃厚となる。


召喚師の義務は《召臨聖霊ゼーレ》を自身の力で管理する事。

それ以上でもそれ以下でもなく、それ以外に存在価値や存在理由はないのだ。


━━━と、目の前のゴスロリ幼女は語る。


「つまり、アンタの勝手な介入が、アタシの計画をズタボロにしたのよ!」

「……そうか。それじゃ、一つ質問していいか」


幼女に説教される構図で、一人の男が正座したまま右手を上げた。

男の名前は神崎絢斗かんざきけんと、純和風な日本人、高校二年生である。

そして目の前の幼女は、アンリ・マンユレッド・クローゼス、魔王の娘だ。


絢斗は右手を垂直に上げたまま、こう問いかけた。


「………此処、何処っすか」







◆      ◆      ◆







 時間を少し遡る。


絢斗が《あちら側》に行く前のお話だ。


 神崎絢斗は高校二年生、どちらかと言うとインドア派で奥手な男子高校生である。年齢イコール彼女居ない歴で、異性と話す事に若干の抵抗を感じる思春期特有の症状を遺憾無く悪化させていた。

 絢斗は大のゲーマーで、ジャンル問わずにその順応能力は高い。同じ趣味の友人や、似通った性格の友人に恵まれる。ぼっちではないが、あまり大人数で居ることを好まない。


何とも気紛れで、尚且つ特筆して凄いことが何かインパクトに欠ける、そんな男なのだ。


今日、6月6日は、絢斗が待ち望んでいた恋愛シュミレーションゲームの続編の発売日。

そんなわけで、忙しくも学校が終わると同時に近くのゲームショップに立ち寄っていた。


如何にもヲタク、といった人々の間をすり抜け、ラストの一個になったそれを掴む。


「ゲット……!」


即座にレジに並ぶ。早く家に帰ってプレイしたいからだ。

軽い包装に包まれたそれのパッケージには、追加キャラとして新たな二人の女子が書かれている。

一人はゴスロリ幼女、もう一人は清楚可憐な白純な乙女だ。


「(これは……名作な予感ッ!)」


謎の名作探知レーダーに見事引っ掛かったそれを見て、満足気に抱きしめた。

順番はスルスルと進んでいき、ものの二・三分で絢斗の順番となった。


お金を払って購入。店員の引き攣った笑みは見慣れたものであった。


「さっそくやろう…! 今回はエピソード追加されてるから、既存の攻略済みキャラでも十分楽しめるという製作者の配慮が感じられる、素晴らしい。オラ、ワクワクすっぞ」


某龍玉の主人公のようなセリフを口にしつつ、絢斗は早足で家に帰宅。

勉強道具の入ったカバンを放り投げ、自室にペネトレイト。


机の上で折り畳まれた、最新型のノートパソコンを開いた。


起動するまでの間に、包装を剥がす。

パッケージを眺めつつ、カパリ、とケースを開いた。

ディスクを本体に差し込む。ダウンロードが開始される。


その間に取扱説明書を読み込んで、初回攻略キャラを決めるのが絢斗のやり口だ。


「(……やっぱ新キャラだよな。えーっと、《清廉潔白な帰国子女》と《傲岸不遜なゴスロリ少女》……ってどっちもやりてええ! いや、待て、ここは難易度が高い方を残すべきだ。お楽しみは後に残すのが俺のポリシー、モットー、ルール…)」


無駄なシンキングタイムを経て、絢斗は《傲岸不遜なゴスロリ少女》を選んだ。

攻略しやすそう、という単純明快な考えの行き着く先が彼女だった、ただそれだけである。


「名前は……うわなっがいな。えーっと…」


ピコン、とダウンロード完了の合図であるSEが流れた。

片手間で操作しつつ、絢斗は呟いた。


「アンリ・マンユレッド・クローゼス……か?」


その瞬間ときだった。

足元に巨大な魔法陣が展開されて、部屋の中全体が紫色の不穏な色に彩られる。


「な、なんだ!?」


貧困なボキャブラリーから捻り出した常套句を発しつつ、周囲を警戒する。

すると、足元が陥没していく感覚に襲われた。


「(引きずり込まれてる!)」


両手を使って体を引き抜こうと、流れに逆らうように抗う。

しかし、まるで巨人に引っ張られる小人のように、飲み込まれる一方だ。


「どう━━」


なっているんだ。

その言葉を紡ぐ前に、絢斗は飲み込まれた。

部屋には似つかわしくない可愛らしいBGM、そして投げ捨てられたパッケージが残されている。


折り目のついた取扱説明書のページ、そこには《傲岸不遜なゴスロリ少女》の説明が載っていた。


・アンリ・マンユレッド・クローザス


 魔王の娘を名乗る小悪魔系ロリ。童顔だが高校二年生。若干中二病を拗らせ、今も尚継続して罹患中の身ではあるが、大衆の前では決して素の態度は見せないモラルを併せ持つ。


奇しくも、絢斗と契約を結んだ少女とピッタリ一致していたのだった。







◆      ◆      ◆







 時間は戻る。


絢斗の質問に対して「何を言っているんだ」と言いたげな表情を浮かべるアンリ。


「そんなの、レムリア大陸に決まってるでしょ。ニヒツグランツェの」

「……何語喋ってるんすか」

「…はぁ?」


ゲシ、とローファ的な革靴で絢斗は足蹴にされた。

盛大なため息をついて、アンリは説明を始めた。


「確かに、さっきまで居たのは祭壇だから、混乱するのもわかるけど…」


そう言って、右手に水色の球体を創り出した。

空気中の水分を掻き集めて創っただけだが、絢斗の混乱はますます深まっていく。


「球体の惑星、それがニヒツグランツェ。そして、四つの大陸、といっても今居るレムリア大陸は残る三つに比べたら規模も経済力も矮小だけど、とにかく」


球体がパァンと弾けて、空気中に霧散する。


「今居る場所はレムリア大陸、南西部に位置する《魔王アンラの祭壇》入口付近。理解した?」

「いやいやいや! 理解出来ねえから! まずニヒツナントカって何だよ! 地球じゃねえの? ジャパニーズはどうしたんだよ?」

「いや、アンタの言ってる事が理解出来ないんだけど」


現状、お互いがお互いの事情を何も知らない二人は見つめ合って固まる。


 絢斗とアンリはまだ出会ってから数時間も経過していない。絢斗がアンリの《召臨聖霊ゼーレ》を呼び出す儀式に闖入した結果、絢斗の《魔力》に引っ張られてアンリ自身の《召臨儀式アドヴェント》用の術式が破綻してしまい、祭壇を吹き飛ばした。


つまり、今現在二人は教える立場と教えられる立場を除けば、赤の他人そのものである。


「「………」」


暫し、いや、かなり長い時間沈黙が流れた。

そして同時に二人が盛大に吐息を吐き出す。


「……なんだかなぁ」

「……アンタ、ホントに何者なのよ」


相互理解には程遠く、理解不能な事態が二人を包む。

しかし、何故か二人に焦りはなかった。旧友と語るような、安穏とした空気が満ちていく。


「……多分、っていうか、これ絶対」


異世界なんだろうな。

その言葉は敢えて紡がなかった。言ってしまったら、何だか酷く希薄な感じがするからだ。


「(……魔王の娘アンリ。召喚師。異世界…)」


この世界における重要なワードが絢斗の脳内を駆け巡っていく。

本来喜ぶべき異世界への転移だが、衝撃が強すぎて感情が表に出てこない。


一頻り考え込んで、絢斗は混乱が深まるばかりだと気づく。

思考を止めよう、そう思って目を閉じた時。


「…仕方ないわね」


アンリが独りでに立ち上がった。

つられて絢斗も立ち上がる。特に意味はない。

アンリは疲れたような、けど嬉しそうな、そんな目で絢斗を見据えてこう言った。


「アタシ、アンタの《契約者コントラクター》、《召臨聖霊ゼーレ》になってあげる」

「……はい?」


今日一番、否、今世紀最大とも呼べる素っ頓狂な声が、爽快な青空を突き抜ける。

画して、絢斗は6月6日本日を以て、無事召喚師となったのだった。


コメントや評価、よろしくお願い致します。

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