エピローグ
最終話です。
読んでいただけると光栄です。
部屋で金色の美しい髪の女性が小さな女の子を抱いていた。
女の子は女性に抱かれてすやすやと気持ち良さそうに眠っている。
女性は女の子の頬を優しく指で押した。 ぷにぷにの柔らかい頬に触れて女性は思わず微笑んだ。
「ゼウス様」
外から声が聞こえ、女性は女の子を起こさない様に手から樹木を伸ばしてドアを開けた。
「ゼウス様。 伝言が……」
ドアの前に立っていたセレスはゼウスの腕の中で眠る小さな女の子を見るとゼウスの側に寄り、小さな声で話した。
「そろそろお客様が到着する様です」
「分かったわ。 セレス。 この子をお願いね」
「かしこまりました」
セレスは丁重に女の子を受けとると優しく女の子の頭を撫でた。 ゼウスは女の子をセレスに任せて部屋をあとにした。
「ゼウス。 あの子の様子はどう?」
ゼウスが振り返るとそこには結菜が立っていた。
「今はすやすやと眠ってるわ」
「あらあら。 それにしても貴女が遊真との間に子供を授かるなんて思いもしなかったわ」
「元々遊真の血は採取してたから」
「とんでもないブラコンだこと」
結菜は笑いながらそう言った。 ゼウスは少し不機嫌そうに頬を膨らませた。
「お陰であの子は「想像世界」を引き継いでる。 誰が力を持っているか分からない状態よりは良いでしょ」
「まぁ咎めはしないわ。 それより会議に行く前に寄っていったら?
今日で丁度三年よ?」
結菜がそう言うと少しの沈黙の後にゼウスは頷き、王達の会議に使われる場所とは反対の場所に向かって歩き始めた。
城の中庭。 地面には背の低い緑の草が生え、木には小鳥が止まって鳴いている。 空は雲ひとつ無い快晴だった。
その庭に一つの石碑が立ち、その前に一人の青年が立っていた。
「もう三年か……」
青年はそう小さく呟いた。
「お、ここにいたのか」
後ろから声を掛けられ、青年が振り返るとそこには緑色の髪をした青年が立っていた。
「ミカエル……」
「どうした翔一? あんまり元気がないな」
「まぁ……ちょっと感傷に浸ってたからね」
ミカエルは翔一の横に立つと二人で石碑を見つめた。
「ミカエルはもう大丈夫なの? あの禁断の果実の後遺症は癒えたの?」
「いや、完全には癒えることは無い。 だけど最近は歩ける様にもなった」
「それは良かった。 それで本調子になったら妖精王に復帰するの?」
翔一が訊ねるとミカエルは笑い始めた。
「別に戻る気はねえよ。 それとも翔一はあいつが女王じゃ不安か?」
「多少はね」
翔一は苦笑いを浮かべてそう答えた。
「ウリエルは毎回会議でガブリエル様に支えられてる感じだよ」
「そっか……。 一人前の女王になるにはもうちょいかかりそうだな。
翔一はどうなんだよ? 人類王の仕事は」
「まぁぼちぼちかな。 僕も大輝様に支えられながらやってるよ」
翔一はそう答えると石碑にそっと触れた。
「小さい頃は……王になろうとか言ってたっけ……」
「まぁ確かに憧れるわな。 なれるのはその種族でたった一人だけなんだから」
「見てて……欲しかったな……」
翔一は目に涙を浮かべてそう呟いた。
「自分の二つの魔力を同時に発動した繋技か……。
必要な莫大な魔力は技の発動と同時に命と自分の存在を捨てたんだよな」
ミカエルがそう呟くと翔一は頷いた。
「ペンダントに託されていた結菜様の魔力のお陰で僕達の記憶から遊真が消えることは避けられたけどね」
「それで自分の命を引き換えに世界を再構築か……」
ミカエルはそう小さく呟いた。
「翔一様」
再び後ろから声を掛けられ、二人が後ろを向くとそこには黒い髪の小柄な女性が立っていた。
「真優ちゃん。 どうかした?」
「人馬王のロケス様と吸血鬼王のデューク様。
そして人魚姫のメイちゃんが到着したと」
「オッケー。 すぐ行くよ。 ミカエルもどう?」
「まぁ……久し振りに顔出しとこうかな」
ミカエルはそう言って先に王達が会議を行う部屋に向かっていった。
「真優ちゃんはここで少しゆっくりしてて」
「でも……」
「こっちは心配しなくて良いから。 最近来れてなかったでしょ?」
「じゃあ……少しだけ」
真優がそう答えると翔一は軽く手を振って部屋に向かった。
「今日で丁度三年……か……」
真優は石碑の前でしゃがみこんだ。
「真優は置いてきたのか?」
「まぁね。 人がいると出せない感情もあるでしょ」
翔一はそう言って会議を行う部屋のドアを開けた。 そこには沢山の人が居座っていた。
「あー! 遅いよ翔一!」
「そうだそうだ!」
ウリエルとメイが揃って翔一を指差した。
「ごめんごめん。 ちょっと感傷に浸ったりとしてたから」
そう言って翔一は椅子に座った。 ミカエルはラファエルの横に腰をおろした。
「まぁ大して待ったわけでもないしな」
「それに今日は丁度三年の日だ」
ロケスとデュークも笑いながらそう言った。 その向かえでレノーラとゼウスも微笑んでいる。
「それで今日は三周年ということで祭があるようだが……」
「そう! 思いっきり遊ぼう!!」
ウリエルが叫ぶのと同時に城の回りの街から何やら陽気な音楽が聴こえてくる。
「始まった!?」
「よし! 行こうメイ!」
「うん! あーそーぶーぞー!」
二人は勢い良く部屋から出ていった。 ガブリエルとラファエルは小さくため息をつき、ロケスは大きな笑い声を上げた。
「実にウリエルとメイらしい。 これでは会議は後回しだな」
ロケスはそう笑いながら言うと立ち上がり、大きく伸びをした。
「俺も少し祭りを堪能させて貰おう」
「では私も」
デュークも待ちきれなかったのか少しそわそわしながらロケスと共に部屋から出ていった。
「じゃあ私達も行きましょ」
ガブリエルがそう言うとラファエルは立ち上がり、二人で街に向かった。
「レノーラちょっと待ってて。 娘を連れてくるから」
ゼウスはそう言って部屋から出ていった。 レノーラも立ち上がると大きく伸びをした。
「二人はもう会ってきたの?」
「うん。 今は真優がいるはずだよ」
「そっか……。 二人はお祭り行かないの?」
「もちろん行くよ」
翔一がそう答えるとレノーラは優しく微笑んだ。 するとゼウスが部屋から女の子を抱いて戻ってきた。
「あらあら。 かわいい子を連れてきたわね」
レノーラはそう言って優しく女の子の頭を撫でた。 ゼウスとレノーラは会話をしながら街に向かって行った。
「じゃあ俺達も行くか?」
「そうだね……。 でも最後にもう一回だけ寄っていくよ」
そう言って翔一はゆっくりと立ち上がった。
真優は優しく石碑を撫でた。
「お兄ちゃん……」
真優は小さくそう呟いた。
石碑には文字が刻まれていた。
長きに渡る戦いに終止符を打ちし英雄・遊真。
役目を果たし、ここに眠る。
「お兄ちゃんが創ってくれた世界……。 本当に平和だよ。
魔神族がいないから今日だって今までは出れなかった様な場所でお祭りをしてる。
こんな日が来るなんて……思いもしなかった。 全部お兄ちゃんのお陰だよ」
真優はゆっくりと石碑から手を離した。
「真優!」
後ろから声を掛けられ、真優が振り返るとそこには翔一とミカエル。 そして弘行の姿があった。
「お祭り行かないのか?」
「ううん。 今から行くよ」
真優はそう答えて三人の元へ歩き始めた。 そして途中で止まり、石碑の方向に振り返った。
真優は優しく微笑んだ。
「ありがとう。 遊真」
これにて魔力大戦~magical world~は完結です。
今まで読んでくれた皆さま本当にありがとうございました!!m(._.)m
黒と白の暗殺者~剣に誓いし絆~も更新していきますのでそちらもよろしくお願いいたします。
最後にもう一度……
本当にありがとうございました。