新たなクラス
読んでいただけるとありがたいです。
男は牢屋の前に立っていた。
牢屋の中には両手両足を鎖で繋がれている男がうずくまっている。
牢屋の中の男は頭を上げて牢屋の前に立っている人物を見るなり、笑い声をあげた。
「どうした翔一? 俺に挨拶でもしに来たのか?」
「そんな訳無いだろう」
翔一はそう冷たく答えた。
「じゃあ何だ? 俺の魔力を奪おうとでも?」
「今貰おうって訳じゃないけどね。 でも必要な時には貰うよ」
牢屋の中の男は鼻で笑った。
「俺を飼い慣らすって? 無理に決まってるだろう。 第一今俺はお前の意思と魔力に押さえつけられている」
「だからお前は僕が弱れば出てこれると?」
「その通りだ」
牢屋の中の男は笑いながらそう言った。 翔一はため息をついた。
「また来るよ。 不本意だけどお前の力は利用させて貰う」
「第一俺の本体が死んだらどうする? お前は余計に俺を出すわけにはいかんよな? 翔一、お前は俺を表に出さないという自信でもあるのか?」
翔一は牢屋とは反対方向に向かって歩き出した。
「もう体は乗っ取らせないし、お前の本体が死んだらまたその時考えるさ」
「……気にくわない野郎だ」
「お前には言われたくないな。 メフィスト」
「さて行ってくるか」
遊真はそう言って部屋から出た。 そのまま城の外に出ると翔一が木にもたれ掛かるようにして本を読んでいた。
「おはよう遊真」
「あぁ、おはよう。 ミカエルとウリエルは?」
「もう少ししたら来ると思うよ」
「そうか……」
遊真はそう言って翔一の横で木にもたれかかった。
「学校では俺達はどうなるんだ?」
「試験で選ばれた十三歳~十八歳までの一番上のクラスで魔力を使う手本とかになると思うよ」
「教官はいないのか?」
遊真はそう言って首をかしげた。
「まぁ僕達の方が強いだろうしね。 それに僕達にはクラス全員を覚醒させる事が目標らしいよ」
遊真はそれを聞いて驚いた。
「全員覚醒か……」
「そうすれば少しは戦力になるって事。 僕達と戦闘訓練もさせる可能性もある」
「……手加減しないとな」
そう話している内にミカエルとウリエルが城から出てきたので遊真達は学校に向かった。
「ここか」
遊真達は教室の扉を開けると直ぐ様中にいた生徒達に囲まれた。
「聞きたい事があるんだ!」
「何でそんなに強いの!?」
「覚醒魔力って一体どんな感じなの!?」
次々と質問を浴びせられ遊真は驚いた。
「随分と人気者になったもんだな」
「まぁ目立つことしたからね」
翔一とミカエルがとりあえず皆を席に着かせた。 そのあと翔一が教官の元に行ったが どうやら生徒達 十二名 は遊真達に任せられた様だった。
「さてどうする? 俺達が教官になるわけだが」
「最初は皆を覚醒させるんでしょ? 実戦経験とか大事だと思うな」
ウリエルは体育館を指差してそう言った。
「いきなり実戦か……まぁそれもいいかもね」
話を聞いていた生徒達は割りとやる気満々である。 ただ多少は反対派もいた。
「悪魔族じゃなくて私たちが相手をやろうか?」
ウリエルがそう言うと反対派も妥協して賛成した。
(ウリエルが言うと何でも聞きそうだな)
遊真はそう思いながら笑った。
遊真達は体育館に向かうと戦闘訓練を始めた。
先ずは遊真の元に人類六人。 翔一の元に人類三人。 ミカエルの元に試験トップの妖精族。 ウリエルが妖精族を二人を受け持つ事にした。
「炎玉!」
炎の玉が遊真に向かって飛んで来るが遊真は難なく回避した。
(随分と退屈だな)
そう思いながら遊真は同時に六人の攻撃を回避していた。
(視線で狙いが分かるからな)
六人の生徒は次々と攻撃を繰り出すが全て遊真にかする事もなかった。
「駄目だ……! 当たらない……」
生徒達は既に息を切らし始めていた。
「もっと俺の隙を突くように攻撃するんだ。 後は視線で攻撃の狙いが丸わかり」
「難しいな……」
再び生徒達は攻撃を開始した。 遊真は再び全て避けていく。
「そろそろ反撃も入れてくぞ」
遊真はそう言って近くにいた男子の足をはらった。
「ぎゃっ!?」
男子は短く悲鳴をあげ、その場で転んだ。
「いきなり!?」
「攻撃に気を取られ過ぎだ」
「それにしても変な声だったな」
一人の男子生徒の言葉に全員が吹き出した。
「確かに面白かったよ」
そう言って女子生徒は笑い転げている。
転がされた男子生徒は赤面したがら立ち上がった。
「次はこうは行かないぜ、遊真」
「わかった。 お前名前は?」
「俺は弘行。 よろしく」
「オッケー。 覚えとくよ」
そう言って遊真が再び訓練を開始しようとすると横で歓声がわき起こった。
「何だ?」
遊真が目を向けるとそこでは翔一と試験の時に会った今期二位の人類の男子生徒だった。
「風刃!」
風の刃が翔一に向かって行くが翔一は簡単に回避した。 翔一も遊真と同じく先ずは攻撃を当てさせることに専念させている様だった。
「まだまだ!」
男子生徒が手を合わせると地面から樹木が現れ、翔一の足を縛った。
「もらった!」
そう言って男子生徒は翔一に向かって行き、拳を振りかざした。
「遊真君! あれ止めないと!」
一人の女子生徒が遊真に助けを求めたが遊真は首を横に振った。
「当たらないよ」
「え……!?」
遊真の言う通り男子生徒の拳は空を切り、翔一は男子生徒の背後に立っていた。
「凄い……! 一体どうやって……」
「まぁ翔一と戦ったら分かるよ」
遊真は高等学校で始めて翔一と戦った事を思いだしながら笑ってそう言った。
「さて訓練に戻るぞ。 俺に攻撃を当てれる様にならないとな」
「さっきのお返しも含めて殴ってやるよ」
弘行はそう言って笑った。
「今日はここまでにしよう」
遊真がそう言うと生徒達は床に倒れ込んだ。
「掠りもしねえ……」
「本当に私たち当てれるの……」
「まぁ明日はメンバーを変えるから。 翔一だったらもっと当たんないかもよ」
遊真はそう言った。
「ねぇ、遊真君」
遊真が振りかえるとそこには息を切らしている女子生徒がいた。
「さっき翔一君が攻撃を避けたのを当たり前の様に言ってたけど……」
「あぁ、あれが翔一の覚醒魔力だから。 まぁどういうものかは本人に聞いて」
「あれが……覚醒魔力」
「そう」
遊真はそう言って翔一達の方へ目を向けた。 今生徒達は三人同時に翔一に攻撃を仕掛けていたが全て翔一に届いていなかった。
「当たってないけど、やっぱりあいつ強いよな」
弘行はそう言って遊真の横に立った。
「今期人類二位の奴か?」
「そう。 あいつ覚醒もしてるんだ。 同じ中学だったから知ってるけどな」
「そうか。 なら一人はノルマ達成だな」
遊真はそう言って翔一達の訓練室に入って行き、翔一に声をかけた。
ミカエルとウリエルも既に訓練を切り上げていた。
「んじゃ、また明日だな」
「どうだった?」
翔一は帰り道の途中、そう三人に聞いた。
「俺のところは皆最初に比べたら随分と動ける様になったよ」
「遊真には下位の人類の生徒を押し付けちゃったけど寧ろ良かったかな? 割りと打ち解けてたじゃないか。 僕なんてあの二位の子 平太君に滅茶苦茶殺気飛ばされてさ……」
「翔一をライバル視してるんじゃないの?
ちなみに私のところはルナはまぁ動きはいい感じなんだけどまだ普通魔力を全部使えてないんだ。
モモは一応魔力は全部使えるけど経験不足かなって感じ」
ウリエルはまるで自分の宝物を自慢するかの様に笑顔で言った。
「アポロンはまぁあくまで勘だが覚醒出来ると思う」
「へえ……じゃあ天使族ってことか」
「覚醒すればな」
「まぁ明日からも頑張ろ♪ お先に!」
ウリエルはそう言って先に城へ帰って行った。
「ミカエル、ウリエルはどうかしたのか?」
「まぁ早くメイに会いたいって位だろう」
「あぁ、なるほど」
遊真はウリエルらしい理由に納得した。
「あの……」
急に声をかけられ、遊真達は振り向いた。
そこには先程遊真に話しかけてきた女子生徒だった。
「あぁ、君はさっきの」
「あ、私 真優って言います。 あの、少しお話ししても良いですか? 遊真君」
「俺?」
遊真は首をかしげた。 ミカエルは遊真の背中を押すと、
「じゃあ邪魔者は消えるよ」
そう言って翔一と共に城の方向に向かって行った。
「えっと……話っていうのは?」
「うん……。 ごめん別にどうでもいい話なんだけど……」
「まぁ聞くよ」
遊真はそう言って地面から樹木を生やし、そこに腰をかけた。
「遊真君って凄い強いよね? どうやったらそんなに強くなれるのかなって」
「まぁ……皆よりは戦闘経験は確実に多いのは一つの理由だと思うけど」
「戦闘経験……」
真優は少し震える様にそう言った。
「怖い?」
遊真は少し遠慮がちにきいた。
「うん……。 私は目の前でサタンに両親を殺されたから……。 あいつは皆が何をやっても効かなかった」
「確かに圧倒的な力の差には絶望するよな」
「でも……!」
真優は頭を上げた。
「でも私はもう戦いで死ぬ人をだしたくない。 だから私は……強くなりたい」
遊真は立ち上がって笑顔をうかべた。
「じゃあ……明日からもお互いに頑張ろうぜ。 真優」
「……うん! ありがとう。 バイバイ」
そう言って真優は去っていった。
(強くなりたい……か……)
遊真はその言葉を思い出しながら、メフィストの事を思いだした。
(人の事を言ってる場合じゃないか……)
遊真は城の方向に向かって歩き出した。
先日ClamPコンテストで一次選考を通過しました。
数ある作品の中から上位七作品に選ばれとても嬉しいです!
これからもよろしくお願いいたします。m(._.)m
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