学校
読んでいただけるとありがたいです。
コンコンコンとドアをノックする音がし、遊真はベッドから下りて扉を開けると、ドアの前にセレスが立っていた。
「おはようございます。 遊真様」
「おはようございます。 いつも早いですね」
「ゼウス様をこの時間に起こすようにヘラ様から言われましたので」
「へぇ……」
遊真は今でも言われた事を忠実に守っているセレスの真面目さに感心しながら声を漏らすと、こちらに向かってくる結菜の姿に気づいた。
「おはよう遊真」
「おはよう……えっと……」
「呼び方は適当でいいわよ。 母さんが一番私としては嬉しいけど」
「じゃあ……母さんで……」
「ありがとう」
結菜は笑いながらそう言うとドアの隙間から部屋の中を覗いた。
「ゼウスはまだお休み?」
「ベルゼブブとやりあった疲労がまだ癒えきって無いんだと思う。 相当技を出しあったみたいだし」
「その割りには遊真は疲れてないのね」
「まぁ姉ちゃんは体力の上限が違うからね……。 今はゆっくり休ませてあげて欲しいんだ」
「そりゃ自分の娘同然なんだから無理矢理何かをやらしたりはしないけど」
そう言って結菜はセレスに少し頭を下げてから去っていった。
(確かに回復が早くなった気が……。 まぁあの時はレノーラの力を借りていたからか)
遊真はそう考えると結菜の後を追う様にして部屋を後にした。
「よう、遊真」
声をかけられ、振り向くとミカエルがこちらに手を振っていた。
「ミカエル。 昨日の話は役に立ったか……?」
「まぁ今は俺が使えてないから役に立ったとは言えないが、俺が使えたら役に立ったと言えるんじゃないか?」
ミカエルは笑いながらそう言った。
「無理はすんなよ。 反動もでかいからな」
「分かってる」
そんな会話を交わしながらミカエルと遊真は 王の会談 が行われる部屋の扉を開けた。
「来てくれたか。 すまないな食事前に」
椅子には大輝が座っており、横には翔一が座っていた。
「大丈夫ですよ。 妹には無理でしたが……」
ミカエルの一言に笑いながら遊真も大輝の近くの椅子に腰をかけた。
「それで昨日部屋に戻ってから言ってた話と言うのは?」
「あぁ、君たちに学校に通って貰おうか迷っていてね」
「学校……!?」
「確かに俺たちは年齢的には学生だな……」
ミカエルの言葉を聞いて大輝は頷いた。
「君たちの立場を考えると別にいちいち学校に行く必要は無いんだ。
翔一の実力はもはや学生のレベルでは無いし、遊真の実力は言うまでも無い。
ミカエル殿は妖精王という忙しい身。 ウリエル殿も大天使という妖精族のみならず全ての者の中でもトップクラスの実力だ。
それに今はあの人魚の手当てもしている」
「逆に俺たちが学校に行くメリットは?」
遊真がそう聞くと
「私としては君たちを目標として頑張ってくれる者を増やす事。 そして万が一そのメフィストという魔神族が現れた時に生徒という芽を守る事だ。
君たちには残念ながら特にメリットは無いんだ。 敢えていうなら学生生活を送って少し堅苦しい今の生活の休憩と言ったところだ」
そう大輝は答えた。
「なるほど……。 ようは青春するかしないかって話ですね」
ミカエルは笑いながらそう言った。
「ちなみに学校はどうなるんです? 魔神王のせいで校舎を潰された所は多いんですよね?」
翔一の問いに大輝は頷いた。
「それに随分と生徒数は減ってしまったからな。 学生は全員同じ学校にする予定だ」
「今までみたいなエリート学校じゃないから魔力を使う授業ばっかりじゃ無いんですね。 少し暇そうだな」
「まぁそう言うなよミカエル。 大輝様の言う通り休憩程度に通おうぜ。 案外才能を秘めてる奴がいたりするかもよ」
「どうだかな……」
ミカエルは少しつまらなそうに小さくため息をついた。
「大輝様。 とりあえず学校には通います。 そちらの方が防衛の効率がいいならそうするべきだと思いますし」
「分かった。 協力 感謝する」
大輝はそう言うと翔一と共に部屋から去っていった。
「俺たちも朝御飯を食べないとな。 お腹空いたし」
ミカエルはそう言って遊真と共に部屋を後にした。
「あぁ、それでさっき大輝様も言ってたがメイはどうなった?」
「今はお姉ちゃんが魔力でメイに呼び掛けてる。 メイがお姉さんの呼び掛けに応じて目を開ければ蘇生成功だな」
「まぁガブリエル様なら上手くいくだろう」
「お姉ちゃんで無理ならもう誰もメイを呼び起こす事は出来ないだろうしな。 お姉ちゃん以上に精神面に関して上手く殺したり出来るのはいない」
「随分と信頼してるんだな。 というより大天使全員をか」
「当たり前だ。 遊真と翔一と同じ位な」
そう言ってミカエルは手を振りながら自分の部屋に帰って行った。
「それで学校に通うのね」
ゼウスは食事を終えてベッドでゴロゴロしながらそう言った。
「あぁ、明日から行ってくるよ」
「エリート学校じゃないらしいけど……」
「まぁ大輝様の言う通り学校の位置に俺たちがいると守りがちょうどいい。 東には女神族が多く住んでいるし、ここには姉ちゃんがいて、西に俺たちがいれば大丈夫だ」
「万が一攻めてきても最初は下がり気味に戦うのよ。 私達が加勢に行かないと勝ち目は薄いからね」
遊真は頷くとレノーラの居場所を聞き、レノーラの部屋に向かった。
「レノーラ。」
遊真はそうレノーラの後ろ姿に声をかけた。
「よくここだって分かったわね」
レノーラはそう空を見上げたまま言った。ここは城の屋根の上。 少し冷えた風が心地よく吹いていた。
「部屋にいなかったから ここかなと思ってさ」
遊真はレノーラの横にゆっくりと腰をおろした。
「それと……レノーラが空を見上げる時は何か考え込んでるって事も分かってる」
「え……そんなに遊真の前で空を見てた事あった?」
レノーラは少し驚いた様にそう言った。
「便利だな。 心の会話は 少しなら感情も分かる」
「なるほどね……。余計な事を教えちゃったなぁ……」
レノーラは少しため息混じりに言いながらうつむいた。
「まさかメフィストが金色竜神の力を使うなんて……」
「やっぱりその事か……」
「うん。まぁ悩んでも仕方ないけど……。 あんな奴に金色竜神の力を使われるのはね……」
「じゃあメフィストを倒さないとな」
「え……?」
遊真はゆっくりと立ち上がりながら言った。
「早くメフィストを倒して……レノーラの父さんの力を……。 自分の娘に向かせない様にしないと……。 レノーラの父さんも悲しむだろ?」
そう言って遊真はレノーラに向かって微笑んだ。
レノーラも笑顔をうかべると立ち上がって言った。
「ありがとう。 遊真」
「明日から学校なの~?」
「嫌そうだな」
ミカエルは自分のベッドに腰をかけてそう言った。 向かいではウリエルが少し頬を膨らませていた。
「早起きしなきゃダメじゃん……」
「そこは我慢しろよ……」
ミカエルが笑いながらそう言うとドアが開き、一人の妖精族が立っていた。 どうやら急いで来たらしく、息を切らしている。 その妖精族は息を切らしながら言った。
「ミカエル様! ウリエル様! メイ様の容態が……」
その言葉を聞いた瞬間にウリエルは部屋から飛び出していた。
「ちょっと待てウリエル!」
ミカエルもウリエルと同じ様に部屋から出ようとした時に不意に足を止めた。
(今お姉ちゃんはメイと一緒にいる……。 ウリエルはそこに向かってる。 ラファエルは魔神族が攻めてこないか偵察中……。
なら今が見つからない可能性が高いか……)
ミカエルはウリエルとは逆方向に走り始めた
ウリエルは何も考えていなかった。 メイという名前を聞いただけで他は何も聞いていなかった。
メイに何かが起きたという事だけを認識し、ただ走っていた。 少しずつ目的の部屋が近づいてくる。
(あそこを曲がれば……)
ウリエルは左側の通路へ行き、ドアを開けた。
「メイ!」
ウリエルがドアを開けると一人の少女がベッドの上に座っていた。 少女は窓の外を見つめており、窓からは少し冷えた風が吹いている。
少女はウリエルの方を向いた。
少女はウリエルを見ると嬉しそうに笑い、そして安心した様に微笑んだ。
「助けてくれてありがとう。 お姉ちゃん」
ウリエルの目から自然と涙が溢れた。
中々執筆の時間が取れない……
次回からもこのくらいの更新頻度になります……
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