開戦の狼煙
短めです。
読んでいただけるとありがたいです。
「ただいま遊真」
「おかえりレノーラ」
遊真は体を休めて空間から出てきたところでレノーラが帰ってきた。
「探しに行くの遊真?」
「あぁ。 もう夜だからすぐに戻るよ」
「気を付けてね」
遊真は頷くとゴーレムの住んでいる洞窟から飛び出した。
「さてと……」
遊真はブレスレットを見た。 矢印が指す方向に契約出来る獣がいるはずである。
しかし……
「……あれ?」
遊真のブレスレットに矢印は無かった。
「効力が切れちゃったのかな?」
レノーラは首をかしげながらそう言った。
「でも三日たってないし……」
遊真は残念そうに机に顔を乗せた。
「よしよし」
レノーラは遊真の頭を撫でた。
「子供扱いしないでくれよ……」
「ごめんごめん」
レノーラは笑顔をうかべた。
「レノーラ。 「祖の魔力」について教えてくれないか?」
「あぁ、「祖の魔力」ね。 いいよ」
遊真はイスに座り直し、レノーラもイスに座った。
「皆は魔力を使うときに「技名」を言うよね? 何でか知ってる?」
遊真は首を横に振った。
「全く考えた事無かったな……無意識に言ってたよ」
「やっぱりか。 まぁ慣れてきたらそれが普通なんだけどね。 魔力技の発動方法は自分の中の魔力を技名を言うことにより技を頭の中でイメージしてから放つの。 無意識なんだろうけどね」
「それで……「祖の魔力」って言うのは……」
「つまり、「祖の魔力」はまぁ名前から分かると思うけど魔力の 根源 にあるもの。 だから「膨大な魔力」と「想像」と「言葉」。 この三つが「祖」の魔力よ」
「三種類か……」
遊真はそう呟いた。
「そうよ。 「膨大な魔力」は自分でも普段は抑えておかなくてはならない程の魔力。
「想像」は想像したことを現実に出来る。
「言葉」も似たように口にした事が現実になる。
そうは言っても遊真の「想像」の魔力も技名を言うことによりイメージがしっかり出来ると思うし、ベルゼブブも少なからずイメージはしていると思うけどね」
「「想像世界」を使うときは全然技名なんて言ってなかったな……」
「そうなの? 言った方がイメージがしっかり出来ると思うけど」
遊真はイスから立ち上がると 時間が十倍の早さで進む空間に向かった。
「遊真 修行するの?」
レノーラも後からついてきてそう言った。
「まぁまだゴーレムの力も使ってないし、もう一つは分からないからもう後は極めるだけだ」
「じゃあ私も行くわ。 向こうで壁を作ってくれない? 邪魔はしないから」
遊真は頷くとレノーラと一緒に空間に入った。
遊真はペンダントに触れ、空間の出入口から巨大な壁を作り出した。
「じゃあ私はこっち側でいい?」
そう言ってレノーラは左側を見て行った。
「どっちでもいいよ。 ちなみに食糧とかはどうしたら……」
「ゴーレム達が狩りをしてきてくれるはずだから私たちに合う食べ物は提供されるはずだけど問題は時間ね……。 向こうが一時間おきに持ってきてもこちらは十時間だもの……」
二人は少し考えたがゴーレムに空間の向こう側にいてもらい、たまに覗いてもらって食糧をこちらに送ってもらう事にした。
「頼むぜゴーレム。 お前が忙しかったらお前以外の者で構わないから」
「ゴーーーー」
遊真とゴーレムは拳を合わせた。 遊真とレノーラはゴーレムが空間から出ていくのを見送ってから各自壁の右側と左側に分かれた。
「あんまり無理はしないでね。 この空間に入れば時間はたっぷりあるから」
「分かってるよ」
遊真はペンダントに再び触れ、特訓を開始した。
そして三日たち、ロケス達は中央都市の城に集まっていた。
「マリー姫。 ウリエルは戻ってきたのか?」
「ええ。 今はメイと共に空間内にいます」
「翔一は初日に戻ってきた。 あれには驚いたな」
「ミカエルもちゃんと契約して戻ってきたぜ。 ゴーレム、遊真は?」
「ゴーーーー」
ゴーレムはゆっくりとロケスに手紙を渡した。
「[遊真は契約出来ずに矢印が初日に消えた。 故に一日目から既に特訓に入っている]
だそうだ。 この字は多分レノーラだな。 レノーラは遊真と一緒に空間内にいるのか?」
ロケスの問いにゴーレムは頷いた。 ロケスは手紙を折りたたみ、ポケットの中に入れた。
「遊真の矢印が初日に消えたのは謎だな」
「まぁ今はこんな事を話している場合ではないでしょう。 ベルゼブブをどうするかです」
マリーはそう言って水の玉の上に座り、浮かび上がった。
「私はもう戻ります。 私自身も力を高めたいので……」
そう言ってマリーは去っていった。
「何やらお忙しいみたいだな」
「じゃあ俺らも戻ってミカエル達の邪魔をしないように特訓しないとな」
「あぁ」
そう言ってロケスとデュークも自分の都市に戻って行った。
レノーラはこっそりと壁に小さな穴を空け、遊真の様子を見た。
「なに……あれ……」
遊真の周りには一目では何か分からない様な物が飛び交っていた。 水のなかで燃える炎、ゆっくりと動く雷、そして目に見える風の動き。
(「想像」の力を大分使いこなせる様になったのね)
レノーラはそう思って微笑み、壁に自らつけていた 正 の文字をみた。
(あと半分位か……)
遊真とレノーラは空間に入ってから三十五日目。 つまり五週間目を迎えていた。
(一週間の十倍だからあと五週間か……遊真は化けるかもね……)
レノーラはそう思いながら自身の特訓に戻った。
現実世界でベルゼブブの宣戦布告から六日が経過した。
「ついに明日、ベルゼブブが宣言通りに動くならとある湖から何かやらかすはずだ」
「ミカエル達には今日の昼くらいから休めと言っておくか? 向こうでは大体五日くらい休めるだろう」
ロケスの提案にデュークは頷き、
「確かに疲れを残したまま戦うのはまずいな。 各自自分の都市の者に伝えくれ」
「了解だ。 ところでマリー姫はどこだ?」
ロケスは一人の人魚を見て言った。 ロケスのいう通りこの部屋にマリーの姿はなかった。
「マリー姫はただいまお忙しいので代役として私が。 大変申し訳ないと謝罪の言葉も伝えてほしいとのことです」
「まぁ忙しいなら無理はしなくていい。 我らも戻ろう。 決戦は明日なのだからな」
そう言ってデュークが部屋から立ち去ったのでロケスも部屋を後にした。
そして翌日。 ロケスとデュークは中央都市に集まっていた。 マリーの姿はない。
「マリー姫はいないのか……」
「こんなときもいないなんて……何かあったのか……?」
ロケスは城の屋上から遠くを見渡した。 今のところ特に変わったことは無い。
「ベルゼブブはどんな事を仕掛けてくると思う?」
ロケスの問いにデュークは肩をすくめた。
「あいつなら随分と派手な事をやらかしそうだがな……」
デュークがそう言った瞬間に凄まじい音を立てて後ろで山ほどに大きい水柱が上がった。 水の都市の方角である。
「あれは……!?」
「ベルゼブブだ。 いくぞロケス」
そう言ってデュークは街の家の屋根の上に飛び乗り、移動を始めた。
(あれほど大きければ俺のビルの屋上から見えたはずだ。 ミカエルもすぐに駆けつけてくれるだろう)
ロケスは階段をおり、全力で大通りを走り始めた。
水の都市の北に存在する湖。
「おお、随分と派手にやってくれたもんだな。 感謝するぜ」
ベルゼブブはそう笑顔をうかべて言った。
湖には巨大な化け物がいた。
体はとても大きく、足を うにょうにょ と動かしている。 その上には一人の人魚が水を使ってういていた。
「じゃあ今日はお互い助け合っていこうぜ」
「もちろん。 あの子供達は私たちにとっても邪魔だから」
人魚はそう言って悪魔の様な笑顔をうかべた。 ベルゼブブもその笑顔を見て自身も笑いながら言った。
「良い表情するじゃないか。 人魚姫 マリー」