神と呼ばれし獣達
少し長めです。
読んでいただけるとありがたいです。
「遊真!」
そう呼び掛けられ遊真は目を開けた。 視界には翔一の顔があった。
「良かった。 意識はあるみたいだね……。 前回は三日寝込んだからね」
「いや、起こしにきてくれなかったら起きなかったかも」
遊真はそう言ってベットから下りた。
「歩ける?」
「あぁ。 問題ない」
遊真は翔一と共に昨日言われていた食事が用意されている部屋に向かった。 部屋につくとロケスとミカエルとウリエルが既に朝の食事を食べていた。
「遊真! 体は大丈夫か?」
「まぁ前回よりは大丈夫だ」
「無理しちゃダメだよ遊真」
「あぁ。 ありがとうウリエル」
遊真は席に座った。 翔一も横に座る。
「おはよう遊真。 ベットは広かったか?」
ロケスは食べ終わったらしく既に皿が机からさげられていた。
「うん。 おかげでよく眠れたよ」
遊真は手を合わせてから食事を口に運んだ。
「今日は昨日の続きの会議にいくんだが……。 ミカエル達は一緒に来るか? マリー姫とメイ姫がいるはずだが……」
「一緒に行くよ。 確かその都市には「どの獣と契約出来るか」が分かる物があるんだろう?」
ミカエルの問いにロケスは頷いた。
「確かにあるな。 その前にミカエル達に見せておきたい種族がいるんだが」
「吸血鬼か?」
「いや、ゴーレムという種族だ」
ミカエルは少し驚き、首を傾げた。
「あれ? 三種類じゃなかったのか?」
「まぁこちらのいうことは理解してくれるが言語は通じない。 力が強いから建築に力を貸して貰っているんだ。 あの山に住んでいる」
ロケスは立ち上がり、窓の外を指差した。 ロケスが指を差した方向には巨大な岩山があった。 頂上の方は窓の枠で見ることは出来ない。
「先にそのゴーレムの山に行くのか?」
「ゴーレムも一緒に行くのもありかと思ってな。 ゴーレム達の中にも リーダー がいて、そのリーダーは 王達の会議に出席するんだ」
「じゃあ行こうぜ……ゴーレムの山」
遊真は食事を終え、箸を置いた。 翔一も残り僅かである。
「少し遠いがな。 まぁ俺が車を引いてやるよ」
「ここか……」
遊真達はゴーレムの山に到着した。
「随分と速かったな。 ロケスのおかげだな」
「馬車を引くのは久し振りだったがな」
遊真達はタイヤのついた正方形の乗り物に乗り、前にロープをくくりつけ、そのロープをロケスの腰に結び、後はロケスが走るという方法で移動した。 ロケスは腰に大きい約一メートル程の剣をさしている。
「王を馬車に使うって何か凄く罪悪感があるんだけど……」
翔一がそう言うとロケスは笑いながら
「これくらい気にすんなよ翔一!」
と言った。
ウリエルはゴーレムを探しているらしく周りを見渡していた。 遊真も真似をするように周りを見渡すと洞窟があることに気づいた。
「あそこか?」
遊真は洞窟を指差し、ロケスに聞くとロケスは頷いた。
「そろそろ出てくると思うんだが……」
ロケスがそう言うと遊真は少し地面が揺れた気がした。 皆を見ると皆も地響きを察知している様だった。
すると洞窟から人型の岩の様な者が出てきた。
身長は三メートル程、体は見る限り全て岩である。 目らしき場所には横に少し長い穴が空いており、中から二つの黄色い光の玉が覗いている。
「これが……ゴーレムか……」
「あぁ。 今のゴーレムの長だ」
ゴーレムはこちらに気づいたらしく、ゆっくりとこちらに向かってきた。
「ゴーーー」
ゴーレムは右手を上げた。 どうやら挨拶の様だ。
「初めまして。 ゴーレム」
遊真も右手を出すとゴーレムも手を出してきた。 手も体と同様巨大である。
その時、遊真のブレスレットが輝いた。
「え……!?」
「お……。 てことは遊真はゴーレムと「絆魔力」が使えるってことだな」
「でも心を通わせないと使えないんじゃ……」
ミカエルがそう呟くとロケスは笑いながら
「大丈夫だ! ゴーレムは打ち解けやすい奴だからな」
と言った。
「ゴーーー」
そう言いながらゴーレムが遊真と拳を合わせた。
遊真はゴーレムから力が流れてくるのがしっかりと感じられた。 まるで波の様に体にエネルギーが流れてくる。 ゴーレムは満足した様に手を離すと自分の体の一部の岩を少し取ると、遊真のブレスレットに近づけた。 不思議な事にゴーレムの岩はブレスレットの透明なガラスの部分に吸い込まれる様に配置された。
「ゴーーー」
ゴーレムは遊真を優しく掴むと自分の肩に乗せた。 遊真は笑いながら
「ありがとうゴーレム」
と言った。
「良かったな遊真」
ミカエル達も下で笑顔をうかべている。
「じゃあゴーレム。 中央都市に向かうぞ」
ロケスはそう言いながらミカエル達に馬車に乗るように促した。
「ゴーーー」
ゴーレムは地面に両手を置いた。 すると地面がゆっくりと盛り上がり始めた。 盛り上がった地面はゴーレムを持ち上げ、やがて移動を始めた。
「下に巨大なもぐらがいるみたいな感覚だな」
遊真は笑いながらそう言った。 横ではロケスが馬車を引きながら走っている。
そうして五分程移動すると都市が見えてきた。 ゴーレムは地面の操作を止め、自分で歩き始めた。 都市の地面を盛り上がらせると何かしら支障が出るのだろう。
しかし中央都市にはゴーレム専用の道の様な物があり、城まで一直線に行ける道だった。
(ここが……)
遊真は周りを見渡した。 所々水が貯めてある場所があるが、「水の都市」の様な水路はなかった。
(人魚はいないのか?)
遊真は周りを見渡しているとゴーレム遊真の肩を軽く叩き、何かを指差した。 遊真がゴーレムが指を差した方向に目を向けると浮いている水に座るようにして人魚が浮いていた。
「え……どうなってんだ?」
「どうした遊真?」
横でミカエルが馬車から顔を出していた。
「人魚が浮いてるんだ」
「は……?」
するとミカエルの横からウリエルが顔を出した。
「私知ってるよ♪ 強い人魚は自由自在に水を操る事が出来て、それを利用することによって浮くことが出来るんだって♪ メイが教えてくれたんだ♪」
「へぇ……。 じゃあメイが言うにはここに住んでる人魚は全員強いのか……」
遊真はそう呟いた。
「まぁここに住んでるのは大体エリートだぜ。 遊真」
ロケスがそう言った。 それから少しロケスに街の事を紹介してもらった。
五分もしない内に城に到着した。 遊真はゴーレムから下り、ミカエル達も馬車から下りた。
ロケスも腰からロープを取り、部屋に向かった。 ゴーレムは城に入らず、ある部屋の窓に向かった。
「遅れて申し訳ない」
そう言いながらロケスは二階の奥の部屋の扉を開けた。
丸いテーブルを囲んでいるのは「人魚姫」のマリーと妹のメイ。 黒いマントを纏った男性。 そしてレノーラだった。 窓からはゴーレムの顔が見える。
「いえいえ。 今から始めようとしていたところです」
男性はそう言って立ち上がると遊真達の前に立った。
「君達が客人だね。 私は「吸血鬼王」のデューク。 よろしく」
「女神族と人類のハーフの遊真です」
「人類の翔一です」
「妖精王のミカエルです」
「妖精族のウリエルです」
四人は頭を下げた。
「マリー姫とメイ姫から話は聞いていましたが……。 あなた方は昨日何かあったのですか?」
遊真はうつ向くと翔一は少し遊真を見てから
「ベルゼブブと戦闘を行いました」
と答えた。
全員翔一の答えに腰を抜かしている様だった。
メイは急いでウリエルの方へ移動するとウリエルの体をべたべたと触り出した。
「わ……! ちょっと……くすぐったいよ……!」
「大丈夫!? 怪我とか無いの!?」
「うん♪ 平気だよ♪」
ウリエルの返答を聞くとメイは安心したようにウリエルに抱きついた。
「良かった……。 ウリエルが無事で」
ウリエルはメイの頭を撫でた。
「まさか……ベルゼブブとやりあって誰一人として命を落とさないなんて……!」
「君達はただ者ではないってことか」
マリーとデュークはそう言った。
「でも惨敗でした」
遊真はそう呟いた。 悔しさが込み上げ、思わず拳を握りしめる。 するとその手にそっと手を重ねられた。 遊真が顔を上げるとレノーラが優しい表情で手を重ねていた。 横でミカエルがにやにやと笑っている。
「まぁ……あいつには悔しいけど勝てませんでした」
遊真は少し顔を赤くしながらそう言った。
「向こうの魔神族のトップであるサタンを圧倒できた遊真ですら勝てないとは想像以上でした」
翔一がそう言うとマリーが
「少し思ったのですが……。 魔神族のサタンという輩は強かったのですか?」
と言った。
「強かったですよ。 とても。 あらゆる魔力を使用できましたから」
と翔一が答えた。
「問題はそこでは無い。 問題はベルゼブブが本気だったかどうかだ。 ベルゼブブが遊真にいっぱいいっぱいなら我々が加勢すればベルゼブブに勝てる可能性はある」
そうデュークは言った。
「まだあいつがどれ程力を残しているかはわかりません。 しかしあいつが僕に使ってきた魔力は「言った事が現実になる魔力」と「驚異的にスピードが上がり、風の力を使える」ものです」
「言った事が現実になる……か。 俺たちを翻弄していた魔力は恐らくその魔力だが……。 後者は予想は出来ていたが間違いなく「絆魔力」の力だ」
ロケスは腕組みをしながらそう言った。
「獣の力ってことか……」
ミカエルがそう呟くとロケスは頷いた。
「ちなみにどれくらいスピードが上がったんだ? ミカエル達が感じた大体でいい」
「元のスピードをあまり見てないので比較するとなると良く分かりませんが……。 ベルゼブブがその力を使った時のスピードは全く反応出来ませんでした」
「あなた達本当に良く生きてかえって来たわね……」
レノーラは遊真達が生きて帰ってきたのに驚き過ぎているのか少し笑みをうかべている。
「姿はどうだ? 少し雷を纏っていたか……。 それとも少し羽毛が生えていたとか……」
「羽毛が生えていましたね。 二回目は赤い翼が生え、傷が一瞬で治りました」
「何!? じゃあ二つも使わせたのか!?」
ロケスは驚き、そう聞いた。
「いや、その力は傷を治すのにしか使ってない。 一回目の様に風ではなく炎を操れそうだった」
遊真の返事を聞き、ロケスはため息をついた。
「……間違いないな。 それは「神獣」グリフォンとフェニックスの力だ」
「グリフォンとフェニックス!? 実在するのか!?」
ミカエルは驚きの声を上げ、遊真達も驚いた。
王達とメイとレノーラは表情が暗い。
「絆魔力は想定内だった。 しかしまさかベルゼブブが「神獣」の力まで使えるとはな……」
デュークは額に手を当て、うつ向いた。
「ミカエル。 そちらの大陸では神話なのかも知れんが、こちらの大陸には実在する獣だ」
ロケスがミカエルを見ながらそう言いながら席を用意した。
「まぁ立ちながらでは足が痛いだろう。 座ってくれ」
「あぁ、ありがとう」
遊真達はイスに腰をかけた。 ウリエルはメイと一緒にイスに座っている。
「さて、じゃあ「神獣」の事から話を始めようか」
ロケスはそう語り始めた。
「全員で「神獣」は七匹だ」
「そんなにいるのか……」
「あぁ。 中でもフェニックス、グリフォン、麒麟は七匹の中でも特に強いため「幻神獣」と呼ばれている。 後の四匹のヤタガラス、ペガサス、ケルベロス、クラーケンは普通に「神獣」と呼ばれる。 しかしクラーケンは「神獣」の中ではずば抜けて強い」
「え、じゃあ「幻神獣」なんじゃ……」
ウリエルがそう言うとメイは少し笑いながら
「気持ちは良くわかるよ♪ でもクラーケンは悪魔と言うか魔神族だから……」
と言った。
「悪魔?」
ウリエルは首をかしげた。 ロケスは再び話を続けた。
「メイ姫の言うとおりクラーケンは悪魔だ。 いや正確には魔神族というべきか」
「……?」
ウリエルは必死に考えているがあまり理解出来ていなさそうだった。
「まぁ順をおって説明しようか。 まず大陸からだ。 最初大陸には様々な種族がいた。 しかし悪魔と言うべき魔神族が現れた。 魔神族は様々な種族を滅亡に追い込んでいった。 だが神と形容される女神族が現れた」
「じゃあ女神族と魔神族は真逆な存在なの?」
翔一の問いにロケスは頷き、話を続けた。
「その二種族間の戦いは凄まじいもので大陸が割れたとも言われている。 まぁそこは置いておこう。 その戦いの最中女神族のある者が魔神族に敗れ、海に落ちた。 その時にある魚に助けられ、その女神族はそうして海の神となった。 海の神となった女神族は女神族を勝利に導こうと貢献していたが魔神族はある烏賊に魔力をつぎ込み、烏賊をクラーケン化させた。
海の神と海の悪魔が生まれた訳だ」
「じゃあクラーケンは凄い長生きなんだね」
「その通りですウリエル。 ただ厄介なのはクラーケンが今も少しずつ成長していることです。 クラーケンは無限に大きくなりますから」
マリーの言葉に遊真は恐怖を覚えた。 今の話はとても昔の話のはずだ。 にもかかわらず今も成長し続けているとなると想像もつかない。
「山くらいでかいのか?」
遊真はロケスを見てそう言った。ロケスは肩をすくめると
「分からない。 最近は見たことが無いからな」
「でもクラーケンが味方にならないとは限らないからね」
レノーラは優しく微笑みながら言った。 レノーラの言葉を聞き、遊真は少し安心した。 すると後ろから
「敵になるかもしれんがな」
と声が聞こえた。
「!?」
聞いた事がある声だった。 それもごく最近。 遊真達は声がした方を見た。
立っていたのは一人の男だった。 身長は大体180センチ程で髪は黒い。 見た目は至って普通である。 そう見た目は
「よぉ……「想像」の子供。 元気そうだな」
男はニヤリと笑った。 その男の笑顔は遊真に恐怖を思い出させるには十分だった。
遊真は背筋が凍る様に寒くなるのを感じながら声を絞り出した。
「ベルゼブブ……!」