草原の都市
思ったより執筆が進まない……
読んで頂けるとありがたいです。
ドアをノックする音で女性はベットから体を起こした。
「失礼しますゼウス様。 お疲れのところ申し訳ございません」
「いえ、大丈夫よ。 用件は何?」
「はい。 突如魔神族が大量に結界外に集結しているとの事です」
ゼウスはベットから下り、洗面所に向かった。
「それでこちらも戦力を集めると……」
「はい。 そしてゼウス様以外の女神族から二名指揮官をだしてほしいとの事です」
ゼウスは顔を洗い、タオルで顔を拭いた。
「あら、私はダメなの?」
「ゼウス様は総司令官になって欲しいと……」
「分かったわ。 指揮官は貴女とアテナに任せる」
「かしこまりました。 失礼します」
女神族は頭を下げ、部屋から立ち去ろうとした。
「あ、ちょっと待ってセレス」
セレスと呼ばれた女神族は立ち止まり、振り返った。
「何でしょう?」
「バステトとイシスを副官に任命しておくわ。 無いとは思うけど何か貴女達にあった時はその二人に指揮をとらせます」
「かしこまりました」
セレスはもう一度頭を下げ部屋から出ていった。
(遊真は大丈夫かしら……)
ゼウスは弟の事を気にかけながら部屋のドアを開けた。 ゼウスはそのまま 王達の部屋 に向かった。 ドアを開けるとラファエルと大輝が既に着席していた。
「遅れてしまってすみません」
「いえいえ、急に呼び出してすみません」
そう言って大輝は地図を取り出した。 地図には結界内より少し広く土地が書いてある。
「では本題に。 魔神族が集結しているのはここです」
大輝は結界外の中央都市から北の方角にあるところに人差し指を置いた。
「結界内から攻撃したらどうですか? そしたら向こうはこちらに入ってこれないから気をつけるのは遠距離攻撃だけだ」
「あぁ基本的にはラファエル殿の案を採用させて貰う事になると思う。 しかし状況によっては接近戦にもなりうるだろう」
「分かりました」
ゼウスがそう言うと大輝は地図を少し横にどかした。
「もう一つは向こうの大陸の話です」
そう大輝は言って水を口に運んだ。
「魔神王みたいな奴がいない事を願うだけですね。 まぁでも遊真の力があれば大概の敵は倒せるでしょうが……」
「でも万が一遊真は負けたら落ち込むでしょうね」
ゼウスの言葉にラファエルは少し笑いながら
「まぁまだみんな若いですからね。 少し位悔しがるんじゃないですか?」
と言った。
「いえ、悔しがるとは少し違います。 遊真は魔神王を倒してから少し考え方が変わりました。 傲慢になった訳ではありません。 ですが少なくとも自分の「力」に自信を持ちましたから。 だから今の遊真にとって 敗北 は遊真の自信を打ち砕くには十分でしょう。 惨敗なら尚更です」
ゼウスは小さくため息をついた。
「少し位訓練で私が遊真と戦っといた方が良かったかもしれませんね……」
ケンタウロスの後を追って遊真達は「草原の都市」に到着した。
「地面があるな」
ミカエルは少し安心したような口調で言った。 いくら乗っているだけとはいえ魔力を使っていることには変わりはない。 ミカエルも少なからず体力を消耗していた。
遊真は翔一の肩を借りて地面に下りた。 ミカエルもウリエルをおんぶしながら地面に着地した。
「ここが……」
遊真は周りを見渡した。 遊真は土地は広々として、家は一階建てという少し言い方が悪いが田舎の様な所だと勝手に想像していた。
しかし遊真の予想よりも土地は広かった。 しかし家は二階以上の建物等が多かった。 五十メートル程の遊真達が見た事が無いような高い建物もあった。
「あのビルが私の家だ」
そう言って遊真達を案内したケンタウロスはビルに入っていく。
「ここが家なのか……」
「はい。 まぁ一応ケンタウロスの長なので」
「え!? 王なのか?」
「はい。 ちなみに……」
そう話している途中に一人ケンタウロスがこちらに走ってきた。
「若様! 何故こちらへ!?」
「いや俺たちの都市の近くで隕石が落ちてきたのが見えてな。 急いで帰ってきたという訳だ」
(俺のやつか……)
そう遊真は思った。
「王の会談はいかがなさったのですか?」
「抜けてきた。 二人も納得してくれたからな。 今から戻ろうかと思う」
「いえ、会議は明日にすると先程連絡がございました」
「そうか。 連絡ありがとう」
遊真達を案内したケンタウロスがそう言うと後から来たケンタウロスは頭を下げ、 失礼します と言ってどこかへ走り去っていった。
「紹介が遅れたな。 俺はロケス。 ケンタウロスの王だ」
そう言ってロケスは笑みを浮かべた。
「俺はミカエル。 向こうの大陸の妖精王だ。 ちなみにこんな言葉使いでよろしいのか?」
ロケスは笑い声を上げた。
「すまない。 部下達にもこのしゃべり方なんだ。 つい素が出てしまった。 申し訳ない」
「私は敬語は堅苦しいからやだな……」
ウリエルはミカエルにもたれ掛かりながらそう言った。 遊真はウリエルの顔を見たときウリエルが うとうと している事に気づいた。
(「覚醒魔力」を使ったから眠いんだろうな……。 まぁ俺も人の事は言えないか……)
「ならばお言葉に甘えさせて貰ってもよろしいかな?」
「まぁ気楽にいきましょうよ」
ミカエルがそう言うとロケスは再び笑い声を上げた。
「すまないな。 こちらに合わせてくれて」
「気にしないで。 ちなみに僕は翔一」
「翔一か。 よろしく」
ロケスは翔一の手を握った。 ミカエルにも同じことをした。
「俺は遊真。 よろしく」
「遊真……。 なるほど君が向こうの大陸の魔神族の長を倒したのか」
「えぇ……。 まぁ一応……」
遊真は下を向きながらそう答えた。
「みな歳はいくつだ? 俺と近そうだ」
「僕たちは皆 歳は十六です」
「お! ならほぼ一緒だな。 俺は十七だから」
ロケスは嬉しそうに笑った。
「ロケス! 帰ってきてたの?」
そう後ろから声がした。 遊真がそちらに目を向けると一人の人間が立っていた。 パッと見だが遊真は年齢は自分達よりは歳上に見えた。 まぁ年齢より幼く見えるウリエルを見てからこの女性を見ると少し怪しくなるのだが……
「あぁ、今帰ってきたところだ。 紹介しよう。 レノーラだ」
「初めまして」
そう言ってレノーラは頭を下げた。 髪は綺麗な白銀だった。 目は青色で肌はとても白い。 まさに美人と言える顔立ちである。 口元に小さな牙が見えた。
「初めまして。 妖精王のミカエルです」
「僕は人類の翔一です」
「女神族と人類のハーフの遊真です」
「妖精族のウリエルです」
それぞれ簡単に挨拶をしてからロケスの案内により、宿らしき所へ案内された。
と言っても同じ建物の中なのだが……。
「今日はここで休むといい。 全員一緒の部屋も用意出来るが……」
三人は顔を見合わせたが遊真は
「俺は一人でいい」
と言った。
翔一は遊真を見てから
「僕も一人で」
と言った。
「私お兄ちゃんとがいい♪」
「……すまん。 じゃあ俺たちだけ一緒にしてくれ」
「なら部屋の変更は必要ないな。 一部屋にベットが二つ用意してある。 我々のベットだから少し広いと思うから広々と使ってくれ」
「明日は?」
ミカエルがそう言うとロケスは
「明日起きたら下に降りてきてくれ。 十五階に食事を用意しておく」
と言った。
「ありがとう。 じゃあまた明日」
そう言うとミカエルはウリエルと一緒に部屋に入っていき、ミカエルだけすぐに出てくると遊真に近づき遊真の肩に手をおいて
「今日の事……あんまり気にすんなよ」
と小声で言うと遊真から離れて おやすみ と言って部屋に入っていった。
「じゃあ僕も寝るよ。 おやすみ。 しっかりと休んでね遊真」
「あぁ」
翔一も部屋に入っていき、ロケスも自分の部屋に向かうため階段を降りて行った。
遊真も自分の部屋に入った。
ため息をつき、遊真はベットに倒れこんだ。 今まで耐えていた分の「想像世界」疲れが一気に襲ってきたかの様に体が重くなる。 遊真は眠気に負けじと立ち上がり、風呂に向かった。
体を洗い、体を拭いて服をきた。
ベットに戻り横になる。 疲れていて眠いことは間違いない。 しかし寝付けそうになかった。
遊真はまたため息をつき、ドアを開けて鍵をかけた。 遊真は上に向かう階段を見上げ、階段を上っていった。 疲れの為か足は重かったが五分程上ると屋上が見えた。
遊真は屋上のドアを開けた。 少し冷たい風が吹き抜ける。 屋上には誰もいなかった。
遊真は屋上の手すりに手をかけ、下を見下ろした。 今までで見た中で一番高い景色と言えるだろうか。
(サタンの時はかなり上空に持ち上げて貰ったけどその時は周りを見てる余裕はなかったからな……)
遊真は足を外に放り出し、腰をかけた。高いとはいえ落下した所で身体強化を使えば怪我はしないだろう。
遊真は再び周りを見渡した。 まだ所々明かりがついており、暗い街にポツポツと光が見える。 その光景はまるで蛍の様だった。
空を見上げると星が輝いていた。 いつも見ている星とは少し違う様に見えた。
「………………」
無言のまま遊真は夜空を見上げていた。 頭の中は今日の事でいっぱいだった。
(絶対負けないと思ってた訳じゃない……)
遊真はふとそんな事を思った。 しかしこれほど無力感が漂うということは
(と思ってただけなのか)
そう思うしかなかった。 どこかで自分の実力を過信していた。 どんな奴でも倒せると。
(んで負けた訳だ……)
遊真は樹木で背もたれを作り出し、樹木にゆっくりとよりかかった。
不意に後ろでドアが開く音がして、遊真は振り返った。
ドアの所に立っていたのはレノーラだった。
「眠れないの?」
レノーラは遊真の横に立った。
「まぁ……色々とありまして」
「ベルゼブブに負けたこと?」
いきなり核心を突いてきたレノーラに少し視線を反らしながら頷いた。
「でも凄いと思うよ……。 ベルゼブブとやりあって生還するなんてそう簡単に出来ることじゃないわ」
遊真は力なく笑うと
「凄くなんかないですよ……。 逃げるだけなら誰にだって出来る」
と言った。
「でも貴方はベルゼブブを追い詰めたのでしょう? だからベルゼブブが本気を出した。 少なくとも私やロケスにはベルゼブブに本気を出させる事は出来ませんから」
「まぁその本気にボコボコにされた訳で……」
遊真は下を向いた。 自分の情けなさに涙が再び出てきた。
「遊真」
レノーラは遊真の頭を撫でるように手を置いた。
「次勝てばいいの。 貴方はまだ生きているんだから。 死ねば終わりだけど……。 貴方はまだ……生きている」
遊真は涙を拭うと半ば無理矢理 笑顔を作った。
「それもそうですね」
「あ、すみません! 偉そうにしちゃって……弟に似ていたもので……」
「弟がいるんですか?」
遊真がそう聞くとレノーラは首を横に振った。
「今はもういません……。 少し前に他界しました」
「……ベルゼブブですか?」
「いえ、違う魔神族に殺されました」
レノーラはそう答えるとうつ向いてしまった。
「すみません……。 思い出したくない様な事も色々とありますよね……」
レノーラは顔を上げると笑顔をうかべた。
「いえ、大丈夫です」
そう言って再び遊真の頭の上に手を置いた。
「大分気分は晴れましたか?」
遊真は何だか姉に慰められている様な感覚になった。
「はい」
遊真は樹木を消して、屋上に立ち、大きく伸びをした。
「私はもう休みますね。 貴方もゆっくり休んでね遊真」
「うん」
遊真の答えを聞くとレノーラは再び にこり と笑い、階段の方へ向かっていく。
遊真はその背中をずっと眺めていた。 その背中はゼウスに似ている気がした。
やがてレノーラが階段を下りたので背中は見えなくなった。
遊真はもう一度夜空を見上げた。 さっきまで悩んでいたことがまるで嘘のようだった。 自分でも驚くほど心が落ち着いていた。 決してベルゼブブに勝てる方法が見つかった訳でもない。 依然としてベルゼブブとの力の差は歴然である。
「いつか勝てばいい……か……」
遊真はそう呟き、階段に向かった。
「その通りですよ!」
いきなり声がしたので遊真はびっくりしたが、声の主はレノーラであった。
「中々下りてこないから戻ってきたの♪」
遊真は笑いながら
「すみません心配かけて」
と言った。
「別に敬語使わなくていいよ。 弟に敬語使われてるみたいで違和感があるから。 みんなにも言っておいて」
「分かりました」
遊真とレノーラは階段を下り始めた。
後ろで流れ星が流れた。 まるで光が反射するように……流れ星と共鳴するかの様に 遊真のブレスレットが一瞬だけ輝いた。