祖の魔力
書き溜めがこの話で終わってしまいました……
読んでいただけるとありがたいです。
「なるほど……確かに魔力が爆発的に上昇している。 これならば魔神王に勝ってもおかしくはないな」
ベルゼブブはそう言ってニヤリと笑った。
「そうか」
そう遊真は静かに言ってからウリエルの方を向き頭の上に手を置いた。
「遊……真……?」
ウリエルは遊真を見上げた。 遊真は優しく微笑むと再びベルゼブブの方を見た。
「……え!?」
ウリエルは自分の体を見て驚いた。 いつの間にかキズが癒え、体の痛みも消えていた。
(これが……遊真の……!)
「ほう……嬢ちゃんのキズを一瞬で癒やすとはな……」
ベルゼブブがそう言って感心している様な素振りを見せた。
遊真は翔一とミカエルの方へ行こうとした時、翔一とミカエルが遊真の横に現れた。 ミカエルと翔一はその場に倒れた。
「おいおい。 大丈夫かよ? 翔一。 ミカエル」
「なん……とかね……」
「まぁ……大丈夫じゃ……無いな……」
遊真は翔一とミカエルの額に手を当てた。 次の瞬間二人のキズは全て無くなっていた。
「ありがとう遊真」
「すげぇな……。 これが遊真の「覚醒魔力」か……」
「あぁ。 ここからは俺一人でやる。 みんな少し離れた場所に居てくれ」
遊真はそう言ってベルゼブブに向き直った。
「…………分かった。 でも危なくなったら助けにいく」
そう言ってミカエルは盾に翔一とウリエルを乗せた。 遊真は黙って手を横に出し、親指を立てた。 ミカエルは二人を連れて遊真とベルゼブブから離れた。
「話している割りには隙を見せなかったな。 寧ろ既に攻撃を仕込んでいるんだろう?」
「へぇ……気づいてたのか」
今ベルゼブブの足元には鋭く尖った樹木の槍が地中からベルゼブブを狙っていた。
「まぁこんなもん仕込んだところで交わんねぇけどな!」
そう大きな声でベルゼブブが言った次の瞬間には既にベルゼブブが遊真の目の前にいた。
遊真に拳が突き出されるが拳は空を切り、遊真はベルゼブブの上空に移動していた。
上から巨大な炎がベルゼブブに襲い掛かるがベルゼブブは風でかき消した。 次の瞬間ベルゼブブの足元から樹木の槍が飛び出した。
(おっと……!? ここでさっきの!?)
ベルゼブブは不意をつかれ一瞬反応が遅れたが全て驚異的なスピードで回避した。
ベルゼブブは地面を蹴り、遊真の目の前に移動した。 ベルゼブブは再び拳を突き出すが遊真は地面に移動していた。
(瞬間移動か……!)
ベルゼブブは少しイラつきながらも空気の玉を遊真目掛けて乱射したが遊真が右手を出すと全て遊真に当たる前に異空間に消え去った。
遊真がそのまま右手を下ろすと上空から雷がベルゼブブ目掛けて落ちてきた。 ベルゼブブに雷が直撃するがあまりダメージを受けた様子はなかった。
ベルゼブブは地面に着地した。
「なるほど……。 お前のその魔力……「想像力」だな」
遊真は少し驚いたが
「まぁそうだが……何故分かった?」
冷静にそう聞いた。
「いや、ただ単にお前が魔力を使うときに言葉を発していなかったからだ。 驚いたぜ……まさか「祖の魔力」を持っているとはな」
遊真は首をかしげた。
「「祖」? 聞いたことないな」
「何だ……聞いたことねぇのか。 まぁ知ってても特に意味はねぇんだかな。 でもまあとりあえずお前が「女神族」だってことは分かった」
ベルゼブブはニヤリと笑った。
遊真は驚いていた。 自分の魔力だけでなく種族まで何故分かったのか……。 遊真は不思議にそして少し不気味に感じた。
「女神族? 確かに俺は半分女神族だがな」
「半分? ハーフということか……珍しいな。 しかしでは何故「祖の魔力」を持っているのか…………。 まぁいい」
ベルゼブブはいきなり右手を前に出し、空気の玉を飛ばした。 遊真も右手を出すと空気の玉は全て遊真に当たる前に消え去った。
「どちらの「祖の魔力」が上か決めてくれる!」
ベルゼブブは遊真に飛び掛かった。 そして
「貫け」
と呟いた。 次の瞬間遊真に炎や雷等の様々な槍が遊真に襲い掛かった。
(何だ!? こんな事が出来るのか!?)
遊真は上空に瞬間移動し、巨大な炎の玉をベルゼブブに向けて放った。
ベルゼブブに炎の玉が襲い掛かるがベルゼブブは避ける様子はない。 しかしベルゼブブは炎の玉を睨み
「消えろ」
と呟いた。 そうベルゼブブが呟いた瞬間に炎の玉が綺麗に消え去った。
遊真は驚いたが攻撃を続けた。 遊真が炎の玉や雷をベルゼブブに放つがベルゼブブが「消えろ」と呟く度に攻撃が全て消えていった。 そしてベルゼブブが手を遊真の方向に向け
「炎玉」
と呟くと巨大な炎の玉が遊真目掛けて襲ってきた。 遊真も右手を出し、炎の玉を消し去った。
「返すよ」
遊真がそう言うとベルゼブブの背後にいきなり巨大な炎の玉が現れ、ベルゼブブに直撃した。
「な……!?」
「さっきの炎の玉だよ」
ベルゼブブはその場に倒れた。 遊真は追い打ちをかけようとベルゼブブに襲い掛かったがベルゼブブが突如光に包まれた。
(さっきの……?)
遊真は先程のベルゼブブの変化を思い出した。
(待ってても良いことはないな……)
遊真は雷をベルゼブブに向けて放った。 しかし光が遊真真の雷を避けた。 光の中にベルゼブブがいるのでまだベルゼブブは動けるという事が分かる。
「まぁ慌てるなよ」
ベルゼブブの声が聞こえ、光から炎が飛び出してきた。 遊真は少し驚いたが落ち着いて炎を消した。 光が消え、ベルゼブブが立っていた。
背中に真っ赤な翼が生え、先程と同じ場所に純白ではなく真っ赤な羽毛が生えている。 ダメージを受けている様子はなかった。
「また……変わった?」
「待たせたな」
遊真はまだ少し困惑していたがベルゼブブが炎を放ってきたので一旦距離を取った。
「お前のその魔力。 まだ不十分だな。 やはり俺の方が上だな」
「何?」
「同じ「祖の魔力」でも使用者によって差は出る。 俺の魔力は「言霊」。 口にしたことを現実に出来る。 想像したことを現実に出来るお前の魔力と似てるだろ?」
ベルゼブブはニヤリと笑った。 遊真は驚き、悔しそうに歯ぎしりをした。
「悔しいか? もう分かってるんだろう? 魔力の効果はほぼ同じ。 使用者の差は歴然。 つまり勝てない」
「黙れ!!」
遊真は右手を上にあげた。 ベルゼブブも上空を見ると巨大な赤い物が落下してきている。
「隕石か……。 まぁ避けてもいいけどな」
隕石が迫り、巨大な空気を切る様な音が聞こえていた。
「消えろ」
次の瞬間隕石が消えた。
「っ……!」
遊真の顔には絶望の表情が広がっていた。
「お前の魔力……直接相手に効果を出せないだろ? そこが不十分なんだよ。 今の俺なら魔力を込めて死ねと言った瞬間に半径五メートル位の相手の心臓は止まる。 まぁ別に止まれって言ってもいいんだがな」
ベルゼブブは特に隕石を消したところで自慢等をすることは無く至極当然だと言わんばかりの余裕だった。
「………………」
遊真は膝に手をつき、息を切らしている。
「でもまぁまぁ楽しめたけどな」
ベルゼブブは遊真を見て口を開いた。
「貫け」
様々な槍が遊真に襲い掛かった。 遊真は先程と同じように全て異空間に飛ばしていき、先程から全て消していた攻撃をまとめて異空間からベルゼブブに向けて放った。
「消えろ」
様々な槍や闇の玉が全てベルゼブブに当たる前に消え去った。
「貫け! 縛れ! 止まれ! 燃えろ! 吹っ飛べ!」
再び様々な槍が遊真に襲いかかり、遊真は手を出そうとするが手が樹木に縛られ、抵抗しようと体を動かそうとするが体が突然動かなくなり、目の前に巨大な炎の玉が現れた。
(イメージだけで消すしかないか!)
遊真は炎の玉が消える様にイメージをしようとした瞬間に遊真の足を槍が貫いた。
「ぐっ……!」
イメージするのが遅れた瞬間に槍が遊真の体を貫き、炎の玉が直撃した。
遊真は吹っ飛び木に激突した。 遊真はその場に崩れ落ちた。 体は何ヵ所も貫かれ、全身に火傷をおっていた。 ベルゼブブはゆっくりと遊真に歩み寄っていき、遊真の目の前で遊真を見下す様に足を止めた。 そしてベルゼブブが遊真に手を伸ばした瞬間に遊真が立ち上がりベルゼブブに殴りかかった。
ベルゼブブは少し怯んだが遊真の拳を受けとめ、遊真を蹴飛ばした。
「がはっ……!」
遊真は地面をいきおいよく転がり、岩に激突した。
「あれでよく怪我を治療できる程余裕があったな」
遊真の体には火傷と貫かれた痕は消えていた。
「あの怪我なら治さないとすぐ死ぬからな……」
遊真は起き上がろうとしたがペンダントの光が消えていることに気づいた。
「ペンダントの光が消えたってことは「想像」の魔力は使えないってことか?」
ベルゼブブは再び遊真に歩み寄っていく。
「別に……「想像世界」が使えないからって……戦えない訳じゃない」
「笑わせるな。 「想像」の力を使っても勝てなかった俺に普通に戦って勝てるつもりか?」
ベルゼブブのいう通り今の遊真には「想像世界」の反動が来ており、立っているのがやっとであった。 勝ち目などあるはずもなかった。
「終わりだ」
そう言ってベルゼブブが遊真に止めをさそうとした瞬間にベルゼブブが膝をついた。
「な……!?」
遊真は驚いたが遊真も目の前がぐらつき、膝をついた。
「遊真!」
上から声がしたかと思えば、遊真の横にミカエルが着地した。 ミカエルにおんぶされながらウリエルが笛を吹いている。
「動け!」
ベルゼブブがそう叫び、自力でウリエルの最強技
「超魅了」から抜け出した。
「むぅ……もうすぐ萌え死にさせれたのに……」
「曲を止めるな! 逃げるぞ!」
ミカエルは遊真の腕を掴んだ。
「逃がすか!」
ベルゼブブが拳を振り上げながら突っ込んできた。
「全反射!!」
ミカエルがそう叫ぶとベルゼブブは凄まじい勢いで吹っ飛んでいった。 遊真は驚き、ミカエルを見た。 よく見るとミカエルは耳栓をしている。
「ウリエルもう死ぬ曲は吹かなくていい! 遊真が死んじまう!」
そうミカエルが言うとウリエルが吹く曲を変えた。
(だから俺もさっき意識が飛びかけたのか……)
遊真はそう思った。
「翔一!」
ミカエルがそう叫ぶと突然目の前の景色が変わった。 約十メートル程離れたのだろうか。 遊真は大体そんな感じがした。
「遊真!」
横には翔一がいた。 翔一の手には木のつるが結んである。 ウリエルの手とミカエルの手にも結んである。
「もう一発頼む翔一!」
「うん!」
翔一は上を向くと遊真の手とミカエルの手を掴んだ。 ウリエルはミカエルにくっつき笛を吹き続けている。
「逃がすか!」
ベルゼブブがこちらに向かってきた。
「止まって!」
ウリエルがそう言うとベルゼブブの動きが止まった。
「な……!?」
次の瞬間遊真達は上空に移動していた。 足元には青い盾がある。
「このっ……!」
下からベルゼブブが巨大な炎の玉を放ってきた。
「全反射!」
ミカエルが巨大な炎の玉を跳ね返した。 ベルゼブブが自分の炎を掻い潜り迫ってきた。
「いくよ!」
翔一が言った瞬間ベルゼブブの前から遊真達は消えた。
「っ……! くそ……」
ベルゼブブはそのまま落下し、地面に着地した。
「俺と彼奴がやりあってる間魔力を溜めていたのか……。 やられたな」
目の前には草原が広がっていた。
近くには巨大な山がそびえ立っている。
「逃げきれたみたいだね」
「あぁ……多分ここは結界内だろう……。 マリー姫が言うにはこちらの大陸にも結界があるみたいだしな」
ミカエルが手を下げると盾の高度が下がっていく。
段々地面に近づき、遊真は翔一の肩を借りて地面に下りた。 ウリエルとミカエルもゆっくりと地面に着地した。
「ここどこなのかな……」
ウリエルは周りをキョロキョロと見渡すが周りには草原が広がっているだけで特に何も見当たらない。
すると左から何やら足音が聞こえてきた。 目をそちらに向けると凄まじい勢いでこちらに向かってくる影が見えた。
「ベルゼブブじゃないな……。 あんなに大きくなかったはずだ」
ミカエルのいう通りこちらに向かってくる影は自分たちと比べて割りと大きかった。 約二メートル程だろうか。
距離が近づくにつれ、姿が鮮明に見えてきた。
その者の姿は上半身は人型 下半身は馬だった。
その者は目の前で止まった。 見た目で男性だという事がわかる。 そのケンタウロスは遊真達を見ると少し安心したような顔をした。
「君達だな。 人魚のメイ姫が招いた客人というのは。 ベルゼブブに襲われたのだろう?」
「はい。 力及ばず敗走してきたところです」
そのケンタウロスは驚いた様だった。
「ベルゼブブとやりあって生きて帰るとは……。 素晴らしい魔力を持つ方々だ。 さぁ、とりあえず我等の都市へ案内しましょう。 すぐ近くなので」
翔一はミカエルと目を合わせると同意した様に頷いた。
「じゃあお邪魔させていただきます」
「こちらです」
遊真達は再びミカエルの盾に乗りケンタウロスの後を追った。
(負けた……)
遊真は翔一に寄りかかり、敗北感を味わいながら空を見上げた。
ミカエルは遊真を見ると黙って遊真の頭に手を置いた。
(負けた……!)
遊真の目から涙が溢れた。
これからは宿題の合間に執筆します!