覚醒
「弟……だと……?」
ゼウスが言った一言にサタンは驚いていた。
「しかしお前は純粋な女神族なんじゃ……」
ゼウスは地面に倒れたままで話した。
「えぇその通りです。 ただ遊真と私は片方の親が違うのです。 女神族は他の種族と違い 男性 がいない。
神秘的に女神族は二人は「神樹」の前で血を一滴ずつ垂らすと神樹からどちらかの女神族のお腹に子供を授かります。
……私の母はかつての戦いの後のウイルスでパートナーを失った。 しかしその時に人類の女性の方と知り合い、再び子供を授かった」
「……それが遊真か」
「その通りです。 ただ遊真の親は十三年前の戦いで他界しましたが……」
「つまり両親のうち、片方の親はお前と同じ親。 もう一人は人類の親ということか。
それであいつは奇跡的に種族が違うにも関わらず産まれた」
「男の子というイレギュラーはありましたがね」
とサタンの後ろから声がした。
「!?」
サタンが振り向くと、後ろに立っていたのはゼウスだった。
前にいるゼウスは ニコリ と笑うと倒れていたはずのゼウスは木へと姿を変えた。
「いつから……分身だった!?」
サタンはゼウスを見ながら叫んだ。
「千本桜を放った時からです」
そうゼウスは静かに言うと、話を続けた。
「千本桜で分身を作り、貴方を一回殺したあの攻撃を放った後に入れ替わりました。
貴方があらゆる魔力を奪っているのだとしたら警戒するのは当たり前です。
だから貴方が例え復活したとしても分身を使っていれば私は」
そう話ながらゼウスは右手を上げた。
ゼウスが手を上げると巨大な炎の玉が現れた。
「もう一度貴方を消し飛ばせるように力を溜める事が出来る」
そうゼウスは言った。
ゼウスの目は既に「敵に止めをさす」時の目だった。
「それを当てれるならな!」
サタンは一気にゼウスとの距離を詰め、拳を振りかざした。
ペンダントが強く光輝いている。
いつの間にか遊真の怪我は治っていた。
(あれほどの重症を……)
遊真は体に穴が空いて、出血も多量にし、骨も折れていた。
それほどの怪我すら治っていた。
遊真は翔一の横に右膝をつき、翔一の体に軽く右手で触れた。
「遊……真……?」
遊真は何も言わずに にこり と微笑み、翔一からゆっくりと離れた。
「……え!?」
翔一は痛みが消えていることに気づいた。
よく見ると翔一の体は無傷と言っていいほど完璧に回復していた。 体力も回復しており、疲れも全くなかった。
(回復系の魔力!?)
翔一は遊真の方を振り返り、そう思った。
ゆっくりと遊真はサタンへ歩み寄る。
サタンもそれに合わせてゆっくりと立ち上がった。
サタンが口を開いた。
「「覚醒」したのか……」
「そうらしい」
遊真は軽く一言で答え、右手をサタンへ向けた。
十メートル程の巨大な炎がサタンに襲いかかった。
(でかい……!)
サタンは回避したがすぐに遊真が攻撃を仕掛けていた。
上から先程と同じ様な巨大な雷がサタンに勢い良く襲いかかった。
「鋼鉄鎧!」
サタンは回避をしていたが間に合わないと思ったので鎧で身を守った。
守ったはずだった。
しかしサタンの右足は消滅した。
(な……!?)
サタンは後ろへ跳び、遊真と距離をとった。
(鋼鉄鎧の上から肉体を破壊するだと……!?)
サタンは右足を見た。
雷によって右足は消滅していた。
(鋼鉄鎧で攻撃系魔力が防げないとはな……)
サタンの右足は既に再生していた。
(俺の再生と同じ位の回復力……加えてこの攻撃力……)
サタンは違和感や疑問を感じていた。
それは翔一も同じだった。
(いくら「覚醒」したからといってあそこまで魔力の強さが跳ね上がるものなのか……?
第一 遊真は回復魔力は使えないはずだ。 回復魔力は特訓していないから使えたとしても軽い怪我を治せる位のものだ。 でも遊真は僕と遊真自身の怪我を一瞬で回復させた……。 やはりあれが「覚醒魔力」なのか……?)
(しかし今 俺の鋼鉄鎧の上から肉体を破壊した程の攻撃力……あれは何だ……?
「覚醒」をしてもあそこまで魔力の強さは跳ね上がらないはずだ。
しかし「女神族」の「覚醒」となるとこれほどの力を持っていても不思議ではないのかもしれんな……)
(でもやっぱりそれでも威力が桁違いに上がり過ぎてる。
まさか遊真の「覚醒魔力」は全ての魔力の強化なのか……?
いや、それはおかしいか……。 ゼウス様の「奥義」ならともかく遊真のは「覚醒魔力」なんだ。 複数の魔力強化は違う)
(最初に見せたあの炎……。 炎の魔力も威力が上昇しているということは他の魔力の威力も上昇している可能性が高いな……)
翔一とサタンが遊真の魔力について考察している間に遊真は自分のこの「覚醒魔力」の使い方を理解していた。
(使い方は分かった……でも……)
同時に遊真はこう思った。
(あまり長くは持たないな……。 長時間の使用は脳への負担が大きすぎる。)
遊真はサタンを再び睨んだ。
次の瞬間遊真の周りに十個以上の炎の玉が現れた。
一斉に炎の玉がサタンに襲いかかったがサタンは衝撃波を放ち、相殺出来なかったものは異空間へ飛ばした。
翔一は城の屋根に移動し、遊真とサタンの戦いを見ていた。
(そうだ……! 最初にサタンを吹っ飛ばした魔力! あれは何だ……!?
衝撃波の類いならおそらくそれが「覚醒魔力」だ……。 一体遊真の覚醒魔力って何なんだ……?)
(こいつ……何故さっきから無言なんだ……? 別に技名は言わなくても発動出来んことも無いが……)
(あと、何故遊真はさっきから技名を言わないばかりか何も言わないんだ?
さっきから何かを考えている様に見えるけど……)
翔一の思っている通り、遊真はずっと考えていた。
正確にはイメージをしていた。
そして突如サタンの近くの地面から巨大な樹木が姿を現した。
樹木の太さは直径三メートルはありそうである。
(木の魔力も威力が上昇している……!)
サタンは衝撃波で樹木を薙ぎ払おうとしたが突如体が重くなり、サタンは膝をついた。
(まさか……これは「重力」……!?)
サタンは自分が奪った「覚醒魔力」が遊真にも使えるとは思ってもいなかった。
サタンが困惑している内に巨大な樹木はサタンを縛り上げた。
(あれは……重力を強めているのか……? ならあれが遊真の「覚醒魔力」なのか?)
翔一は先程から遊真の覚醒魔力を解明しようとしていたが答えは出ておらず、むしろ疑問が増えていくばかりだった。
(まず全ての魔力が異常なまでに強くなっている。
そして今、通常魔力ではない重力の魔力を使っている。
あとあの回復魔力の回復力……
どれかが遊真の「覚醒魔力」なのか……?)
うーん と翔一は腕を組み考えたが、翔一は思いきって遊真の所へ瞬間移動した。
横に翔一がいきなり現れ、遊真は少し驚いたが、翔一だと分かると少しニコリと笑った。
「遊真……」
「ん?」
「一体……どうやってここまで……!」
「強くなったのかって?」
遊真は少し笑いながらそう言った。
「だってあの魔神王を圧倒してる……。 遊真の覚醒魔力ってどんな効果なの?」
遊真は再び少し笑うと、言った
「想像した事が現実になる魔力だ」
「……え!?」
まだよく意味を理解できていない翔一より一歩前に出ると、遊真は立ち上がろうと奮闘しているサタンを見ながら言った。
「「覚醒魔力」想像世界」