疑い
林は単純な田舎者だった。
今の気の強い性格そのまま、小学校も中学校もクラス換えもない狭い世界で成長したらしく、ずっと運良くお山の大将で居られた人間だ。
少人数のクラスには林が引け目を感じるような美少女もなかったから、その醜い顔と可愛げ無く大柄で太った体型にコンプレックスなど感じることなく生活出来た。
普通なら誰しも親の欲目だけを信じて居られるのは小さな子供のうちだけで、少し成長したらどこかの時点で自分の容姿はそれ程でもないのだと気付く。
そして、更に世間は親のように自分を大切に思ってくれるものではないことを味わう。
人格の成長を伴う、頭を打つ経験を一つもしないまま、看護学校に通い、ふてぶてしいまま、この年齢まで生きてきたのだ。
母親が看護士だったから、その経済力を見て育ち、自分も看護士になった。
動機はそれだけで看護の仕事に理想や憧れが有った訳ではない。
ましてや病人に対するいたわりや慈しみの気持ち、病む事への同情など最初からないのだ。
怪我をしたり病気をしたり弱った人間ばかりを相手にしてきて益々思いやりも共感も欠いた人間性を増長してきた。
それは今の林を一目見れば分かる。
信じる力というのは強い。
自分に確固たる自信を持ち、他人は皆、自分の思うように出来ると信じる信念は林の関わる人たちに十分な圧力を与えた。
誰もが何となく林に遠慮し、結局彼女の意のままに動くのだ。
みどりは初対面で林のボス気質と、底意地の悪さ、同時に単純さを見抜いていた。
常に徹底して褒め上げておけばお世辞が聞きたいばかりに自分を特別扱いするだろう、適当に誰かいじめの標的があるならば、そっちに矛先を向けておけば更に安泰だとタカをくくっていた。