疑い
武藤みどりは、いつでも(ふつう)を心がけている。
決して目立たず、かと言って目立たな過ぎても周りから見くびられて平均より下の位置に入れられる。
なので、そこそこ存在は主張しておく。
主婦になってからの人間関係でもその態度は変わらない。
いつからそうなったか、思い出せない。
小中学校までは共学で、女子間で「男子に媚びている」などと一度でも言われたら人間関係は終わることも十分学んだ。
その後は高校、短大と女子校だった為、女ばかりの人間関係のバランスは磨かれたと思っている。
バブルの只中に入社した証券会社でも、先輩女子社員に目を付けられることもなく、同期入社の女子の中で浮き上がることもなく溶け込んできた。
だから、すぐに、ボスなる人物に目を付けられる女の事を格好の餌食にしてきた。
イジメの標的にされないように悪意の矛先を誘導していれば、自分は安全なところにいられる。
ずっとこうして、あらゆる場面での人間関係に躓くことなく生きてきた。
今、みどりを悩ませているのは娘の桃華が同じマンションの千波にいじめられていることだ。
部屋に閉じこもり、学校を休みがちになっている。
千波の家庭もみどりもマンションの入居開始からの住人で親同士よく知った関係だ。
元々、千波は赤ちゃんの時から感情の波が激しく、我の強い子供に育った。
看護士だったという千波の母親も口の立つ気性の荒い女だ。