第三話
いきなりのシリアス回。
自分で書いた中でここまでのクズを書いたのは
初めてかもしれない。
最近、幼い子供が次々に行方不明となる事件が起きていた。
しかもその内の何人かは見るも無惨な姿で発見され、
その子供の親達は深い悲しみに暮れた。
そしてその親の中の一人が紅の牙に犯人を
捕まえてほしいと依頼を出す。
それを引き受けたユイカは一人動き出した……
「ブヒッブヒヒッ良いよぉ……みんな最高の素材だっ!」
窓すらない広い部屋で豚のように太った男が
醜い笑い声を上げる。
その笑い声を聞いた子供達は恐怖に身を竦ませた。
子供達は、この男が目の前で何をしたか目にしていたからだ。
次は自分かもしれない。
そう思うと恐怖が沸き上がり、涙が止まらなかった。
「この前のオブジェは素材がいまいちだったからか
あまりいい出来とは言えなかった……
だけどっ!今回は最高の素材が集まったっ!
これで僕が求める至高のオブジェが作れる……」
男は一人歓喜に震える。
男が子供達を拐う理由、それは自らが求める
至高のオブジェを作ることであった。
その為に子供を拐い、殺しているのだ。
身勝手で許しがたいことである。
だが、今まで誰も彼を見つけることはできず、
その罪を裁くことも出来なかった。
何故なら彼は……身を隠すことを得意とした魔族なのだから。
「ブヒョッそれじゃあそろそろオブジェ作りに――」
男がそう言いかけた時、部屋に唯一存在する扉が吹き飛び
ユイカが堂々と入ってきた。
「いやーお楽しみ中悪いなぁ。
いくらチャイム押しても出てこないから、
勝手上がらせてもらったぜ」
「ブヒッ!?だ、誰だよお前っ!」
「俺か?……通りすがりの吸血鬼?」
「僕に聞くなっ!」
「怒るな怒るな。ただでさえひどい顔が、
救いようがないくらい酷くなる」
突然の侵入者に焦りと怒りが混み上げる男であったが、
ユイカをよく観察して気味の悪い笑みを浮かべた。
「ブヒヒッお前、よく見ると凄い美人だね」
「お?嬉しいこといってくれんな豚くん。
だが、悪いがお礼にやれるものは無いんだ」
「そんなものは必要ないよ。
だって……お前そのものが欲しいんだからっ!」
男はそう言って笛を取り出し吹く。
すると四人のメイドが音もなく現れた。
それぞれ斧・剣・槍・弓を装備しているが、
いずれの女性にも目の光がなく、肌も青白い。
それを見て何かに気がついたのか、
ユイカは今までの緩い雰囲気を一変させ、
鋭い目付きで男を睨み付けた。
「豚くんよぉ……お前まさか」
「ブヒヒッ流石は同族、すぐに分かったみたいだね。
この三人は僕を捕らえに来た賞金稼ぎさ。
まぁ、呆気なく返り討ちにしてやったんだけど、
見た目が良かったから殺すだけじゃ勿体なくなっちゃって、
死体に魔術をかけて僕の奴隷にすることにしたんだぁ。
ブヒヒッどうだい?最高にイカスだろ?」
「……豚くん、お前は絶対にやっちゃいけないことをやりやがったな」
「何がいけないんだい?コイツらは僕の命を狙ってきたんだよ?
そんなやつらの命なんて好きにしたって問題ないじゃないか。
それにコイツらだって僕の奴隷になれて
うれし「もういい。喋るな豚野郎」ブヒッ?」
男の言葉を遮りつつ、ユイカはホルスターからアガティリスを
素早く抜き銃口を男に向ける。
ユイカの顔には怒りが浮かんでいた。
「お前の気持ちも分からんでもねぇさ。
俺も昔は気まぐれで人を殺すろくでなしだったからな。
だからこそ……気に入らねぇんだよっ!
昔の自分を見てるみたいでなっ!」
「ブヒョッ!?な、何を言ってるんだお前っ!?
ええぃっ!とっとと殺して僕の奴隷にしてやるっ!」
「やってみろっ!」
「お母さん、本当に一人で大丈夫かなぁ?」
ツグミが心配そうにため息をつく。
ユイカが誰も連れずに一人で出かけたことを、
ツグミはずっと心配していた。
だが、それはツグミ一人でミクはゲームをしているし、
リュウセイは外でリーリと組手をしている。
そしてトキノは愛刀である第三代霧枝景織を
打ち粉を使って手入れをしていた。
「ツグミ、それでため息は何度目だ?
いくらため息をついても母さんは帰ってこないぞ」
「それは分かるけど……やっぱり心配で……」
「心配しなくても母さんならいつも通りに帰ってくるさ」
「そうやって。ツグミは心配しすぎなんよ」
「そうなのかな……?」
ツグミは楽観的すぎると思ったが、
それだけの強さをユイカは持ち合わせいる。
やはり心配しすぎなのかとツグミが思った時、
トキノが霧枝景織を鞘に納め、静かに立ち上がった。
「少し出かけてくる」
「なんや?デートかいな?」
「そんな相手居るわけないだろ?
……ちょっとした野暮用だよ」
「なんやつまらんな」
「喧しいわ愚妹め」
ミクと軽口を叩きながらトキノは部屋を出ていくのだった。