第一話
多くの異なる種族が住む街、ガウンシティ。
この街のちょうど中央に位置する場所に立つ、
四階立てのビルがある。
古い立て看板に『何でも屋紅の牙』と書かれてある
このビルの一室から物語は始まる……
「う……んんっ……朝かぁ……」
鍛えられた体つきをした青年、リュウセイ・トリアージが
小鳥の囀りによって爽やかに目を覚ます。
まだ時間は午前六時前。
鍛練をする時間は十分にある。
リュウセイは日頃の日課である鍛練をするため、
ベッドから起きようとした。
だが――
「な、なんだ?」
リュウセイは一切身体を起こすことができない。
一体何が起きているのかと一瞬焦るが、
すぐに自分が誰かに抱き締められていることに気がつく。
またツグミがベッドに潜り込んできたのだろう。
リュウセイはそう考え、ツグミの寝顔でも見ようと横を向く。
それが騒動の発端になることも知らずに……
「やれやれ、しかたが……な……い……」
苦笑いしながら横を向いたリュウセイの目に入ってきたもの、
それは――
「スー……スー……」
一糸纏わぬ姿で気持ちよさそうに眠っている義母、ユイカだった。
リュウセイは目に飛び込んだ光景に驚くあまり、
しばらく石のように固まってしまう。
そして正気に戻り、ベッドから転げ落ちた。
「うにゅ……?」
リュウセイがベッドから転げ落ちた音でユイカが
目を覚まし、身体を起こす。
何も纏っていない裸体が露になった。
「う~……まだ眠い……」
「な、なななぁっ!?」
「あれ?なんでリュウセイがここに居るんだ?」
「それはこっちの台詞だっ!なんで母さんが
俺のベッドに寝てるんだよっ!?」
「……俺のベッド?」
顔を赤くして叫ぶリュウセイを見て、ユイカは
寝ぼけ眼を擦りながら部屋を見渡す。
そして今居る部屋が自分の部屋ではないことを理解した。
「あー……ごめんなリュウセイ。部屋間違えてたみたいだわ」
「いや、それはいいんだけどよ。なんで服着てないんだ?
凄く目に毒なんだが……」
ユイカの裸体を見ないように顔を背けながらそう聞く。
ユイカは考える素振りも見せずに即答した。
「だって服着てたら寝る時暑いじゃん」
「気持ちはわかるがな……」
最近は寝苦しい夜が続いていた。
そのためユイカの気持ちも分からないでもなかったが、
いくらなんでも全裸はやりすぎだとリュウセイは思う。
だが、ユイカだから仕方がないと考えてみれば、
何故か納得ができた。
「……とりあえず服着てくれよ母さん」
「暑いからやだ」
「本当に困るんだってっ!俺の目にも毒だし、
こんなところ誰かに見られたら……」
リュウセイがそう言いかけた時、部屋のドアが開けられ
ユイカの弟子であるリーリ・テンペストが顔を覗かせた。
「リュウセイ、なに朝から騒いでる……の……?」
「あ」
「おーおはようリーリ」
部屋を覗かれて固まるリュウセイとのんきに挨拶する
何も服を着ていないユイカ。
端から見て勘違いしまっても仕方がない光景だ。
リーリも盛大に勘違いしており、顔を青ざめさせて
ワナワナと震えだした。
「り……」
「り?」
「リュウセイがししょーを毒牙にかけたぁっ!」
「ちげぇよっ!母さんが間違えて入ってきただけで……
って待てっ!走り去るんじゃねぇっ!」
勘違いして走り去っていくリーリをリュウセイは
追いかけて部屋を飛び出していく。
一人部屋に残されたユイカは大きくあくびをし――
「ん……今日も楽しい一日になりそうだ♪」
一人楽しげに笑うのだった。