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「生徒会から通知が有って、我が部室にネット回線を引く許可とその条件が出たわ」


遅れて部室に来た舞が徐にそう言った。


「条件って?」


窓下ソファーの前にパイプ机を設置していた小枝が訊く。

机設置を手伝ってくれている花緒瑠も舞の言葉を待つ。

しかし舞は続きを言わずに部室内を見渡した。


「司記は?」


「宿題忘れて居残りだって」


花緒瑠が応えると、舞は肩を竦めてから黒檀テーブル脇に鞄を置いた。


「あいつらしいわね。詳しい話はあいつが来てからにするわ」


ゲーム機を起動し、トレーニングモードを始める舞。

しかし、司記はなかなか来なかった。

時間が勿体無いので、舞と花緒瑠が対戦を始める。

小枝はテレビ前ソファーの端に座って観戦する。

反確の時はどうしたら良いのか、無敵技の使い方はこうだ、と花緒瑠に教えて行く舞。

本気対戦ではないので、ノートに勝敗は付けない。


「うぃーっす。差し入れー」


そうしていると漸く司記が現れ、バッグから取り出したスナック菓子をテーブルの上に無造作に置いた。

カレーが無い日は、各々がお茶菓子を持ち寄る事になっている。

誰が決めたと言う事ではなく、自然とそうなった。

小枝もチョコ菓子を持って来ていて、それは窓下前のパイプ机に置いてある。

司記が来たら食べようと思っていたので、お茶を淹れる為にコンロに移動する小枝。


「来たわね。じゃ、これが終わったら話すわ」


対戦中なので、テレビから目を放さずに言う舞。


「何?」


鞄をテーブル脇に置いた司記は、小枝が座っていた所に腰を下して観戦する。

そして対戦が終わり、リモコンでテレビを消音する舞。


「部室にネット回線を引く許可が下りて、それを実行する条件が出たわ」


「許可が下りたのに条件が有るんだ」


お菓子の袋を開けながら首を傾げる司記。


「うちの学校は、基本的に許可が下り易いのよ。女性の地位を上げる事ならね」


スナック菓子専用の箸を使う舞。

指が油で汚れないこのアイデア商品は素晴らしい。

これのお陰で、お菓子を食べながらゲームをしてもコントローラーがベタベタにならない。


「だからと言ってホイホイ許可を出してたら予算が足らなくなる。だから条件を出して、本気の要請かどうかを試す訳」


納得する部員達。


「で、その条件って、何?」


小枝がお茶を出しながら再び訊く。


「条件はふたつ。仮入部期間が終わっても部員を減らさない事。そして、大会に出て実績を作る事、よ」


ただし、と言って続ける舞。


「ネット回線は、引きます、はいどうぞ、って訳には行かない。工事が必要だからね。のんびりしてると一学期が終わっちゃう。そこで」


一枚の紙を鞄から取り出し、テーブルに置く。


「貴女達に念書を書いて貰いたいの。部活を辞めないって言うね」


その紙に視線を落とす部員達。



  私達は特殊な事情が無い限り部活を辞めません。


  部長 剣舞



と書かれてあった。


「これに四人分のサインが有れば、第一の条件はクリアって事にして貰った。で、大会は今週の日曜に開催される奴に出る」


「今週?いきなり?」


驚く司記。


「いきなりよ。県庁近くの大きなゲーセンで、丁度良くスピ4の店舗大会が開かれるの。五人で一チームだけど、四人でも良いみたい」


舞はペンを指で回し、部員の顔を順に見た。


「と言う訳で、早く回線を引く為の協力をして貰うわよ。上手く行けば来月頭にはネットの工事が来るから」


花緒瑠にペンの頭を向ける舞。


「ただ、部費の全てがプロバイダー契約料に消える事になってしまったの。だから、冷蔵庫を部費で買うのは無理になった」


お茶を啜りながら眉を上げる花緒瑠。


「それは構わない。でも、仮入部期間が終わるまで冷蔵庫は買っちゃいけないって先生に言われたでしょ?部活には直接関係無い物だから」


「うん」


「これは、辞める可能性が有る内は大きな買い物はダメって事でしょ?第一の条件をクリアしたって事は、もう買っても良いの?」


ペンで頭を掻きながら考える舞。


「うーん。今は先生の言う通りにしましょう。悪いけど、冷蔵庫は五月まで待って」


「仕方ないわね」


肩を竦める花緒瑠に頷いた舞は、ペンを紙の上に置く。


「日曜日に大会に出られない人は居る?」


「私は特に用事は無いわ」


小枝が応えると、花緒瑠も予定は無いと言った。

ただ一人、腕を組んで渋る司記。


「うーん。県庁近くって言うと、電車で行くのかな?部費が無いのなら、自腹で行くって事よね?どうしようかなぁ」


司記が渋る気持ちは分かる。

往復の電車賃が二千円以上になるからだ。

数日分のお菓子になる金額をただの移動に使うのは、中学生にはかなり痛い。


「それは大丈夫。先生が車を出してくれるから。部活の遠征だからね」


「なら良いよ。行ける」


「オッケー。じゃ、これにサインして」



  殿里小枝

  綾向路花緒瑠

  久山司記



計四人の名前が書き込まれる。


「はい、ありがとう。じゃ、これの提出と大会エントリーをして来る」


お茶を飲めなくてゴメンと謝りながら立ち上がる舞。

そして早足で部室の出入り口に向かう。


「エントリーってどうやるの?県庁近くのゲーセンなんでしょ?」


司記の質問に足を止めずに応える舞。


「生徒会室のパソコンでゲーセンにアクセスして、生徒会長立ち合いの許、やるのよ」


「うへぇ。良くやるなぁ」


「自分でもそう思うよ」


顔半分だけ振り向きながら唇の端を上げ舞は、颯爽と部室を出て行った。

それを見送った司記は、だらしなくソファーの肘掛けに凭れ掛かる。


「舞って、なんでこんな部活を作ったんだろ。小枝、知ってる?」


「格ゲーは男の世界だから、女子中学生チームで全国大会に出られたら面白そう。って言ってたわ」


「ふーん、そっか。確かに面白そう」


言葉とは裏腹につまらなさそうな顔になる司記。

居残りを食らったせいで機嫌が悪いのだろうか。

そんな顔を見た小枝は、司記の隣に座って普通の調子で声を掛ける。

テンションが下がっている子を見ると、どうにも放っておけない。


「司記、対戦する?」


「うーん。最近、誰と戦ってもキツイんだよなぁ。勝てるビジョンが見えない」


長い髪が絡まるのも構わず乱雑に頭を掻く司記。


「あら。スランプ?」


「かも知れない。暫くは強い人の動画を見て動きの研究をしておく。連勝しないと別のゲームが出来ないから、負けてやる気ダウンはヤだ」


「分かったわ。花緒瑠、やろうか」


「うん」


そして対戦を始める小枝と花緒瑠。

花緒瑠も強くなった。

戦った感じではPP2000台って所か。

司記も同じくらいかな。

この部のお陰で小枝のPPが2000台に上がっていて、その小枝と互角に戦っているので、大幅な誤差は無いだろう。

センスが有るんだろうな。

防御の強化と連続技のミスが無くなればPP3000は行くと思う。

頼もしい事だ。

頑張らないと追い抜かれるな、と思いながら微笑む小枝。


「ただいま。エントリーして来たよ。日曜日の午前九時に部室に集合ね」


帰って来た途端に早口で言う舞に、ハーイと返事をする部員達。


「参加費は一人二百円。それくらいなら出せるでしょ?お昼は、お弁当にする?それとも外食?」


「あのさぁ。舞は本気で全国大会に出るつもりなの?」


話の流れをぶった切って訊く司記。

その話題が出ていた事を知っている小枝と花緒瑠もその唐突さに驚いたくらいだから、当然舞も目を丸くした。


「なによいきなり。そんなの当たり前でしょ。出る気満々よ」


「それならさ、別に部活でなくても良くない?例えば、舞の家に集まれば良くない?ネット回線で苦労しなくて済むじゃん」


司記の言葉に顎を引く舞。


「そうね、確かにそう。でもそれだと他の部活をしないといけなくなる訳じゃない?時間が勿体無くない?」


「まぁ、うん」


「部活の時間に、みんなでひとつのゲームをプレイする。どうすれば勝てるのかと語り合う。それって楽しくない?」


舞の言葉に唇を尖らせる司記。


「それなら格ゲーじゃなくても良いじゃん。ネトゲとかでも」


舞は呆れ顔で溜息を吐く。


「少しは脳みそ使いなさいよ。脊髄反射で動いてるから顔が丸くなって行くのよ」


「顔の丸さは関係無いだろ!」


牙を剥く勢いで吠える司記。


「あのねぇ。ネトゲでどうやって結果を出すの?レアアイテム取りました!って生徒会や顧問の先生に見せに行くの?」


言いながら部室を縦断し、窓下ソファーに座る舞。


「一時間掛けて強敵を倒しました!って?それで部活作成許可が下りると思うの?」


「下りるかも知れないじゃん」


「下りる訳有るか!どこに女性の地位向上要素が有るってのよ」


「格ゲーには有るのかよー」


「有るわよ。格ゲーは男の世界。そこで私達が活躍すれば、女でも上位を目指せるって示せるじゃない。勝てれば、ね」


窓下前のパイプ机を指差し、話に割り込む小枝。


「あ、そのお菓子食べても良いわよ」


ありがとうと言いながらチョコ菓子を開ける舞。


「今回の店舗大会は、私達以外は全部男の筈。女っぽい名前は無かった。ちなみに、チーム名は、聖・銀翼自由学園対戦部、で登録したわよ」


「学校名そのままで登録したの?」


驚いて立ち上がる司記。

そのまま窓下に移動してチョコ菓子を抓む。


「分かる人には、それが女子校の名前だって分かるでしょうね。今頃、話題になってるかもよ?」


ツインテールを揺らし、イタズラ小僧みたいに笑う舞。


「そうだ。大会には制服で行こっか。部活で行く訳だし」


「滅茶苦茶注目されるんじゃね?それはそれで面白そう。色んな意味で超目立つ小枝とか、ガン見されるんじゃない?」


司記も悪そうな顔で笑う。


「色んな意味ってどう言う意味よ」


どうせ色の事だろう、と不貞腐れる小枝。


「勿論、白いのも目立つ理由だけど。それよりも、性格と育ちの良さが姿勢に出てるから雰囲気が違うんだよ」


チョコ菓子を咀嚼しながらテレビ前ソファーまで移動して来て、徐に小枝に抱き付く司記。


「後、小枝って美人だから目立つんだよー。悪い意味じゃないんだよー。機嫌悪くしないでー、小枝ぁー」


「はいはい、怒っていませんよ。どさくさに紛れて無駄肉チェックしない」


ウエストに回されている司記の手を捻り上げる小枝。


「あいたたっ!ギブ、ギブアップ!」


涙目で窓下に逃げて行く司記。


「部長!あの女、護身術を極めてますぜ!」


「どう言うキャラだ。ま、そう言う事で。確認の為にもう一度。次の日曜日、午前九時に、部室に制服で集合。昼食は、どうする?」


舞が訊くと、全員が考え込んだ。

誰も答えないので、花緒瑠が口を開きながらソファーを立つ。


「折角の遠出だし、外食で良いんじゃない?ねぇ、司記」


「ん?どうして私に訊くの?」


「だって、お金が絡むと絶対に反対するじゃない」


そしてコンロの火を点ける花緒瑠。

ヤカンの中身はまだ熱かったので、すぐに沸騰する。

そのお湯を急須に注ぐ。


「いや、まぁ、そうだけど。うーん。じゃ、ウチの親が昼食代を出してくれたら外食にしよう」


「無理しなくても良いよ?」


小枝が心配すると、司記は舞の隣に座りながらチョコ菓子に手を伸ばした。


「ウチの親がケチなだけだから。部活で必要だからって言えば、多分、くれる。今夜訊いてみて、結果をメールするよ」


「そうね。お弁当を作るとなったら事前の準備も必要だし、連絡は早い方が良いでしょう。それで良いかな?みんな」


部長の確認に対し、全員が一斉に頷く。


「良し。じゃ、大会に向けて腕を磨きますか。小枝、私と対戦しよう」


テレビ前のソファーに座っていたのが小枝だったので、その隣に移動する舞。


「ええ。頑張りましょう」


そうして対戦数を重ねている内に日曜が来た。

休日なのに人の気配が多い旧校舎内。

名門女子校なので、真面目に部活に励んでいる生徒が数多く居るのだ。

そんな校風に則り、部室一番乗りは舞。

朝八時にはトレーニングモードで調整をしていた。

今日のツインテールは気合の入った縦ロールになっている。

普段の捻りが入ったツインテールは、縦ロールが崩れた形だった様だ。

八時三十分になると、小枝が部室に入って来た。


「おはよう」


「おはよう。早いね、舞。身体を温める為に対戦する?」


手袋を脱ぎながら訊くと、舞は肩を竦めた。


「いえ、止めておく。移動が長いから疲れたくない。小枝もトレーニングしておいて」


窓下ソファーに移動した舞は落ち着かない感じでツインテールの毛先を弄る。

大会を前にして気分が高揚しているのだろう。


「分かった。でも、その前に身支度させて頂戴」


小枝はハンチング帽を脱ぎ、ポシェットから小さな鏡を取り出した。

今日は長い間帽子を被るので、白い髪を編み上げて前髪をヘアピンで留めている。

オシャレ目的で帽子を被る訳じゃないから、安定性を重視しなければならないのだ。

髪に乱れが無い事を確認した小枝は、ポシェットに鏡を戻してトレーニングを始めた。


「大会に出るのは初めてだから、ちょっと緊張するわ」


「小枝は昨日眠れた?」


「ええ。でも目覚まし時計が鳴る前に起きてしまったので、ちょっと眠いかも。舞は?」


「私も緊張で寝不足よ。でも連続技は普通に繋がったから、調子は悪くない」


「そう。頑張ろうね」


「勿論。勝つわよ」


そして九時数分前になると花緒瑠と川上先生がやって来た。


「おはよう。礼拝堂のどこに部室が有るか分からなかったから、綾向路さんに案内して貰っちゃったわ」


小枝と舞の担任である川上先生は、若くて優しくて頼れる、素晴らしい先生だ。

だから小枝と舞は立ち上がり、憧れの眼差しを女教師に向ける。


「おはようございます。引率、宜しくお願いします」


舞が頭を下げたので、小枝と花緒瑠も宜しくお願いしますと頭を下げる。


「はい。ゲームの大会がどう言う物か良く分からないので上手く引率出来るか不安なので、こちらこそ宜しくお願いします」


言ってから部室の中を見渡した先生は、微妙な表情をした。


「どうなされましたか?」


小枝が訊くと、先生は微笑んで首を横に振った。


「あ、ごめんなさい。ここに初めて入ったので、つい」


「先生はこの学校の卒業生だから、この部室の噂を色々とご存じなんでしょう。そんな事より、アイツは遅刻かな」


ゲーム機の電源を切り、テレビの主電源を落とす舞。

そして腕時計を見ると、もう九時を過ぎている。

小枝も腕時計を見て、それから深くハンチング帽を被った。


「予定の時間なので、取り敢えず出ましょうか。校門の所で待っていれば行き違いは無いでしょう」


「そうね。玄関まで遠いし、出ておきましょうか。旧校門から入って来るかも知れないからメールしておく」


携帯を取り出す舞。


「遅いぞこのハゲ、新校門で待ってるからね。と。これで良し。行きましょう」


部室に鍵を掛け、新校舎の玄関から外に出る対戦部の部員達。

先生は別の場所に有る教員用玄関から出る。


「司記が来ているかも知れないから、私は新校門の方に行ってみるわ」


帽子、手袋、サングラスを装備した小枝が新校門の方を指差す。

このお嬢様学校は田舎に有る為、かなり敷地が広い。

旧校舎を残したまま新校舎を建てられる位に。

だから駐車場も広い。

更に、生徒に危険が無い様にと、自動車は車両専用門から入る。

なので、先生の車に乗る時は、ふたつ有る校門とは別の方向に行かなければならないのだ。


「分かったわ。じゃ、私達は駐車場に」


舞が頷き、二手に分かれる。

そして小枝が一人で校門に行くと、肩で息をしている司記が居た。

いつもはだらしなく波打っている長髪が綺麗なストレートになっている。


「いやー、久しぶりに髪の手入れをしていたら遅れちゃって。ゴメンゴメン」


「間に合って良かったわ。みんなはもう来るから」


数分程度待つと、大き目のワゴン車が低速で走って来た。

運転しているのは先生で、助手席に舞が乗っている。

目の前で止まった車の後部座席に乗り込む小枝と司記。

そこには花緒瑠が乗っていた。


「もしかして、髪の手入れをしていたから遅れたとか言うんじゃないでしょうね」


前の座席から後ろを見た舞が鋭く言うと、司記は唇を尖らせた。


「だって、大会参加者は男の人ばっかりって言ったじゃん。自分でも調べてみたら本当にそうみたいだし。そりゃオシャレもするさ」


「出発するわよ。シートベルトを締めて」


「はい」


小枝と司記がシートベルトを締めたのをバックミラーで確認した先生は、ゆっくりとアクセルを踏んだ。


「先生も大変ですねー。折角の休日なのに、こんな部活に付き合わされて県庁近くまで運転なんて」


「司記。自分の部活をこんなの呼ばわりすんな。でも、本当にありがとうございます」


「良いのよ。剣さんが頑張って部を作ったのを知っているから、先生も応援しないとね」


運転しながら笑む川上先生。


「みんなも大会がんばってね。先生、応援するから。ゲームの大会を見るのは初めてだから、ちょっと興味も有るし」


「先生はゲームをしないんですか?」


車内でも帽子を被ったままの小枝が訊く。


「全然しないかな。先生が子供の頃は、ゲームは男の子の物って感じだったし」


「旦那さんはゲームしないんですか?」


「しないわね。あの人はスポーツ一筋だし」


「ちょっと待って、旦那さんって何?」


小枝を押し退けて話に割り込んで来る司記。


「先生って、まさか、既婚者?」


「そうよ。お子さんもいらっしゃるわよ」


「な、なんだってー!」


仰け反って叫ぶ司記。


「若くて美人の先生はなぜかモテなくて、だから男っ気が無くて休日は生徒と一緒に遊ぶのに!」


「アイツはバカなんで気にしないでくださいね、先生」


舞が冷たい声でそう言うと、先生は上品に笑った。


「でも、美人と言われたら悪い気がしないわね。この車も旦那の物なのよ。私の車は四人乗りで、全員が乗れなかったから貸して貰ったの」


「私も少し驚きました。お子さんがいらっしゃる風には見えませんね。スレンダーですし」


花緒瑠が言うと、先生は上機嫌になる。


「オホホ。褒めても何も出ないわよ」


川上先生は小枝と舞の担任でもあるので、二人は色々と知っている。

学生結婚であるとか、子供は男の子で幼稚園児だとか。

実年齢は、と言おうとしたら止められた。


「司記が年齢なんか訊くから。失礼でしょ?すみません先生」


全てを司記のせいにする舞。


「いや、私は訊いてないし。舞が勝手に言おうとしただけだし」


そんなこんなで一時間程走ると、県庁が見えて来た。

カーナビの音声に従って車の多い道を走る。


「時間は、十時ちょっと過ぎ、か。十一時が受け付け締め切りだから、十分に余裕が有るわね」


自分の腕時計と自動車の時計の両方で現在時刻を確認した舞は、部員達にべっ甲アメを一個ずつ配る。


「十一時の受け付けの後にトーナメント抽選会。そのまま試合開始になるの。昼食を食べられないから、そのアメで試合前の糖分補給をして」


部員達が頷くと、車はゲーセンの駐車場で停車した。

そして車を降り、古風なセーラー服を風になびかせながら駐車場を横切る。


「お?これだね」


司記が指差す先は、巨大なゲーセンの出入り口。

そこにゲーセンの店員による自作のポスターが貼られていて、今日のスピ4大会の告知がされてあった。


「時間までに受け付けを済まさないと、その枠に当日参加組が入るんだね」


ポスターを読んで参加ルールを確認する花緒瑠。


「じゃ、参加申し込みをしましょう」


舞の言葉に司記が首を傾げる。


「サイトで参加申し込みをしてあるんでしょ?また申し込むの?」


「そこのポスターに書いて有る事をいちいち説明するの面倒臭いなぁ。えっと、正確に言うと、トーナメント抽選権を貰う、で良いのかな」


腕を組んで噛み砕く様に言う舞。

文句を言いながらも結局説明してくれるのが舞の良い所だ。


「事前申し込みしておいてのドタキャンは良く有るみたいだから、当日も参加申し込みをしないといけないんだってさ」


なるほどと呟いた司記の肩に手を置く先生。


「部として初めての大会なんだから、全員で手続きをすれば良いじゃない。今後も大会に参加するなら、全体の流れを把握して置く事も大切よ」


「そうですね。先生の仰る通りだわ」


小枝が頷いたのを切っ掛けに、話がそれで決まる。

ゲーセン内に入り、全員でカウンターを目指す。


「こんにちは。スピ4大会参加希望の手続きをお願いします」


「…はい」


古風なセーラー服の女子中学生集団を見た店員は驚きを表情に表したが、すぐに平静に戻って手元の資料に視線を落とした。


「もしかして、聖・銀翼自由学園対戦部さんですか?」


「そうです」


頷く舞。

縦ロール状態のツインテールが揺れる。


「エントリー名を見た時はおかしな名前だなと思ったんですが、本物の学生さんでしたか。では、エントリー料を」


一人二百円ずつ払い、申し込み完了。


「さて、時間まで待ちましょうか。雰囲気に飲まれない様に音ゲーでもしますかね」


右も左も分からない一行は、無条件で舞に従う。

筺体ゾーンから音ゲーゾーンに移動する四人の少女と大人の女性。


「これはどう言うゲームなの?」


意外に興味津々な先生に音ゲーを説明するのは、ゲーセンに良く足を踏み入れている司記。


「音に合わせてボタンを押すゲームです。私がプレイしてみせましょう。先生はアニメとか見ます?」


「いいえ」


「じゃ、ヒーリング系で良いや」


ノリノリで音ゲーをプレイする司記。

どうして普段通りの自由な振る舞いが出来るのか。

この子は緊張しないんだろうか。

舞なんかソワソワキョロキョロと落ち着かないと言うのに。


「面白そうね。私にも出来るかしら」


「初心者モードも有るから先生も出来ますよ。小枝と花緒瑠もやる?」


ゲームを終えた司記に首を横に振って見せる小枝。


「私は止めとく。緊張のせいで喉がカラカラだもの。飲み物を買って来るわ」


「あ、私も」


小枝と舞は自販機コーナーに行き、ジュースを買う。


「やっばい。ドキドキし過ぎて酸欠になりそう」


ツイン縦ロールを揺らしながら心臓の辺りに手を置く舞。


「私もよ。格ゲーエリアに居る人達が大会参加者なのよね。みんな強そう」


サングラスを額の辺りまで押し上げながらゲーセンの奥の方を見る小枝。


「そっち見ないで、小枝。雰囲気に飲まれない様に音ゲーエリアに行ったんだから」


「あ、ごめん。そうだったわね」


そして音ゲーコーナに戻ると、花緒瑠が音ゲーをやっていた。


「二人は緊張しないの?」


小枝が訊くと、司記がうぇへへと笑った。


「私と花緒瑠は、負けて当然みたいな所が有るしね。本気でやり始めて一ヵ月経ってないし。だから気楽なんだよ」


勿論全力で戦うけどね、と言いながら花緒瑠のプレイを見る司記。


「剣さんと殿里さんも、リラックス、リラックス」


二人の肩に手を置きながらウインクする先生。

緊張が見て分かる程に顔が強張っている様だ。


「スポーツ選手とかは、試合前には緊張を解き解す自分なりの方法が有るそうよ。それを探してみるのはどうかしら」


「…そうですね。試合前から脇汗掻いてたら、本番で脱水になってしまいますね」


ジュースを煽る様に飲む舞。

小枝も普段では有り得ない勢いでジュースを流し込む。

それくらい喉が渇いている。

直後、店内にアナウンスが流れた。


『スピ4大会に参加する皆様。抽選会を始めますので、スピ4筺体付近にお集まりください。繰り返します…』


「うし!行きますか!勝ちましょう!」


気合を入れてジュースを飲み乾した舞は、ツイン縦ロールの毛先を指で弾いた。

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