二十五日の夜に
蒲公英さんの「もみのき企画」参加作品です。
コチラの作品、クリスマスの物語ですが「クリスマス」「聖夜」「サンタクロース」という言葉をNGワードというルールで作られています。
この縛りを意識しすぎたために、クリスマスっぽさは減ってしまったかもしれません。
十二月を脳天気に面白オカシク過ごせるのは、子供だけなのだろう。
社会人となると、プレゼント交換もしなくなり、パーティーするにしても神の子の誕生日を祝うというよりも、お酒を楽しむ忘年会の意味が強いものばかりになる。結婚をしていても我が家のようにまだ子供がいない家庭だと赤と緑のお祭り騒ぎの空気も低くなる。イルミネーションの美しい光景に少しだけテンションをあげるものの、師走の慌ただしさが、そのお目出度い気分も吹き飛ばす。昨日の二十四日は、我が家には友人が集まりちょっとしたホームパーティーも行われたものの、単なる明るく気楽な飲み会になっていた。二十五日は普通通りに朝起きて、夫婦で朝食を食べて一緒に家を出て出勤。そしていつもの月よりもチョット慌ただしい時間を過ごすだけである。日本の十二月の二十四日、二十五日の二日間なんてそんなものである。
この時期は定時で帰れるという事はなく、必死に頑張ったものの今日も一時間程残業になってしまった。私は会社を急いで飛び出す。夫の『まだ帰れそうもない。もう一時間程残業になるかも』というメールの返事を電車で確認して、改札を出てスーパーに飛び込み夕飯の買い物をする。
寒かったので、チキンと野菜のトマト煮込みと、タジン鍋を使ったホット野菜サラダに、昨日のパーティーで余ったテリーヌなどの細々したモノをつけることにした。なんとか夕飯の体裁が整ったの頃に夫から『駅についたよ!』というメールがきた。なんとか間に合った事に私はフーと息をはく。
十五分くらいして玄関の扉が開く音がして、私が玄関に迎えにいくと夫は何故か大きな袋を下げている。寒い中帰ってきたわりに弾けんばかりの笑顔で上機嫌な様子である。
「それ、なに?」
私が首を傾げて聞くと、『良くぞ聞いてくれた』という感じで、さらにニンマリと笑う。
「ケーキ!」
なんとなくケーキである事は分かったけれど、その箱はなんか大きい。
「ケーキ? なんで?」
「駅前で、大安売りしていたんだ! 半額だよ! 半額!」
成る程、今日までに売り切らないと駄目なので、ケーキ屋も必死だったのだろう。
「しかも、マッチ売りの少女みたいに、売り子は寒そうで必死で可哀想だったし。だから二人で楽しもうかな? と思って買ってきたんだ」
誇らしげに手柄を誇るかのような子供みたいな夫の表情に笑ってしまう。こういった無邪気な所を可愛いと思ってしまうのが、惚れた弱みという所だろう。手をさしだしケーキの箱と鞄を受け取り、寒い外から帰ってきた夫を暖かい室内に誘う。
二人で食事を終えその後、改めて珈琲を入れて、ケーキを楽しむ事にする。
ケーキを開けてみると、驚く事に五号のホールの生クリームケーキだった。二人だけの我が家にこのケーキは明らかに大きいけれど、丸く白くて大きなケーキは何とも美味しそうで、とてつもなく素敵なものをに見えた。生クリームのツンと立った先っぽが何とも言えなく可愛らしい。私の心も子供の時のワクワクを思い出す。大きなケーキを前に包丁を手に、つい笑ってしまった。夫が『どうしたの?』と表情だけで聞いてくるから、その理由を話す。
「いや、うちの父もに二十四日とか二十五日に、貴方と同じような表情でケーキ買って来てくれたなと思って。なんか良いよね。ホールケーキをこうやって家で切り分けて食べるのって。家族団欒みたいなことしている感じで」
私の言葉に夫は首を傾げる。
「みたいではなくて、コレって家族団欒だろ?」
結婚して三年たって、夫婦にはなれた。でも二人という頭数は家族というには少なすぎるようにも感じていただけに夫の言葉にハッとさせられる。
「でも、二人だけだしね」
「二人だから、家族なんだろ? 同じ家に住み、同じ釜の飯食べて、一緒の風呂浸かり、一つのホールケーキを分け合う。コレ以上ないくらい立派に家族じゃん」
家族の定義としては、イマイチずれた感じもする夫の言葉だったが、不思議だ、夫のいう通り二人でも家族であるような気がした。心のつかえが少し取れ、どこかホッとした気持ちで頷く。
「ところでさ、このケーキ、何等分にする? 二等分?」
夫は私の質問に少し悩んだ顔をして、ケーキをジッと見つめる。
「四等分にして、残りはまた明日朝に食べよう!」
私は頷いて、ケーキを大胆に四等分にして、二つのお皿にケーキを取り分けた。二人で向き合ってケーキを頬張り同時に微笑み合う。二人で文字通り生クリームタップリの甘い夜を楽しんだ。
私の主人も、二十五日の夜ホールケーキをいつも買って来ます。