婚約破棄、ありがとうございます!妃教育から解放された令嬢は自由な人生を謳歌します!〜私を捨てた殿下は後悔しているようですが、私は王家と契約してスパダリと幸せになります!?〜
王家との契約が成立してから数週間、事業は絶好調に見えた。だが、その裏では不穏な噂が静かに広まり始めていた。
「アデライン様......街で妙な噂が流れております。『ロックウェル社交コンサルティング』が、顧客の秘密を漏洩しているという……」
侍女の報告に、わたくしは思わず眉をひそめた。
「あら、随分と根も葉もない話ですこと。誰がそのような噂を?」
「発信源を辿ったところ、あの模倣業者.......コーデリア様の指南所のようです」
「――なるほど。猿真似だけでは満足できなかったようですわね」
「加えて、顧客の何名かから、契約を見合わせたいというお申し出もいただいております」
「ふふふ、流石にそれは看過できませんわね」
苦笑しながらも、わたくしは静かに対策を練り始めた。噂が事実無根であることを証明するには、まず発信源をきっちりと特定し、証拠を固めるのが先決である。妃教育で培った情報収集の勘所は、こういう時にこそ役立つものらしい。
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数日後、コーデリア様本人が、わざわざ事業所まで乗り込んできた。
「アデライン様、大層いい商売をしていらっしゃるようで?」
「あら、コーデリア様.......噂の出所、随分と早くお分かりになりましたのね」
皮肉を込めて返すと、コーデリア様の顔が引き攣った。
「な、何のことかしら......?」
「顧客の秘密漏洩、という噂ですわ。その反応ですと、もしかして、心当たりがおありでしたの?」
「わ、わたくしは何も……!」
「あら、否定なさるなら結構ですわ。ですが、証拠は既に揃っておりますの」
わたくしが取り出したのは、噂の出所を辿った調査書だった。コーデリア様の指南所の従業員が、複数の場所で同じ噂を吹聴していた記録である。
「な……なぜそれを……!?」
「ふふふ、妃教育で培った情報収集能力、伊達ではございませんもの。それに、こちらの記録によれば、噂を流すよう指示なさったのは、他ならぬコーデリア様ご自身のようですわね」
「そ、それは、その、従業員が勝手に……!」
「あら、随分と苦しい言い訳ですこと。指示書のご筆跡、見比べてみましょうか」
淡々と追い詰めるわたくしに、コーデリア様は完全に反論の材料を失っていた。
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「そ、それだけじゃないわ.......! あ、あなた......! ドミニク様のことも、事業の道具として利用しているだけでしょう!」
苦し紛れの言葉に、わたくしは思わず片眉を上げた。
「ふふふ、随分と的外れな中傷ですこと。それとも、ご自分がドミニク様に懸想なさっていて、上手くいかない腹いせかしら?」
「なっ……!?」
図星だったらしく、コーデリア様は真っ赤になって言葉を失った。
「わたくしのことより、ご自身の商売の心配をなさった方がよろしいのでは? 猿真似の上に、根拠のない誹謗中傷まで働くとは.......随分と評判を落とす行為ですわよ。赤字にする作業がお好きなようで」
淡々とした指摘に、コーデリア様は反論の糸口すら見つけられない様子だった。
「アデライン様の仰る通りだ」
そこに、静かな声で割り込んできたのはドミニク様だった。
「コーデリア嬢、あなたの言葉には根拠が一つもない。それに――」
「そ、それに.....?」
「私の心は既に決まっている! あなたの入り込む余地は、最初からなかったということだ!」
きっぱりと告げるドミニク様の言葉に、コーデリア様は真っ青な顔で立ち尽くしていた。
「ど、どうしてそんなにはっきりと……!? こ、こんな悪女のどこがいいっていうの.....!」
「曖昧にしておく方が、後々あなたのためにもならないと思ったからです。誠意のつもりで、明確にお伝えしています。それに、人のことを悪女と言って貶しているような人は、こちらから願い下げです」
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「ば、馬鹿にしないで..…! 覚えていなさい.….!」
捨て台詞を残して逃げるように去っていくコーデリア様を見送りながら、わたくしは小さく息をついた。
「――随分と、鮮やかな援護でしたわね?」
「あなたを傷つける者を、黙って見過ごすつもりはありませんので」
さらりと告げるドミニク様に、わたくしは思わず頬が緩むのを感じた。
数日後、コーデリア様の指南所は、風評被害の証拠が公になったことで信用を完全に失い、閉業に追い込まれたと聞いた。因果応報とは、実によくできた言葉である。
「アデライン様、随分と痛快な結末でしたわね」
侍女の言葉に、わたくしは静かに頷いた。
「あら、痛快と言うより、自業自得というだけの話ですわ。もっとも、全くと言っていいほどに、悪くない気分ではございますけれど」
「それにしても、ドミニク様の一言.......随分と胸のすく思いでしたわ」
「ふふふ、あのお言葉.......あなたも聞いておりましたのね」
「もちろんですわ。あの場にいた誰もが、ドミニク様の格好良さに見惚れておりましたもの!」
からかうような侍女の言葉に、わたくしは思わず頬を染めた。柄にもなく、少し照れくさい気分である。
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事業所での騒動が一段落した、静かな夕暮れ時のことだった。
「アデライン嬢.......少しよろしいでしょうか」
改まった様子のドミニク様に、わたくしは首を傾げた。
「あら、随分と緊張していらっしゃいますのね。あなたともあろうお方がーーー」
「実は、以前から考えていたことがありまして」
ドミニク様は懐から小さな箱を取り出した。
「――結婚してほしい。妃教育に縛られた人生ではなく、あなた自身の望む人生を、これからも隣で見守らせてほしい」
飾らない、しかし真っ直ぐな言葉に、わたくしはしばらく声が出なかった。柄にもなく、胸の奥が温かくなるのを感じる。
「あら、随分と直球でいらっしゃいますこと」
「回りくどい言い方は性に合わないもので」
「その率直さ、嫌いではございませんわ。ですが......」
「ですが......?」
「殿方の求婚にしては、少々練習不足なのではなくて? もう少し、心に響く言葉遣いというものがあると思いますけれど」
(心臓に悪すぎる点も指摘したいところですが、それをいうのは、なんだか負けた気がしますわね.....)
からかうように指摘すると、ドミニク様は苦笑しながら一度深呼吸をした。
「――ならば、言い直させていただきます。私はこれまで、多くの商談をこなしてきましたが、あなたほど心を動かされた相手は他にいません。あなたの強さも、優しさも、時折見せる意地悪な笑みも......全て含めて愛しております」
「ふふ、随分と及第点に近づいてまいりましたわね」
「では、正式にお答えいただけますか.....?」
わたくしは静かに微笑んだ。
「――お受けいたしますわ。ただし、条件がございますの」
「条件、とは.....?」
「わたくしの事業は、結婚後も続けさせていただきますわよ。妃教育をやめた身として、今度は誰かに縛られる人生を選ぶつもりはございませんもの」
「もちろんです。むしろ、これからも側で応援させてください」
にっこりと微笑むドミニク様に、わたくしはとうとう声を立てて笑ってしまった。
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「――随分と、賑やかな人生になりましたこと」
差し出された指輪を受け取りながら、わたくしは静かに呟いた。証拠もない断罪から始まった日々は、事業の成功、王家との対等な契約、そして愛する人との未来へと.......思いもよらない形で繋がっていった。
「これから先も、退屈しない人生をお約束しましょう」
「あら、それは頼もしいこと。せいぜい、期待させていただきますわ」
「一つ質問なのですが、結婚式の準備も、事業の一環として指揮を執っていただけますか?」
「ふふふ、随分と気の早いお話ですこと。ですが、悪くない提案ですわね。理想の式次第、既にいくつか案がございますもの」
「それは頼もしい。あなたに任せておけば、間違いないでしょう」
軽口を交わしながらも、わたくしの心は穏やかな幸福感で満たされていた。妃教育をやめたことが、こんなにも豊かな未来に繋がるとは、断罪された“あの日”には、想像もしていなかったことである。
「殿下やコーデリア様には、悪いですけれど。おかげさまで、随分と充実した日々を送らせていただいておりますわ」
くすりと笑いながら呟くと、ドミニク様も同意するように頷いた。
「――さて、これからも、わたくしらしく生きていくことにいたしましょうか」
夕暮れの光の中、わたくしは新しい人生への確かな一歩を踏み出したのだった。妃教育を放棄した先で見つけたのは、誰にも縛られない、本当の意味での自由と幸せだったのである。
(了)
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
このシリーズは、証拠もなく断罪された令嬢が、押し付けられていた妃教育を「武器」に変え、事業を成功させ、王家すら対等に渡り合い、最後は誠実な伴走者との幸せを掴むまでを描いてきました! 全3章を通して、脱力からの逆転、そして本物の絆へと繋がっていく過程を書ききることができて嬉しく思います!
もし少しでも楽しんでいただけましたら、評価ポイントとブックマークをいただけると、これほど嬉しいことはありません!
「ドミニク様スパダリすぎる」「コーデリアの自業自得っぷり最高」「シリーズ通して爽快だった」など、感想コメントもお待ちしております!
このシリーズはこれで完結となりますが、他にも悪徳令嬢もののシリーズを書いておりますので、よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!
それでは、また別のお話でお会いしましょう!




