門番、爆散す
その日、青年は上機嫌だった。
「よし、開けるぞ!」
彼の前に聳え立つのは、魔王軍の本拠地へと続く巨大な門――高さ二十メートル、分厚い黒鉄でできたそれは、幾多の勇者たちを跳ね返してきた難攻不落の関所だった。伝説によれば、この門を開けるための鍵は魔王軍の最深部にしかないという。
だが、青年はそんなことを気にする性格ではなかった。
「鍵がないなら、壊せばいい」
彼は背負っていた大剣を抜き放つと、渾身の力を込めて門の中心に叩きつけた。轟音。しかし門はびくともしない。青年はニヤリと笑った。
「――なら、もう一発だ」
二撃目、三撃目と剣を叩き込むうちに、門の表面に走っていた魔法陣の紋様が、ジジジ、と不穏な音を立てて明滅し始めた。同行していた仲間の魔導士が、それに気づいて顔を青くした。
「ちょ、ちょっと待て! その紋様、封印術式だ! 力任せに壊したら――」
「今更止まれるか!」
四撃目。剣が門の中心を貫いた、その瞬間だった。
紋様全体が眩い光を放ち、門そのものが内側から膨張するように歪み始めた。仲間たちは悲鳴を上げて後退したが、青年だけはその場に踏みとどまり、剣の柄を握りしめたまま光に呑まれていった。
「うおおおおおおお!」
そして――門は爆散した。
*
気がつくと、青年は見知らぬ場所に立っていた。
いや、正確には「立っていた」のかどうかも怪しい。足元には地面と呼べるようなものがなく、代わりに紫色と緑色が入り混じった、粘性を帯びた靄のようなものが渦を巻いている。頭上には見たこともない形の星々が瞬き、遠くには浮遊する岩の塊がいくつも漂っていた。
「……ここは、どこだ?」
声を出してみるが、反響の仕方がおかしい。まるで空間そのものが歪んでいるかのようだった。
しばらく茫然としていると、突然、靄の向こうから巨大な影が姿を現した。体長は優に十メートルはあろうかという、触手だらけの異形の生物だった。その生物は青年を見るなり、明らかに動揺した様子で後ずさりした。
『……人間? なぜこの場所に……ここは魔王軍の召喚予備空間のはずでは……』
どうやら言葉は通じるらしい。青年は油断なく剣を構えつつ、状況を整理しようと試みた。
「召喚予備空間?」
『ええ。魔王軍が新たな配下を異界から呼び寄せるために管理している、専用の亜空間です。本来、あの門はこの空間と本拠地とを繋ぐ“扉”の役割を――』
そこまで言われて、青年はようやく理解した。
自分が力任せに叩き壊したあの門は、単なる関所ではなく、異空間と現実世界を繋ぐゲートそのものだったのだ。それを封印術式ごと粉砕した結果、爆発の余波に巻き込まれ、繋がった先の異空間へと弾き飛ばされてしまったらしい。
「……つまり俺は今、魔王軍の裏庭に迷い込んでる、ってことか」
『そういうことになりますね……あの、失礼ですが、貴方はいったい何者で……』
「魔王を倒しに来た者だ」
青年が悪びれもせずそう答えると、触手の生物は明らかに凍りついた。周囲の靄の中から、次々と似たような異形の気配がざわめき始める。どうやら彼の存在は、瞬く間にこの空間全体に伝わりつつあるようだった。
「さて」
青年は剣を肩に担ぎ直し、にやりと笑った。
「せっかくだ。ここにも魔王軍とやらの巣があるなら、ついでに暴れて帰るとするか」
『ま、待ってください! ここは本拠地とは別の――』
「知ったことか!」
叫ぶが早いか、青年は最も近くにいた巨大な影に向かって突撃していった。悲鳴と怒号、そして何かが爆発する音が、紫と緑の靄の中に木霊していく。
のちにこの一件は、魔王軍内部で「原因不明の空間侵犯事件」として記録されることになる。当時の記録官はこう書き残している。
『召喚予備空間に、身元不明の人間が門ごと転移。以後三日間にわたり空間内の警備部隊が壊滅。生存者の証言は要領を得ず「とにかく笑いながら剣を振り回す化け物だった」の一点で共通している』
なお、青年本人は後年この出来事について、酒場でこう語っていたという。
「いやぁ、あの時は焦ったな。門を壊したら知らない場所に飛ばされてよ。でもまぁ、暴れてたらそのうち帰りの道も見つかったし、結果オーライだ」
――帰り道がどのようなものだったかは、本人も詳しくは覚えていないらしい。
テスト投稿として、短編を投稿させていただきました。
文字数や改行、タグ付けなど、投稿環境の確認を兼ねております。
感想・ご指摘等ございましたら、今後の連載に活かしていきたいと思いますので、お気軽にコメントいただけますと幸いです。




