わたくし、ナニーの採用試験に来たワケではありませんことよ?
とある昼下がり。わたくしは、お友達にお招きされたお茶会に参加しました。
紅茶の馨しい匂いと、クッキーやパウンドケーキなどの焼き菓子がふわりと香ばしいバターの匂いをさせて、わたくしを誘っていますわ。どれに手を伸ばそうと迷っていると、
「あなた、この間お見合いをしたのでしょう? お相手の方はどんな方だったの? いい方かしら? あなたにもとうとう婚約者ができるの? どんなお顔をしていたの? あなた、おっとりしたところがあるから心配だわ」
お友達が目を輝かせてわたくしへ矢継ぎ早に質問をしました。先程からなにかうずうずしている様子だと思っていたら、この質問をしたかったようです。
「それが……お相手方からはお見合いの場とご連絡があったのですけれど、どうも手違いがあったようでして。わたくし、お見合い相手に会えませんでしたの。だから、お相手のことは知りませんわ」
わたくしはあの不思議なお見合いを思い出して、首を傾げながら答えます。
「あら? どういうことなのかしら? お相手の体調不良や、移動中になにかあったの?」
お友達のお顔が心配そうに曇りました。
「それが、実は……なんとも不思議なお話なのですけど。わたくしとお父様、お母様がお見合いのつもりでお相手の家へ行ったのですけど。お見合い相手はいなくて」
「え? お相手の家へ行ったのに、ですか?」
「ええ、そうなんです。ただ、代わりに……」
「代わりに、どうしたの?」
「……その、大変元気でやんちゃな男の子がいましたの」
「ん? えっと? それで? その子は……あなたになにか言ったりしたりしたの?」
お友達は、怪訝そうな顔で首を傾げます。
「ええ。どうも、その男の子。わたくしを自分の婚約者になる子だと勘違いしていたようで。『なんでオレがお前みたいなブスと婚約しないといけないんだよ! 絶対イヤだからな!』なんてこと言い出して……」
「ぁ~……うん、それで? あなたはなんて答えたの?」
「『あらあら、元気なボクちゃんですわね? いいですか? 初対面の女性に、ブスなどという失礼なことを言ってはいけませんわ』と、お返ししました」
「っ!? そ、それでっ? お相手の家はどういう反応だったのかしら?」
「あちらの反応と言いますか……『本日はお見合いに来たつもりなのですが……わたくし、子守の採用試験に来たワケではありませんことよ? 手違いでしょうか? そちらのボクちゃんは、見たところ同年代の子達に比べると成長が早くて大きいみたいですが。身体が大きい子はなるべく早く紳士教育をお始めになった方がよろしいですわ。のんびりした教育方針も悪くはありませんが、身体の大きな子は力も強いですからね。なにかあってからでは遅いですわ』と、お返ししましたわ」
本当に、身体の大きな未就学の男の子には、ちゃんと危険なことやしてはいけないこと、言ってはいけないことなどの分別を教えておいてほしいものです。あの男の子とわたくしの五歳の弟なら、弟の方が賢くて優しい子だと思いますの。
「ふっ……フフフフフフフフフフっ、ふふふふふふっ……あ、相手の男の子は、泣いてなかったかしら?」
お友達は、なぜか楽しそう……と言いますか、全く堪え切れずに笑って問い掛けます。
「あら? よくおわかりになりましたね? ええ、その男の子……お顔を真っ赤にして泣きながら、お部屋を出て行きましたの」
『誰がボクちゃんだーっ!?』と、ドタバタしておりましたわねぇ。あちらのご両親は顔を赤くしたり青くしたり、その子を追い掛けて走る使用人などなど。
家族ぐるみでお付き合いしている親しい家同士ならともかく。大して親しくない来客が目の前にいてのドタバタは、品格が疑われると思いますのに。
「それはそれは……ご愁傷様というか……まあ、自業自得だけど。それで、その子が出て行ったあとにどうしたの?」
「お相手方が慌て出して……どうも、お見合いの日を勘違いしていたそうなの。それで、本来お見合い相手だった令息が手違いで領地から戻って来ていなくて。それで、弟君の方がご自分のお見合いだと勘違いして乱入して来たみたいですわ」
「ぁ~……そう、そんな感じにしたのねー? ぷふっ……」
お友達は、クスクスというか、若干吹き出してしまっています。この子、笑い上戸なのよねぇ? いつも、わたくしのお話を聞くと楽しそうに笑っていますの。
「それで? お見合いはどうなったの? ふふっ……」
「弟君が失礼をしたので、今回の話は無かったことに。ですって」
「ぷぷっ……くふっ……フフフフフフフフフ……そ、そう。それはよかったわね?」
クスクスと笑いが止まらない様子で彼女が言います。
「よかった……のでしょうか?」
「ええ。よかったと思うわ。だって、もしもその失礼なことを言った男の子が義弟になったらそれはそれでめんどくさそうじゃない? 喧嘩売られるか、子守をしなきゃいけなくなるかもしれないでしょう?」
「そうですわねぇ……初対面の女の子にあんな失礼なことを言う子ですものね。嫡男ではなくても、成長の早い身体の大きな子は早目に教育を受けさせておくべきでしょうね……」
と、お見合い予定だったお相手の家ののんびりした教育方針に少し思うところがあります。
「それにしても、やっぱりあなたって最高ね! ま、わたくし達はまだ十歳だもの。婚約はもう少し後でも全然構わないでしょうね」
「? なにがでしょうか?」
「うふふっ、とっても可愛らしくて素敵ってこと♪さ、楽しいお話も聞かせてもらったことだし。食べましょうか? このクッキー、ほっぺたが落ちちゃうくらい美味しいのよ?」
にこにこと楽しげにお菓子を勧められて、とっても楽しくお茶会が進みました。
それから、少しして――――
初対面で暴言を吐くような殿方とのお見合いでは『わたくし、子守の採用試験に来たワケではありませんことよ?』と、婚約をお断りする文言が流行ったそうですわ。
どこかで聞いたようなセリフですが……不思議ですわね~?
――おしまい――
読んでくださり、ありがとうございました。
天然なお嬢様とその天然さを面白がってるお友達の会話でした。(((*≧艸≦)ププッ
まあ、実年齢より身体大きくて年上に見える子はいますからね~。某ボクちゃんは大慌てで教育されることでしょう。教育して適性なかったら、きっとぽっと出の長男君が出現したりするかもです。ꉂ(ˊᗜˋ*)
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