1章-4
何とか今日中に出来ました。一部変更と加筆してあります。感想お待ちしておりまーす!!
シェハラザードの告白の後、あたし達はいろいろな事を話した。
まず、お互いの一番の疑問であった“何故あたしとアレクの魂が融合してしまったのか”ということであるが、所詮仮定でしかないのだが、どうやらあたしとアレクはほぼ同時刻に死んでしまったらしい。そして死んでしまったときに生じた魂の欠損が本当にありえない偶然ではあるがアレクとあたしはお互いがピタリと補い合うように出来ていた。これは“精神情報”で確認したので間違いなく、あたしとアレクの魂はまるでパズルのように2魂で1魂という状態になっているそうだ。また蛇足ではあるが1魂となったあたし達の魂は、シェハラザードによると「黒真珠のように様々な変化を見せるのがとても綺麗で魅力的ですわ。精気も大変おいしゅうございますので神仙・妖魔の類には十分にお気をつけくださいw」とのこと。お願いだから舌なめずりしながら上目遣いでこっちを見ないでください!!
そして、あたしがこちらの次元に来てしまった理由・・・・これこそ推測でしかないのだが、多分車に刎ねられた途端にあたしの魂も肉体から大きく跳ばされてしまったのであろう。以前聞いた話ではあるが、次元の境目は思って居るより身近にあるようで、それに偶々タイミング良く入り込んでしまったのではないだろうか。あたしはこのことを教えてくれた親友のことを思い出し思わず笑みを浮かべながらシェハラザードに説明した。そんなあたしの顔を見ていたシェハラザードの頬が赤く染まったのは、気のせいだと全力でスルーしとく。
アレクシスは・・・あたしの中で懇々と眠りに落ちている。彼のほうが思考を司る魂にダメージが大きかったので、回復する為にひたすら肉体の主導権をあたしに委ねているようだ。肉体の無意識の反応や時折浮かぶ思考等はアレクの寝相や寝言に値するらしい。・・・ってか、もしアレクが起きたら所謂二重人格っていう状態になるんじゃないか?!ちょっと想像すると怖いのでアレクはもうちょーっと眠っていてくださいと心の中で手を合わせた。
さて、一通りあたしに起きた出来事を整理出来たところでアレクとシェハラザードの関係とずっと疑問だった【再生】や盗賊の一人がはなった火炎弾について説明を求める。シェハラザードも“精神情報”からあたしが居た世界にないモノであると理解しているので直ぐに答えてくれた。
アレクとシェハラザードの出会いは今から約1シークほど前に遡る。(ちなみに1年は13ヶ月で、1ラスは25日あると教えてもらった。融合しているのにアレクの持つ情報が引き出せないなんてなんて不便・・・)ある日、シェハラザードが大好物のピチュの実(桃に似た甘い果物。ドラゴンはこれに目がなく、猫にマタタビ、ドラゴンにピチュとされるほど見つけるとまっしぐらになってしまうそうだ)を美味しく頂いていると、運悪く荒くれ者のヘビモスに襲われ瀕死の重傷を負ってしまった。そこに偶々近くで狩りをしに来ていたアレクが助けに現れ、ヘビモスをフルボッコし追い返すとシェハラザードに血の契約をさせ自分の精気を分け与えて命を救ったそうである。
・・・何というイケメン設定。登場の仕方がそのまんま正義の味方じゃないか!同じ魂の筈なのに神様は不公平だーー!!・・・とイジケモードに入ろうとしたあたしはそこで、気になることをシェハラザードが言っていたのを思い出した。
「あのさ、シェラ。ヘビモスってもしかして巨大なイノシシみたいなモンスター?」
「はい。良くご存知ですね!!貴女様のいらっしゃった世界にもヘビモスは居たのですか?!」
「いやいや、想像上の生き物として描かれていたモンスターなんだけどね。でさ、ヘビモスって強いの?」
シェハラザードは先程とは違う理由で顔を紅潮させながら全身で肯定の意を示す。
「もちろんです!!ヘビモスはモンスターのランクで云うと中級種ですが、その中でも限りなく上級種に近い強さを持っています。嘗て2匹のヘビモスが7日間縄張り争いを続けた結果、大陸が割れたという文献が残されているぐらいです。」
彼女は大きく胸を張り、『どうだー!』という可愛いポーズをしているが、かえって気になる点が強調されてしまった。
「じゃあさ、何で盗賊相手にアレクは瀕死の重症を負ってしまったの?いくらシェラが人質にされたといってもさ、それだけ強いのなら何か対抗手段があったように感じるんだよね?」
あたしがその質問をすると、シェハラザードは胸を突かれたような痛々しい表情を浮かべた。
「・・・それは・・・」
シェハラザードはそこでいったん言葉を区切ると、何か逡巡するように目線をそらしたが、やがて覚悟を決めたようにあたしと目を合わせると続きを話しはじめた。
「そのことは先ほど貴女様が聞きたいと仰っていた【再生】【火炎弾】と関わってくることなので、一緒に説明させていただきます。まず、【再生】【火炎弾】といった能力は魔法と呼ばれる力でございます。この世界・・・アンティスと呼ばれていますが、アンティスに存在する全てのものには魔力が満ちており、無論人も例外ではございません。人は自分の体内にある魔力=生命エネルギーを変換しあのような力を生み出すのです。しかし、人は直接魔力を放出する事ができません。身体の中で一番鋭敏といわれる感覚器官・・・掌に、放出口として魔力を収束する性質のある石“魔晶石”を組み込んだ“魔道陣”が触れていることで初めて発動するのです。そして“魔道陣”とは収束された魔力に力の方向性を付ける役割を果たします。なので先程の魔法はそれぞれ【再生】と【火炎】の陣が組まれていたのです。先程魔力とは生命エネルギーと同義とお話しましたが、このため人はどうしても魔力を使い続けるのに限界があります。ですが、人の中でとある民族だけがこの理を外れて自分の魔力以上の力を行使し続けることが出来ました。」
そこでシェハラザードは一息ついて、あたしの顔を確認してから更に言葉を紡いでいく。
「魔力はこの世界に存在するものに宿っています。その民族は魔力のことを“氣”と呼び、世界に満ちる“氣”を感じ体内に取り入れ体内で“氣を練る”と言う行為を行うことにより“魔道陣”を使う必要も、己の生命力を気にすることもなく魔法を使うことが出来たのです。」
「もしかして・・・それがヘビモスをフルボッコしたアレクの力の正体?」
「・・・はい。アレク様はその民族の数少ない生き残りです。」
シェハラザードの声が細かく震え、その瞳から堪え切れない涙がほおにゆっくりと伝っていた。
「その民族は確かに魔力の使い方は優れていましたが、他の人間に比べると遥かに体格や体力は恵まれていませんでした。ですが、他の民族にない特徴・・・黒目黒髪で、男女共に幾年を重ねてもとても若々しい姿を保っていたそうです。このため自在に使える魔力と共に不老の人種としてそれぞれの秘密を探る為に文字通り“狩り”の対象となってしまったのです。この民族の人たちは、何とか“狩り”を止めさせようと彼らが欲した魔力の使い方・・・世界に満ちる魔力を感じることさえ出来れば誰にでも簡単に身体に魔力を取り入れることが出来ると説明し、またそのやり方を教えようと試みたようですが、結局その努力は報われることはありませんでした。他の国々の人間は宗教や思想の違いからか、彼らの行っている事が全く理解できなかったのです。最終的にその民族の国が発見されてから滅亡するまで50シーク掛からなかったといわれています。・・・そして残った民も長い年月が経ち散り散りとなってしまい、最早純血の民族は全く居なくなってしまいました。辛うじてアレク様がいる隠れ里に僅かに身体的特徴と“氣”を操ることが出来る人が残っているだけです。また、こうした理由から盗賊に襲われたときにもアレク様は魔法を使うことが出来ませんでした。不用意に魔法を使うことで民族が生き残っている隠れ里が発覚する事を何よりも恐れた為です。」
さっきから胸が、抉るように痛い。血の気がどんどん引いていって酷い耳鳴りがする。
・・・ああ、アレクの心が啼いているんだ・・・・先祖の受けた苦しみを思い、隠れなくては生きていけない、滅ぼされる恐怖を思って啼いている・・・・
「アレク様の民族の失われた国の名を“ワ”国と言い、国名に因み“ワ”名を生まれた時に与えられます。そしてアレク様の“ワ”名・・・真名は“ムトー・シノブ”様と言います。」
そこまで聞いたあたしはもう耐えられなかった。真っ青になった顔を隠そうとして震える両手を顔に当てて必死に動揺を抑えようとしたが結局失敗してしまった。振り絞るように出した声は思っていた以上に掠れて、まるで老人のようだった。
「・・・あたしが今知っていることを話すね。あたしの向こうでの名前ってさ“武藤 忍”っていうの・・・それとね“ワ”国という国名はあたしの居た世界では大昔に使われていた国の名前でね、向こうの国の言葉で国名を書くと“倭”というんだ。しかもその国は単一民族国家で、身体的特徴としてはほぼ全員“黒目黒髪”なの・・・勿論あたしもそう。そして、他の国の人からよく成人でも子供と間違えられるぐらい童顔な民族なんだ。・・・あたしも、向こうの世界の“倭国”の民だったんだよ・・・これってさ、本当に偶然なのかな?!あたしとアレクが融合したのってさ・・・?!!」
あたしの悲痛な声にシェハラザードは血の気を失った顔を向けた。
そして、あたし達の疑問に答えが返ってくることも当然なかったのだった。
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暫らく冷静になる為にお互い手にしていた水筒から水を口にし一息ついてから、あたしはシェハラザードはへ口を開いた。
「取り合えず、アレクがおもいっきしレッドリストに載っていて、見つかったら即乱獲&捕獲対象な危険に常に晒されているのはよーく理解した。でもね、いくら混血と言えアレクも“ワ”国の民の特徴を残しているんでしょ?あの馬車に乗り合わせていた人達は何も言わなかったけど?」
うん、そんな珍しい人が居たらあたしならまじまじ見ちゃうと思う。そんなあたしの質問に、シェラハザードは丁寧に教えてくれた。
「ええ、その事については左手首に嵌めているリストバンドに秘密があります。そのリストバンドは一見、【身体能力向上】の魔道陣がタイプ別に3種類組まれていますが、実際は残り2つは巧妙に【魔力封印】と【外見変化】の陣が隠されているのです。」
あたしは言われて自分の左手首を見てみると、革製のリストバンドの内側に碧みを帯びた半透明の魔晶石が均等に3つ配してあり、その石と革を固定するため銀で枠が嵌めてあった。そして枠には少しずつ違った紋様に文字を組み合わせた複雑な模様が掘り込まれていた。
「この【外見変化】の魔法のため、今のアレク様の外見はこのアンティスの一般的な青年に観えるようカモフラージュされているのです。」
シェハラザードは持っていた皮袋を開けると中から手鏡を取り出しあたしに差し出したので、受け取って鏡の中を覗き込んでみた。
ハニーブラウンの肩甲骨まで長さのある髪をざっくりと一つに結んだ、ライトグレーの大きな愛嬌のある瞳を持つ少年と目が合った。年の頃は15~16歳といったところか。鼻の上に散らばる薄いそばかすがより一層少年を幼く見せている。
「これがあたし?・・・なかなか可愛いねぇ!」
うん、印象は柴犬だ!わんこだ、わんこ!!もうぐりぐり頬ずりしたいぐらいカワユイ!!もしこんな子が弟でいたらもう構いたくって仕方が無いだろうなーと力いっぱい女目線で観察する。と、そんなあたしをジーッと見ていたシェラハザードが、「ですが!!」とぐいっとあたしの思考に割って入ってきた。
「アレク様の魅力はそんなもんじゃありません!!本当のお姿は・・・!!」
といって、リストバンドを思い切り引き抜いた。
「・・・・誰・・・・このイケメン・・・・????」
なんか、隣で「アレクシスさまーーー!!」という黄色い悲鳴が聞こえて物凄い力で抱き付かれているのが全く気にならないぐらいあたしは帰って鏡に映った姿に釘付けになってしまった。だが、どさくさ紛れに頬っぺたにチューをされるのは全力で拒否をする。
でもさ・・・なんだよこの顔。嫌味じゃなくて目が合ったら妊娠するっていうか、もう好きにしてー!って裸で抱き付きたくなる顔って、あたし初めて見たぞ。本当に何なんなの!この歩く性犯罪者誘発野郎はよ!!
アーモンドをもう少し横にスッと引き伸ばしたような、はっきりとした二重の切れ長の黒い瞳。その瞳の印象を決してきつくすることなく、だが強い意志を感じさせる細めの眉。高過ぎず、いっそ爽やかなぐらいすっと伸びた鼻梁。少し肉厚だがそれが抜群のフェロモンを漂わせる唇。そして東洋人のように肌理が細かく且つ健康的に日焼けしたみずみずしい肌が野性味を与え、然しながら癖の無い艶やかな黒髪が持つ清冽な雰囲気との完璧なバランスを取っていた。
しかもこんな色気ムンムンな顔をしてる癖にどう見ても高校生にしか見えないって事が更に犯罪者予備軍の幅を色々と大きく広げているような気がするのは気のせいではあるまい!!
判った!・・・こいつの体臭は絶対シトラスとかライムとかいう柑橘系だ!!そしてベットに入るとムスクとかいったオリエンタル系に変化するに違いない!!
心の中でよく解らない事をぼやきながら、全身全霊を持って『神様って絶対不公平だぁぁぁぁーー!!』と絶叫し、さっきから頑張って頬っぺたにキスする為迫りまくるシェラハザードを必死に押し留めつつも、もしかしたらアレクもこんな事ばっかりで自分の顔が嫌いになっちゃったから正反対の姿に変化してるのかもしれないと、ふと、そんなことが頭に浮かんでいたのであった。