1章-3 旅は道連れ?
今回、いわゆる15禁に相当するシーンがあります。不快に思われる方もいらっしゃるかと思いますので、苦手な方はスルーして下さいませ。
性別が変わって初めて友達が出来ました。でも、彼女は
「私はあなたの忠実なる僕です。何なりとお申し付けください、御主人様」
と言って聞きません。どうやってこれから接していったら良いでしょうか。お願いですから誰か教えてください。
********
「ケガは無い?大丈夫?」
あたしは傷の有無を確認する為そこで初めて声を掛けた女の子のだが、つい我を忘れてまじまじと観察し、そのあまりにもの超弩級の可愛らしさに目を剥いた。
憂いを帯びた輝く金色の瞳には零れ落ちそうな泪を湛え、それを縁取っている長い睫毛が泪でキラキラと光を帯び幻想的な雰囲気を出しており、また涙の痕が残っている白く円やかな頬は、本来なら薔薇色に染まっているであろうが先程与えられた恐怖の為か色を失ってその肌の白さを深めていたのだが、それが逆に幼い少女に年齢に不似合いなほどの色気を加味していた。そしてプックリとした形の良く艶々としたピンク色の唇はまるで何かを待ち望むかのごとく薄っすらと開かれていた。だが、何よりも腰まである彼女を彩る燃えるように美しく波打つ紅い髪が、それだけなら人形の如くとされそうな彼女に生命力という名の何よりも大切な輝きを添えていた。
『すげーー、此処まで来ると一種の芸術品だよね・・・』
あたしは彼女から目を放せないまま、ふと傾国の美女が存在するのなら、こんな子がなるのかもしれないと想像する。そりゃ、こんな子が目の前に居たら男だったら誰だって思わず奮いつきたくなるわな。女のあたしでも見ていると、何故だろう、こんなに胸がどきどきする・・・ってナ〇シカか?!!!!
でも、自分でボケ突っ込みしないと正気を保っていられないぐらいこの子の魅力はハンパない。まさに恐るべし!!少女!!!
そうか、見ているから拙いのか。んじゃあ、ざっと見たところ怪我はないようだしとおばさんの身体の確認をし、お互いの無事を祝福しあう。うん、おばさんとの会話はホッとする。
・・・・それにしても、もし俺が将来結婚するならば、こういった安らげるような包容力のある女性がいいよな・・・
・・・・・・ん?・・・あれ??なんかあたし今へんなこと考えていなかった?まっ、いいか。
一瞬頭に浮かんだ変なことを振り払うように二人背を向け他の怪我人の様子を見るために歩き始めると、後ろから小さく、本当に小さく声が聞こえた。
思わず振り返り二人を見ると声は女の子から発せられたもので、彼女はあたしをじっと睨み付けるように見つめ、やがて小さく喉を鳴らすと鈴を転がしたような声を上げつつ、こんな華奢な身体にどんだけ力があったんだという勢いでおもいっきし鳩尾にタックルをかましてきた。
「アレクシスさまーーーーーー!!よくご無事でーーーーー!!!」
「グホォ!!」
彼女はタックルをかますのと同時に力いっぱい鳩尾を突き上げそのままあたしを後ろに引き倒した。そして素早くあたしの腰の上に乗っかりマウントを取って固定する。・・・この子、ラグビー経験者か?いや、もしかして総合格闘技経験者か??
可憐な外見しているからといって中身も可憐とは限らないということは女やってる時に十分に知っていた筈なのにと、改めて思い知らされる万国共通の事実にあたしはそっと目頭を熱くした。だってさ、絶世の美少女がよ、(多分)年若いお兄ちゃんの上に馬乗りになって、挙句に
「アレク様の怪我はあたしの所為です!だからあたしが責任を持って必ず直しますから!」
と言ってくれるのは大変うれしいけれど、やってる事は人の上半身裸に剥いてますからね。どんな羞恥プレイですか。しかもどんな原理かは知らないけれど、おばさんは服の上からさっき【再生】って行為をしたってことは服を脱ぐ必要性ゼロってことじゃないかなぁ?
先程のタックルの影響でどうやら少し傷口開いたらしく、軽い貧血状態になりながら彼女の気が済むまで【再生】してもらってから後で事情聞いてみようと強く、強く心に決めたのだった。
********
結局、今日は野宿になりました。本当は誰もがこんな惨劇のあった場所から一刻も早く離れたいというのが本音なんだけど、あたしの他にも数人盗賊との戦闘で怪我をしてしまった人が居たため大事を取ることになったのだ。
で、あたしは絶世の美少女に手を引かれ、森の奥に連れて行かれています。なんかもう、他の皆さんの視線の痛いこと痛いこと・・・大丈夫です。あたし、身体は男でも中身は女だし(・・・・・orz)彼女は絶世の美女でもどう見ても小学生3~4年生ぐらいにしか見えません。あたしは子供を襲う趣味はないので絶対に間違い起きようがないですよ!
皆の居る場所から森へ80mほど奥に入り、誰の気配もしないのを確認してから彼女は歩みを止めてこちらに向き合うと、あたしの奥底を見通そうとするようにじっと目線を合わせ、ポツリと「これからする無礼をお許しください」と言うと、おもむろに足払いをかけてきた。
勿論あたしには彼女の動きは見えていたから躱そうとすれば可能だったのだが、いやに思い詰めた眼をしていたのが気になりされるがままになっていた。
尻餅をついたあたしの肩に少女の手が伸びる。その手の美しさに一瞬気が逸れたのを見計らっていたのか、ハッと彼女に意識を戻した時には唇と唇が合わさっていた。
『なに?なに?!なにぃ?!!』
混乱し制止の声を挙げようと口を開いた途端に少女の小さな舌が入り込んできた。あまりにもの自分の行動の迂闊さに、自分自身へこれでもかと呪咀と悪態を並びたてる。
永劫にも感じた出来事は、実際はほんの一瞬で幕を閉じた。少女の肩を掴みベリッという効果音が聞こえる勢いで引き剥がす。
「ああああああのね!何でこんな事しちゃうのか解らないけど、子供がこんな事するしちゃいけないから!!あなたは知らないだろうけど、青少年保護条令っていうのがあってね・・・・・!」
顔を真っ赤にしながらも全身に冷や汗が流れるという矛盾が起きているのを自覚しながら、必死に言い募ろうとしたあたしを彼女は素早く土下座することで押し止めた。
「・・・・・誠に申し訳ありません。ご立腹になるのを承知の上確かめたいことがあり、彼方様が動揺するような事をわざと致しました。」
顔を地面に確りと付けているため全く見えないが、聴こえる声はまるで泣いているかのように細かく震えていた。落ち着くため、一つ息を吐くと、それに合わせて彼女の肩がビクリと震える。
「分かった・・・。とりあえず土下座を止めて顔を上げて。そこまでして何を確かめたかったの・・・?あなたが“アレクシス様”と呼ぶこの人のことについてかな?」
そうであろうと思いながら口にしてみた。この子はあたしがこの身体に入り込んでいることを知っている。
彼女はしっかりとあたしの瞳を見つめてながらあたしに対して話をしていった。
「まず、私はこの様な姿はしておりますが人ではございません。アレクシス・キース様にお仕えする使役竜のシェハラザートと申します。先程の行為は彼方様を動揺させる事によって“精神情報”を得易くするため致しました。」
そこで彼女は言葉を区切ると確認するかのようにあたしの様子を伺う。それに軽く頷く事で話を先に促す。
「実はアレク様が盗賊との戦闘で負った怪我は致命傷でした。・・・幾ら能力の高い【再生】を行っても助かる状態ではありませんでした。ですがアレク様は助かり、そしてその後の戦闘で見せた能力。アレク様は確かに戦い慣れていた方でございましたが、明らかにアレク様の身体能力を越えた動きをされていたのです。また、治癒能力も然り。あの女性ごときの【再生】では到底動けるはずもないのに彼方様は悠々と動いていらっしゃった。・・・アレク様が目覚めるまでに何かがあったのは間違いないのです。私はある事を仮定し、それを確認するため彼方様の“精神情報”を取得させていただきました。」
「あのね、“精神情報”って何のことかな?」
あたしは何度か話の中に出てくる言葉に疑問を感じ言葉を挟んだ。また、その情報を取る為に何故キスをする事が必要なのかも一緒に聞いてみる。
「はい、“精神情報”とは“魂の情報”を指します。人が一人一人声紋、指紋、動脈、姿形等が違うように魂もさまざまな色や形があり誰一人として同じになることはありません。また魂と肉体は密接に結びついており、例えば無理やり肉体に憑依しようとしても肉体が拒否反応を示すため、気絶又は自傷行為を繰り返すのです。ですが彼方様は何れの行為もせず、それどころかアレク様とよく馴染んでいらっしゃる。実は“魂の情報”と“肉体の結びつき”を的確に調べる為には接吻もしくは生殖行為といった相手と強く結びつくような行動が一番効率が良いのです。そして調べた結果、アレク様と彼方様の“精神情報”は色彩こそ違えども魂の形は全く一緒でございました。」
そこまでいうと、彼女はあたしを慈しみに満ちた目で見つめ深々と頭を下げた。
「この度は、大切な主であるアレクシス様の命を救ってくださり誠にありがとうございました、異世界の娘よ。いえ、違う次元で生まれたアレクシス様。貴女が重なってくれたお陰でこうしてこの方は生きている。あなたの魂の中で眠り続ける主に代わり御礼申し上げます。」
彼女のその心の篭った告白を、あたしは呆然としながらも不思議と納得して聞いていたのであった。