1章-1 目覚め
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もう感激で悶えそうですのーー!!!これからも、ちまちま頑張っていきますの!!
そこは悲しみが雨のように降り注いでいた。
自分の力の無さと不甲斐なさと心の弱さに絶望し、怨嗟の声を上げ呪詛を撒き散らす
胸を掻き毟り血を流し、救いを求めながらも救われるわけ無いとまた絶望する
例え救ってくれるものが居たとしても、救われたことに絶望し、天を地を呪い続ける
それが、ただ延々と繰り返されるだけ
・・・・ああ・・・・あそこに居るのは あたしだ
見るも醜悪な光景が広がる中、あたしはむしろ懐かしさの余りに1歩、また1歩と歩みを進めて行った。
この感情は良く知っている。むしろ今もあたしの奥底に息づいている。
でもね、それ以外も教えてもらったから。もっと柔らかくて、暖かいものも知っているから。
まだ、暖かいものは小さいけれども、でもこんなにもあたしの中に息づいている。
あたしは、天に向かって血を吐くような叫びを上げ続けるあたしにゆっくりと手を伸ばした。
この手が届くように
伝わるように
淋しくないように
人が 世界が 自分が 少しは好きになれるように 祈りながら
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水面から引き揚げられるように意識が浮上してくるのと共に、徐々に聴覚が周りの音を拾い始めてきた。
金属同士が激しくぶつかり合う音、男女の大きな悲鳴、耳障りな怒声と全身を包む大きな振動。
余りにも今まで聞いた事が無い音の羅列に違和感を感じて目を開けたら、目の前に広がるありえない光景に我が目を疑った。恐怖の余りに悲鳴を上げようとして口を開いた途端に自分が全く呼吸をしていないことに今更ながら気づいて、息を吸おうとした瞬間、空気の変わりにドロッとした生暖かい鉄錆のようなものが喉いっぱいに広がり反射的に僅かに残っていた肺の空気と一緒におもいっきし吐き出していた。
「グガェ!・・・ガハ ゴフッゴホ・・・ゲホ!!」
「良かった・・・良かった!!気がついたんだね。大丈夫かい?!しっかりおしよ!」
涙で顔をクシャクシャにしたおばさんが、あたしの顔を見るなり一瞬ホッとしたような笑顔を見せて、あたしの胸の上にかざしていた両手を外し顔や口の周りについている血を震える手で拭い始めた。
「ちょっと待ってて。もうちょっとしたら動けるぐらい再生が終わるから」
そう言ってまたあたしの胸の上に手を翳す作業を開始する。と、何やらほんのりとその箇所が暖かくなり先程から胸部を中心に走っていた激しい痛みが薄れてきているのを感じて、強張っていた全身から力を抜きながらずっと感じていた目の前の大きな違和感について聞いてみることにした。
「・・・此処は・・・?何がどうなってるの・・・?」
先程交通事故にあったことは覚えているけれど、それと今の状況は余りに違いすぎている。そして何よりこのおばさんの着ている洋服が確か18世紀後半ぐらいのヨーロッパでよく庶民が着ていたスタイルに良く似ていた。おばさんが言っていた【再生】という言葉と行動に然り、少し離れたところで今現在行われている残虐行為に然り、確認しなくてはならないことが沢山ある。
「あんた、さっきまで自分がしたこと覚えていないのかい?」
おばさんは一瞬信じられないものを見たかのようにあたしを見た後、何かを堪えるように目を細め続きを口にした。
「あんたは、さっき殺されかけたんだよ。あたし達が乗っていた乗合馬車が盗賊に襲われてね。あんたは真っ先に飛び出して何人か殺してくれたけれど女の子を人質に捕られたんだ・・・。それで身動き取れなくなったところを前から斬られちまったのさ。でも、この傷でよくあんた生きていたね・・・」
そう淡々と口にするおばさんを尻目にあたしは何気なく告げられた信じられない内容に文字通り思考が停止状態に追いやられてしまった。
ちょっと待て、この人今あたしが人を殺したって言ったよな?殺したって言ったよな!あたしは殺してなんかいない!そんな記憶は持っていないしそれは絶対断言できる。じゃあ、この人は何でこんなこといったんだ?いや、それより、一番の違和感はこの声だ。自分自身で認識している声は身体で感じている分本来より低く聞こえるが、それにしてもこれは余りにも低すぎる。・・・そう、この声はまるで
そこまで考えたところで、おばさんの後ろに変な光が差し込むのが見えた。ついで、唇を大きく歪ませ血走った目をしている男が今まさに大きく剣を振り下ろそうとしている姿がスローモーションのように視界に入る。
その途端あたしの体は脊髄反射のように反応していた。おばさんの身体を横に転がした瞬間、全身をバネのように撓らせ起き上がったと同時に男に向かって間合いを詰める。驚愕の表情を浮かべている男の手首に手刀を叩き込み剣を奪い取るとがら空きになった胴体部に短い呼氣と共に掌底を叩き込んだ。その途端男の身体は3メートルほど後方に吹っ飛び、どんもりうって転がった後ピクリとも動かなくなった。
この間僅か1秒足らず。あたしは自分の仕出かした事が理解できず驚愕に目を見開き、おばさんは目の前で起きた光景にあんぐりと大きく口を開いた。そして、その余りのことに誰もが戦闘を止めてこちらをまじまじと注目している。と、漸く正気に返った盗賊のリーダーらしき男が怒りで顔を真っ赤にし、怒鳴りながらあたしに襲い掛かってきた。
「何しやがった、このクソ野郎ぉぉぉぉ!!!死にぞこないの餓鬼がーーーー!!!」
野郎・・・そう、野郎なの。一番の違和感はそれだったの。節張った掌、細身だが無駄なく付いた伸びやかな筋肉、大きく目線の上がった視界。重量ある剣を悠々持つことの出来る力。そして、青年よりは高く少年よりは低い声。
100人に質問しても全員が迷うことなく“男”と言う身体にあたしはなっていた。