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1章‐11 ファマグスタの長い1日 ⑥

 ダヴィドフが握っている棒に付いている珠へ宿る青い光が益々その邪悪な輝きを増すなか、あたしは彼が言った“ヴァジュラ”という一言で一連の思考の霞が晴れ渡るのを感じていた。


 あの、グリップの部分・・・どおりで見たことがあるはずだ。あれは家の近所のお寺に置いてあった金剛杵の一種類である―――宝珠杵とほぼ同じような形態をしている。

 そして、ヴァジュラは確か金剛杵の形をした神具で神の武器とされていた。この神具を使い、悪魔や阿修羅とも戦った武勇の神として有名なのは――雷神インドラ、日本名、帝釈天。・・・!!


 そこまで思い出したあたしは全身の血の気が引くのを感じたが、顔を上げると3人に聞こえるようにと限界まで声を振り絞った。


「みんな―――あの武器の能力は雷だ!!」


 それを聞いて、皆一瞬恐怖に顔を歪めるが、直ぐに気を取り直すとそれぞれ魔道陣を発動し全員を包み込めるようなシールドを展開する。

 展開が完了したとほぼ同時のタイミングで視界を青い光が埋め尽くしたと思った途端に轟音が轟き、防ぎきれなかった衝撃が断続的に全身を押しつぶしてきた。

 何とか第1撃を防ぎきったと思っても一向に攻撃の手は止まず、稲妻は断続的に4人を襲い掛かり続ける。

「クソッ!!こんなに強力な魔法使い続けたら命が幾らあっても足りねーぞ!!なんであいつ無事でいられるんだ?!」

 衝撃による苦痛と徐々に削られていく魔力という名の生命力にクリューガーが堪らず悲痛な声を上げる。見ると声を上げないよう歯を食いしばって堪えているが、モイラの顔も真っ青になり刻一刻と血の気が失われていた。


「なかなか粘るのう・・・」ダヴィドフの厭な声がこんな轟音の中耳に響く。奴はその瞳をあたしに向けると更に言葉を続けた。

「先程の剣を咄嗟に投げた事といい、今のヴァジュラの能力を見破ったことといい・・・お前は何者だ?正直に答えるのであらば、あの隠れている供物共々我が神に捧げてやろう。小僧のような毛色の変わったものも我が神の好まれる物だしの。」


 その言葉にあたしはギョッと眼を剥く。だが、それよりも傍らから異常な氣を感じて隣を見るとロイが完全にキレてしまったのか顔つきがかなり凶悪に変化し、それに身に纏う炎のオーラが赤を通り越し蒼に変化していた。


 そのキレっぷりにびっくりしていると、モイラとクリューガーが呆れ顔で

「・・・あーあー、やっこさん完全に御大の逆鱗に触れちまったな・・・」

「ほんとにね―――眼に入れても痛くないってぐらい可愛がっていた弟分でしょ?彼。昔から彼の件で何か悪い事言われると手が付けられなかったものね・・・溺愛もここまでくると正直鬱陶しいわよね・・・」とふかーーく溜息をついていた。


 あ、あのね、今結構シリアスな場面だと思うんだけど、何でそんなにリラックスしちゃったのかな??

 思いっきり戸惑っているあたしに笑いかけると二人は、「まぁ見ていなよ」とロイのほうを指し示した。

 ロイの魔力の変化に合わせて、シールドの一番外側を覆っていた光のシールドも一部がその形を変えていく。それはまるで小さな太陽のように変化すると眩いばかりに紅く光り輝き、そしてダヴィドフ目掛けて無数の光の矢を打ち放った。

 光の矢はあたし達を襲っていた稲妻を打ち砕くとダヴィドフにそのままの勢いで襲い掛かった。すると堪らず奴は稲妻を防御形態に変え自分の周りをプラズマで覆い尽くす。


「あれが、【紅焔】の最高形態、【プロメーテウスの矢】だ。炎系統の魔法の中では最高ランクの一つなんだが・・・」

「あの魔法ですら互角だなんて・・・閣下の魔力の残量からして持ってあと3分―――それまでに打開策を見つけなければ・・・」

 そう言って二人は顔を強張らせる。確かに、ダヴィドフを見ると魔法は拮抗しているが全然堪えた様子は見えない。それに対しロイは一秒毎に額に滲む冷や汗が増え、隠し切れない苦痛の表情が見て取れた。

 

 正直、今この3人の内一人でも魔力が尽きてしまえばそれはここに居る全員の全滅を意味する。3人の持つ能力の絶妙なバランスによってあたし達は強力な稲妻からのダメージを必死に交わしている状態だ。ならば・・・・


 あたしは顔を上げ3人を見渡すと、はっきりとした口調で進言した。

「ロイ、すまないが一瞬でいい。強力な光で奴の視力を奪うことは出来ないか?」

「・・・ああ、それぐらいならいけるが―――お前、何を考えている?」

 先程の凶悪な表情を浮かべながら、ロイは射るような視線をあたしに向けて問いかけてくる。多分反対されるんだろうなーと思いながらも、躊躇い無く口を開いた。

「その隙を見て俺が直接ヴァジュラを攻撃する。おいおい、3人共言いたいことは分かるが考えてもみろ。今この状態で誰の手が空いている?それに俺より早く奴に辿り着ける人間は此処に居るのか?第一考えても見ろ、あんた達一人でも居なくなったら襲ってくるかもしれない稲妻からあの隠れている子供達を誰が守りぬく?」


 ぐっと詰まる彼らを改めてゆっくりと見渡しながら、一言一言意志を込めてあたしは訴えた。

「俺のことは大丈夫だ。俺の魔力は全部身体強化に組み替えてあるからこの中で一番丈夫だし、【再生】力が高まるよう陣を組み込んである。俺が攻撃するのが一番成功率が高いからやるんだ。」

「―――解った・・・」

 ロイはグッと奥歯を噛み締めると唸るように言葉を搾り出した。

確かに個人の持つ戦闘能力や現在置かれている状況を考えるとアレクシスが攻撃し、残り3人が防御に廻るしか方法は無い。判ってはいるが一番危険な行為を自分の弟とも思っている者に、いや何より事件に巻き込まれただけの民間人にさせるという事に自分の無力さを厭というほど思い知らされる。だが、そういった焦燥を胸の奥に押し込めるとロイはアレクシスを見つめた。


 あたしはそんなロイに苦笑しつつも、なるべく心配掛けないように笑いかける。

「そんな顔するなよ、ロイ。大丈夫だって、俺悪運だけは強いからな。調子に乗っている奴に一撃かましてくるよ。」

 覚悟が伝わったのか、ロイは一言「頼む」とだけ言うとダヴィドフに一層の注意を向け目くらましのタイミングを計り始め、それを確認したあたしは3人の居る場所からゆっくりと離れると右手に自分の氣を集めるイメージを浮かべた。

 ・・・大丈夫、アレクと一緒になったばっかりの時、まだ身体に漲る力の調整が利かなかった時には出来ていたこと・・・

 ふっと丹田に氣が満ちるのを感じたとき、ロイが放った閃光が世界を真っ白に染め上げた。

「うぉぉぉぉ?!何じゃ!!見えん!!」

 ダヴィドフが眼を庇い一瞬雷撃が止む期を違わず右手を力一杯地面に打ちこみ大地を打ち砕くと、その大きな地面を両手で掴み上げ全身の力を込めてダヴィドフに投げつけ、あたしはその投げた地面の陰になるように勢いよく飛び出すと、氣を練り上げつつ奴に向かっていった。


 途中で異変に気付いたダヴィドフは直ぐにヴァジュラを発動させるが、よりスピードの速い岩石の方に雷は落ちてゆく。その間を縫うようにしてあたしは距離と詰めると奴の持つヴァジュラに狙いを定めて拳を振り下ろした。

『あの稲妻と同じ氣の色をしたあの珠を砕けば確実に魔法を封じれる・・・!!』


 そのあたしの姿を見たダヴィドフが焦りと恐怖の色を浮かべる。それを見て自分の考えが確信に変わり、身体の全氣と体重を乗っけた拳をぶつけた―――


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