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日の当たる構成員

作者: 赤紫
掲載日:2026/02/02

第1章:光の檻

 五万人の歓声というのは、音ではない。それは質量を持った大気の振動であり、ステージの真ん中に立つ人間に物理的な衝撃として叩きつけられる。  無数のサイリウムが白い海のように揺れていた。ドームの天井まで埋め尽くされた光の粒一つひとつが、俺たちに向けられた熱狂であり、そして――俺たちを縛り付ける鎖の輝きでもあった。

「ありがとう、東京!」

 俺がマイクを通して叫ぶと、ドームが揺れるほどの轟音が返ってくる。バンドのアイコン的存在であるボーカリストとして、俺は完璧な笑顔を作っていた。汗が目に入り、視界が滲む。隣でギターをかき鳴らすメンバーも、恍惚とした表情で天井を仰いでいるように見えた。  だが、俺は知っている。彼もまた、この光の中で窒息しかけていることを。

 アンコールのラストナンバーが終わると、照明が落ち、俺たちは逃げ込むようにステージ裏へと捌けた。  耳鳴りが止まらない。スタッフたちが「お疲れ様です!」「最高でした!」とタオルや水を差し出してくる。その誰もが、俺たちを英雄のように扱った。日の当たる場所、成功者の頂点。俺たちは今、間違いなくそこにいた。

「いやあ、すごい入りだったな。今日の物販も過去最高益を更新しそうだ」

 楽屋へ戻る通路の途中で、その男は待っていた。  上質なスーツを着た初老の男。表向きは芸能事務所の役員だが、その実態は違う。彼らの背後には、表には出ない反社会勢力の組織が存在している。  男は愛想よく笑いながら、俺の肩を親しげに叩いた。その手つきは、優れた競走馬を撫でる馬主のそれだった。

「これだけ埋まれば、一本で数億は固い。お前たちは本当に孝行息子だよ」

 数億円。その単語が重石のように胃の腑に落ちた。  チケット代、グッズの売り上げ、スポンサー契約料。俺たちが喉を枯らし、魂を削って生み出したその莫大な興行収入は、俺たちの懐や音楽活動への再投資には回らない。その多くは、彼ら反社会勢力の活動資金源として吸い上げられていくのだ。

 俺たちの歌が、誰かを脅すための拳銃に変わる。  俺たちのパフォーマンスが、違法な薬物の仕入れ値になる。  ファンの純粋な愛が、夜の街の暴力へと変換されていく。

「……どうも」

 俺は短く答え、視線を逸らした。裏方を知ってしまってからというもの、精神がヤスリで削られるような日々が続いている。  きらびやかな衣装を脱ぎ捨て、冷房の効いた楽屋のソファに沈み込む。鏡に映った自分は、数万人を熱狂させたスターの顔をしていたが、中身はただの集金システムの一部に過ぎない。俺は、日の当たる場所に立たされた「構成員」なのだ。

 メイクを落としながら、俺は鏡の中の自分に問いかける。いつまでこれを続ければいい?  だが、絶望の中にも一筋だけ、倒錯した希望があった。

 どんな人気バンドも永遠ではない。過去の事例から見ても、俺たちのようなバンドは数年で飽きられるだろうという予測だけが、唯一の救いだった。  人気が落ちれば、資金源としての価値がなくなる。そうすれば、この鳥籠から放り出してもらえるかもしれない。

「早く、終わってくれ」

 俺は誰にも聞こえない声で呟いた。  事務所はすでに、次に売り出すアイドルグループのオーディションを始めているという。俺たちバンドメンバーは皆、密かに願っていた。その顔も知らぬ少女たちが早くスターになり、俺たちに取って代わってくれることを。

 しかし皮肉なことに、明日のスケジュールには、大ヒットアニメの主題歌制作の打ち合わせが入っている。光は増すばかりで、それに比例して足元の影もまた、濃く深くなろうとしていた。


第2章:黄金の賛美歌

 防音壁に囲まれたレコーディングブースの中は、真空のように静かだった。ヘッドフォンから流れるクリック音だけが、俺の心拍数を管理している。  マイクの前に立ち、手元の歌詞カードに目を落とす。そこには「希望」「絆」「未来」といった、今の俺が最も口にするのを躊躇う言葉たちが並んでいた。

「――じゃあ、サビから行こうか。もっとエモーショナルに、世界を救う主人公の気持ちで頼むよ」

 ガラスの向こうで、プロデューサーが明るい声で指示を出す。  今回の新曲は、社会現象になりつつある大ヒットアニメの第2期オープニングテーマだ。このタイアップが決まった時点で、ミリオンセラーは約束されたようなものだった。  俺は深く息を吸い込み、腹の底から声を絞り出す。

「闇を切り裂いて、僕らは明日へ走る――」

 皮肉なものだ。俺が歌う「闇を切り裂く」声が、現実世界では闇を肥え太らせるための養分になる。  テイクを重ねるごとに、ブースの向こうの大人たちは興奮の色を隠せなくなっていた。「素晴らしい」「これは間違いなく今年の代表曲になる」。彼らの称賛は、俺にとっては死刑判決の読み上げのように響く。

 ヒットすればするほど、俺たちの商品価値は高騰する。それはつまり、組織が俺たちを手放さなくなることを意味していた。  わざと音を外そうか。感情を込めずに歌って、凡庸な作品にしてしまおうか。マイクに向かうたび、そんな誘惑が脳裏をよぎる。  だが、長年染み付いたボーカリストとしてのさがが、それを許さなかった。音が鳴れば、身体は勝手に最高のパフォーマンスを紡ぎ出してしまう。俺の才能は、俺自身の意志を裏切って、組織のために黄金を生み出し続けているのだ。

「お疲れ様。最高の出来だったよ」

 ブースを出ると、ソファに深々と腰掛けていた男が立ち上がった。昨日のライブ会場にもいた、事務所の役員――組織の人間だ。  彼は満足げに頷きながら、ミネラルウォーターを俺に差し出した。

「アニメの版権ビジネスはでかいからな。海外配信の契約料だけで、昨日のドーム公演の利益を超えるかもしれん。お前は本当に『持ってる』男だよ」

 男の頭の中では、俺の歌声はすでに円やドルの札束に換算されているようだった。  俺は礼も言わずにボトルを受け取り、冷たい水を喉に流し込んだ。胃の中で冷気が広がるが、胸の焼けつくような不快感は消えない。  時折こうして接触してくる彼らは、決して声を荒げたり暴力を振るったりはしない。ただ淡々と、ビジネスパートナーとして接してくる。その日常的な光景こそが、俺が犯罪の片棒を担いでいるという事実を逃げ場のないものにしていた。

 休憩室へ向かうと、喫煙所でベースの男が紫煙をくゆらせていた。彼もまた、新曲のベースラインが「売れ線すぎる」ことに頭を抱えていた。

「……聞いたか? 今度のオーディション、応募総数が過去最高らしいぞ」

 彼が小声で言ったのは、事務所が社運を賭けて準備している新人アイドルグループのことだった。  俺たちの「後釜」候補たち。  俺は少しだけ救われた気分で、曇った窓の外を眺めた。

「そうか。……いい子が見つかるといいな」

「ああ。とびきり可愛くて、誰からも愛されて、俺たちなんかすぐに過去の遺物にしてくれるような、そんなスターがな」

 俺たちは顔を見合わせ、自虐的な笑みを浮かべた。  自分たちのバンドが数年で飽きられること。そして、新しいアイドルが台頭し、組織の関心がそちらへ移ること。  それだけが、この日の当たる地獄から抜け出すための唯一の希望だった。

 だが、ブースからはエンジニアが新曲のラフミックスを再生する音が漏れ聞こえてくる。  悔しいほどに完成されたそのメロディは、俺たちの願いを嘲笑うかのように、大ヒットの予感を孕んで鳴り響いていた。


第3章:汚れた歯車

 数日後、俺は事務所の応接室の前に立っていた。中から怒声が響いてくる。防音扉を突き抜けてくるその声は、先日「孝行息子」と俺を褒め称えたあの役員のものだった。

「てめぇ、どういうつもりだ!」

 俺はドアノブにかけた手を止めた。  聞こえてくる話の内容は、今週末に控えた地方公演の会場設営に関するトラブルだった。  大掛かりなステージセットを組む際、人手が足りずに組織の若い衆――つまり、本職のヤクザの若者たちがスタッフとして駆り出されていたらしい。  彼らが担当したのはパイプ椅子を並べるだけの単純作業だったが、その中の一人が、同じくアルバイトで来ていた大学生の動きが遅いことに腹を立て、大声で怒鳴り散らしたというのだ。

「刺青が見えるような格好で作業したうえ、アルバイトを大声で怒鳴っただと! SNSに『○○のコンサートスタッフに反社がいた』なんて書かれたらどう落とし前付けるつもりだ!」

 役員の怒りは、暴力そのものよりも「表の顔」に泥を塗られた点に向けられていた。  怒鳴られた大学生は恐怖のあまり、その日の時給も受け取らずに逃げ帰ったという。もしその学生がネットに書き込めば、俺たちが築き上げた虚構の城は一瞬で炎上する。  俺は、自分がその「城」の主であることがたまらなく恥ずかしかった。俺たちの華やかなステージは、恐怖に怯えて逃げ出した学生の犠牲の上に成り立っている。

 しばらくして、頬を腫らした若い男が部屋から出てきた。俺と目が合うと、彼はバツが悪そうに視線を逸らし、逃げるように廊下を去っていった。  入れ違いに入室するのは気まずい。俺は用件をメールで済ませることにして、逃げるように地下駐車場へと向かった。

 送迎車に乗り込むと、運転席にはいつものドライバーではなく、茶髪の若い男が座っていた。彼もまた、組織の息がかかった人間だ。  バックミラー越しに俺の顔を見た男が、馴れ馴れしい口調で話しかけてくる。

「へへ、お疲れっす。なんか顔色悪いっすねえ」

 連日のレコーディングと、先ほどの怒声を聞いたストレスで、俺の顔は土気色をしていたに違いない。  男はコンソールボックスをごそごそと探ると、小さなパケ袋を俺の方へ差し出した。

「これ、いいっすよ。一発でシャキッとするんで」

 透明な袋に入った白い粉末。どう見ても市販の風邪薬ではない。違法な薬物だった。  俺の背筋に冷たいものが走った。  こんなものを所持していることがバレれば、俺のミュージシャン生命が終わるだけでは済まない。組織に弱みを握られ、死ぬまで搾取され続ける「完全な奴隷」になってしまう。さらに、今ここで騒ぎ立てて役員の耳に入れば、さっきの設営スタッフのように、この運転手がどんな制裁を受けるかわからない。

 目の前の男は、親切心のつもりなのか、それとも俺を同じ穴のむじなに引きずり込みたいのか。  俺は震える手でそのパケ袋を掴むと、運転席の男の胸元へ強引に押し返した。

「……いらない。二度と出すな」

 俺は車を降り、ドアを叩きつけるように閉めた。  背後でウィンドウが下がる音がして、男の低い声が聞こえた。

「チッ、調子に乗るなよ、お飾りが!」

 その言葉は、鋭利な刃物のように俺の胸に突き刺さった。  お飾り。それが俺の正体だ。  刺青を隠して椅子を並べる男たちと、光を浴びて歌う俺。役割が違うだけで、俺たちは同じ組織の末端構成員に過ぎない。  走り去る車のテールランプを見送りながら、俺はアスファルトに唾を吐き捨てたい衝動を必死に飲み込んだ。


終章:無垢なる救世主

 その日の午後、俺は事務所の地下にある第3レッスンスタジオに呼び出されていた。  分厚い防音扉を開けると、空調の効いた涼しい部屋のはずなのに、むせ返るような熱気と若い汗の匂いが充満していた。

「おう、来たか。見ろよ、今回の『商品』は粒ぞろいだぞ」

 マジックミラー越しにスタジオ内を見下ろす調整室で、例の役員がパイプ椅子に踏ん反り返っていた。手には候補者のプロフィールシートが束になって握られている。  俺は彼の隣に立ち、ガラスの向こう側へと視線を落とした。

 そこには、胸に番号の書かれたゼッケンをつけた二十名ほどの少女たちが整列していた。  年齢は中学生から高校生くらいだろうか。誰もが手足が長く、肌は発光するように白く、瞳には「絶対にスターになる」という飢えた光が宿っている。  課題曲のイントロが流れると、彼女たちは弾かれたように踊り出した。

 ――凄い。  素人の俺が見ても、そのレベルの高さは一目瞭然だった。髪を振り乱し、指先まで神経の行き届いたダンス。揃えられたステップが床を叩くたび、スタジオの空気が振動する。  彼女たちはまだ知らないのだ。その情熱が、誰の懐を肥やすことになるのかを。純粋な夢が、社会の裏側でどのようなドス黒い金に変換されるのかを。

「特にあの真ん中の子、17番。ありゃ化けるぞ」

 役員が太い指でガラスを指した。  センターで踊る、ひときわ小柄な少女。だが、その存在感は圧倒的だった。激しい振り付けの最中でも笑顔を崩さず、視線は正確に「カメラ(見えない観客)」を射抜いている。  彼女がターンを決めるたび、周囲の空気が彼女を中心に渦巻くように見えた。

「歌唱力も申し分ない。握手会の対応テストも満点だ。あの子をセンターに据えて、デビューシングルで一気にチャート一位を獲りに行く」

 役員は獲物を狙う猛獣の目で笑った。「グッズ展開の計画書はもうできてる。初期投資は少しかかるが、半年で回収できる計算だ」

 俺はガラスに額を押し付けるようにして、その17番の少女を見つめた。  彼女の笑顔は、あまりにも眩しかった。その光は、俺たちバンドメンバーが失ってしまった「純粋さ」そのものだった。  彼女が売れれば売れるほど、組織の関心は俺たちから彼女たちへと移るだろう。  彼女がドームを満員にすれば、俺たちはその重荷を下ろして、ただの「過去のバンド」になれる。

 俺の心の中に、醜悪な安堵と、耐え難い罪悪感が同時に湧き上がった。  俺は、この無垢な少女に、自分の首輪を押し付けようとしているのだ。  彼女は俺たちの「救世主」であり、同時に俺たちの身代わりに闇へと捧げられる「生贄」でもあった。

「……彼女なら、ドームも夢じゃないですね」

 俺が掠れた声で同意すると、役員は満足げに頷いた。

「だろう? お前らの時代もそう長くはないかもしれんが、まあ、先輩としてしっかり道を作ってやってくれよ」

 曲が終わり、少女たちが一斉に肩で息をする。  17番の少女は、乱れた前髪を払うこともせず、マジックミラーの向こうにいる俺たちに向かって――自分を品定めする大人たちに向かって、今日一番の輝くような笑顔で一礼した。

 その笑顔を見て、俺は確信した。  終わる。俺たちの時代が終わる。  そして、彼女たちの「日の当たる地獄」が始まるのだ。

 俺はポケットの中で拳を握りしめ、心の中で彼女に詫びながら、同時にその成功を神に祈った。  ――頼む、俺たちよりも高く飛んでくれ。そして、俺たちを捨ててくれ。


番外:敗北への乾杯

 深夜二時。都心の夜景を一望できるタワーマンションの一室に、俺たちバンドメンバーの四人は集まっていた。  広すぎるリビングのテーブルには、一般人が一生かかっても拝めないようなヴィンテージワインと、コンビニで買ってきた安いスナック菓子が雑然と並んでいる。この部屋も、あのワインも、すべては俺たちが稼ぎ出した「黒い金」の余りカスで与えられたものだ。

「……また一位だ」

 ドラムの男がスマホの画面を見つめながら、葬式のような声で言った。  音楽配信チャートのリアルタイムランキング。俺たちが先日レコーディングしたあのアニメ主題歌が、リリースからわずか数時間で首位を独走しているのだ。

「クソッ、なんで飽きないんだよ、世間は」

 ギターの男がソファに突っ伏し、クッションに顔を埋めて呻いた。 「俺のギターソロ、わざと手癖全開でマンネリ気味に弾いたんだぞ? 『あいつら枯れたな』って言われたくて」 「それが逆に『原点回帰』だの『熟練の技』だのと評価されてるらしい。皮肉なもんだな」

 ベースの男が乾いた笑い声を上げながら、ワイングラスを揺らす。  通常、アーティストにとってチャート一位は至上の喜びだ。だが、この部屋にいる全員にとって、それは刑期の延長を意味していた。俺たちが稼ぎ続ける限り、あの「事務所」は俺たちを絶対に手放さない。反社会勢力の活動資金源という役割から、逃れることはできないのだ。

「なあ、覚えてるか? 五年前に解散した『グラス・ホッパー』のこと」

 俺が唐突に切り出すと、メンバー全員が懐かしそうな、そして羨望の眼差しを向けた。かつて一世を風靡したが、スキャンダルと楽曲の質の低下で瞬く間に人気を失い、表舞台から消えたバンドだ。

「ああ、覚えてるよ。あの当時は『あんなふうにはなりたくない』って笑ってたけどな」 「今じゃ彼らが勝ち組に見えるよ。完全に忘れ去られて、今はどこかの田舎で静かに暮らしてるらしい。……最高のハッピーエンドじゃないか」

 俺たちは深く溜息をついた。  人気が落ちる。飽きられる。忘れられる。それが今の俺たちにとって、唯一の「救い」であり、目指すべきゴールだった。

「そういえば、希望はあるぞ」

 重苦しい空気を破るように、ベースの男が身を乗り出した。 「マネージャーが電話で話してるのを盗み聞きしたんだが、今やってるアイドルオーディション、ものすごい逸材が見つかったらしい」

 その言葉に、死んだ魚のような目をしていたメンバーたちの表情が色めき立った。  事務所が次に売り出そうとしているアイドルグループ。俺たちの代わりとなる、新しい「金のなる木」だ。

「マジか? どんな子だ?」 「十年に一人の天才らしい。歌もダンスも完璧で、カリスマ性が半端じゃないとさ。事務所の上層部も、俺たちへの投資を減らして、あっちに全力を注ぐ計画を立て始めてるって」

「……頼む、売れてくれ」

 ギターの男が手を組み、天井に向かって祈り始めた。 「俺たちなんか比較にならないくらい、世界中を熱狂させてくれ。そして俺たちを『過去の人』にしてくれ」

「ああ。彼女たちがドームを埋めるようになれば、俺たちは用済みだ。契約更新なしで放り出されるかもしれない」 「そうなったら、小さなライブハウスで、客が十人くらいのライブをやろうぜ。誰の顔色も窺わず、ただ好きな音楽だけをやるんだ」

 それは、トップアーティストが語るにはあまりにも自虐的で、倒錯した夢だった。しかし、今の俺たちにとっては、それが最も輝かしい未来の形だった。

 俺はテーブルの上のグラスを手に取り、仲間たちを見渡した。

「じゃあ、乾杯しようか」

 何に? と視線で問う彼らに、俺は心からの願いを込めて言った。

「来たるべき、俺たちの『没落』に」

「「「没落に!」」」

 四つのグラスが重なり、澄んだ音が部屋に響いた。  窓の外には東京の煌びやかな夜景が広がっている。俺たちはその光が早く消え失せることを願いながら、苦いワインを喉に流し込んだ。

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