表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/40

22.神殿からの使者と次の任務

 その日の朝、わたしは宿舎で身支度をしていた。今日も訓練がある。グングニルの扱いも、だいぶ慣れてきた。


 部屋の外が落ち着かない。靴音が行ったり来たりしていた。廊下に出ると、レオとサイラスがすぐに駆けてくる。


「イリス!」

 

「どうしたの?」


「神殿から使いが来たらしい」

 サイラスが言った。

「お前を指名で」


「え? わたしを?」

「ああ。なんでも、虹色の瞳の者に会いたいと」

 わたしは、困惑した。神殿? 虹色の瞳?


「とにかく、団長が呼んでる。行こう」

 レオが言った。

 わたしたちは、兵団本部に向かった。


 本部の入り口に、白い長衣を着た人物が複数立っていた。神官だ。

 神官たちは、わたしを見た瞬間――

「おお……!」

 目を見開いた。


「……やはり。虹色の瞳」

 それだけ言って、神官は息を詰めた。次の瞬間、声が跳ねた。

「本当に……本当に、いらっしゃった!」

 神官のひとりが、わたしに駆け寄ってくる。


「なに? なに? なんなの?」

 わたしは、後ずさった。


「あなたさまこそ、御使(みつか)い様。天使様がお探しのお方! 」

「ふさわしい場所は神殿です! さあ、今すぐに!」


 手が伸びてきて、反射で一歩引いた。


「……やだ。やめて」


 その瞬間――

「そこまでだ」

 ダルジードの声が落ちた瞬間、グレイがわたしの前に出た。わたしの視界から神官の腕が消える。

「団長……グレイ……」


「神殿の者よ」

 ダルジードの声が、低い。

「ここは兵団の本部だ。勝手に団員に手を出すな」


「しかし! この方は! 天使様の――」


「帰れ」

 グレイの声が、冷たい。

 

「神殿の奴らを入れるな!」

 ダルジードが、周囲の兵士たちに命じた。


 兵士たちが、神官を取り囲む。

「お、お待ちを! 私どもは、ただ――」


「兵団は、神殿の支配下にはない」

 ダルジードが言い切った。

「イリスは、我が兵団の一員だ。お前たちに渡すつもりはない」


 神官は、悔しそうな顔をした。

「……わかりました。ですが、いずれ、御使い様は神殿に来られるでしょう。天使様がお待ちです」


 神官は、最後にわたしを見て、去っていった。

 わたしは、呆然としていた。


「イリス、大丈夫か?」

 グレイが、わたしの肩に手を置いた。

「う、うん……でも、なに、あれ」


「神殿は、昔から天使を崇拝している」

 ダルジードが説明する。

「天使は、昔、人々に様々な恩恵を与えた。この内殻の空が光るようにしたのも、天使だと言われている」


「天使……」


「そして、神殿には古い口伝が残っている」

 ダルジードが続ける。

「虹色の瞳を持つ者が現れた時、天使が再び人々の元に戻る、と」


 わたしは、自分の左目に手を当てた。

「だから、お前を連れて行こうとしたんだ」


「でも、団長は……」

「俺は、神殿の連中が気に食わん」

 ダルジードの口元が、少し歪む。

「天使の名を借りて、人を支配しようとする。お前は、兵団の一員だ。神殿に渡すつもりはない」


「ありがとうございます」

 

 その時――兵士の一人が、慌てて駆け込んできた。


「団長! 第三班と第五班から、連絡が途絶えました!」


「なに?」

 ダルジードの表情が変わった。

 本部が、ざわざわとざわめき始めた。


「詳しく報告しろ」

 ダルジードが、兵士に言った。


「はい。第三班と第五班は、三日前、王都の北西、外殻近くへの偵察任務に出ました。昨日の夕方には戻るはずでした。ですが、合図が一度もありません。」


「捜索は?」


「すでに出しましたが、手がかりなしです」


 ダルジードが、深く息をついた。

「わかった。グレイ、俺の執務室に来い」


「承知」

 ダルジードとグレイが、執務室へ向かう。

 わたしたちは、その場に残された。

「第三班と第五班……」

 レオが呟いた。


「どちらも、経験豊富な班だ」

 サイラスが言った。

「それが、帰ってこない」


 わたしは、不安になった。

 何が起きているんだろう。


 わたしたちは、廊下の隅で待っていた。


 しばらくして、グレイが執務室から出てきた。グレイの表情が、いつもより硬い。


「グレイ」

 レオが声をかけた。


 グレイが、わたしたちに気づく。

「お前たち、まだいたのか」


「何かあったんですか?」

 サイラスが聞いた。


 グレイは少し迷ってから、小さく頷いた。

「……ああ。少し、厄介なことになった」


 グレイが周りを見回す。他の兵士たちは、まだ本部の方で話し込んでいる。


「ついてこい」

 グレイが小声で言った。


 わたしたちは、グレイについて訓練場の隅へ移動した。誰もいない。


「団長が、魔獣の動きを分析した結果を教えてくれた」

 グレイが腕を組む。

「最近の魔獣の目撃情報には、共通点がある」


「共通点?」

 レオが聞く。


「ああ。全て、外殻近く、北西の方角だ。しかも、魔獣の種類が似ている。知恵持ちや、人語を話す魔獣が多い」


 外殻――成人の儀で出た、「外側」にある荒れた地だ。

 先日戦った、人語を話す魔獣の声がよぎる。


「つまり……」

 サイラスが言葉を継ぐ。

「魔獣を束ねている何者かがいる」


「そうだ」

 グレイが頷く。

「兵団は、それを覇王と呼んでいる」


「覇王……」

 わたしは呟いた。


「伝説じゃ、覇王は外殻に住む。兵団ではこの頃、伝説じゃなく事実だと考え始めた」


 レオが拳を握った。

「じゃあ、第三班と第五班は……」


「おそらく、覇王に捕まったか、殺されたか」

 グレイの声が、低い。

「団長は、次の手を考えている。だが、簡単じゃない。覇王がどれほどの力を持っているか、わからないからだ」


 わたしは、胸が締め付けられるような気持ちになった。

 二つの班が、帰ってこない。

 みんな、わたしたちと同じ兵団の仲間だ。


「俺たちに、行かせてください」

 レオが言った。


 グレイが、レオを見た。

「何?」


「俺たちに、覇王を倒しに行かせてください」

 レオの赤い目が、真剣だ。

「俺たちは、特別編成部隊です。強くなるために訓練してきました。仲間を助けたい。そして、覇王を倒したい」


「レオ……」

 グレイが眉をひそめる。

「お前たち、まだ新米だぞ」


「でも、やります」

 サイラスが言った。

「俺たちは、成長しました。グレイが言ったじゃないですか。三人でなら、どんな敵も倒せるって」


 グレイは、黙っていた。

 わたしは、グレイを見た。グレイの銀色の目が、揺れている。


「わたしも、行きたいです」

 わたしは言った。

「仲間を、助けたい」


 それに――わたしの左目が、また熱くなっている。覇王のところに、行かなきゃいけない。そんな気がする。


 グレイが、深く息をついた。

「……団長に、相談する」


 その日のうちに、わたしたちは執務室に呼ばれた。


「覇王討伐に志願したそうだな」

 団長が言う。


「はい」

 レオが真っ直ぐ答えた。


 サイラスも続ける。

「第三班と第五班の捜索。必要なら戦闘も。俺たちなら動けます」


 団長の赤紫の目が、わたしに向いた。

「イリス。お前は」


 わたしは一拍、息を整えた。

「……行きます。逃げない」


 団長が頷く。

「条件がある。グレイ同行。無理だと思ったら撤退。いいな」


「はい!」


「明朝出発だ。準備をしろ」


 執務室を出ると、廊下の空気がまだ落ち着いていなかった。神殿の白が残した気配と、帰らない班の重さ。


 背中のグングニルに触れる。手のひらが、そこだけ冷える。


 覇王。

 外殻。


 明日、そこへ行く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ