表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地味な次女は辺境に嫁ぎます!  作者: あけはる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/4

 一人で参加した屈辱のデピュタントから、数年。


 相変わらず、家での扱いは変わらなかった。


 姉のドレスは増え続け、

 使用人たちは姉の部屋に仕えることを名誉とした。


 私は、古びたお仕着せを自分で繕い、使用人にすら見下される日々。


 ある日、厨房から昼食が届かなかったことがあった。 理由を尋ねると、

「ユーリア様が特別なお客様を迎えておられるから、ミラ様のお食事は後回しとの指示です」

 と、料理を運んでいたメイドに、鼻で笑われた。


 空腹のまま自室に戻った私は、乾いたパンをかじって飢えをしのいだ。


 またある日は、

 庭で読書をしていた私に気づいた、姉の取り巻きの令嬢たちが、


「貴族のくせに、そんなところで一人でいるなんて惨めね」

「こんな方がユーリア様の妹だなんて、ありえないわ」


 クスクスと、あざ笑った。

 姉は止めるどころか、口元に手を添えて微笑みながら言った。


「まあまあ、静かにしてあげて。ミラにはミラの世界があるのよ」


 まるで路地裏で倒れかけている動物でも見るような、蔑んだ目だった。


 侯爵令嬢にはあるまじき扱い。それでも、ひとり黙って耐えていた。


 またある時は、


「ミラ? またそんな格好して。来客があるのよ。

 あなたがそこに立ってるだけで雰囲気が暗くなるわ、部屋に戻ってちょうだい」


 姉のユーリアは完璧な笑顔でそう言い放っ。


 一見、優雅なその言葉には、とげのような侮蔑が潜んでいる。


 客人の前では決して取り繕いを崩さない彼女の外面の良さは、社交界でも有名だった。

 そしてその裏で、私は何度もその笑顔の裏の毒に傷つけられてきた。


「……はい。わかりました」


 私は声を震わせることなく、静かに頭を下げ、足音を殺してその場を離れる。

 使用人が嘲笑をこらえるのを背中に感じながら、私は何も言わず自室へと戻った。


 部屋に閉じこもり、深く息を吐く。


 日常だった。もう、涙すら出なかった。


 姉が、私のなけなしのお仕着せに「うっかり」紅茶をこぼしたのは数日前。

 繕ったばかりの裾を台無しにされた。



 そんなある日。


 十七歳になったユーリアに、縁談が舞い込んだ。


「……バルト辺境伯令息? 北の田舎で、魔物と戦ってばかりの、戦闘狂と噂の? 冗談じゃないわ!」


 姉は、笑い飛ばした。


「私は王太子妃になるのよ。そんな下品な男の元になんて、行くわけがないわ!」


 私は、いつも通り何も言わずに、姉の尊大な言葉を聞いていた。

 しかしその日はなぜか姉の目に留まったのか、

「あら、ミラ、いたのね。 あ、そうだ、私いいことを思いついちゃった!」


そう美しい碧眼を細めて姉が言い放った言葉に、わが耳を疑った。


「あなたが嫁げばいいのよ、バルト辺境伯領に!

 ふふふっ、田舎とはいえ、贅沢言っちゃいけないわよねえ? お母様もそうお思いでしょう?」


 美しいピンクの唇を歪ませながら、そう笑った姉の言葉に、

 そのまま両親は賛同し、

 私の、バルト辺境伯令息レオンハルト様との婚約が決まったのだった―――



 翌週―――

 衣装の新調もなく、古びたトランクに、わずかな荷物を詰めた私は

 ひとり、ショーベルグ侯爵家の玄関扉の前に立っていた


 別れの言葉はなかった。


「ミラ、どんなことがあっても必ず婚約を続けなさい。もうお金はもらってしまったのだからね。」


 母はそう言った。

 私が馬車にのる前に振り返った時には、もう屋敷の中へ姿を消していた。


 涙は出なかった。

 私の中には、もう泣く心も残っていなかったのだろう。


 馬車が動き出す。


 その窓から見えるショーベルグ侯爵家の屋敷は、どこまでも遠く、冷たく、暗かった。


 そして私は、誰からも望まれずに、辺境へと嫁いでいく――。






次で完結予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ