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3話くらいで完結する予定です。
リューリク王国
――王都近郊に広大な領地と古い歴史を持つ、ショーベルグ侯爵家。
そこには二人の令嬢がいた。
一人は、金糸のような髪と碧眼を持つ、絶世の美姫。姉のユーリア・フォン・ショーベルグ。
そして、もう一人は・・・
茶色の髪に茶色の瞳、整ってはいるが、地味な妹。
それが、私、ミラ・フォン・ショーベルグだ。
ショーベルグ侯爵家において、光に照らされるのは常に、姉ユーリアだった。
社交界においても、侯爵家においても、ユーリアこそが期待の星。
「おお、なんと、美しい・・・!」「将来は王家の一員にも・・・!」
ユーリアより一年前に生まれた、リューリク王国の第一王子ウィリアム。
順当にいけば王太子、そして国王になるウィリアムの婚約者にユーリアを据えるため、
ショーベルグ侯爵と公爵夫人は、姉ユーリアに金を湯水のように注いだ。
ドレス、宝飾、マナー教師、魔法教師、舞踏教師――姉のためなら、惜しみなく、金が使われた。
その一方で、――
決して不器量ではないが、姉ほどは整っていない容姿、家ではどうであれ、
外面は天真爛漫で、愛らしい姉に比べ、地味で愛嬌のない妹。
私は、存在すら次第に薄れていった。
それを、象徴する出来事が、ミラのデェピュタントだった。
王妃主催の、夏の社交茶会――
それは、その年10歳になる貴族令嬢たちの、社交界デビューの場である。
ミラも、その日だけは光があたり、侯爵家令嬢としてデビューを迎えるはずだった。
しかし―――
姉のために増設された衣裳部屋の片隅。
見ただけで自分には似合わないとわかる、姉のお下がり。
姉が一度だけ着て、地味で気に入らない!と、しまい込まれていた、ピンクのドレス。
繊細なレースがふんだんに使われ、
確かに、金髪碧眼で愛らしいユーリアなら、たいそう映えただろう。
だが、寒色が似合う私には、まったく似つかわしくなかった。
ふんわりとしたピンクのドレスに目をやりながら、
「これがあるだけありがたいと思いなさい。
姉のために、家のために贅沢を言わないのが、あなたの務めよ」
そう、めんどくさそうに言い放った母の言葉に、ミラはもはや反論する気力も残っていなかった。
そして迎えた、
ミラが社交界デビューする当日。
「お姉様が……お熱を……?」
侍女が、申し訳なさそうに告げた言葉は、残酷なものだった。
「ええ、大事な大事なユーリアが大変なの。
お父様と一緒にちゃんと看病してあげなきゃいけないから、ミラは一人で行ってちょうだい」
さも当然かのようにそう母は言い放ち、お茶会に向かうミラを見送りもせず、
ユーリアの部屋へ足早に去っていった。
王妃主催の社交界デビューに、両親の付き添いがない令嬢など前代未聞。
そこかしこで笑われ、囁かれ、貴族たちの視線が痛かった。
誰も、私を歓迎していなかった。
誰も、私に声をかけることはなかった。
それでも、私は歯を食いしばり、ドレスの裾を踏まないよう慎重に歩き、
笑顔を、礼儀を忘れず、王妃殿下へ完璧なカーテシーを披露し挨拶をすませた。
そのあとは、壁の華になりなるべく目立たぬよう、やり過ごした。
そうするしかなかったのだ。




