第2話 猿の友達
冒険者になった俺の最初の仕事は、
森でモンスター退治だった。
――といっても。
目の前にいるのは、
足の短いうさぎ型モンスター三体。
ぴょこぴょこしている。
可愛い。
だが牙は普通に鋭い。
俺だけ汗だく。
「グレン、右に行ったー!」
テケテケテケテケテケテケ……
右へ走る短足うさぎ。
凄く足が遅い。
「見えてはいます!」
のっしのっしのっしのっし……
俺はそれ以上に遅い。
なんでだよ。
ドン!
短足うさぎの体当たり。
よろける。
樽のように転がる。
ゴロゴロゴロ。
腹で止まる。
……俺の腹はエアバッグか。
「その防御力は評価していいかも」
「褒めてないだろそれ!」
なんとか一体を斬る。
もう一体。
息が切れる。
三体目。
踏み込む。
重い。
でも踏み込む。
ザン。
倒れた。
戦闘終了。
俺は地面に寝転ぶ。
空が遠い。
「動けねえ……」
「まだ午前中だよー」
「初めてなんだから仕方ないだろ、ハアハア……」
くそう。
マナが無限にあっても、
肺活量は有限。
現実は――
森で転がるデブ。
そのとき。
ガサッ。
猿型モンスターが現れた。
俺は飛び起きて構える。
猿も構える。
……完コピ。
「なんだお前、鏡か?」
俺が剣を振る真似。
猿も振る。
俺が腹をさする。
猿も腹をさする。
俺が鼻をほじる。
猿も鼻をほじる。
「やめろ。共感するな」
テケテケテケテケテケテケ……
短足うさぎ一体出現。
猿が石を拾う。
ヒュッ。
奇跡的命中。
俺が斬る。
猿、ドヤ顔。
「……お前、俺より戦闘センスあるな?」
セレナが小声で言う。
「この子、目がいいわ」
「やめろ、俺より優秀扱いするな」
猿、胸ドン。
完全に自己紹介。
「名前つけて欲しいのか?」
猿の目がキラキラする。
妙に人間くさい。
前世で見た猿の映画を思い出す。
「……ワクさんでいいか?」
猿――ワクさんは満足げに頷いた。
右手を差し出してくる。
なぜ握手。
「ワクさん友達になるか」
俺たちは固い握手をした。
その瞬間。
ビリッ。
ほんの一瞬、手のひらが震えた。
「……気のせいか?」
ワクさんは何も言わない。
いや、猿だから元から喋らない。
*
翌朝。
森の入口。
人間くらいの大きさの猿が立っている。
無表情。
筋肉増量。
完全二足歩行。
……猿だ。
ただし。
妙に姿勢がいい
セレナが後ずさる。
「何あれ、めちゃくちゃ怖い」
すんごいこっち見てる。
俺は直感で分かった。
「ワクさん?」
コクン。
昨日より背筋が伸びている。
進化してる。
「グレン、昨日何かした?」
「してない……と思う」
ワクさんが当然の顔で俺の隣に立つ。
完全に仲間面。
そのまま五体の短足うさぎを、
木の棒一振りで撃破。
強い。
普通に強い。
「ちくしょう!」
無限マナ持ちのデブが、
猿に戦闘力で負ける世界。
どうなってる。
*
弱いモンスターを安心して倒せるようになった俺達は、
アイゼルを旅立ち、次の街へ向かうことにした。
親父は泣いていた。
「グレン、達者でやれよ!」
俺よりセレナの手を握りしめている。
「うちの息子を頼む!」
「なんで保護者ポジが私なの?」
謝礼まで渡してる。
完全に俺はおまけだ。
「ちょっと寂しいな」
思わず漏れる。
でも。
前に進む。
二人と一匹で。
*
夜。
ワクさんは木の上で寝ている。
セレナと俺、二人きり。
森の夜は静かだ。
セレナがぽつり。
「ねえ、グレン」
「なんだ」
「私、王女なんだよ」
「まじか」
「だからね」
「おう」
「女王様とおよび」
「その言い方すごく嫌なんですけど」
少し笑う。
でもすぐ真面目になる。
「私の国ね、結界があるんだけど」
「ふむ」
「もうすぐ寿命なんだ」
「……そうか」
「だから防衛に力入れてる。人材も足りない」
焚き火が揺れる。
「私も力になりたくて、サマーキャンプ中に抜け出してきたんだ」
「キャンプ感覚だったのか」
「魔道具で頑張ったのに、見つかったのがデブと猿」
「失礼だな、目の前にデブいるよ?」
少し笑う。
でもその後。
「もし迎えが来たらさ」
「うん」
「他人のフリしてね」
「……なんで」
「誘拐犯扱いで殺されるかも」
物騒だな王族。
少し間。
「あとね」
焚き火を見る。
「止めなくていいからね」
軽い声。
でも軽くない。
俺は少し黙る。
それから言う。
「まあ……お前が普通じゃないのは分かってた」
「え、そうなの?」
「辺境でこんな美人いない」
「なにそれ」
笑う。
俺も笑う。
それから少し真面目に言う。
「役に立たないデブだけどな」
「うん」
「エアバッグにはなる」
「それ自慢?」
「迎えが来るまで、全力で王女様守りますよ」
セレナが小さく笑う。
「うん、ありがとう」
それから。
「……でも女王様とおよび」
「嫌だ」
沈黙。
焚き火が弾ける。
「ねえ、グレン」
「ん?」
「強くなってね」
「ワクさんより?」
「その先」
「ハードル高いな」
「できるよ」
即答だった。
俺は少し驚く。
「なんで言い切れるんだよ」
「デブなのに、ちゃんと前に進んでるもん」
……ずるい。
俺は焚き火を見る。
無限マナ。
適性ゼロ。
デブ。
それでも。
このまま終わる気はない。
一歩前に踏み出している。
二人と一匹。
次の街へ。
そしてそこで――
俺たちは、新しい仲間と出会うことになる。
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