第11話 遠征初日
ヴァルク王国。
北門。
朝。
遠征隊が集まっていた。
騎士。
冒険者。
荷車。
補給部隊。
数百人。
北門の向こうは――
黒域。
湿地。
モンスターの巣。
一年かけて
ボスを倒しに行く遠征だ。
城壁の上には
見送りの人々が並んでいた。
クロエもいる。
ファイムもいる。
リリアナも。
クロエが言う。
「ここから先は黒域」
「私たちは行けないわ」
俺が聞く。
「魔道具作るんだっけ」
クロエが頷く。
「スタンピード対策」
「城の防衛装置」
「死ぬほど作ってやるわ」
ファイムが言う。
「私も残ります」
「クロエさんを手伝います」
リリアナが言う。
「私は魔法の練習!」
小さな拳を握る。
「困った時のために」
「ヒールできるようになる!」
俺が笑う。
「楽しみにしてる」
リリアナが少し泣きそうになる。
「グレン」
「死なないでね」
俺は頭を掻く。
「努力する」
クロエが言う。
「魔石足りなくなったら困るし」
「死ぬの禁止」
扱いが燃料だ。
そのとき。
隊長――カイトが声を上げた。
「遠征隊!」
「整列!!」
鎧の音。
武器の音。
北門が開く。
ギギギギ。
黒域の空気が流れ込む。
湿気。
腐臭。
黒い森。
カイトが言う。
「遠征期間」
「最大一年」
「ボスを討伐し」
「スタンピードを止め」
「街を守る!」
沈黙。
カイトが剣を掲げた。
「――出発!」
隊列が動く。
俺も歩き出す。
そのとき。
「グレン!」
振り返る。
リリアナが手を振っている。
ファイムも。
クロエも。
クロエが叫ぶ。
「死んだら実験できないからねー!」
台無しだ。
俺は手を振る。
門を出る。
黒域。
空気が変わる。
草が黒い。
鳥がいない。
静かすぎる。
隊列の先頭。
カイトが歩いている。
水色の髪。
細身の剣。
静かな背中。
俺は言う。
「隊長」
カイトが振り向く。
「なんですか」
「よろしく」
カイトは少し笑った。
「こちらこそ」
そして言う。
「死なないように」
「頑張りましょう」
遠征隊は
黒域へ入った。
一年の遠征が
始まった。
黒域。
遠征初日。
俺たちは湿地を進んでいた。
地面はぬかるみ。
足を取られる。
草は黒い。
空気が重い。
腐った水の匂い。
誰もあまり喋らない。
騎士の一人が言う。
「……静かすぎる」
別の騎士が答える。
「モンスターの気配もない」
カイトが言う。
「油断しないでください」
「黒域は」
「突然来ます」
その通りだった。
次の瞬間。
ズボッ。
地面が動いた。
泥の中から
巨大な影が飛び出す。
虫のようなモンスター。
兵士が叫ぶ。
「来た!」
剣が抜かれる。
戦闘。
騎士が斬る。
だが――
刃が弾かれる。
「硬い!」
モンスターが暴れる。
兵士が吹き飛ばされる。
そのとき。
カイトが動いた。
踏み込み。
斬。
一閃。
モンスターの体が
真っ二つになった。
沈黙。
騎士が呟く。
「……強い」
カイトは何も言わない。
ただ剣を払った。
遠征は続いた。
夜。
遠征隊は
小さな丘で野営することになった。
焚き火。
見張り。
簡易テント。
湿地の夜は寒い。
俺は地面に座る。
腹が鳴る。
ぐう。
隣にカイトが座った。
俺が言う。
「隊長」
「寝ないの?」
カイトが答える。
「魔眼は夜でも見えるので」
「見張り向きです」
俺が聞く。
「便利だな」
カイトは少し考える。
「でも」
「未来は数秒先しか見えません」
「魔力消費が激しいので」
「1日に使える時間は5分程度」
俺が首を傾げる。
「十分じゃねえか」
カイトが聞く。
「グレン」
「冒険者は少ない」
「君はどうして遠征に?」
生きて帰って来れるかわからないから。
俺は答える。
「なんとなく」
カイトが言う。
「嘘ですね」
鋭い。
俺は腹を叩く。
「街守りたいんだよ」
「なんとなく」
カイトが少し笑う。
「本当に」
「面白い人ですね」
そのとき。
カイトの目が光った。
魔眼。
カイトが立つ。
「来る」
次の瞬間。
森が揺れた。
大量の影。
騎士が叫ぶ。
「モンスター群れだ!」
夜襲だった。
遠征初日の夜。
黒域は
甘くなかった。
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