第1話 俺、変われる?
その世界には――
無限のマナを持ちながら魔法が使えない男がいた。
しかも、デブだ。
* * *
ここは、
マナが枯渇した世界。
人の魔法は、
もはや豆鉄砲。
モンスターは増え続けている。
それでも――
戦う者はいる。
モンスターの群れが押し寄せる。
先頭に水色髪の少年。
紫の瞳が光った。
踏み込む。
剣閃。
三体の魔物が同時に崩れ落ちた。
だが、
別の魔物の爪が肩を掠める。
白銀の少女が前に出る。
「ヒール」
淡い光が傷を包み、
血が止まる。
背後には、
魔法使いの青年。
巨大な魔法陣が展開されていた。
「フレアリミット」
四元素が重なり、空を焼く。
中央。
長身の剣士が立っている。
一歩踏み出す。
刃にだけ、
莫大なマナが集中する。
一閃。
巨大な魔物が両断された。
静寂。
四人が並ぶ。
完璧な連携。
――その剣士の瞳だけが、
ほんの一瞬、揺れていた。
* * *
三年前。
大陸の外れ、アイゼル。
武器屋の入口に、
太りすぎてハマっている男がいた。
もちろん俺だ。
「いらっしゃいませー!」
「……店の中、見えないんですけど」
抜けない。
客がタックルする。
跳ね返る。
父が怒鳴る。
「クビだ!!」
俺はグレン・グラム。
武器屋の次男坊。
そして――デブだ。
俺には前世の記憶がある。
日本で生まれ、
平凡に働き、
平凡に太った。
俺の人生は、
「どうせ」でできていた。
どうせ無理。
どうせ続かない。
どうせ俺なんか。
挑戦する前に諦めていた。
失敗するくらいなら、
何もしない方が楽だった。
そのまま死んだ。
変わりたかった。
もし次があるなら、
ちゃんと生きたかった。
――なのに。
また太っている。
何も変わっていない。
俺は、自分を諦めたまま
もう一度人生をやり直している。
* * *
気分転換に観に行った亀レース。
隣の少女が、全財産を賭けていた。
五番。
スリーピングストーン。
寝ている。
スタート。
動かない。
起きた。
逆走した。
少女の財布は空になった。
……ああはなりたくない。
腹が鳴る。
俺は食堂へ向かった。
大盛りナポリタンを食べていると、
さっきの少女が向かいに座る。
「それ、おいしいの?」
半分やった。
少女は嬉しそうに笑った。
そして荷物から、水晶玉を取り出す。
「鑑定してあげる」
なぜ?
まあいいか。
魔法適性――なし。
戦士適性――あり。
最後に、マナ量。
水晶が震える。
光る。
白く染まる。
店内のランプが一瞬、消えた。
ピシリ。
亀裂が走る。
少女の顔色が変わる。
「……計測不能」
「は?」
「こんな量、見たことない」
俺は魔法が使えない。
適性がない。
なのに。
マナだけは、異常。
ということか。
少女が俺の手を掴む。
「あなた、自分を諦めてない?」
図星だった。
俺はずっと、自分から目を逸らしてきた。
どうせ無理だと、
先に決めつけてきた。
「変われるわよ」
少女の目は、本気だった。
俺は自分の腹を見る。
重い身体。
鈍い足。
自信のない心。
……それでも。
「いきなりは無理だぞ」
「わかってるわ」
少女は笑う。
「一歩踏み出してみましょう?」
俺は立ち上がった。
逃げるのは、もうやめたい。
「……冒険者、なってみるか」
少女が頷く。
俺は思う。
――俺、変われる?
それが、
俺が変わる最初の一歩だった。
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