表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/18

6話 定食は化け物で

「……は?」


 驚きのあまり、朔の口からこぼれた一言。


 足元に広がる、生ぬるい血の匂い。

 視線の先には、力なく倒れ伏す鏡屋の姿。


「鏡屋……さん?」


 声をかけても返事はない。

 ただ、赤黒い血が石畳を染めていくだけだった。


「はははははははっ! さっきまで僕のことをあれほど煽ってたくせに、一撃で死ぬなんて!」


 三穂津は倒れている鏡屋を指差し、腹を抱えて笑う。


「その辺の羽虫でも、もうちょっと避けようとするさ! あ〜、ひ〜っ、笑いすぎて死にそう。いや、本当、ギャグセンスありすぎだろ、こいつ……ひひひっ!」


 滑稽なほどに笑い転げる三穂津。

 だが朔は一言も発さず、ただ鏡屋の亡骸を見下ろしていた。


 やがて、三穂津がようやく笑いを収め、挑発するように声をかける。


「そこ、何をしてるのかな? 戦いはまだ終わってないよ?」


 しかし、朔は反応を返さない。


 その無視を受けて、三穂津の額には怒りの血管が浮き上がる。


「まさか僕のこと無視してる? それとも、あのBL彼氏が死んだのがショックすぎて、体も脳も動かなくなっちゃったのかな? どっちにしても――僕を無視するのは、大罪だよ」


 その時だった。


 ゆっくりと、朔が三穂津の方へ顔を向けた。


 その瞳に宿っていたのは、煮えたぎる怒りと、確かな殺意。


「……殺す」


 低く絞り出すような声とともに、朔はワープホールから刀を抜き放つ。

 雷鳴が走り、手のひらに電気が集まっていく。


 三穂津は怒りに震える朔を、嘲るような目で眺めながら、口の端を歪める。


「やっと返事をしたと思えば、その次が暴言。……やっぱり能力者ってのは、マナーすらなってないんだね」


 次の瞬間――


 朔は雷を纏った刀を構え、閃光の如き速さで距離を詰める。


 だが、三穂津は動じることなく、片手を軽く上げて――パチン、と指を鳴らした。


 その音が鼓膜を打った瞬間。

 朔の本能が、全身に危険信号を走らせる。


「……っ!」


 咄嗟に刀を構え、受け身の体勢を取った次の瞬間――。


 ゴッ!


 何もない虚空から、重たい衝撃が刀に叩きつけられた。

 想像を超える威力に、朔の体は大きく弾き飛ばされる。


(……何もないところからの衝撃? これは……能力か!)


 冷静に思考を巡らせながらも、体勢を整えるより早く――再び、指が鳴った。


 ゴシャアッ!


 二撃目。再度、虚空からの一撃に襲われ、朔はさらに遠くへと吹き飛ばされた。


「くそがぁっ!」


 地面に刀を突き立てて減速。どうにか着地するも、肺に溜まった空気が苦しげに漏れる。


「はははははっ! まるで猫に遊ばれるネズミだ!」


 三穂津は見下ろすように笑い、愉悦を隠そうともしない。


「……うるせぇ……クソ野郎が……」


 朔は歯を食いしばり、ワープホールを開く。

 刀を収め――代わりに拳銃を取り出した。


「近距離がダメなら……!」


 銃身に電気を纏わせ、引き金を引く。

 雷撃は音速の勢いで、一直線に三穂津へと走った。


「ふふ……馬鹿だな」


 三穂津が低くつぶやき、再び指を鳴らす。


 ビシャァァァァンッ!!


 次の瞬間、電撃は目の前で弾け散り、虚空に霧散した。

 まるで、透明な壁に阻まれたかのように。


「な……なんで……」


 信じられない光景に、朔の声が震える。

 雷撃のほとんどが――三穂津には通用しなかったのだ。


「さあ、もっと踊って見せてよ。忌々しい能力者くん」


 三穂津は嗜虐的な笑みを浮かべ、挑発する。


 その頃――。


 一方の忍たちは、紙森 保食(かみもり うけもち)と名乗る骨ばった痩せ男と対峙していた。


「異能力撲滅協会? 私たちのこと、馬鹿にしてるの?」


 麗奈が鋭い視線を投げかける。

 すると保食は、口角を不気味に吊り上げて笑った。


「馬鹿になんかしてないさぁ。異能力者は悪ぅ。 この世から消えるべき“餌”なんだよぉ」


 血走った瞳をギラつかせながら、彼は両手を広げる。


「さあぁ……餌の時間だぁ!」


 保食は身体をくねらせ、恍惚とした表情を浮かべると、突然大きく体をそらせた。


「“能力者”は別格なんだよなぁ……力が乗ってて、旨みが凝縮されているぅ」


 異様なブリッジの姿勢をとり、自らの背後にできた影へと腕を突っ込む。


 ――グニュゥゥゥ……。


 生理的嫌悪を誘う湿った音を立てながら、保食の腕が影に飲み込まれていく。


「あれは……何をしておるのだ?」


 レノーラが怪訝そうに首をかしげると、アリアが冷や汗を浮かべて答えた。


「……分からん。だが――ヤバい奴が出てくるのだけは確かだ」


 その言葉通り、影の中から巨大な角の生えた頭部が姿を現した。


「出てこい……酒呑童子しゅてんどうじぇぇッ!」


 保食に引きずり出されるように、漆黒の影から異形が躍り出る。

 着地の衝撃だけで、周囲の地面がビリビリと震えた。


「しゅ……酒呑童子!?」


 メイが悲鳴のような声を上げる。

 しかしその直後――想鬼の表情が凍りついた。


「……親……父?」


 震える声で呟いた瞬間、酒呑童子の巨体がフッと掻き消えた。


「消え――」


 メイが言いかけた瞬間。

 ズガァァァンッ!!


 酒呑童子は既に想鬼の目の前に移動していた。

 そして、轟音と共に放たれた蹴りが想鬼を森の奥深くへと吹き飛ばす。


「ぐっ……!」


 木々を薙ぎ倒しながら、想鬼の姿が闇に消えた。

 酒呑童子は音速でその後を追う。


「想鬼ッ!」


 アリアが叫ぶが、届かない。


 一方その間にも、保食は今度は体を前に折り、自らの足元の影に腕を差し入れた。


「前菜の次は……やっぱりオカズだよなぁ」


 ズズ……ッと、影からせり上がる新たな怪異。

 現れたのは――六本の腕を持ち、下半身が蛇のようにうねる女の怪物。


姦姦唾螺(かんかんだら)ぁぁ!」


 その妖怪の口からは、人間のものとは思えない咆哮が響き渡った。


「うわぁっ!? なんだ、あれは!」


 レノーラの叫びと同時に、姦姦唾螺は跳躍。

 鋭い爪を振りかざし、真っ直ぐに彼女へと襲いかかった。


 レノーラは即座に後退しながら、黒いオーラをまとった剣を生成。

 迫る怪異へと一閃する。


「おりゃ! 妾の剣を受けてみよ!」


 カキンッ!


 蛇の下半身を刃のように変形させた姦姦唾螺が、その攻撃を受け止める。


「――ニードルレイ!」


 横合いから鋭い閃光が飛び込み、怪異の体をかすめた。

 振り返ると、そこには杖を構えたアリアの姿。


「大丈夫かい?」


 レノーラは一瞬だけ口を尖らせ――。


「ふん! 礼は言わんからな!」


 そう吐き捨てながらも、二人は自然と背中を合わせる形になる。


 だが、姦姦唾螺は素早く跳び退き、じっと二人を見据えていた。


 ――その間にも、保食は再び影へと腕を沈めていく。


「最後はやっぱり……口の中をさっぱりさせる吸い物だよなぁ」


 ズルリ。


 今度引きずり出されたのは、巨大な剣と盾を携えた筋骨隆々の男。


「戦争の神――アレスだぁぁッ!」


 異形とは違う、しかし人ならざる圧倒的な存在感。

 ゆっくりと一歩踏み出すと同時に、麗奈へと視線を向ける。


 次の瞬間――剣閃が走った。


 あまりの速さに目で追えない。重たい大剣のはずなのに、まるで短剣を振るうかの如き速度。


 麗奈は咄嗟に正面へ結界を展開し、受け止める。


 ――バキィィンッ!


 衝撃で周囲に風が巻き起こり、結界は軋みを上げて数秒で砕け散った。


「速さの割に……すごい重さ……!」


 麗奈は地を蹴って回避。だがアレスは無言で首だけを彼女に向けると、鬼のような形相を浮かべ、容赦なく剣を横薙ぎに振るった。


「今度は私か。――いいよ、やってあげる」


 麗奈は跳躍して攻撃をかわし、そのまま堂々と構える。


 アレスは一言も発さず、盾を前に構えるとそのまま突進してきた。


 ――仲間たちはそれぞれ戦いに入り、戦場は一瞬にして混沌に染まる。


 忍はその様子を横目に、ただ一人、保食を見据えた。


「……これが狙いだったの?」


 保食は首をかしげ、とぼけたように笑う。


「なんのことだかぁ?」


 忍は手のひらに炎を宿し、視線を鋭くする。


「私と一対一で戦うのが目的だったんでしょ。答えて」


 保食は口角を異様に吊り上げ、不気味な笑みを見せた。


「さぁ? 僕には分からないなぁ……」


 だがその声はすぐに大きくなり、狂気を帯びる。


「この世は能力者で溢れているぅ! さっき呼び出した連中も、そんな現実にうんざりしてぇ……だから“餌”を求めたのかもしれないなぁ!」


 保食の背後。

 黒い影が脈打ち、巨大な何かが這い出ようと蠢き始めた。


「例に漏れず、僕も能力者は――大ッ嫌いさぁ!」


 その影から、蛇のような胴体がうねり出る。

 さらに、次々と生えてくる――首、首、首。


 ひとつ、ふたつ、みっつ……やがて九つ。


「その中でも、異能力の“原種”であるお前だけはぁ……俺が殺さなきゃダメなんだよぉ!」


 地鳴りと共に現れたのは、三階建ての家すら軽く越える巨体。

 九つの首をもつ伝説の大蛇――。


八岐大蛇(やまたのおろち)ぃぃッ!」


 保食は異様に長い舌をのぞかせ、ねっとりと舌なめずりをした。


「――それじゃあ、いただきまぁすぅ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ