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4話 異能力者撲滅協会

 現在地は森の中に一本通る土の道。

 その道を歩きながら、忍はふと隣を歩く麗奈へ問いかけた。


「ねえ、なんで鬼が人間に助けを頼むの? 鬼って、なんでも自分でできるくらい強いって思ってたんだけど……」


 問いに対し、麗奈はしばし考える素振りを見せた後、静かに答える。


「……人間も、いつまでもやられっぱなしじゃなかった。いろんな道具や術を開発して、妖怪を倒せるようになってきた。そうして、いつの間にか“妖怪のほうが強い”って時代は終わってた」


 麗奈の視線は前方へと移る。

 その先では、メイと想鬼が並んで歩きながら、どこか楽しげに言葉を交わしている。


「それに、妖怪にとって敵なのは人間だけじゃない。他の種族とも争いがある。人間は適応力が高いから、妖怪以外にもある程度は対応できたけど……妖怪はそうはいかない。だから意外と負けることも多かった」


 そう言いながら、麗奈は忍のほうへ視線を戻した。


「だからこそ、妖怪たちは人間との共存を前向きに考えるようになった。人間は妖怪たちが苦手な相手を片付ける。その代わり、妖怪たちは無闇に人間を襲わない。そういう協定が結ばれたの」


「ふむふむ……つまり、今から向かう相手は——鬼にとって、とっても厄介な連中ってことか」


 忍の言葉に、麗奈は静かに頷いた。


 その時だった。


 遠くから、金属がぶつかる硬質な音。

 炎が燃え上がる轟音。

 そして風が唸るような音が、森の奥から響いてくる。


 戦闘の気配が、確かに伝わってきた。


「あそこにいる奴らだな」


 想鬼が道の先を指さす。


 その視線の先には、黒いローブを纏った魔女らしき人物と、蝙蝠(こうもり)のような羽を生やした少女が、激しい空中戦を繰り広げていた。


「うへ〜、なにあれ〜」


 忍が思わず声を漏らす横で、麗奈は胸元から六枚の札を取り出す。

 扇子のように広げて構えると、迷いなく戦っている二人へと駆け出した。


「はやっ!?」


 忍の驚きも無視し、麗奈は一直線に飛び上がり、蝙蝠の羽を生やした少女へと一瞬で迫る。


「ん? なっ、鏡屋のところの……!」


 吸血鬼は咄嗟に反応し、黒いオーラを纏わせた剣を生成する。

 だが——その動きは麗奈についていけず。


 バシンッ!


 札で思い切り顔を叩かれ、そのまま反撃もできぬまま地面に叩き落とされた。


「へぶしっ!」


 予想外の一撃に少女は情けない声を上げる。

 一瞬で戦況が決したのを目の当たりにした魔女は顔を強張らせ、ゆっくりと後ずさった。


「まずい……あいつの二の舞はごめんだ」


 振り返り、一歩。逃げようとしたその瞬間——。


 ローブの裾が、麗奈の手にぎゅっと掴まれる。


「どこに行こうとしてるの? 魔女さん」


「ひっ——!」


 バシ〜ンッ!


 そして十分も経たないうちに、忍はぽつりと呟いた。


「私……たぶん、一生お目にかかれない光景を見てるのかも……」


 その視線の先には——。


 魔女と、麗奈いわく吸血鬼である少女が、正座させられ、叱られている姿があった。


 紫の長髪にボリュームのある身体を持つ魔女は、どこかお姉さん風の雰囲気。

 一方、緑髪の吸血鬼は小学生のような小柄な体型に、あどけない顔立ち。


 見た目はどちらも若々しいが、状況は完全に“子供の喧嘩の後始末”そのものであった。


「なんで喧嘩してたの?」


 麗奈が淡々と問いかけると、魔女は視線を逸らしながら答える。


「……それがだな。私がここで薬草を採ってたら、コイツがいきなり『ここは私の領地だぞぉぉ!』って叫びながら突っ込んできて」


 その言葉に、吸血鬼が反応する。


「いやいやいや、普通さ! 人の領土に勝手に入ってくるなんて、立派な領土侵犯だろ!? しかも、そこに生えてる薬草を無断でむしるとか、言語道断だろうが!」


「はぁ!? この前あんたが『薬草なんて雑草と同じで邪魔』って言ってたんじゃないか!有効活用してやってるんだからありがたく思え!」


 二人の口論が加速していく中、麗奈がその間にすっと割り込み、冷ややかな声で釘を刺す。


「……状況は理解した。けど、もうやめて。それともなに? 二人とも、また私に殴られたい?」


 その一言に、魔女と吸血鬼はぴたりと動きを止め、無言でお互いに背を向けた。


 そんな様子を見ていたメイが、静かに呟く。


「……初めて吸血鬼を見ました」


 その言葉に、吸血鬼は得意げにない胸を張った。


「ふふふ……カッコいいだろ、この私のオーラと威厳に満ちた存在感!」


「いえ……見た目と言動を見た限り、喧嘩好きな頭の悪い子供にしか見えませんでした」


 メイのあまりに正直な感想に、吸血鬼はぽかんと口を開けて固まる。


「ふふふ……あはははは! なんて正直な感想なんだ! 傑作すぎて笑える!」


 魔女は大爆笑し、忍と想鬼は苦笑しながら「さすがに言い過ぎじゃ……」と顔を見合わせる。


 やがて魔女は腹を抱えながら立ち上がり、満面の笑みで忍とメイを見つめた。


「ふふ……いやー、面白かった。それはそうと、あんたたちとは初対面だね」


 そう言って、魔女はにっこりと自己紹介する。


「私の名前はアリア・グリッター。気軽に“アリア”ってでも呼んでくれ」


「私は望月忍。アリアね、よろしく!」


「メイと申します」


 二人が返すと、麗奈が横の吸血鬼に問いかけた。


「あんたは自己紹介、しなくていいの?」


 その言葉に「はっ!」と我に返った吸血鬼は、勢いよく立ち上がり、またしてもない胸に手を当てて堂々と名乗りを上げる。


「我が名はレノーラ・ヴィセント! この世界にて繁栄を誇る偉大なる吸血鬼の一人!」


 すると、アリアが軽く肩をすくめて一言。


「こいつのことは、適当に“レノ”って呼べばいいぞ」


「勝手に決めるなぁぁぁ!」


 レノーラはアリアの背中をベチン!と叩く。その様子を見ていた想鬼が、ぽつりと呟いた。


「仲が良いのか悪いのか……」


「悪いわ!」

「悪い!」


 二人は声を揃えて即答し、周囲の皆は思わず笑い声を漏らした。


「帰りますか」

「だね〜」


 麗奈の言葉に軽く返した忍は、どこからか感じる視線に気づいた。

 次の瞬間、突然白色の小さな龍が現れ、こちらへと突っ込んでくる。


「うえ!?な、何あれ!?」


 忍が突然の奇襲に動きが遅れる。だが、麗奈が咄嗟に忍の前へと立ちはだかった。


 ――ドドドドドカーン!!


 龍は容赦なく、忍と麗奈へと突撃する。


「大丈夫かい!?」


 アリアが叫ぶ。

 その声に、忍は驚いた表情を浮かべながら返した。


「うん、大丈夫! 麗奈ちゃんが守ってくれたから!」


 彼女の視線の先。麗奈が忍の前に透明な結界を張り、龍の突撃を防ぎ切ってくれていたのだ。


 すると、少し離れた前方から男の声が響く。


「あ〜あ、せっかく大きいの、腹から出したのにぃ」


 全員が一斉に声のする方へと視線を向ける。


「あぁ〜……腹の足しにもならない餌なんかに止められる餌だったなんて」


 そこには、ガリガリに痩せ細った、成人すらしていなさそうな男が立っていた。


「あなたは?」


 麗奈が問いかける。すると男は、気味の悪い笑みを浮かべながら答えた。


「ん〜? 僕ぅ? 僕はねぇ―― 異能力者撲滅協会、幹部の餌者、紙森かみもり 保食うけもちぃ。 さあ、餌の時間だぁ」


 一方その頃。

 朔は室内で鏡屋と共に、この世界について詳しく話を聞いていた。


「妖怪しか出入りできない?」


 朔の問いに、鏡屋は一つ頷く。


「僕がさっき言った妖怪から聞いた話だから、真偽は定かじゃないけれどね」


 鏡屋の説明によれば、この世界は“妖怪にとっての避難所”のような場所らしい。


 “避難所”というだけあって、妖怪を祓う人間などは出入りできない。そして基本的な出入りは、忍たちが通ってきた鳥居を使って行われていた。


「鳥居はここ以外にもいろんな場所にあるけれど、僕らみたいな人間がいる神社はそう多くない。君たちは運が良かったよ」


 朔は頭の中で情報を整理しながら、一言つぶやく。


「なら、なんで俺たちは鳥居から入ってこれたんだ?」


 鏡屋は手を広げ、首を傾げる。


「さあ? そこがわかれば一発なんだけどね」


 パンッ、と手を合わせる鏡屋。


「例の妖怪に気かないとわからなそうな話をしていても埒が明かない。だから今から、手当たり次第に試していこう」


「はぁ〜……」


 そうして二人は外に出た。


「確か、鳥居の前で一礼して……」


 朔は石段が見えるように鳥居の前に立ち、深呼吸をする。


「いけてくれないかな〜」


 鏡屋が後ろで見守りながら呟く。するとその目線が自然と鳥居の上へと向いた。


「朔くん! 待って!」


 鏡屋の叫びに、朔は眉をひそめ振り返った。


「なんだよ」

「すぐこっち来て!」


 次の瞬間――。

 鳥居の上に、いつの間にか茶髪の男が立っていた。その手には拳銃。


 朔も気配を察知し、見上げる。その瞬間、発砲音が神社中に響いた。


 弾丸が空気を裂く。朔は身を捻り、その場から飛び退くが弾丸は頬を掠める。着地と同時に鏡屋の隣まで移動すると、声を張り上げた。


「誰だお前! いきなり銃ぶっ放してきやがって!」


 だが男は返答せず、銃を睨みつけて吐き捨てる。


「……なんだこの銃。不良品じゃないのか。こんな武器を持たせやがって。あと体をみじん切りにして海に捨ててやる」


 イラついた様子を見せる男に、鏡屋が声をかける。


「君は誰かな? ここら辺では見ない顔だけど」


 その問いに、男は見下すような目で二人を睨み返した。


「異能力者風情が僕に話しかけるな! ……あぁでも、殺される相手の名前も知らずに死ぬのは哀れか」


 不遜な笑みを浮かべ、堂々と名乗りを上げる。


「僕は――異能力者撲滅協会、幹部の音者。奏川かながわ 三穂津みほつ。 お前らを殺す異能力者さ」

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