表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/35

恋?それとも‥

「‥今晩は。1人でダンスですか?」


「っえ!!?」


パッと声がした方へ顔を向けた。

自分以外に誰もいないと思っていたから、とても驚いた。


けれどいたのだ1人の青年が。

濃紺のシャツに黒のネクタイ‥先程丁度思い出していたノアが。


偶然通りかかる場所ではないから、私と同じく宴席から抜け出して中庭で休憩していたのだろう。


その証拠にシャツの袖は肘下まで捲り上げられ、首元のボタンもいくつか外し、楽にしている。


「えっ?やだ‥誰もいないと思って‥」


ノアと個人的に会話をした事はない。

商会ホールで何度かすれ違った事があるだけだ。


あわあわと焦る私とは真逆にノアは落ち着いていて「よかったら、お相手を」と、にっこり笑って手を差し伸べてきた。


ついさっき、彼の演奏を聴く迄は「ヒョロリと背が高い寡黙な青年」と記憶していただけだ。

大抵ヨーナスと一緒に行動しているから、余計にそう見えていたのかもしれない。


けれど今日、その印象はガラリと変わっていて、妙に緊張してしまう。


しなやかな弓捌きと、真剣な面持ち。

穏やかなのに、意外と通る声。


何より、今自分を見下ろす彼の目が「とんでもなく優しい」ように感じられるは気のせいだろうか?


それともさっきの独り言を聞いて憐れまれてる?


差し伸べられた手をどうするべきか?

取る事も出来ず、宙を彷徨う。


だってこれまで異性と踊ったのは、本当に子供の頃か、父親くらいだ。

嫌な汗が背中を伝う。


「えぇと‥ノア。何故ここに?」


「あ、俺の名前知ってたんだ。嬉しいな」


にこにこと屈託のない笑顔をこちらに見せた。


「あははっ。まぁ、お兄さんとは‥それなりに長い付き合いだし?古い友達してね?」


あーやだー、笑顔が眩しい。


兄弟のわりに似ていないと思っていたけど、やはり血は争えない。


笑った時の表情が‥とても似ている。


宙にあった手に温もりを感じた。

それは目の前にいる彼の手が自分に重なったからで。


「へぇっ!」


思わず変な声が出てしまった。

手を引き、ノアから離れようとしたが、その前にグッと握り込まれた。


「‥ノ‥ノア??」


大きい手だ。

けれど職人達とは違う。

力仕事をあまりした事がないような、細くて長い指。


それでも当然同性に比べれば力強くて、少し、怖くなった。


時間外とはいえ、此処は商会の中庭であり、自分達の職場。

つまり比較的安全な場所だと、思っている。


彼が余程変な事をしてこなければ、だけど。

彼の目をじぃっと見た。


一見酔っているようには見えない。

しっかり立っているし、言葉も話せている。


「‥ね、少しだけ。いいでしょう?ミリーさん」


彼は何かを感じたのか、少し力を緩めた。

それでも手は離されず、何なら指でスリッと撫でてこちらに媚びてくる。


「っ!?」


肌が騒ついた。

それは嫌悪ではなくて、腹の奥がきゅうとなる様な感覚で。


いやいや、どうして?

ノアとは、これまで碌に話した事もないのに!?


「‥ダンスがしたいなら、もっと若い子を誘ったら?きっと貴方が誘えば皆、了承してくれるわよ」


演奏後のノアははっきり言ってモテていた。

彼の腕に抱きつき、あからさまに胸を当てている子もいたくらいだし。


つまり‥今、ノアが私相手に絡んでいるのは、たまたま見かけて、あとは案外酔っていて、人肌恋しくなっているんじゃないかって‥。


そうじゃなければ、わざわざ年上の私相手に、こんな風にあからさまに誘ってこないと。


「‥俺はミリーさんと踊りたいから誘ってるんですけど?」


背に手が回され、腰をグッと引き寄せられた。


「っ!!!??」


ぼっ!と、顔が熱くなった。


ここが外で良かった。

室内であれば、きっとノアから丸見えだっただろう。


「ふ〜んふ〜♪」


ノアが陽気に鼻歌を歌って、左右に揺れる。

勿論、密着させられている私も彼の動きに合わせるしかなかった。


月明かりが彼の横顔を照らす。

特別整った顔ではない‥けれど、何故だか魅力的に見える。


パチっと目が合うと、それはもう嬉しそうに彼が笑うものだから‥私の調子は狂いっぱなしだ。


自分で思うより、慣れない酒に酔っていたのだろうか?


ゆらゆら。

次第に心地に良くなり、ノアに体重を預け


「‥あなた多分お酒の飲み過ぎだと思うわ」


彼の反応を見る為に、握られていない方の手で彼の首筋を撫でてみた。


するとどうだろう。


ノアはうっとりとした表情を露わに「もっと」とせがむ猫の様に逆に頬を擦りつけてきた。


「‥お酒はそんなに。でも、確かに酔ってはいます貴女に」


「っ!?な、何を言って‥!あんまり、揶揄わないで」


「‥揶揄ってないです」


ノアは足を止め、真剣な目を私に向けた。

普段は前髪を下ろしているのに、今日はきちっと整えていて、綺麗な琥珀色の目がハッキリと見える。


「ーー俺、ミリーさんより年下で‥正直仕事もまだまだペーペーなんですけどーー」


少し震える声。

あれ?この展開って‥。


「ぇ?ま、待って‥」


「ーー貴女が好きなんです!」


「へぇぇっ!?」


これは本当に予想外。

兄のヨーナスと違い、これまでノアとは殆ど接点が無かった。


と、いうか。

告白をされたのは久しぶりで、今、聞いたばかりなのに、まるで信じられないし、10代の少女の様に恥ずかしさから全身が熱くなった。


きっと全身から湯気がでている。


「あの‥その‥ね。気持ちは嬉しいんだけど‥」


「!嬉しいって‥それってオッケーって事すか!?」


さらにギュッと力が込められ、密着度が上がった。


「ひぁぁあっ!?」


勘弁して欲しい。

こちらは恋愛なんてご無沙汰なのだから。


頭は大混乱。

心臓は爆発寸前。


けれどそうなのは彼も同じらしい。

彼の胸に触れている手の平から早い鼓動が伝わってきていた。


これは‥酔った勢いじゃなく、本気って事??

ドクンっと胸が大きく高鳴った。


「そ、の‥えっと‥」


良いとも悪いとも、私が返事をしない事にノアは不安を覚えたのか「‥迷惑、ですか?」と、寂しそうに呟く。


「っ!!!?」


何故そんなに無駄に良い声で!?


正直な所、彼の事はよく知らない。

今までよりも、今日見聞きした事の方が多いのだから。


現時点でノアの事が好きかと聞かれれば「わからない」もしくは「嫌いでは無い」と、答えるしかないだろう。


「迷惑だなんて思ってません。本当に私で良ければ‥いいですよ」


だけど時にはそういう始まりも有りかもしれない。

こちらも背に手を回し応えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ