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迷い  編集中

仕事中。

ふと時間が空いて、窓の外を見た。


旅行中の親子。

1人散歩する老女。

そして誰かと待ち合わせ中なのか、ソワソワと落ち着きなく、そして自分の身だしなみを気にしている少女。



微笑ましい光景だ。


かつて、自分にもそんな年頃があった。

そして、これから自分に訪れるかもしれない光景に焦がれた。



「この先‥かぁ」



仕事を言い訳にして、これまで自分の未来をキチンと考えてこなかった。


けれど、ノアと一緒に過ごす様になってから早数ヶ月。自分の中にある何かが少しずつ変化し始めている様な‥そんな感覚がある。



これを言葉で説明するにはとても難しい。



夏から秋へ季節が移り、やがて冬に。

日差しを遮る街路樹の葉も緑色から、黄色へ。


それは風に吹かれ地に落ちても、人々の目を楽しませ。時と場合によっては疎まれるだろう。


けれどいつかそれも土に帰り、次世代の糧となる。



変わるんだ。

街も、人も。



時間は否応無く、満遍に。

それをどう生かすか、捉えるか。

それは自分次第なわけで‥。



この街の象徴、時計塔に目を向けた。

鮮やかな煉瓦色の見上げる程大きな建造物。


これから段々と寒くなって、いずれ冬となる。そうなれば、あの大きな巨体すら雪に覆われ純白のドレスを纏う。


「私も着たいな」


自然と声がもれた。




純白。

それはいつでも誰でも身につけられる色ではない。


神職以外は、神に夫婦の誓いをたてるその日だけ許される神聖で純粋な特別な色。


ぼんやりとした夢でなく、近い未来として脳裏に想い浮かべた。



その隣は勿論ノアで。



雰囲気に流されて始まった関係なのに、私は何て都合の良い想像をしているのだろうと、自虐の念にかられた。


それでも、彼のそばに居て、隣にいる居心地の良さを覚えてしまった今、離れ難くなった。


私は年若い無垢な娘では無い。

そして彼より随分歳上。


けれど、それを理解した上で「この先もずっと」と切望してしまう私のこの想いは、許されるのだろうか?


それとも今からでも無理矢理に胸の奥深くに沈め、蓋をした方が彼にとって良いのだろうか?





陰鬱な気分になってきた。

もしかしたら、この思考回路こそ捨てるか、変えるべきなのかも。




「‥変われるかな」




タネのある手品のように一瞬で変貌させる事は出来ずとも、街路樹の紅葉のように、雪解けの水の様にジワジワと‥‥いつの日か。



ーーー


昼を知らせる鐘が街中に響く。


大半の住民はそれを合図に昼食を取るが、ミリーはそこから随分遅れての食事を取ることになった。



その原因は勿論、仕事中に私事で悩んでいたせい。


商会本部にある食堂は既にまばらだったが、秘密事項を複数抱える身としては、寧ろありがたい事だった。


秘密‥それは式典の件に関係する様々な事。

カトリーヌ王女の来訪。

ノアの過去、そして現在進行中の事案。

シルフォーネ‥シルスタン様の正体。


薄々何か勘付いている人達、別途関わっている人達は当然一定数いる。


厳しく箝口令が敷かれていると言っても、人の口に戸は立てられぬ。


いつか何処からともなくポロっと漏れるだろうが、自分がその原点になるのだけは絶対に避けたい。




塩茹でされたジャガイモをフォークで刺し、チーズソースを付けて口に入れた。


そして咀嚼しながら「ノアは今頃、何をしてるかな」とぼんやり考えた。


今日は一日別行動。

詳しい予定や行き先は聞いていないが「用事が早く終われば、こっちに顔を出すかも」と言っていた。



言えない内容?

それとも、わざわざ言うほどでもない内容?


まぁ、どっちでも良いけど。




そんな事を考えていた時「あら、お1人なんて珍しいですね?」と人気の少なくなった食堂内に明るい女性の声が響いた。


その声を耳にして、胸がざわっと揺れた。


顔を見ずともその声だけでわかる。

正直言って、私は彼女が苦手だ。

そしてこれはあくまで勘だけど、おそらく向こうも同じように思っていると思う。


後方を振り返ると、少し離れた所にその人は居た。


「リリネットさん。お疲れ様です。これから昼食ですか?」


「いいえ、ちょっと休憩を。ほら、私ってあんまり仕事早くないからぁ。いっつもユーティスさんに怒られてるしぃ〜」


そう言って小首を傾げながら、左手のマグカップを肩のあたりまで持ち上げた。



ーーー


彼女の名はリリネット。

20代前半の女性で、商会倉庫の事務管理をしている。


汚い、キツイと不評の倉庫管理。

そこに彼女を入れると初めて聞いた時「何故?きっと2日も保たず辞める!」と私は思った。


何故って?


それは所謂、肝っ玉母ちゃん!とつい表現したくなるような見目では無かったからだ。


如何にも若い女性。

服装も化粧も髪型も、毎日綺麗にフワフワと愛らしい。足元の靴だって華奢な作りで、これではほんのちょっとした荷物も彼女に持たせる気になれないと誰もが思うだろう。



今でもよく覚えている。

彼女と初めて顔合わせをした時、会長は何を思って彼女を選んだのか?と。

雇うにしてもせめて別の部門にするべきでは?

そんな疑問ばかり、頭をよぎった。



そして、倉庫管理の所長であるユーティスも彼女に対して私と近しい印象を受けたようで


「君。いくら事務員だからって、さすがにその格好は。せめて靴だけでも‥。ぁー‥サイズは合わないかもだか、それよりかマシだろ」


そう言って、予備として事務所に置いてあった靴に履き替えるように勧めた。


「え?私は事務担当ですもん。これで大丈夫です!」


「あのな、倉庫は砂やら水気やらで滑りやすいんだ。滑って怪我されても、服が汚れたって泣かれてもコッチは困るんだよ」


「だーいじょうぶです!そうならないように私、これからちゃんと毎日お掃除しますからっ!!」


ガッツポーズでニコニコと笑い言い切るリリネットにユーティスは「はあ?しらねぇぞ‥」と、呆れて会長に目線を送っていた。


「ユーティス。彼女がこう言っているのだから我々はそれを信じよう。さぁ、職場を案内して」


「会長がそう仰るなら‥」


渋々と言った感じで、ユーティスは承諾していた。


当初は少し心配していたけれど、何だかんだ彼女が勤めだしてかれこれ2年過ぎた。


そしてリリネットの信条は依然変わらない。


ーーー


「そうなの?私はよくわからないわ」


これは本心。

違う部門の進捗など、一見してわからない。


薄い上っ面だけを見聞きすると、リリネットは

「さして仕事をしていない」

「いつも男に媚を売っている」

「わかんなーぃ♪って甘えれば誰かやってくれると思ってんだよっ!」

と、商会の一部の女性陣から不評だ。


私も実際そう誤解されても仕方がないような現場に何度か遭遇した事はある。


商会の倉庫員は一癖も二癖もある。

「乱暴に荷物を置くな!」と注意して素直に聞けばいいが、逆に粗雑にする困った人もいる。


リリネットはそういうひとに対して正攻法で叱るのではなく、そっと近づいて


「あの‥もしかして腰や腕に怪我でも?」


と、まずは作業員の体調を心配するのだ。


「いやっ!別に全然そんな事ねぇよっ!ちょっと‥そう‥手が滑って‥」


「本当ですか?誤魔化してませんか?私、心配で」


そう言って目をウルウルさせながら、作業員の腕に手をそっと添えていた。


「って、あぁ!嬢ちゃん、俺に触るなっ!」


「あ、ごめんなさい。不快ですよね」


「いや、俺はほら、その‥汗くせぇし、埃だらけだし‥嬢ちゃんが汚れる‥だろ」


「汚いだなんて、一生懸命お仕事してる証拠ですっ!」


‥と、まぁこんな感じだ。



因みに、倉庫長のユーティスは一年中不機嫌な人として商会の内外で有名だったのに、リリネットから早々にこの「ウルウル攻撃」をされ、言葉は悪いが絆され‥だいぶ改心している。


リリネットは一部の人達から、たいそう不評を買っている。けれど、彼女に成り代わってあの現場‥いや、主に倉庫長のユーティスを上手く宥められる人は中々いないだろう。



少なくとも、私には出来ないししたくない。



そしてこれは一番大事な事。


倉庫で怪我をしただの、荷物の紛失や数の不一致等の報告は、彼女が来てから激減した。


そう言う意味で、リリネットを雇い入れたアルバート会長の目は確かだった。


彼女を評価し、雇用しているのは自分では無い。

個人の好みでは無く、実力や



リリネットは仕事ができる。

なのに、まるで出来ていない様に振る舞う。


彼女がどう思って、そうしているのか私には理解出来ないけれど‥わざわざ訊ねるのは面倒だ。



だって私と彼女は個人的には話し込む関係じゃないし。今も偶然居合わせたから、社交辞令で一応声をかけてきたのだろう。


リリネットから視線を外し、私は再び食事に手をつけた。


「っていうかですね、ミリーさん聞いて下さいっ!ユーティスさん酷いんですよ?私こんなに頑張ってるのに全然わかってくれなくてっ!」





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