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雨とオルゴール

雨は昼下がりからポツポツと降り始めた。

人々は空の黒雲に眉を顰め「これは長引きそうだ」と、用心深く雨戸を閉めた。


その予想は良くも悪くも的中。


夕方を過ぎた頃から激しさは一気に増し、宵の口になっても勢いは落ちない。



「やれやれ、一体いつになったら止むんだ」


ゴロゴロと息巻く雷雲。

屋根を叩く雨音と雨漏りの対処に人々が嫌気をさし始めた頃。


殊更強烈な一撃が、天から振り下ろされた。




ドォォンッ!!




所謂、雷神の一撃だ。


目を焼く閃光と耳を塞ぎたくなるような轟音。


その威力は凄まじく強大で、広域をビリビリと震わせた。圧倒的な存在感とその迫力に人々は身を縮こまらせる。


そして目に見えぬ恐怖にブルブルと震えながら


「あぁ、雷神エッデナーサス。貴方の一撃は闇を切り裂く光の一閃。その槌の御力をもって疾く魔を払いたまえ。私達を護りたまえ。どうかどうか‥」


両手を組み、祈った。


ーーー


ホロリ、ポロリ。


室内に軽やかな音楽が鳴り始めた。


それはとても小さく、か弱い音で、屋根を叩く雨音がもう少し強くなれば、かき消されてしまう‥。


そんな儚い音だった。




「はー‥。何度見ても凄い。どういう機工なってるんだろう?」


ノアが目を輝かせ、そう褒めたのは最近商会で販売を開始した自動演奏箱‥通称オルゴールだった。


それはパッと見ただの置物にしか見えない。

木製箱の上に、陶器で作られた少女像がちょこんとある‥という素朴な外見であったから。


しかし側面につけられた金具を数回まわすだけで、内蔵された機工から音楽が鳴り、上部の少女がクルクル回転する‥という何とも不思議な一品なのだ。


「秘匿技術だからね。私も詳しい話はわからないわ。でも、まだまだ改良の余地はあるらしいわよ?」


現状、選べる音楽は2種類。

上部の人形、そして機工を囲う箱は更に2種類。


「詳しくないけど、元は教会の鐘??あれはすごく大きいよね。でもこの大きさなら、俺はカリンバを思い出す」


ノアはじっくり音に耳を傾けた後、聞き慣れない言葉を発した。


「カリンバ??」


「あー。えぇと、楽器の名前。髪をとかす櫛に似た姿と大きさで、その棒?を指でピンピン弾くと音が鳴るんだ」


楽しそうに、嬉しそうに彼はそれについて語り始めた。


自分の知らない知識、見たことのない世界や風習。そういう話を聞くのは苦では無い。寧ろ楽しい。


何より彼が楽しそうに笑うから。

そんな彼を見て、一緒にいて、私も楽しい‥幸せだと思うから。




「職人‥かぁ」


ノアは胸の前で腕を組み、思案顔を見せた。


そしてその様子に、私はついつい『転職』の二文字を思い浮かべた。


「こういう仕事。興味ある?やってみたいと思う?」


式典参加という特殊任務が課せられた為、現在私達は本来の業務から外されている。


もしかしてこのまま音楽の道に戻るのでは?そう思ったけれど、ノア本人が『今回だけ』としているから、その路線はほぼ無い。


つまり、これが終わればまた元通りの日々というわけだ。


転機として丁度良い時期。


「そりゃあ、あるよ。でも今の仕事を辞めてまでか?って言われると、正直微妙だなぁ」


「そうなの?」


この答えは意外だった。


理由はともかく、ノアは音に興味を持ち、関心を向ける傾向がある。

だったらその知識や技能を少しでも活かせる職業についた方がいいんじゃないか?と、私は単純にそう思ったのだ。



ーーー


「俺と兄貴はこの街を中心に一帯の村や街を巡ってるでしょう?そうしてるとさ、訪れる度にその土地その土地の、古くからあった何かを見つけられるワケ」


一体何がそんなに違うのだろうか?

私は不思議に思って「同じ領内なのに?」と、問うた。



ゼノス王国は閉鎖的。

その理由は良くも悪くも、西のカルデア王国以外に接点と脅威がないからだ。


残り三方は崚険な山々に囲われ、その向こうにある国との交流はほぼ無い。



大半の住民は生まれ育った領を離れず、そのまま生を終える。


私もだってそうだ。

生まれ育った村から、この街へ越して来たけれど、同じ領内。


生活をする上で、細かな風習の差を感じ困った経験はほぼ無い。


「例えば子供の手遊び歌や童謡。旋律や節は同じなのに、村によって少しずつ違うんだ。爺さんが婆さんになっていたり、カルガモがアヒルや蛙になってたりね」


「蛙‥?」


私は咄嗟に思い出せず「うーん‥」と黙り込む。すると「歌は得意じゃ無いんだけど‥」と、ノアがその歌を口ずさみ始めた。


「♪雨が降るぞと蛙がグァ!家に入れと、も一度グァグァ〜」


「あぁ〜‥懐かしい」


全体はうろ覚え。

けれど確かに子供の頃、耳にした事があるような‥。


正直な所「グァ」という鳴き声しか記憶にない。


そしてそれが蛙だったか、アイガモだったかなんて、覚えているわけも‥。


「どっち‥だったかしら?人伝に何となく耳にしただけだから」


「ははっ!童謡なんてそんなものだよ。多分、広まって行くうちに変わったか、身近にいなかったか、そんな感じじゃない?」


ノアはカラカラと笑った。


「大人だったら、その情景を浮かべて違和感を感じるだろうね。でも子供の想像力って自由で突飛だからさ。蛙でも空を飛ぶし、魚でも会話できる。何か可愛いよね」


なるほど。

言われてみれば確かに。

アヒルは鳥なのに空を飛べないし、蛙なんてもってのほか。


同じ水辺。

そしてよく似た鳴き声が余計にそう彷彿させたのだろう。


「良いわねぇ」


その柔軟な想像力に感心し、感嘆の息を漏らした。


大人になるにつれ、コレはこう!アレはこう!と、型に嵌った考えになる。


つまり、常識というものだ。


別にそれが悪いわけでは無い。

生活や人間関係を構築する上でそちらを弁え、求められる機会が圧倒的に多いのだから。


けれどそうか。

私が普通と思っていた様々な物や風習。


もしかしたら、ノアやヨーナス達のように、定期的に街や領を行き来している人達から見れば、違う視点‥何か差異があるのかも。



そんな事をしみじみ考えていると、ふいにノアが私の手を握ってきた。



「うん?どうしたの?」


ノアの表情が、さっきまでと明らかに違った。

そして、こう続けた


「あのさ、ミリーさんって子供好き?すぐ欲しい?」


と。


「へぇっ!?」


唐突な質問に私は焦って、変な声と汗が出た。

握られた手も汗でビシャビシャだ。


「ななな、何で急にそんな??私達そう言う話、してたっけ??」


別に嫌なわけじゃない。

そういう相手としてノア見てない‥考えてないわけでも無い。


ちゃんと好き‥だし、この先も長く一緒に‥と思っている。


だけど、物事には何でも順序ってものがあるじゃない??


「え?俺はミリーさんが頷いてくれれば今すぐにでも。もうね、商会の皆に黙ってるの面倒くさいし、最近毎朝話しかけてくるあの人も鬱陶しい」


ノアが「むぅ」と、眉根を寄せた。


私がどうこう‥という点は一旦置いておいて、ノアの毛嫌いする『あの人』に覚えがある。


「最近商会に入ったヘンリエッタさんね」


どうやら彼女、ノアに一目惚れ(?)したそうで隙あらば話しかけて来るらしい。


そう。

例え私と一緒に居ても、仕事の打ち合わせをしていてもだ。


歳はノアとそう変わらない若いお嬢さん。

接客も上手で、良い子が入ったと安心していた。


けれど、何故かノアに対してだけは上記の様に、変容してしまう。


「確かそんな名前」


どうやら名前を呼ぶ事すら聞く事すら嫌らしい。


「ヨーナス達に贈った演奏。あれが好評だったようね」


「今頃後悔してるよ。やんなきゃよかったって」


ムスッと不貞腐れた。


男女問わず皆、多数の異性モテたい願望があるもの‥そう思っていたが、どうやら彼については該当しないらしい。


「あははっ」


私が笑うと


「他人事だと思って。大変なんだよ?機嫌損ねると仕事に影響出そうだし」


と、ぼやきを重ねた。



だって私も同じようなものよ?

あの日貴方の演奏を聞いて、見直して。


それで今があるのだから。


ーー


「雨、強くなって来た。この調子だと明日も降るかな?」


「どうかしらね。何か用事でも?」


「いや、別に。ただ、このままずっーと降っていれば、明日も居られるかなって」


ノアは両腕を上にあげ、猫の様に背伸びしそう答えた。




強まる雨音はバタバタと屋根を叩き、石畳をバシャバシャと濡らす。


そして、微かに鳴っていたオルゴールの音色は全て雨音にのまれてかき消えてしまった。


オルゴールは和製英語なんだってね。

ふーん( ̄∀ ̄)


知識の薄い人が色々模索、検索しながらやってます。

間違ってたらごめんなしぁ。

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