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閑話:理容師の卵

ミリーの実家は理容師を営んでいる。


彼女も幼い頃から両親の手伝いをしており、そして将来は‥と思い、修行もしていた。


最近は「店頭に1人立つのは早いけれど、無償で毛先を整える程度なら構わない」と両親から許可を得られる程度になっていた。



今日ミリーがヨーナスの元を訪れたのは以前から散髪をする約束をしていたからだ。


何故わざわざ隣村から?

そう思うだろう。


ヨーナスは弟妹が多い事もあり、早くから隣村へ働きに出ていた。そこで歳の近いミリーと偶然出会ったのだ。




ヨーナスがミリーを見て最初に抱いた印象は


「年下なのに、俺より背が高い。可愛いけど」


であり、そしてミリーは‥というと


「口のよく回る糸目。え?嘘、年上なの?」


であった。


甘酸っぱい何かは欠片ほども発生しなかった。


むしろ何でも遠慮なく話せる兄妹のような友達に収まった。




そして今日は逆にミリーがこちらへ足を伸ばしたわけだ。


隣村といってもさして距離はない。

子供の足で徒歩30分。

馬なら10分程度だ。




ミリーが散髪の準備をし始めると、ヨーナスは「あっ!」と何か思いついたかのように手を打った。


「どうしたの?」


「ついでにコイツの髪も切ってくれない?」


ミリーはノアを見て「うーん‥」と悩んだ。


「難しい?」


「駄目じゃないけど、勿体無いっていうか。このまま伸ばしたら可愛いだろうなぁって」


ミリーの言葉にヨーナスはキョトンとした。


「こいつ弟だよ?俺、さっき言わなかったっけ?」


「聞いた」


ノアの前髪は目に覆い被さるくらい。

横や後ろは肩の辺りまで伸びていた。


「だよね。というわけで、短くしてくれない?前に母さんがやって失敗した‥っていうか。痛かったらしくて?嫌がるんだよね」


ミリーはヨーナスの母を思い出し「あぁー‥」と納得した。


挨拶と共に手土産を渡した際、いたく気に入られたようで


「あらあら、まぁまぁぁ〜!隣村からわざわざこんなに可愛いお嬢さんが1人で!?愚息だけどこれからも仲良くしてやってね〜!」


そう言った後、ミリーは背中をバシバシと叩かれ、そのせいで背中がまだ痛い。


良くも悪くも豪快で明るい人と印象を受けた。


「何かわかる」


「だよなー。俺はもう慣れたけど」


はははっ!と、ヨーナスが笑った。







「でも、大丈夫かなぁ。さすがに嫌がるんじゃない?」


ミリーは不安に思い、そう呟いた。

そして2人視線を下に向けた。


そこにはミリーのスカートをギュッと握って離さないノアが。


「「‥‥」」


「いや、大丈夫だろ。なんかもう、お前の弟みたいなってるし。髪色が似てるせいか、余計そう見える」


ヨーナスは呆れ気味にそう呟いた。


そしてミリーは間髪いれず「えぇー?」と嫌そうに声を出した後こう続けた。


「弟って‥それじゃ私とアンタが結婚するみたいで、何か嫌だわ」




結婚。


結婚??


付き合っても無いのに??




今まで想像した事もないこの言葉に2人は口を閉ざし、各々想像した。


「‥‥」


「‥‥」


そして短い沈黙が流れる。



ややあって、ヨーナスが「プッ」と吹き出し沈黙を破った。そして2人見合ってクククッと笑い


「「それは無いわ!」」


と、声を揃えた。



ーーー



「お姉ちゃんが髪を切っても良い?」と、優しく問われ僕は不安だったけど「うん」と頷いた。


椅子に座って、ドキドキしていると兄さんが


「大丈夫だよ。さっき俺もやって貰ってただろ?」


と僕の頭をクシャと撫でた。


「う、うん」


さっき兄さんが散髪されているのを見てた。

そして終わった後、刈り上げたばかりの後頭部を触らせてくれた。


サリサリとした感触。

僕はコレが好きで、散髪の後はいつも触らせてもらう。



思い出す。


シャキシャキと軽快に鳴る鋏の音。

楽しそうに会話をする姿。

僕はその光景を少し離れた所からジッと見てた。



お母さんがやると、髪をギュッと引っ張ったり、櫛が当たって痛い。


だけど、お姉ちゃんはスーッと撫でるようにやってた。


だから怖くないと思う。






パラパラと落ちていく髪。

僕は指で摘み改めてそれを眺めた。


『麦の穂色』


兄と違う色。

でもこのお姉ちゃんとは一緒。



「僕の髪‥変?」そう尋ねると「どうして?」と返ってきた。


「えっ‥と‥」



理由は言えなかった。

泣きたく無いのに、自然と涙も出てくるし。



そんな僕を宥めるように


「私は自分の髪が好き!ほら触ってみて」


そう言って自分の三つ編みを俺に手渡した。


「毎日かかさずお手入れしてるから、艶々でしょう?私、これだけは自慢なのよ」


うふふ。と、笑い涙で濡れた僕の両頬を指でムニムニと押した。


「自分の身体で好きな所はある?」


「?」


身体??

意味がわからなくて首を横に振った。


「そっかぁ。じゃあ、好きな事はある?駆けっことか、読書とか‥お家で飼ってる猫ちゃんとか」


「ある、よ」


でも笑われるんじゃないかと、思って中々言葉が口から出ない。


髪をイジイジ触りながら、チラッと見る。

僕と目が合うと、お姉ちゃんは首を傾げ「ん?」と促した。


「‥マーロの鳴き真似。あとディアナとエルビンも」


僕がそう答えると、兄さんがすかさずお姉ちゃんに説明した。


「ウチで飼ってる猫と犬。最後は鶏。ノアは耳が良いんだ。爺さんのバイオリンも好きだしな?」


「うんっ!」


僕にはまだ大っきくて持てないけど、持てるようになったら、ちゃんと教わるんだ。


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