とある休日②
最近悩んでいる事がある。
適切な距離感って人それぞれだし、対応が本当に難しいよなって。
俺なりミリーさんなり、どちらか一方だけがアレコレ要求したり、されたり‥っていうのは何か違う気がするんだよね。
つまり、何が言いたいかというと‥俺ばかり欲求不満なんじゃないかって事。
兄貴曰く「お前はまだ若いから」だって。
そうなのか?
本当にそういうものなのか??
30歳くらい‥つまり俺の兄貴なんだけど。
その歳になったら落ち着くって本当なの??
俺は正直な事言うと毎日‥いや、それはさすがに多いか。
2日に一回くらいはしたいなって、思うわけですよ。
さっきもミリーさんの濡れた脚を見てムラムラしてましたしね。
気を紛らわせる為に、いつもの倍速で洗濯してやりましたよ!
おかげで「手際良いね」って褒められましたし。
つまり。
俺は不安なんです。
本当に必要とされているのか。
求められているのか、わからなくて。
俺が「好き」って言えば、貴女も照れながら同じように返してくれる。
キスをすれば応えてくれる。
だけど俺がもし今後言わなかったら??
しなかったら??
貴女は自分から、俺を求めてくれますか?
「ノアはいつも余裕があって、飄々としてる」
貴女はいつもそう言うけど。
そんな事は無い。
そう見えるように振る舞っているだけで、俺はただの臆病者です。
ーーー
もうすぐ別れ道‥という所で空がゴロゴロと音を立て始めた。
「やだ雷?早く帰らないと降り始めるわ」
ミリーさんが空を見上げそう言った。
お互い洗ったばかりの洗濯籠を抱えている。
急いで帰らないと台無しだ。
「ノアの家ってここからどれくらい?」
彼女は心配そうにこちらを見た。
多分途中で降り始めるんじゃないかと、心配しているのだろう。
一面灰色だった空に、より一層おどろおどろしい雷雲も立ち込めているし。
「んー‥早歩きで10分?走れば5分とか。まぁ、大丈夫だよ」
俺は洗濯場で借りたままの肩掛けを彼女に返し「ありがとう」と、頬に軽くキスをした。
本当はもっと彼女と一緒に居たい。
だけど、自分から家に押しかける程、まだ図々しくなれなかった。
そう思っていると、ミリーさんが俺の服をギュッと掴んだ。
頬や耳を桃色に染めて、コチラを見る顔は何とも色っぽかった。
駄目だよこんな往来でそんな顔見せちゃ。
これくらい道端で普通にやるでしょ?
家族間や、親しい友達同士でさ。
「それじゃあ。また明後日ね」
俺は後ろ髪を引かれる思いを抱えながら、彼女の手を優しく解いた。
「ま、待って!」
1、2歩歩いた所で、背後から服の裾を掴まれた。
「ミリーさん??」
振り返って見てみれば。
彼女は俯き気味に目を伏せ、困り眉。
何か伝え忘れでもあったのか?と思いきや
「あの‥。少しだけ家に寄って行かない?この間、親戚から沢山果物が送られて来て‥パイを焼いたの。つまりその‥良かったらお茶でもと‥」
「‥お‥茶?」
なんと彼女は俺をお茶に誘って来た。
しかも今までに無いくらい辿々しい言動で。
「そう。無理にとは言わないけど」
俺には、彼女がただ純粋にお茶の席に誘っているようには見えなかった。
だって、俺を見上げる彼女のダークブルーの目が蠱惑的に揺れて見えたから。
まぁ、これは俺の欲目なのかもしれないけど‥。
「分かってるだろうけど、今から雨が降るよ?」
「そ、そうね」
「降り始めたら、止むまで帰れないよ?」
「止むまでウチに居ればいいわ」
彼女の頭は悪くは無い。
今、俺達の頭上に広がる暗雲を見れば、夜通し降りそうだと簡単に予想出来る。
「嫌なら、無理にとは」
何て下手なお誘いだろうか。
でも、嬉しい。
すごく嬉しい。
ここが人目のある道端じゃなくて、腕に生活感溢れる洗濯籠が無ければ、抱き抱えていたと思う。
「いえいえ、せっかくのお誘い断るわけないでしょ。それに明日も休みだし。‥ゆっくりさせて頂きますね」
ミリーさんは首を縦にコクコクと頷いた。
ーーー
雨が降るとバイオリンが弾きにくい。
それに洗濯物は乾かないし、髪もうねるしで、良い事が無い。
そう思っていたけど、今日からは少しだけ好きになれそうだ。
さて。
さしあたって、一つ問題があるとすれば。
ミリーさんの家に、俺の分まで先端を干す場所はあるのか‥だな。




