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記憶

俺は膝を抱えて1人、ぐずぐずと泣いていた。


悪戯がバレて家族に怒られたわけじゃない。

友達と喧嘩をしたわけでもない。


お気に入りのおもちゃが壊れたわけでも、1人だけお菓子が貰えなかったわけでもない。


「何があった?泣いてちゃわかんないだろ?」


一番年上の兄、ヨーナス兄さんはそんな俺に困り果てていた。



だって言えなかったんだ。



遊びに来ていた従兄弟達が俺を『麦穂頭』と揶揄って、仲間外れにする言動をしたから‥だなんて。



言えば絶対喧嘩になる。

兄貴はそう言うの嫌いだし、口先で謝っても許さない人だから。


「売られた喧嘩は買う!それが男ってもんだっ!」


以前、親父の真似をして威勢よく吠えた兄に驚いた。


声もだが、何よりもその見た目。

擦り傷、引っ掻き傷、打撲痕‥と痛々しい姿ぢった。


確かその日は誰かと喧嘩になって、真実はともかく、五分五分だった言い張ってた。


その後、両親から懇々と説教される姿は子供ながら可哀想と思った記憶がある。



俺のせいで兄が叱られるのは見たくない。

俺が黙って、我慢すればいい。


そう思うけど。


『近寄るな、麦穂頭が移るだろ』


そう言った従兄弟達の心無い言葉が何度も頭を巡って、俺の心を抉り傷つけて苦しかった。


ーー


色が移るわけないだろ。

僕だけ血が繋がってない‥なんてやめてよ。


わざわざ言われなくてもとっくに気付いてるんだから。



両親や兄姉、そして親戚。

皆一様に焦茶色。


なのに俺だけ、収穫前の麦の穂のような明るい色で、そうと気づいた頃から不思議に思っていた。


どうして?と子供ながらに悩んでる、親や祖父母に聞いた事もある。


答えはどちらも「曾祖父さんに似たのかな?」だった。貴族であれば絵姿の一つも残してあっただろうけど、ウチはそうじゃない。


田舎村によくある普通の家だ。



今となっては「そんな事」と、軽く笑い飛ばせる。だって成長するにつれて、だんだん色濃くなり今では皆と同じ焦茶に落ち着いた。


髪質だって昔はふわっふわの猫毛だったけど、今は緩い癖毛程度だし。


悩んでいたのは自分の知識や世界が狭かったから。子供の自分が見知っていなかっただけで、世の中には色々な髪色の人がいるのだと成長するにつれて、分かった。



でもその時は本当に嫌で嫌で堪らなかった。



「弱ったな‥。隣村から友達が来るのに」


俺なんて放っておけば良いのに‥と、子供ながら鼻をグズっと啜り思ったよ。


だって兄貴は昨日から何かと変で、ずっとソワソワしてたからね。


だけど面倒見の良い兄貴は泣いている俺を放っておけなかったらしい。


俺が泣き疲れて寝るまで、ずっとそばにいてくれた。


ーーー



髪を優しく撫でられる感触でふと目が覚めた。

誰?と寝惚け眼でその人を探した。


だって母さんにしては手が小さい。

そして姉さんにしては優しすぎる。


最初に見たのは、俺と同じ『麦の穂色の長い髪』だった。


「誰?」


思わず呟いた俺に、その人は


「あ、起きた?よく寝てたね」


と、夏の向日葵を思わせるような笑顔を浮かべた。



その人こそ、ミリーさんだった。


腰まである麦の穂色の髪を年頃の少女らしく三つ編みに編んで垂らし、他所行きの服を着て。


身近にいる姉達と比べてなんだか、可愛いと思ってしまった。


「お。ミリー気に入られたっぽいよ」


「え?」


「こいつすごい人見知りなの。なのにほら、全然逃げないでジーッて見てる」


「そうなんだ?」


何せ子供だったからさ、理由とかわかんないよ。


だけど彼女の表情を目で追ってた。

会話の内容がわからなくてもジッとその声と楽しそうな笑い声を聞いていた。




誰にも話した事はないけど、今思えば、所謂『初恋』のようなものだったんだろうな。


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