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側面

上手く纏まらないけど、このままでは先に進めないので投下してしまえっ! (`・ω・´)ノ=□

バイオリンを構えた途端、彼の纏う雰囲気が一変した。


緊張感?それとも迫力?

説明しようにも、丁度いい表情方法が浮かばない。


けれど何か侵しがたい、凛とした空気が部屋全体に広がったのは確か。


私は背筋を正し口を噤んで‥音出しを静かに待った。


そうしろと言われたわけじゃない。

自然とそうなった。


些細な音も聞き逃すまいと、私は耳をそばだてる。


すると、衣擦れや机にある時計の秒針。

廊下を行く誰かの足音や、外を行き交う馬車や人夫の掛け声。


そういう普段は気にも留めない、気づきもしないような生活音が、こんなにも自分の周辺に溢れていたのだと改めて知った。


まるで自分の耳ではないみたいだ。

不思議な感覚に陥って胸がドキドキした。


まだ演奏が始まっていないのに、段々と緊張感が増す。


どうしよう。

自分の心臓音がドクドクとうるさい。





もしこれが彼に伝わってしまったら‥。





私がそんな有り得ない心配をし始めた時、ようやくノアが動き始めた。


弓と弦が触れる最初の一音。

それは滑らかに、ゆっくり静かに始まった。


それまでシンッとしていた室内に一瞬で音が響く。そしてその音と振動は瞬く間に私にも伝わってーー




肌が粟立った。




耳に流れ込む音の洪水に、まるで頭を打たれたような気分になった‥。




違うと、本能的に思った。

これは私の知っている彼の演奏では無いと。


ーーー



音が止んだ。


どうやら早くも終わってしまったようで、私は余韻に浸るというより「もう終わりなの?」と心残りのようになってしまった。


もっと聴いていたかった。

この続きはあるのだろうか?


時間を忘れて没入してしまうような‥そんな感覚をまた味わいたいと思ってしまった。




そんな風に呆けていると


「やー。初見でよくそこまでっ!流石『楽神ユーステルルの寵愛を受けた』と呼ばれただけある!」


シル様は拍手で演奏を讃えた。

私も慌ててそれに倣い


「凄く‥良かった」


私の口から溢れたのは、余りにもありふれた言葉だった。


もっと良い言葉が、相応しい賛辞があるだろうに‥そう思うけれど、この感動や驚愕をどう表現し、どのように言葉を重ねれば伝わるのか咄嗟に浮かばなかったのだ。



「大袈裟。それに、もしそうだったとしても、過去の事だよ」


ノアはシル様の賛辞を軽く受け流し、そして私には冗談っぽく


「俺に惚れちゃだめだよ?メイヤーさん」


と、片目を瞑ってみせた。


普段であれば軽く受け流せただろうに、何故か今日は上手く出来なくて。


まるで血が沸いたかのように、全身がカッと熱くなった。


視界に入った手が赤い。

多分、顔等も同じようになっていると思う。



これでは2人に丸分かりじゃあないか。



更に羞恥心も加わって、益々体温と心拍が上昇した。


こんな姿、とても見せられないわ。


私はノアに背を向けて「やめて下さい!仕事中ですよっ!」と。苦し紛れに選んだ捨て台詞を吐いて、彼等の視線から逃げた。




ーーー


ミリーさんの頬がふわぁっと赤くなった。


次いで耳や首に視線を向けてみると、それ以上に赤く染まって、まるで湯上がりの様だった。


そして隠すように背を向け『仕事中!』と。


この場にシルが居なければ、俺は仕事中とわかっていても、彼女を背から抱きしめていたと思う。





「あーあ、怒られてんの。ダッサ」


シルの言葉に俺は反論出来なかった。


わかってるよ。

いくらなんでもやり過ぎた。


初見の割に、結構良い感じに弾けたからさ。

ちょっと調子に乗り過ぎた。



「ごめんメイヤーさん。あの、冗談だから‥」



人目がある故に、本音と裏腹な言葉を吐いた。


本当は少しでも俺の何かを好きになって欲しいと思ってる。‥いや、この際知ってくれるだけで良い。


これ迄は、過去に縛られて色々黙っていたけど、それも今回の件で暴かれてしまったし。


ミリーさんが公私を分けたがった理由。

今になってようやく実感してきた。


感情を抑えるのは難しい。

仕事中だって分かってるけど、ついつい‥ね。




シルが俺の腕をグイッと下に引いた。

そしてミリーさんに聞こえない様な声量でヒソっと


「ノアっ結構グイグイいくんだね。気になってちょっかいかけたくなる気持ちはわかるんだけどさ、振られたらどうすんの?」


冗談っぽくシルがそう言った。

だけど、その目は真逆で至って真剣。


真意を探る様な、俺達の誤魔化しを見透かす様な‥そんな強さで真っ直ぐに貫いてきた。


本当、相変わらず鋭い。

どこまで勘付いているんだか。


俺は諦めにも似た気持ちで「ははっ」と、短く笑った。


最初から隠し通せるなんて思ってない。

俺はそういうの下手だからさ。

だからこうして、真実と誤魔化しを織り交ぜ装っている。


正直面倒だけど‥ミリーさんの気持ちを考えれば仕方ないか。




「俺が振られると??相手にされるはずかないと思ってるわけですか??」


「あ。好意自体は否定しないんだ?」


シルはニヤニヤと笑った。


「しない。だって俺は出会った頃から好きだもの」


これは本当の事。


ーーー


バイオリンをやめて、糧を得る為に兄を頼った。

そして紹介されたのが、兄の勤めるアードラー商会だった。


商会に向かう道すがら、兄が突然「そういえば覚えてるかな」と昔話をし始めた。


その時は「何で今?」そう思ったけれど、話を聞くうちにその理由に合点がいった。


それは、彼女も同じ商会にいるって事。


正直、兄貴がその話をするまで俺は忘れてた。


言い訳になるけど、あの時は子供だったからさ。

名前もちゃんと覚えてなかった。


つまり、ずっと一途に思い続けてたわけじゃない。


でも、昔好きだった人に再び会えるのは純粋に嬉しいし、楽しみって思うでしょ?

これから偉い人と顔を合わせるっていうのに、俺は不安より楽しみが優ってしまった。



本部に入り、兄と共に廊下を進む。


すると「変な期待はするな」と、先んじて釘を刺された。おそらくミリーさんの事を考えてウキウキと浮ついていたからだ。


「変なって何?」


「言葉のままだよ。あいつも多分覚えてないし」


ほらね、やっぱり。


「ミリーは基本的に本部常駐。だれど、俺たちは逆で、本部に来る用事はあまりない。今日も会えるか微妙なトコ」


「大丈夫だって。それに年齢差考えてよ」


兄の年齢から予測して、彼女の年齢は25〜26歳。

そして俺はまだ18歳。


まだ会ってもいないし、何より俺の『好き』は子供の時のソレ。


心配せずとも、今すぐはどうこうは有り得ない。


俺の言葉に兄は、額を押さえた。

そして


「あー‥そうだった。見ないうちにデカくなってたから、すっかり歳の事忘れてたわ」


と、ため息をついた。


一年に一度、会う度に兄との身長差は縮まって。

追い抜いたのは確か14歳だったと思う。


だけど兄は知らない。

今も俺の身長が伸びている事を。


先月は特に膝が痛んで、全く動けなかったもんな。


「中身はまだまだなので、よろしくお願いしますヨーナスさん」


今から会うアードラー商会の長には兄弟である事を伝え済み。


けれど「暫くは兄弟である事を伏せておこう」と兄に提案された。何でも


「兄弟だと思って、最初の礼儀を忘れるのはダメだ」


だとかなんとか‥。


信用がない。

でも確かにそうだと思う。

つい甘えたり、傘にきたりね。


「はー。俺も慣れないと」


「はい。2人で頑張りましょう」


ーーー


扉の前に1人の女性が立っていた。

背筋をピンと伸ばし、待つ姿が美しいと思った。


そして何か既視感も‥。


「お?運がいいな。アレだよ」


近づくにつれ、すぐにわかった。

それはつい先日、時計塔広場で縁のあった女性。


「俺この間、時計塔の所で話したわ」


兄貴が「えっ!?」と驚いた。


「ま、まさかお前ナンパ?」


「違う。彼女が困っているように見えたから、ちょっと手を貸しただけ」


「あぁ、ハンカチでも拾った?」


「‥そんなとこ」


俺が変装していた事情や、別れ際に彼女の唇を奪った事は隠しておこう。


ーーー


「初めましてノアさん。本日案内を務めさせて頂くメイヤーと申します」


凛とした声と佇まいに安心した。

相変わらず綺麗に手入れされた髪も今日は乱れなくストンと下されて。


あぁ、よかった。

元気そうだ。


今ここで伝える事は出来ないけど、実はあの後もずっと心配してたんだ。


君が涙で枕を濡らしていんじゃないかって。


さして会話をした訳でもないのに何故かずっと気になったままで。せめて名前を聞いておけば良かったと後悔してた。


まさかこんな形で再会するとは思ってなかったけど、ある意味運が味方してるんじゃないか?


何はともあれ、先ずは第一印象と、仕事。

うつつを抜かしている余裕は無い。


「初めまして。ヨーナスさんに紹介して頂いたノアと申します」


ミリーさんはニコッと笑った。


「遠縁に当たるそうですね。同じオイゲン性と聞きました。お二人が揃っている時は名前でお呼びしても?」


「是非そうして下さい」


俺が了承すると、兄は面白くなさそうに一言ぼやいた。


「俺は性で呼ばれた記憶一回もないぞ?」


「‥今更よ」


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