表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/35

ペリット子爵

「え?行ってなかったっけ?僕、ギリギリまで王都には帰らないよ?」


シル様の言葉に私とノアは驚いた。


式典開催まで残り3週間。

アードラー商会としては近くに居て頂けると非常に助かる。

なんせ、衣装の仮縫いや手直しがある。


そして一番大事なのは2人の音合わせ。

何の曲を弾くのか、それも今から決める予定だった。


「てっきり2〜3日で帰るのかと。だから、俺とメイヤーさんで手分けしようかって話してたんだ。ねぇ?」


私はウンウンと頷いた。


アードラー商会の隊商が大体3日おきに街間を行き来している。それを利用して移動しようと考えていたのだ。


「シル様、お宿の方は?」


シル様の手荷物はせいぜい3日分の着替えがある程度の鞄一つだけだった。


報酬を先払いされているなら、金銭的なものは問題ないだろう。それでも3週間もの間、不慣れな街で1人過ごすのは大変なはず。


「シル、もしかして俺のとこに泊まるって言い出す気じゃないだろうな?悪いけど無理だからな?俺も楽器工房の一部屋を間借りしてる立場だからね?」


珍しくノアが必死になっていた。

何度かお邪魔した事があるけれど、確かにあの部屋に2人は狭すぎる。


「宜しければこちらで手配を‥」


私がそう提案した時、シル様は「大丈夫!」と静止した。


「つい最近、新しい知人が出来てね。その方の所でお世話になるよ」


私とノアは顔を見合わせる。


「因みに何処?何かあったら連絡したい。教えてくれると助かる」


ノアは胸ポケットから手帳と携帯ペンを取り出した。


シル様は「あぁ、そうだよね」と頷き「ただ、住所を書いたメモは鞄の中だ」とアードラー商会の建物を指差した。


「でしたらお名前だけでも。後ほど私共もご挨拶に伺いたく」


王都程ではないが、この街もそれなりに広いし、人の流出も多い。


そして正直な所、治安の良くない区画も一部ある。


もしその近くだとしたら危険。

いくらシル様のお知り合いであろうとお止めするしかない。


「挨拶‥かぁ。えっと、アンソニー・ペリット子爵って知ってる?少し前に夜会で知り合ってさ」


勿論名前は知っている。

同じ街に居を構えていらっしゃる方だから。


けれど、その方が商会のお得意様か?と、言うと微妙な所だ。


アードラー商会を運営するウルグ家は現在伯爵家位を賜っている。しかし数年前まではペリット家と同じ子爵位だった。


両家が仲違いをしている訳ではない。

お互いの得意分野が異なる為、関わり合いが少ないだけだ。


確かに子爵家なら安心だ。

だけど‥私が少し戸惑っていると


「惚れたか?」


と、ノアが唐突に言った。


えっ!?待って??

シル様はそういう‥???


「うん。一度聴いて惚れたね。すごく深いんだ音が」


「わかる。お前と相性良さそう」


私は盛大な勘違いをしていたらしい。

恥ずかしいので、コレは黙っておこう。


「でも、今回用事があるのは娘の方だけどね」


「娘?」


「確か、シル様と同じくらいのご令嬢ですね。お名前はアデリン様でしたか?」


「そうそう。メイヤーさんよく知ってるね」


ふふふっ!と私とシル様は笑い合った。


けれど、ノアの表情は真逆に曇っていた。


シル様もそれに直ぐ気づき「ノア、僕はまだ何も言ってない。早とちりするなよ」と、淋しそうに眉根を下げた。


ーーー


商会に戻り、シル様は手荷物の鞄から手紙の束を取り出した。


そこに押された封蝋は確かにペリット子爵家の物で、筆跡は2人分。


その内の片方はシル様が先程仰った、娘のアデリン様の物だろう。


ペリット子爵家。

この街の警護や、王宮騎士を輩出する家系として知られる。そして音楽にも通じており、王立楽団に所属する者や、教師を務める者もいるという。


シル様は封筒の中から手紙を取り出し、それをノアに手渡した。


「アデリン嬢にお会いするのはこれから何だけど、ペリット子爵経由でお手紙を一度頂いてから、何度かやり取りをしててね」


ノアは困惑の表情を浮かべて戸惑っている。


「人の手紙を見ろって?」


「いいから見て。君ならわかるよ。メイヤーさんには‥わからないかもね」


勧められ、ノアは渋々といった様子でパラっと開いた。そして私は隣から覗き込む。


「!?」


「あらぁ?」


そこに文字は無かった。

それを読む事は出来ずとも、これが何なのかはわかる。


何処からどう見ても‥これは‥。


「‥楽譜」


そう、楽譜だ。

ノアはポカーンとしていた。

シル様はその表情を見て「アハハっ」と愉快そうに笑った。


「ペリット子爵に招かれて、お宅に伺ったんだよ。それで、一緒に演奏したり雑談したりね」


「あれは楽しかったなぁ〜」と、シル様は記憶を思い出して頬を緩ませた。


「その時、アデリン様とお顔合わせはしなかったのですねぇ」


普通客人がくれば、挨拶の一つくらいありそうなものだ。


「子爵曰く、極度の恥ずかしがり屋。僕と同じピアノを嗜むようだけど、あまり上手ではないらしい」


「それじゃあコレは?」


黙々と楽譜を見ていたノアが、そう尋ねた。


「彼女が作曲した。少し手直しが必要だけど、いい曲だろ?」


「そうだな。扱う楽器が違うから、この通りには弾けないけど。いいんじゃない?」


話にはついていけないけど、2人が楽しそうでよかった。


アデリン様か‥。

どんな方だったかしら。


この街で買い物をするなら、他にも色々と店がある。そして好みは人それぞれ。


昔から贔屓にしている所があっても不思議ではないものね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ