それぞれの想い。シル
連日の雪かきで身体がバキバキです_(┐「ε:)_
来週また降るってよぉぉ〜!!( ´Д`)旦
ノアがこの件を引き受けたと連絡が来た時、僕は正直驚いた。だって、絶対断ると思っていたからさ。
それが例え権力に屈しただけだとしても構わないよ。僕は君みたい真っ直ぐじゃないから、手段なんてどうでもいいの。
ノアとまた演奏したい。
僕の希望はそれだけ。
いくらノアが僕を避けていたとしても‥僕の中での区切りとして最後に一度付き合ってもらう。
自分勝手でごめんね。
上手に気づいてあげられなくて‥ごめんなさい。
でもさ、本当にあわよくば‥だったんだよ。
せいぜい交渉が長引いて、いよいよ期日が差し迫れば嫌でも別の誰かを選出するだろうって思っていたからさ。
まぁ、その場合僕の賭けは失敗って事だから、また別の手段を模索するか‥潔く諦めるかだったんだけど。
どうやら、まだ運には見放されて無いらしい。
ーーー
あれは確か、半年くらい前。
僕はどうしても確かめたい事があってノアに手紙を送った。
『最近どう?仕事は慣れた?』
いつも通り、何の変哲もない当たり障りのない内容。そして次に僕の近況を幾つか書いた。
そして今回彼に訊ねたかった本来の用件を最後に書き加える。
『風の噂で聞いたんだけど、そちらにMr.ラーデと呼ばれる風変わりなバイオリニストが時々現れるんだって?君は知っている?』
とね。
ーーー
手紙はいつもアードラー商会の隊商に預けている。仕入れ、荷下ろし等を含めてノアの手元に到着するには約3日程はかかる。
だからそれも踏まえて、どんなに忙しくても3週間もあれば返答が返ってくるだろうと、気長に待っていた。
けれどノアから返信が来たのは、そこから更に2週間後だった。
いくらなんでも流石に遅い。
だけど待ちに待った手紙だ。
はやる気持ちを抑え僕は封を開けた。
ノアの返事は実にアッサリしたものだった。
それは今回に限ったことでは無く、むしろいつも通りなんだけど。
問題は僕が書いた最後の質問についてだ。
『さぁ?聞いたことないな』
だってさ。
『ごめん。最近仕事で家を離れている事が多いから、今後も返信は遅くなる。それでもよければまた手紙を送って』
ともね。
積もり積もった哀しみに耐え切れなくなって、僕は手紙を破り捨てた。
「どうして僕にまで嘘を吐くんだっ!」
ーー
これ迄も何度か『今度そっちで演奏をするから聞きに来てよ』や『教会で奉仕演奏をする仲間を探してるんだ、良かったらノアも来ない?』と、手紙で誘っていた。
けれどノアは『忙しい』や『もうバイオリンは辞めたから』と言い張って、決して僕の前に姿を現す事はなかった。
音楽院の学生でなくなったんだ。
働かねば生活出来ない事は重々わかっている。
だけど、少しくらい。
せめて一回くらい、予定の合う日があったって良いだろう?
コレじゃまるで意図的に僕の事を避けてるんじゃ無いかって‥ずっとモヤモヤしてたんだ。
あの手紙を受け取るまで僕は『ノアの嘘』にずっと気づかぬフリをしていた。
だけど今日、それが確信に変わってしまった。
ノアは僕を恨んでる。
そりゃそうだよね。
あれだけ心血を注いでいたバイオリン。
その道が閉ざされてしまった原因は僕にあるんだから。
ーーー
忘れるもんか。
実力不足を棚に上げて、逆恨みして来たあの女の事を。
隠し持っていたナイフを振り上げて「あんたが来なければ、私が首席で卒業出来たのにっ!」って、髪を振り乱し、見苦しく叫んでた。
逃げるという選択肢はあった。
怖くて足が動かないって事も無かったからね。
だけどさ、一瞬思っちゃったんだ。
もういいか‥て。
僕に殺意をもって刃を向けてくるなら、それはまず兄だろうと昔から思っていた。
だけどこういう事もあるんだなぁって。
何処に行っても、何をしても疎まれるなら‥もう終わりでいいやって。
あの時は何故か思ってしまったんだ。
その選択が間違っていたと理解したのは、僕を庇ったノアが代わりに血を流した時。
そして「もう以前のように弾けない」と彼から告げられた時。
取り返しのつかない過去を思い出し自己嫌悪に苛まれながら、叫んだ。
「いっそハッキリ嫌いだって言えよ!お前の顔なんて見たくないってさぁぁっ!」
近くにあった楽譜の束を掴んで、全部破った。
手の表面が端で切れるのも構わずビリビリに。
「とっくに知ってるんだよっ!Mr.ラーデがノアだって事くらいっ!!」
悲しいとか悔しいとか‥色んな感情がぐちゃぐちゃになって、涙が溢れ止まらない。
だって聴く人が聴けば分かるんだ君の音は。
あの街に楽器工房が幾つあると思ってる?
学院の関係者やその道に関わる人がアチコチにいて、水面下で日々情報交換されるんだぞ。
だから音楽院の寮に暮らす僕の耳にまで届いたんだ。
『時計塔広場にノアとよく似た演奏をするヤツが居る』って。
最初は「まさか」と思ったよ。
だって、僕の知ってるノアは逆手の演奏者では無かったから。
でもその話を聞いた時、僕の心に僅かな期待が湧いた。
何せ彼は相当な『音狂』。
学院に居た頃もバイオリンだけに飽き足らず、ピアノを弾いてみたり、木琴を試してみたり‥多彩だったからさ。
完全にやめられる筈がない。
大小関わらず、何かしら音楽に関わって生きていくだろうって僕は思っていたし、そうあって欲しかった。
僕はその後、Mr.ラーデが現れやすい日程や時間帯を探偵に調べて貰い、真実を確かめるべく、時計塔広場で待ち伏せてやった。
期限は1週間。
平日の昼下がりに現れる事が多いらしい。
皆の勘違いなら、それで構わない。
数多くいる演奏者の音を完全に聴き分けられる人なんていないからね。
だけど僕はずっと近くて聴いてた。
何度も一緒に演奏をしていた。
どれだけ日が空いても絶対に間違えるわけがないって確固たる自信がある。
ーーー
この街にいる間、僕はシルフォーネではなくシルスタンとして過ごす事に決めた。
理由はノアとウッカリ鉢合わせしたくないから。
それに、シルフォーネの姿でいるとやたら知らない人に話しかけられて面倒くさいし。
初日空振り。
2日目はあいにくの雨。
3日目もまた空振り。
残り今日と明日。
少し焦りが出て来た4日目。
ようやくそれらしき人物が時計塔広場に現れた。
上下黒の服に鳥の仮面。
そして右にバイオリンを持ち、左手に弓。
口上も何も無く、一礼だけしてすぐに演奏をする。それがMr.ラーデの特徴らしい。
全て調査通り。
暫く聴いた後、僕は彼がノアだと確信して、居ても立っても居られず後列から最前列へと割り込んだ。
ーーー
久しぶりに聴いた君の演奏にどれだけ僕の心が救われたかわかるか?
ずっと避けられて、しかも『さぁ?聞いたことないな』なんて、あからさまな嘘まで吐かれてさ?
とっくに友情なんて壊れていたんだと気付かされた僕の気持ちが‥君にはわかるか?




