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閑話:百合の憂鬱

私はよく脱線します。


流れには一切関係ないカトリーヌ王女とアルバートの、むにゃむにゃ。ですので、興味ない方は飛ばしておくなまし。( ̄▽ ̄)


靴にコツンと何かが当たった。

石だろうか?それとも‥と、何の気無しに転がった先に目を向ける。


そこにあったのは、何の変哲もない普通の木の実。板張りの床にコロリと一つだけ落ちていた。


ただそれだけだ。


それだけなのに、何故か私はやけに惹かれてしまい、拾おうとドレスの裾を纏めてしゃがんだ。


いつもなら、裾が汚れる。

はしたないと、咎められる所。


けれど今はそんな口煩いお目付けもいない。


後で見つかり、結局怒られるかもしれないけど‥久しぶりに街に降りたのだから少しくらいいいわ。


細長く艶やかな薄茶のボディに同色の帽子。


「オークの実かしら?」


それにしては少し時期が早い気がする。


詳しい学者に聞けばハッキリわかるだろうけど、持ち帰るほどでもないし。


うーん。


そんな事をぼんやり考えていると「トントン」と、窓を叩く音がした。


そこに立って居たのはアルバートだ。


「殿下、ご気分が優れませんか?それとも何か面白い物でも?」


「何ともないわ。偶然コレを見つけて、見ていただけ」


指で摘み持ち上げて、アルバートに見せた。


彼は驚くでもなく「あぁ」と納得した様な返事をして、私の横に極自然にしゃがんだ。


「先日、染色職人と話をしまして、色々と材料を持ち寄ったんですよ。多分その中の一つですかね」


古来からある材料。

新しく試そうとしている材料や方法。


試行錯誤を重ねて、新商品を模索しているのだと、彼は楽しそうに語った。


「此処で話すのも良いですが、中に入りませんか?」


私に手を差し伸べ、元いた部屋‥アードラー商会の貴賓室に戻りましょうと。


そう。


私は今日、和平式典の件で商会と契約を結びに来た。決して個人的に遊びに来たわけではない。


「そうね」


でも、打算はあった。

あわよくば、ほんの少しでもいいから2人きりになりたいと。


だから無理を言って、今の時間がある。


「さて、2人で話とはどんな案件でしょうか?いくら貴女直々のお願いでも、無い袖は振れませんよ?」


彼はどうやら、私がそんな事を考えているなんて思ってもいなさそうだ。


まぁ、そうよね。

わざわざ私から会いに来るなんて、そんなイメージは無いわよね。


私は自分の『立場』を充分わかっているし、彼も『臣下』としてわきまえている。


それが、崩れるのは『私の私室に入った時』だけだ。


わかっているけれど‥。


彼の温かい手をギュッと両手で握ると、アルバートは不思議そうに「カトリーヌ?」と、私の名を呼んだ。


仕事中の固い声でなく、柔らかく半音ほど上がった優しい声。


それは私を1人の女にさせる狡い声だ。


だけど今はそれが逆に苦しい。


「‥アル。仕事の前に、一つだけ聞きたい事があるの」


この際だ。

最近ずっと胸につかえていた疑問を吐き出してしまおう。


「答えられる事なら、何でも。私の白百合」


ーーー


「あなた、最近どうして私に会いにこないの?」


おっと。

これはこれは。


予想外の質問に、私は面食らってしまった。


どう答えるのが最善か。


「‥なるほど。寂しい想いをさせてしまったようだ。ですが、私如きがコレといった用事も無いのに度々貴女の下を訪れると、周りの不審をかいます。何処に目があるかわかりませんからね」


こう言えば負けず嫌いで素直じゃ無い彼女は「私が寂しい?わけ無いでしょう」と否定するはずだ。


それで構わない。


いずれ彼女は王座につく。

そして後継者を作るために誰かと婚姻を結ぶ。


「爵位を金で買ったんだろうっ!」


そんな風に蔑まされる自分と彼女が釣り合わない事は重々承知している。


そも始まりが始まりだ。

隣国と揉め事があって、最後の手段として彼女は自分の身体を私に売った。


期限付きの関係。

泡の恋はいつか終わる。


私はそれで構わないと‥例え一時でもいいからと自分勝手な想いで彼女に触れた。


そんな歪な関係もそろそろ3年近く。


最初比べれば随分慣れて、心を開いてくれたと思うけれど。


本当の所、私にカトリーヌの本心はわからない。


ーー


違うわ。

そう言う言葉が聞きたいんじゃない。


「アルバート」


「はい。何ですかカトリーヌ?」


どう伝えれば‥。

逡巡し、動けない私。


それでも彼は痺れを切らす事なく、ジッと待っている。常々「待つのは慣れていますので」と語る彼らしい。


サザっと風が吹いて、アルバートの髪を乱した。


その時、目に髪が入ってしまったのか「痛っ」と目を擦って、私から視線が逸れた。


伏せた目。

長いまつ毛と通った鼻筋。

その下の薄い唇。


よく知っているけれど、私は改めてじっくり見た。


その目で私を見て。

鼻が触れ合うような距離で、私に愛を囁いて。


自ら彼の首に腕を回し、顔を寄せた。


「!‥カトリーヌ?」


彼は驚いている。

そうよね、いつも貴方からだもの。


「そうよ。寂しかったの。此処に来るのは別に私で無くても良かった。だけど貴方に逢えるかもと思って‥職権濫用をしてやったわ」


アルバートは一瞬黙り、ややあって


「ふ、ふふっ。職権‥濫用」


と、心底面白そうに笑った。


「私に此処までさせて、今更逃げるなんて事は無いわよね?」


アルバートは今まで見た事無いくらいに眉根を下げ


「それは御命令ですか?それとも私を口説いておられる?」


と、私の背に腕を回し返した。

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