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不信感と苦い記憶

貴賓室。

3人掛けソファーが向かい合わせに並ぶ中、俺は商会長の隣に呼ばれた。

向かい席は女性だけが腰を下ろし、後ろに男性が1人控えている。


そしてミリーさんと義姉さんは部屋の扉近くに控えていた。


「初めましてノア・オイゲン。私、王立音楽院の理事を務める者よ」


挨拶と共に握手を求められ、俺はその手をとっていいのか「それとも‥」と一瞬考えてしまった。


「こちらこそお目にかかれて光栄です。王立音楽院の方ですか?」


疑問に思いつつも、断るのは失礼なので軽く済ませようと手を取った。


何だって俺の所に音楽院の理事長が?


「ええ。今の貴方はアードラー商会に従事しているようだけどーー」


理事長と名乗った女性はウルグ商会長を一瞥し「ーー以前は我が院でバイオリンの首席争いをする程の名手であったそうね?‥私も聴いてみたかったわ」と、言葉を続けた。


そう、確かに俺は2年前まで音楽院に籍を置いていた。


「‥そんな時もありましたね。ですが何故今更?確かに恩義はありますが‥今となってはもう関わり合いは無いはず」


何か企んでいる?

バイオリンを辞めた時点で、俺に利用価値は皆無だろうに。


「そんなよそよそしい事を言わないで。そうそう在籍中、貴方はシルフォーネと仲が良かったそうじゃない。今もそうなのかしら?」


どうして此処でシルフォーネの名が?

質問の意図がさっぱりわからない。

理事長は俺から何を聞き出したいんだ??


不信感が募る。


「連絡は取っていませんが、活躍ぶりは噂に聞いていますよ」


本心を隠して、笑みを表に貼り付けた。


あぁ、嫌だな。

どうして俺は此処に呼ばれた?


俺はもう‥良い思い出だけを抱えて日々を過ごしたいのに、何故封印した記憶をほじくり返すような事をしに来たんだ。


いくら嘆いても、あの頃には戻れないのに。

ギリっと奥歯を噛み締めた。


ーーー


俺だって学院に通っていた頃は順風満帆だと思っていたよ。

このままずっと好きなようにバイオリンを弾いて、それを聴いた人達が喜んでくれて‥。


それで食っていければ良いと思ってた。


両親に散々止められたけど、爺さんだけは応援してくれた。


「ノア!『王立音楽院』なら授業料が免除されるらしいぞっ!」と、村一番の物知りである村長を引き連れてきた。


所謂、一筋の光明。


調べれば調べるほどその門は狭く厳しくて「自分には無理じゃないか?」と何度も思ったけれど、諦めきれなくて必死に練習をした。


自宅に合格通知が来た時は、何故か爺さんの方が泣いて喜んで‥。

そうそう、村を上げてお祝いまでされて、嬉しいやら恥ずかしいやらだった。

でもその分「期待に応えないとっ」て肝も据わったな。


理事長の言った通り、一時は首席争いをするくらいに先生達に認められて、気の合う相棒‥シルにも出会って‥。


問題はその後‥。

ほんの一瞬で俺の演奏家としての道は閉ざされてしまった。


左手に走る古傷がピリピリとひりつく。

とっくに傷口は塞がっているというのに‥。


ーー


「理事長。私がバイオリンを辞めた事は当然ご存知ですよね?」


「勿論聞き及んでいるわ。‥その上で私は貴方に助力を求めています」


助力?どうやら何か訳ありらしい。

ここで商会長が俺達のやり取りを見かねたのか口を挟んできた。


「オイゲン。とりあえず理事の話しを一通り聞いてくれないか?この方は‥あー‥」


今度は商会長が理事長に目配せをし、苦笑しながら


「もう宜しいでしょう?名前を伏せても、もう皆気づいておりますよ」


その言葉を受けた理事長は


「そうかしら?私、頑張って変装してきたのよ??ねぇ?ハインツ」


ハインツと呼ばれた従者らしき彼は額を抑えた。


「服装云々ではございません。そもそも戦略が間違えているかと思います。ウルグ伯爵の仰る通り、どうせいつかバレるのですから早めが宜しいかと思いますよ。その方が彼も聞く耳を持ってくれますよ、きっと」


理事長を嗜めるような口ぶりで言った。


何だ?

この人達は一体どういう関係性なんだ??

というか「助力」って具体的に俺に何をさせようと??


ミリーさんと義姉さんは2人揃って口を噤み、まるで人形のように直立しているし‥。


「商会長?全く話が見えないんですが?」


今は隣にいる商会長くらいしか当てにならない。


「わかっている。順を追って説明するよ。オイゲンーー」


「ノアで構いません」


「ーーではノア。この方は確かに王立音楽院の理事ではあるんだが、それ以上にこの国の大役を担っている方なんだよ」


「国の?」


伯爵位の商会長が気を遣っている素振りをしていたから、侯爵家か公爵家の方では無いかと思ってはいたけど。


「ウルグ伯爵、ご紹介は私が」


「そうだね任せた」


「アードラー商会の皆様。正式なご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません。皆様薄々お気づきでしょうが、改めて私からご紹介を。この方の御名前はカトリーヌ・ハイドラ・ゼノス。ゼノス王国の王女殿下で御座います」


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