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これは中々無い機会ね。


手を支えて貰いながら、自分の前に跪くノアの頭頂を見て「ふむ」と心の中で呟く。


髪が随分伸びている。

鬱陶しく無いのかしら?

それとも拘りが?


「ノアは髪を伸ばしているの?」


靴を履き直し、両手で彼の髪に触れてみた。

全体的に痛んでいるわけでは無いけど、髪先の切り口が少し気になる。


「んー。伸ばしてないよ。勝手に伸びただけ」


彼は嫌がるそぶりもなく、屈んだままで好きなように触らせてくれた。


どうやら不精しているだけのよう。

最後に整えたのは一体いつなのやら‥。

昔、理容師の修行をしていた身として見逃せない事案だわ。


「‥ねぇ。嫌じゃなかったらなんだけど、今度私が切っても良い?」


「え?」


ノアがパッと顔を上げた。


その明らかに嬉しそうで喜びを隠さない素直な表情は、私の目にとても眩しくうつった。


胸がキュンと高鳴る。


か、かわいっ!その顔は卑怯だわっ〜〜!


「あーそっか。ミリーさん昔やってたもんね。俺も何度かお世話になって‥」


「‥え?」


「あ」


ノアが「しまった」と言う表情で自分の口を塞いだ。


ん?待って?

確かに彼の兄ヨーナスからお願いされて、弟妹?いや、従兄弟だっけ?の髪を何度か整えた事はある。

けどその中に‥ノアはいたかしら?


てっきりノアとの初対面は彼が商会に入った時だと思っていたんだけど??


「うーん‥?」


記憶を探るが、思い当たらない。

何せ彼ら家族は大所帯だったから。


「あーもう。まだ黙っておくつもりだったのに‥」


ノアが立ち上がって気まずそうに頬を掻いている。


あらあら。

さっきまで私を困らせていた癖に、一気に子供のようになって。


それはそれで可愛らしいから良しとしよう。


「どうして?大事な事じゃない?そもそもね、何故あなたが私に告白してきたのかすら謎のままなんだから」


そう。

理由を聞かぬまま、彼と付き合い始めた。

会うのも週に1度か2度だし。


正直ノアの事はまだあまりよく知らない。

ただ彼の兄、ヨーナスとは古い付き合いだから、そう悪い人では無いはずだと信じて長い目で見ている。


会うたびに可愛い所を見つけているし、今のところ間違いではなかったと思っている


「そだけど。アレは俺にとって黒歴史であり、でもミリーさんとの出会いでもあり‥つまり複雑な思い出なんだよ」


「ふぅん?」


そんな変わった雰囲気の子居たかしら?

益々わからなくなってしまった。


「それからずっと‥ってわけじゃないけどさぁ。少なくとも俺は覚えていたよミリーさんの事」


ギュッと腕を取られドキッとした。


「俺。人に頭触られるの苦手なんです。でもミリーさんは大丈夫だから。今度是非お願いします」


えらくご丁寧に、ノアがペコっと頭を下げた。


苦手。

これは初耳だ。

さっきは知らず知らずに触っていたけど‥。


『私は大丈夫』


この言葉に何か特別感を感じる。


「いいわよ。ただ最近はあまりやってなかったから‥あまり期待しないでね?」


彼の頭に再度手を伸ばし、少し癖のあるその髪を撫でた。



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